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100人の偉大なアーティスト - No. 83

2006年7月28日 (金)

 チェット・ベイカーはその人生の大半をジャズと女性との付き合いに費やしながらも、チャーリー・パーカーのオーディションで掴んだチャンスを物にして、一時期はマイルス・デイヴィスを凌駕する人気を誇り、なおかつ、ジェリー・マリガンを中心とする「ウエストコースト・ジャズ」の、ムーヴメントにとって最も重要なミュージシャンの一人として活動した。

 60年代中期にはヨーロッパに移り、ライヴ演奏を中心としながら、パリを中心として多くのミュージシャンと共演、その影響はチェットの死後リリースされた多くのトリビュート・アルバム、トリビュート曲の多さが物語っている。特に後年はピアノレスのバンドでも多くの作品を残し、現在、日本でも大きな人気を誇る Sweet Jazz Trio は、その影響を最も受けたグループとしてお馴染みだ。

 さらにチェット・ベイカーで忘れられないのは、ヴォーカリストとしての側面で、“吹くように歌い、歌うように吹いた”と言われるように、音域が一致した「プレイズ・アンド・シングス」は、聴く者に錯覚を起こさせる素晴らしい感性を持っていた。日本の TOKU や  Till Bronnerは、トランペットと歌という点でも全く同じで大きな影響が感じられるミュージシャンだ。

 チェット・ベイカーことChesney Henry Bakerは、1929年12月23日オクラホマ州、イエールに生まれている。1940年には一家はLA近郊のグレンデールに移住した。チェットにとってこのころアコーディオンやタップダンスでアマテュア・コンテストに出演したのがはじめての音楽の経験だった。当時チェットは聖歌隊で歌っていて、13歳になった時父はトランペットを与えたという。こうしてトランペッター、チェット・ベイカーが誕生した。

 高校に入るとマーチング・バンドで演奏していたが、中退して陸軍に入隊する。チェットはドイツのベルリンに派遣され、ここでVディスクなどで初めて本格的にジャズに触れることになる。Dizzy Gillespie こそがはじめてのアイドルであり、やがて、ここに Harry James が加わった。ハリー・ジェームスを好むあたりにも、ビバップの香りだけでない、オシャレな音楽家チェットの面影が浮かんでくる。

 1948年に除隊したチェットはLAへ戻り、エル・カミーロ大学に通いながら“シッティン”を繰り返したが、1950年、チェットは再び徴兵され従軍、一日中プレイし、夕方に眠り、夜中に起きて明け方までプレするという生活が続いた。やがて除隊、1952年、西海岸に到来してトランペッターを探していた Charlie Parker のオーディションに参加し採用さ、一流ミュージシャンとの交流が始まった。チェットは22歳で、カリフォルニアに住んでおり、結婚生活を送っていた。この年の夏、Gerry Mulligan はピアノレス・カルテットを結成、トランペッターはチェット・ベイカーだった。西海岸の主だったクラブを総なめにするマリガンのツアーにチェットは参加、名声は次第に確立されていった。

 1954年、チェットは自分のグループでツアーを行い、55年夏には Richard Twardzik を擁する幻のカルテットで欧州に出掛ける。10月21日、不幸にもツアーの途中でツワーディックは客死する。

 1956年4月、チェットは新しいグループで「パシフィック・ジャズ・レーベル」に録音を開始する。この当時からチェットは麻薬に手を染め、何回かの入院の後、キャバレー・カードを没収された。

 1959年夏、チェットはアメリカを離れイタリアに赴き、4年半滞在した。残念ながらここでも麻薬禍は治らなかった。1964年アメリカに戻ったチェットは音楽の変化に愕然としたが、マリアッチやその他の時流に乗った作品をワールド・パシフィックなどに吹き込んだ。

 1970年から73年はジャズをあきらめていたが、1973年カムバックしたチェットは「CTIレーベル」からマリガン・グループのメンバーとしてや、自己の名義でアルバムを発表した。

 現在もチェット・ベイカーの未発表音源の発掘は続いており、「パシフィック・ジャズ」時代のものを含めて、アメリカ時代の音源も探し出されている。数多いチェットのライヴ音源とともに、「ロニー・スッツ・クラブ」での映像を記録した『Live At Ronnie Scotts 』は、チェットのアンニュイな雰囲気の姿を見る意味でも貴重だし、ブルース・ウエバー制作の映画『Let's Get Lost』は、チェットの人生の深遠を除き見られる素晴らしいドキュメンタリー映画だった。

※表示のポイント倍率は、
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