100人の偉大なアーティスト - No.66
2003年4月17日 (木)
「フォークの父」と呼ばれるウディ・ガスリーは、20世紀のフォーク・ミュージックを代表する最重要アーティストだ。そのウディの影響力を端的に示したのが、60年代初頭から半ばにかけて全米中に起こったフォーク・リヴァイヴァル現象だった。あるいはもっとわかり易く言えば、その60年代フォーク・ブームの中心を担ったボブ・ディランがウディに憧れてニューヨークへ出てきた、という事実を挙げるだけでも充分なのかもしれない。ディランはウディの音楽を聴き、自伝を読む中で、彼に強く惹かれ、1961年の冬にニューヨークを目指した。進歩的なフォークの中心地グリニッチ・ヴィレッジがニューヨークにあったことに加え、ウディ・ガスリーが病気のため入院しているニュー・ジャージーの病院へ訪れるためでもあった。ウディ・ガスリーは1912年7月14日、米国オクラホマ州の「石油の町」として知られるオキーマにて生まれた。彼の少年時代は、父親の事業失敗や姉の事故死といった出来事に見舞われるなど、決して幸福なものではなかったようだ。ウディは16歳になるとホーボー(放浪生活)をするべく家を出る。街角やその他、人の集る場所を探してはハーモニカを吹きながら生活。まずテキサスに向かい、その後カリフォルニアに辿り着いた彼は、労働者/組合のために歌を作るようになっていた。
カリフォルニアではラジオ番組を持てるほど名が知られたウディは、1938年に紹介者を介して、6歳年下のシスコ・ヒューストンと出会ったが、その後、意気投合したふたりは共に放浪の旅を続けていくことになる。
30年代末にニューヨークに移ったウディは、40年代に入るとオールマナク・シンガーズに参加。 オールマナク・シンガーズはピート・シーガー、リー・ヘイズ、ミラード・ランペルらによって1940年12月に結成されたグループで、モダン・フォークの元祖的グループであるウィーヴァーズの前身として知られる「真の元祖」的グループである。
このオールマナク・シンガーズ結成直前には、ウディ・ガスリーとピート・シーガー両者のちょっとしたエピソードがある。1940年3月にピート・シーガーは生涯初のコンサート出演を果たしたが、彼はステージ上でアガって歌詞を忘れてしまうという失敗を犯し、さんざんなデビューとなってしまった。そのコンサートで客席を大いに沸かせたのが、他ならぬウディだったので、ピートはすぐさまウディのファンになってしまった、という逸話だ。この時点でふたりの面識はなかったが、有名なフォーク研究家のアラン・ロマックスが、ピート・シーガーがウディのファンであることを察して、ピートをウディに紹介したのだという。
砂嵐のために故郷を捨てて他州で働くオクラホマ出身の労働者を「オーキー」と呼ぶが、正にそのオーキーで、放浪人であるウディの持つワイルドな佇まいに、ピート・シーガーは深い憧れを抱いた。ピート自身は名門ハーバード大学をドロップアウトしたインテリのフォーク・シンガーだった。憧れが高じたピートは、ウディに一緒に旅に連れて行って欲しいと申し出る。ウディはそれを了承し、南部/西部への旅が実現することになった。
話を戻すと、ピート・シーガーらによって1940年に結成されたオールマナク・シンガーズは、多分に流動的なメンバー構成だったらしい。それというのも共同生活を営んでいた時期さえあったというグループは、その中で様々なフォーク・ミュージシャンとの交流があったからだ。オールマナク・シンガーズの残した1941年の音源には、ウディ・ガスリーが参加していないセッションもあるので、このことからウディは正式メンバーというよりゲスト的な立ち位置だったのだろうと推測される。
ウディ・ガスリーはこのオールマナク・シンガーズに参加する一方で、レッドベリーやテリー&マギーらとヘッドライン・シンガーズというグループでも活動していたが、その後、第二次大戦で従軍することになる。帰還したウディは、フォーク・ミュージックのレコード制作を手掛けていたモーゼス・アッシュの設立したレーベル「フォークウェイズ」などに多くの吹き込みを残したが、1952年、ハンチントン舞踏病という難病を患い、長い闘病生活を余儀なくされることになってしまうのだった。
その入院生活の間に、ウディ・ガスリーに憧れてニューヨークへ出てきたボブ・ディランがたびたびウディが入院する病院を訪れては、音楽的アドヴァイスを幾つも受けた、という話は有名だ。それから間もなくして「フォーク界のプリンス」となるディランだが、サード・アルバムまでのディランはウディ・ガスリーの影響色濃いプロテスト・ソングを得意としたのだった。
長い闘病の末に、ウディ・ガスリーは惜しまれつつ亡くなった。1967年10月3日、享年55歳。
ウディ・ガスリーの影響力の大きさは、折りにふれ今でもたびたび語られる。その代表的なものが冒頭で触れたボブ・ディランに代表される60年代フォーク・シーンへ及ぼした多大な影響だ。特に「放浪」と「労働者のためのプロテスト・ソング」というスタイルは、ある種のロマンティシズムとともに彼らミュージシャンの中に深く刻み込まれたのだった。
最後にウディ・ガスリーの影響力の大きさを伝えてくれる幾つかの作品を紹介しよう。彼の死後、1968年ニューヨークのカーネギー・ホールと1970年ロサンゼルスのハリウッド・ボウルで行われたウディ・ガスリー・トリビュート・コンサートの模様が収められた『Tribute To Woody Guthrie』では、当時のボブ・ディラン、息子のアーロ・ガスリー、ジュディ・コリンズ、ピート・シーガーらによる演奏が聴かれる。また1988年にはウディ・ガスリーと黒人フォーク歌手レッドベリーの楽曲をさまざまなミュージシャンがカヴァーした『Folkways: A Vision Shared - A Tribute To Woody Guthrie & Leadbelly』がリリースされており、ここではボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、U2らが参加し、ウディの楽曲を披露している。その他、興味深い企画ものとしては、ビリー・ブラッグとウィルコの連名で1998年に発表された『マーメイド・アヴェニュー』が挙げられる。内容はウディが大量に遺したという未発表の詩に、彼らが独自に曲をつけたもの。また2000年には続編の『マーメイド・アヴェニューVol.2』がリリースされた。
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