HMVインタビュー:白石隆之

2006年11月15日 (水)

☆『Time6328』発売記念インタビュー!



70年代末のパンク〜ニューウェイヴ黎明期から活動をスタートし、<R&S>や<Syzygy>から<Libyus>まで様々なレーベルからリリースを重ね、テクノ・ブレイクビーツ・ハウス・アンビエントとジャンルを横断しながら高い評価と支持を集めてきた音楽家、白石隆之。

そして今回リリースされるアルバム『Time6328』は、25年以上にも及ぶ活動歴を大胆かつ斬新な視点で総括するセルフミックスアルバム。

様々な時代の複数の楽曲を再エディットすることで、また新たなトラックを生み出し、アルバムとしてまとめ上げています。

そのリリースに際し、白石さんに作品についてのことやご自身の音楽遍歴についてなどのお話を伺いました。お楽しみください。




 


Interview with 白石隆之


今作は白石さんにとってアーティストとしてある意味区切りとなる作品のように感じられたのですが、白石さん自身、今作は自分にとってどのような位置付けに当たるのでしょうか?そして今作を<disques corde>からリリースすることになった経緯 を教えて頂けますか?

白石隆之:ちょっと体調を崩したりとかもあって、ここ2年間くらい表立った所から身を退いていたのだけど、最近は音楽雑誌の特集ひとつとっても、今がいつの時代か分からな くなるような感じに襲われる。ダンス・ミュージックでさえ完全に一回りしたという 感触があるし。今までになくリバイバルと再検証が横行していて、個人的に脱力する 部分も多いのだけど、確かに今は時代の節目だと思うし、悪戯に新しさを指向するこ と自体がインチキ臭いということも既にバレてる。まぁ肯定的に解釈すれば今は立ち 止まることが許される時期なのかな、と。後ろを向くことを前向きに捉え、とりあえ ず自分の過去を切り刻んでから次に行こうと思ったわけです。

そして<disques corde>からのリリースについてだけど、このベスト盤の企画自体 は元々他のレーベルで進行していたもので、それが諸々の状況で一度宙に浮いた末に ココに着地した次第。たまたまcordeの原雅明氏が僕と同じ年の生まれ+東京生まれ の東京育ちだということもあり、若い頃のバックグラウンドに共通する部分も多く、 いい巡り会いだったと感じているし、結果的にとても必然性のある着地点だったと思 う。


「さまざまな時代の複数の楽曲を再エディットすることで新たなトラックを生み出し、アルバムとしてまとめ上げた」とのことですが、このような形でリリースするというアイディアは以前からあったのでしょうか?

白石隆之:元々は次のオリジナル・アルバムの前に改めて自分のキャリアの紹介をしようと、 わりと軽く考えて始まったのだけど、手をつけ始めてから単に過去の曲を並べるベス ト盤では面白くないと思い、色々いじっているうちに様々なイメージが頭の中を巡り 巡って、結果こんな感じに。


一度組み上がっている楽曲を自身で再構築する、その作業自体が自身を見直す行為 だと思うのですがその制作過程はどのようなものでしたか?普段のゼロから作り上げ る楽曲の制作との違いはどういったところでしょうか?

白石隆之:例えるならば、映画監督が自分の過去の複数の作品を一度バラしてから繋ぎ合わせ て新しい映画を一本作ったという感じかな。過去の作品を今風にヴァージョンアップ するのでは無く、当時の空気感や手触りのまま切り貼りしていく作業。様々な時間が 並列されていて、聴いていくうちにそれぞれの曲の時代性が無意味なものになるよう にしたかった。そういった意味ではDJをしている時の感覚に近いと思う。サイケやプ ログレのアルバムのようなコンセプチュアルな流れを持ちつつ、MIX CDのようなラフ な感触のものを目指して作っていったのだけど、その行程はオリジナルのアルバムを 作るのとは別の脳味噌のエリアを使う感じで、面白くもあり、妙な部分が疲れもし た。


今作の再構築という行程も勿論ですがトラックを作り上げる点において、白石さん が一番重要視するポイントというのはどういうところでしょうか?自身の曲にOKを出 す瞬間はどういった瞬間ですか?

