マイラ・アンドラーデ インタビュー
2009年12月18日 (金)
レコーディングのために旅していくことで、私の夢は本当に育まれていったの。」
- --- 2ndアルバムは、1stアルバム『ナヴェガ 〜航海』以上にパーカッションの響きが心地良い“リズム”を全面に押し出した作品となってますが、あなたにとっての“リズム”とは?
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リズムは私にとって心臓の鼓動のようなもので、私たちのエモーションの脈動なの。リズムは、全ての人間の呼吸の仕方。
- --- その“リズム”隊であるアルバム参加のゼゼ・ンガンビ(ドラム)、ゼー・ルイス・ナシメント(パーカッション)、マルコス・スザーノ(パンデイロ)らについてコメントをお願いします。
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アルバムに参加しているゼゼ・ンガンビはドラマー。アンゴラ出身でリスボンに住み、アフリカ音楽にもポルトガル語圏の音楽にもジャズにも関わってきた。私は彼のこうした経験にとても興味を引かれたの。
ゼー・ルイスはパーカッショニストで、私とは6年の付き合い。今はパリに住んでいて、彼はここに来てから自分の音楽的な視野と経験を切り開いて普遍的なリズムを発展させたんだと私は思っているの。
マルコスはリオデジャネイロの出身で、彼はあらゆる大物アーティストとも共演していてとても豊かな音楽言語を持っているから、それこそが私が彼と一緒にやりたかった理由なの。バイーアでは、オーケストラのサウンドを作り上げたかったから、3人の地元のパーカッショニストとも一緒に演奏した。 - --- ブラジルの若手トップ・プロデューサー、アレー・シケイラを迎え、ブラジル(リオデジャネイロ、サンパウロ、サルヴァドール・ジ・バイーア)、そしてキューバでのレコーディングは如何でしたか?
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プロデューサーはいつでもそうだとは限らないけど、アレー・シケイラは私にとって真のパートナーだった。私たちは音楽的にも多くのものを共有していたし(主にリズム)、彼は私の夢と音楽的なアイデンティティに敬意を払ってくれたの。
彼の音楽的な教養と経験は、私にとって最良の選択だったし、彼は私をすごく安心させてくれて、様々な国でこの大がかりなアルバムを録音することを容易いことにしてくれた。あちこちで録音することは、
アルバムにとって重要なことで、それは場所と場所の間で考えたり聴いたりする様々の異なった段階があることを意味していたから。大体の時間は休暇中(ヴァカンス)のような気分だったからとても楽しかった。ひとつの場所から別の場所へと移り... このようにレコーディングのために旅していくことで、私の夢は本当に育まれていったの。 - --- あなたの歌は、ブラジル音楽の特徴を表す言葉、郷愁、刹那さ(メランコリー)と訳される“サウダージ (saudade) ”を強く感じるますが、それに対し、如何思われますか?
