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第8回「オスカー・フリートとマーラー」

2005年9月2日 (金)

はんぶる・ドットこらむ 山崎浩太郎
第8回

「オスカー・フリートとマーラー」

 今回ご紹介する、オスカー・フリート指揮の《復活》交響曲は、史上初のマーラーの交響曲録音として知られているものである。
 1925年にマイクを使用する電気録音が実用化される直前、24年あるいは23年にアコースティック(機械吹込)録音されたものだ。
 音の振動を集音ラッパで拾うという原始的な録音法で、歌手やヴァイオリニストなどの単独の録音ならともかく、多数の打楽器を含むオーケストラと合唱団、ふたりの独唱者による大規模な作品を録音したのだから、たいへんな仕事である。しかもSPのひとつの面には4分間前後しか入らないから、84分のこの曲は、22面に分けて収録されている。
 指揮のフリートは、この種の大曲の録音のパイオニア的存在で、この《復活》と同時期にブルックナーの交響曲第7番のSP録音も行なっている。これもブルックナーの交響曲の全曲録音としては最古のものである。
 だがマーラーとは、フリートは個人的交友が篤かったことで知られていた。しかもそれは《復活》の演奏にまつわる逸話を中心としていたから、このマーラー録音には特別の歴史的意義が感じられてきた。
 1871年ベルリンのユダヤ人家庭に生まれ、フランクフルトでフンパーディンクに学んだフリートが指揮者として名を知られたのは、1905年3月にベルリンでリストのオラトリオ《聖エリーザベトの物語》を演奏したときであった。この作品をきっかけにマーラーの知遇を得たという。マーラーもこの作品をウィーン宮廷歌劇場で演奏するつもりだったからである。
 マーラーはフリートの指揮を聴いたわけではなかったが、会話を交わしただけでこの34歳の新人の才能に気づき、その年の12月に《復活》のベルリン初演をしてほしいとかれに依頼したという。
 夏のあいだにマーラーはフリートに作品の手ほどきをし、そしてベルリンでの演奏会にも立ちあった。ところが総練習を聴いたマーラーは、自分の指示をフリートが忘れてしまっているのに愕然とし、終了後に指揮者の腕をつかんで自分のホテルに連れて行き、手ずから指示を出しなおした。
 フリートのテンポは、マーラーには2倍も速く聴こえたのだった。翌日の本番の直前、指揮者はオーケストラに向かって話しかけた。
「みなさん、わたしが昨日まで指示したことは間違っていました。今日はすべて別のテンポで演奏します。どうかついてきて下さい」
 幸い演奏は成功、聴衆からも喝采をもって迎えられた。このとき、舞台裏の楽団を指揮したのが21歳のクレンペラーだったことは、有名な話である。
 フリートはその後もマーラー作品の熱心な伝道者であり続けた。そして現代に遺された記録が、この《復活》の全曲である。正直な話、録音技術の限界はいかんともしがたいが、第3楽章の激しいテンポの変動などはよくわかる。ベルリン初演でもこの楽章については、「じぶんより上手い」とマーラーに誉められたそうだ。
 ほかに今回のCDには、SP時代のマーラー歌曲の録音が収められているのが嬉しい。シュテュックゴルトの《だれがこの歌をつくったの?》は最古のマーラー録音のひとつらしいが、15年という録音年はこのソプラノのオペラ・デビューの2年前だから、疑問符がつく。カーヒアはマーラー時代のウィーンの歌手であり、ワルター指揮の《大地の歌》世界初演のアルト独唱者としても知られる。しかし19年後60歳の年の録音は、いささか年をとりすぎているのが残念。
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交響曲第2番「復活」/亡き子をしのぶ歌/他 フリート/ベルリン国立歌劇場管弦楽団/他

CD 輸入盤

交響曲第2番「復活」/亡き子をしのぶ歌/他 フリート/ベルリン国立歌劇場管弦楽団/他

マーラー(1860-1911)

ユーザー評価 : 3.5点 (3件のレビュー) ★★★★☆

価格(税込) : ¥3,850
会員価格(税込) : ¥3,350
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発売日:2001年07月25日
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