白石隆之:敢えて言えば「間」。グルーヴというのも身体的な「間」の感覚から生まれるもの だとも言えるし。曲間も含め、その無音の「間」にどれだけの感情や想いを込められ るかということが重要。

自身の曲にOKを出すタイミングについては上手く言葉で言えないのだけど、確かにパ ズルのピースが全てハマったような感覚がある。カチッと音がして、自分の音楽に なった瞬間、その時点で作業終了。


今作を聴いていると白石さんの音楽には一つに定義出来ないクロスオーヴァー性を感じるのですが自身の音楽遍歴や作品を挙げて頂きながら現在までの白石隆之という一人の人間を簡略に説明して頂いても宜しいでしょうか?

白石隆之:質問がでかいね。簡略にとはいかないけど、でもあえて説明しましょう。

自分の音楽体験におけるファーストインパクトは、リアルタイムで体験した70年代後 半から82年くらいまでのパンク→ポストパンクのムーブメントで、その流れを最も象 徴する出来事が、Sex Pistolsを脱退したジョニー・ロットンが、本名のジョン・ラ イドンに戻してPublic Image Limitedを結成したことだと認識している。音楽的にパ ンクはあくまでもシンプルなロックンロールの枠を出るものでは無かったのが、いき なり実験的な方向に舵をとったのが衝撃だったし、時期を同じくして色んな音楽性を もったバンドが出現して、シーンは一気にカオス状態になった。ようするにダブ、フ リージャズ、ファンク、ディスコ、ジャーマンロック、現代音楽から何から何まで が、無秩序にパンクムーブメントの残響の中に流れ込んで行った瞬間で、これを体験 出来たのは自分にとって大きかったし、その後の音楽の聴き方を決定づけた気がす る。

その後のセカンドインパクトは80年代終わりのデトロイトテクノとの出会い。最初に 聴いたのはDerrick Mayの「It Is What It Is」だったかと思う。エモーションと ファンクとマシーンがひとつになっているところに強い印象を受けたし、それまで黒 人の音楽を聴く時は、あくまでもその音楽の黒人的な部分にフォーカスを当てて楽し んでいたのが、Derrick Mayによって異なるチャンネルを開けてもらったという感 じがした。特に彼の「The Beginning」と「Icon」は自分にとっての永遠のクラシッ ク。それ以後のデトロイトだと断トツでCarl Craig、あと初期のMoodymannとTheo Parrish。

無理矢理簡略化すると、この二つのインパクトが大きいかと。そして、更にその二つ を繋ぐ部分に様々な音楽が存在しているわけです。


白石さんは”TAKAYUKI SHIRAISHI”の本名名義、最近では”S AS IN SOUL”名義の作品を発表されましたが今作で” TAKAYUKI SHIRAISHI”に回帰したのには何か理由があるのでしょうか? ?

白石隆之:過去にPLANETOID(R&S/APOLLO)、ARC(L5),MUSICA NOVA(ns-com)などの名義を使ったりしたけれど、それはダンスミュージック黎明期の匿名性に影響されていた為。その 後は善くも悪くもダンスミュージックに作家性が求められるようになってきたし、自 分の独自性をはっきり示したいと思って基本的に本名に戻した。その上で、S as in Soul.はブレイクビーツ、ヒップホップ寄りのプロジェクトとして特化したもので、 これはこれで今後も続ける予定。だから今回のアルバムで名義を戻したのではなく、 基本は白石隆之でリリースしていくつもり。




Takayuki Shiraishi 『Time6328』
01.Keep That Money For Us (Shiraishi Remix) 〜 This Metal Way (Re)
02.Voices The Turning Of Tides + Seikakuna Chizu + Break Free + Life + Liberate Me + Mr.Blank + Nightfall + Intro / Musica Nova) 〜 Wind Borne Soul
03.Wavy Flames 〜 Rhythm Track#PTN50
04.Birds in Paradise (Re / Dub) 〜 The dark Horizon(Re)
05.Fragment No.1 (Slide Down + Rise + Steel Blue + Movin’ Shadow + Nowhere + Passing + Intro / Musica Nova + Surfin’ The Desert) 〜 Mr.Blank
06.Phoenix 〜 Flicker (Re)
07.Acrobatics 〜 Fragment No.2 (NightWalker + On a Distant Shore + Surfin’ the Desert) 〜 Count Down (Re)
08.Feel 〜 Fragment No.3 〜 Photon
09.Tomorrow Fiction 〜 Chant
10.Lost Memories 〜 Back Ground Musik (Bgm + Drum#3)
11.Redzone Dub 〜 Nightfall (Re)
12.To Be Continues