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サウダージ(カーボヴェルデのクレオールでは「ソダージ(sodade)」)はポルトガル語でノスタルジアのことだから、よく分かるわ。それは、このアルバムにある多くのエモーションの一部になっているから。
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アルバム・トータルで素晴らしいですが、個人的に好きな曲(マイ・ハイライト)は、あなたが歌詞を付けた ”Konsiensa(コンシエンス) ”と”Odjus fitchadu(瞳を閉じて) ”です。”Konsiensa ”のヒューマニティ溢れる歌詞や”Odjus fitchadu ”の内省的な歌詞はユニヴァーサル(普遍的)な美しさですね。
--- “Konsiensa ”にて参加のアンドレ・メーマリのリリカルなピアノも曲に色彩を与えていますが、彼との共演は如何でしたか? -
アンドレ・メーマリはピアニストでアレンジャーで作曲家、それに他の楽器もたくさんできる人ね。彼が私の音楽に入り込んだ上で自分の音を出してくれるやり方には感動した。
「Konsiensa」は『ナヴェガ〜航海』よりもさらに前に私が作った曲だったんだけど、時間を経て徐々に発展していった(ファースト・アルバムに入っていないのはそれが理由)。曲が成熟したところで、アンドレが彼のジャズの言語を持ち込んで洗練を与えてくれた。 - --- “Odjus fitchadu ”にて作曲でイスラエルの才能、イダン・レイチェルがクレジットされてますが、共作の経緯をお教え下さい。
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イダンのレーベルが彼のアルバムを1枚、私に送ってくれて、それをとても気に入ったの。それから私たちはパリで会って夕食をした。彼は、自分のアルバムの1曲で、私にクレオールで歌ってほしかったの。歌詞の最初の言葉を見つけたのは、パリの地下鉄に乗っている時だった。
私たちは、彼が泊まっていたパリのホテルの地下で私のヴォーカルのデモを録った。その曲が大好きになったから、自分のアルバムにアコースティック・ヴァージョンを入れたいと思ったわけ。カーボヴェルデのリズムでね。 - パリの地下鉄、ホテルでのデモ録りの情景が伝わる、コスモポリタンな良い話ですね。”Odjus fitchadu ”での優雅なストリング・アレンジはジャキス・モレレンバウンですよね。
- --- あなたの初めての曲(録音曲)はカエターノ・ヴェローゾの"O Leãozinho"のカバーと聞いていますが、あなたにとってカエターノ・ヴェローゾとは? また、カエターノ・ヴェローゾの作品を多く手掛けたジャキス・モレレンバウンとの共演は如何でしたか?
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実は「O Leãozinho」は私が5才か6才の時に最初に歌い方を覚えた曲のひとつなの。他の人がギターで私の歌の伴奏をしてくれた最初の曲でもある。私の子供時代のサウンドトラックのようなもので、この曲を歌うことで歌うことの喜びを感じたの。
- カエターノ・ヴェローゾの"O Leãozinho"は子供時代のサウンドトラック。
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そう。私はジャキスとカエターノのふたりとはオランダで出会った。私たちはジャキスと仲良くなって、アンゴラでは一緒に仕事をした。彼は私が大好きな友人であり、彼とは多くのものを分かち合っている。彼と作業したり録音したりすることは、私たちの友情の証であり、お互いへの尊敬を見せることでもあるの。
- --- “Tchápu na bandera”でのコラ・ジャズ・トリオのジェリ・ムッサ・ディアワラのコラの響きもユニークですが、このアイデアは?
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私たちは、それぞれの曲が「求めていた」ものを聞き取ろうとした。この曲が語りかけてくれて、コラが必要だと私に教えてくれたの。アレーはこの楽器のことを知らなかったから、彼に紹介できたのはとても嬉しかった。
この曲では、コラの音とジェリの声は即興なの。それはとても自然に生まれた結論だったんだけど、EPK(アルバムのメイキング・ビデオ)では私が実際に彼に説明しているところを観られるわ。 - --- 強いパートナーシップを感じるキム・アルヴェスを筆頭に、カカ・バルボザ、マリオ・ルチオ・ソウザ、ニトゥ・リマなど楽曲提供を含め、カーボヴェルデのミュージシャンが多く参加してますが、カーボヴェルデのミュージック・シーンや注目のミュージシャンをお教え下さい。
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カーボヴェルデのシーンはディアスポラ。私たちがカーボヴェルデの11番目の島と呼んでいるもの。それは、カーボヴェルデの外にあるカーボヴェルデということなんだけど、それがシーンを生きたものにしているの。豊かなものにもね。
カーボヴェルデの素晴らしいアーティストはたくさんいるけど、今のシーンでも存在感があって素晴らしい往年のアーティストたちのことは忘れないようにしたいの。 - --- キューバで生まれ、カーボヴェルデで育ち、90年代にはセネガル、アンゴラ、ドイツなどを移り住み、現在の活動のベースはフランスですよね。過去に共演されたテテ、アシャといったフランスのミュージシャンとの交流はありますか?
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パリにはもう8年いるけど、ツアーで旅をすることがしょっちゅうなので、そこまで定住の地という感じはしない。友人のミュージシャンたちとは連絡を取り合ってる。アシャとかヤエル・ナイムとかね。パリは多くのアーティストや友人と出会う機会を与えてくれるの。
- --- あなたにとっての“カーボヴェルデ”とは? あなたにとっての“クレオール”とは?
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私にとってクレオールとは、全てのカーボヴェルデの人々の架け橋を意味しているの。国の中にいようと外にいようとね。私たちのアイデンティティの本質とも言えるもの。
カーボヴェルデは私にとって家のようなもの。 -
クレオールとは全てのカーボヴェルデの人々の架け橋。 カーボベルデ諸島が10の島で構成されているのに対し、あなたを含むカーボヴェルデの外にいる(ある)カーボヴェルデが11番目の島と呼んでいるですか。こちらもコスモポリタンな素敵なアイデンティティですね。
--- 最後に、日本にもあなたのファンがたくさんいます。日本のファンへ、コメントをお願いします。 -
あなた方の国を知る機会が待ちきれないわ。願わくば日本であなた方のために歌って、私の音楽をみんなと分かち合いたい。私が日本について知っていることからすると、実際に行ってもっと知りたいとすごく思うの。
- --- 私達も日本であなたの歌を分かち合いたいです。 ありがとうございます。
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こちらこそありがとう。こんなにいい質問を受けることは滅多にないから、答えるのが本当に楽しかったわ。
(インタビュー:HMVジャパン商品企画部 野見山)
(取材協力:P-VINE RECORDS )
- 新譜Mayra Andrade / Storia,Storia...
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西アフリカはカーボ・ヴェルデの歌姫マイラ・アンドラーデ。日本でも注目された1st『Navega』から2年半ぶりとなる待望のセカンド・アルバム!
マリーザ・モンチの近作を手がけ、カルリーニョス・ブラウンやキューバのジューサとの仕事でも知られるブラジルの若手トップ・プロデューサー=アレ・シケイラをはじめ、お馴染みジャキス・モレレンバウン(ストリング・アレンジ)、ロベルト・フォンセカ(ピアノ)やマルコス・スザーノ(パンデイロ、カホン他)といった豪華なゲスト陣のバックアップもあり、カーボ・ヴェルデ独特のリズムや旋律、ハスキーで郷愁にあふれたヴォーカルはそのままに、よりブラジル音楽との密接な繋がりが反映された傑作。
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マイラ・アンドラーデの作品
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- Storia, Storia...
Mayra Andrade - 2009年12月16日発売
- Storia, Storia...
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- Navega
Mayra Andrade - 2007年12月09日発売
- Navega
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『Storia,Storia...』 ゲスト・プレイヤーの関連作品
マイラ・アンドラーデ Mayra Andrade:
1985年キューバ生まれ。
カーボヴェルデで育ち、90年代にはセネガル、アンゴラ、ドイツなどを転々とした後に、様々な文化が混在するコスモポリタンの街パリに移り住む。幼少の頃からカーボヴェルデの音楽に親しむかたわら、カエターノ・ヴェローゾ、エリス・レジーナ、マリア・ベターニアといったブラジルのアーティストも好んで聴くようになる。
独学でギターと作曲を学び、2006年にデビュー・アルバム『ナヴェガ〜航海』を発表。セザリア・エヴォラ以来の輝かしい才能として一躍脚光を浴びる。
2009年、ブラジルのトップ・プロデューサー=アレ・シケイラ、さらにマルコス・スザーノ、ジャキス・モレレンバウン、アンドレ・メーマリらが参加したセカンド・アルバム『ストーリア、ストーリア』をリリース。