最近個人的に好んで聴かれているCD、また今作を制作中に良く聴かれたCDを3枚ほど挙げていただくことは出来ますでしょうか?可能でしたらコメントもお願いいたします。

白石隆之:普段家にいる時は無音状態が殆どなので、最近良く聴いているものと言っても即座 に思いつかないのだけど、さっきたまたまCaptain Beefheartのアルバム『Shiny Beast』の「Bat Chain Puller」を聴いていた。ねじ曲がったブルース感が気に入っている。

Captain Beefheart
 『Shiny Beast』


◇制作中に聴いていたCD3枚 

1.Sound Track
 『Taxi Driver - Soundtrack』
これは元々凄く好きな映画でもあり、音楽の使い方が上手い。今回の作品を作ってい る期間は殆ど音楽は聴かず、どちらかというと映画をよく観直していた。例えば「サ ンタサングレ」「マルホランド・ドライブ」などなど。

2.Bruce Gilbert
 『This Way To The Shiveringman』
元WireのBruce Gilbertがバレー用に書いた音楽。これは緊張感のあるアンビエント。Bruce Gilbertとは20年近く前にテープを渡したり手紙でやり取りしていた時 期があり、その時のことを思い出したので。

3.My Bloody Valentine
 『Glider』
メインの「Soon」という曲ではなくEPのタイトルになっている「Glider」の方。マイ ブラに関しては特別な思い入れとかは無いものの、面白いと思った最後のロック・バ ンドでもある。



白石さんと言えば日本に置けるビート・ミュージックの先駆者であると言えます が、その白石さんから見て、現在の日本のシーンはどのように映りますか?そして シーンの中で気になる、もしくは動向を注目しているアーティストはいらっしゃいま すか?

白石隆之:三年くらい前から過去の発掘とトレンドが連動する傾向が強くなってきて、以前はマニアがやっていたような重箱の隅をつっつくような作業がどんどん進み、この先どうするのか逆に心配。でも明確な海外発のムーブメントもなく、過去も現在も並列さ れている状態というのは、日本にとってはチャンスなのかもしれないし、実際アン ダーグラウンドには混沌とした独自のシーンが生まつつあるのかな、とは思う。でも 割とアンダーグラウンドに関しての情報自体が最近妙に一元化してきているのが気に なるな。でも、まぁこれからでしょう。自分も色々チェックしていきたいと思ってま す。


では最後に今後の活動・展望などもし宜しければ教えていただけますでしょうか?

白石隆之:今回のアルバムを作ることで自分の中で精算出来た部分もあり、やりたいことも見えて来た。12月23日のUNITのパーティーを皮切りに久しぶりにDJも再開するし、まぁ 無理せず、かつ精力的にシングルなども含めコンスタントにリリースもしていきたい なと思ってます。よろしく。


ありがとうございました!



協力:disques corde


⇒Karafuto 『Shift To The Other Time』リリース時のインタビュー 
⇒Cappablack 『Facades & Skeletons』リリース時のミニインタビュー&全曲解説 




<disques corde>カタログ 



右から1.RATN『J』/2.Karafuto/『Shift To The Other Time』/3.Cappablack『Facades & Skeletons』/



Party Info!!!!!

disques corde and Onsa presents moxa

2006年の締めくくりにふさわしく、ベルリンからエレクトロニック・ダブ・マスターPOLE、ロスからブレイクビーツの魔術師NOBODYを招いて、パーティー“moxa”開催!

POLE初来日時に唯一出演した日本人DJであるDJ KENSEIも久々にこのシーンに登場!POLEのレーベル<~scape>よりワールドワイド・デビューを飾ったCAPPABLACK、リセット&リスタートとなるベスト・アルバムを発表した白石隆之の二組のリリースを記念するパーティーでもあります。

SALOONでもRIOW ARAIらの強力メンツがサポートする注目の一夜!


【DATE】 2006 / 12 / 23 (SAT
【TIME】 OPEN/START 23:00
【CHARGE】 Adv.3,500yen / Door4,000yen

【LINE-UP】

UNIT
[LIVE] POLE、NOBODY、CAPPABLACK、
[DJ] DJ KENSEI、白石隆之

SALOON
[LIVE] INNER SCIENCE、CONFLICT
[DJ] RIOW ARAI、AZZURRO、TEN

【INFORMATION】
CORDE INC. 03-3462-7161 info@corde.co.jp
ONSA RECORDS 03-3462-7179




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