--- 80年代後半以降、「ブルーノート・リヴァイヴァル」のような空気の後押しもあり、新しい世代のミュージシャン、DJ、勿論リスナーも含めた人たちの、ブルーノート楽曲を筆頭とするジャズそのものに対する解釈の仕方に変化が現れてきたと思うのですが、いかがでしょうか?
松岡 その辺に関しては、僕らはアルバムを作るごとに感じていることなんですよ。quasimodeの活動の最初期というのは、クラブ界隈の中でジャズが好きな人っていうのがリスナーのほとんどだったんですけど、2ndアルバムの『The Land Of Freedom』をリリースした時には、クラブ・サイドのジャズ・リスナーとリアル・ジャズ・リスナーとの壁を取りたいなと思って、もう少し広い意味でのジャズのアプローチをとってみたんです。
どんどん変化させていく中で、昨年リリースした3rdアルバム『SOUNDS OF PEACE』では、今度はジャズ・リスナーだけではなくて、ジャズを聴いたことのない人たちが、ジャズに入るきっかけとなってくれればと思って作ってみたりと。で、ジャズを今まで聴いたことのない人たちが、単純にメロディがいいとか、聴いててウキウキするとか、元気が出るとか、そういう風に聴いてくれているのは、嬉しいなと思いますし。そうした一連の変化はすごい感じますね。
--- そうした部分では、今回の『mode of blue』は、クラブ・ジャズ・リスナー、オーセンティックなジャズ・リスナー、ジャズ入門者全てのリクエストに応え得る企画・作品とも言えそうですよね?
松岡 特に、ジャズを初めて聴く人が、これをきっかけに、元曲を探して、聴いてくれたりすると、すごい嬉しいですよね。
--- 最初にブルーノート作品を耳にした時と、今現在とでは、ブルーノートに対する印象や、付き合い方などに変化はありましたでしょうか?
平戸 やっぱり、ブルーノートという存在自体があまりにも大きいんですよ。だから、今回録音させてもらった『mode of blue』を抜きにしても、素晴らしいレーベルだなということに変わりはないし。さらに、「ジャズの歴史上、素晴らしいレコーディングがありました」っていったら、絶対と言っていいほどブルーノートのアルバムだったりするわけで、それぐらい偉大なレーベルなんですよね。そういう意味でも、僕個人としては、聴き方自体が変わるということは、まずないと思いますね。多分、他の二人もそれはないと思いますよ。
--- 今回の『mode of blue』のレコーディングを経て、この先さらにブルーノート音源、あるいはジャズそのものを掘り下げるという部分でも、聴き方に変化が出てくるという可能性も?
松岡 今までは、例えば単純に、「踊れる」だったり、あるいは、「メロディがいい」、「リズムがヤバいね」って聴いていた部分もあるんですけど、今回アレンジするにあたって、改めて楽曲を、もっと細かく聴いてみたんですよ。そこで、アレンジの仕方とか、当時の時代背景を感じることができたっていうのは、変化って言えば変化かもしれませんね。今回カヴァーした楽曲以外の曲も、改めて細部まで聴き直してみたいなとも思いましたしね。
リアル・サイドで言われるスタンダードと
クラブ・サイドで言われるスタンダードが
全然違ったんですよ
--- ちなみに、お三人方それぞれが初めて買ったブルーノートのアルバムというのは?
松岡 それね(笑)。絶対訊かれると思って思い出してみたんですけど・・・時代的に、UKでジャイルス・ピーターソンがかけてたぐらいのものが、その当時すごい刺さったんですよ。世間的には、プレスティッジものなんかの再発がバァーッと出たぐらいで、結構ジャズ・ファンクとかが盛り上がっていたんですけど、僕は、ずっとダンス・ジャズの方のチャートを調べて、買ってたりしていた思い出があるんで。
--- それこそ、今回カヴァーされているケニー・ドーハムの『Afro Cuban』だったりする可能性も高そうですよね?
松岡 だと思うんですよねぇ。
平戸 バンドを一緒にやり始めた時から、『Afro Cuban』は、ちょくちょく、松岡の家で聴かせてもらってましたよ。それぐらい昔から、多分聴いてると思うんですけどね。
松岡 僕、クラブ・サイドとリアル・サイド両方同時に通ってたんですね。ドラムをやっていたんで、ジャズ・ドラマーの師匠について。で、リアル・サイドで言われるスタンダードと、クラブ・サイドで言われるスタンダードが全然違ったんですよ。クラブ・サイドのクラシックを聴いて、演奏者としてのクラシックも探して聴いてたりして、同時に聴いていた部分もあるんですよ。だから、一番最初に買ったのは・・・もしかしたら、ケニー・バレルの『Midnight Blue』だったかも知れないんですよね。
平戸 うわっ、渋っ(笑)。
松岡 あのアルバムって、レイ・バレットがコンガで参加しているんですよ。ジャズに、コンガで入るっていうのは、その当時の僕にとってはすごい革命的だったというか、何てかっこいいんだ!って思ったんですよ。でも、リアル・ジャズのプレイヤーの人たちからすると、「パーカッションが入るとラテンになっちゃうし、ちょっと・・・」みたいな空気があったんですよね・・・もちろん、すべての人がそう言うとは思いませんが。一方で、クラブ・サイドにいくと、ほとんどのDJが、パーカッションが入ってるジャズのレコードをかけている人が多かった・・・っていう部分も多分リンクして、ケニー・バレルか、ケニー・ドーハムどちらかを最初に買ったんだと思うんですよね。これは初めて言う話ですね(笑)。
--- ソロモン・イロリの『African High Life』なんかもストライクだったのではないでしょうか?
松岡 『African High Life』も結構初期に買いましたね。最高に好きですよ。あとは、アート・ブレイキーのアフリカ3部作、『African Beat』、『Orgy In Rhythm』、『Holiday For Skins』。あの辺をまずは買ってましたね。
--- 平戸さんはいかがでしょうか?
平戸 先ほど言ったように、実家で父親がジャズ喫茶をやってたんで、ブルーノートのレコード・コレクションもあって、聴いてたんですけど、自分が、本当に聴きたいと思って買ったのは、スタンリー・タレンタインとスリー・サウンズの『Blue Hour』というレコードでしたね。スリー・サウンズのハッピーなサウンドがすごく好きなのと、父親がスタンリー・タレンタインを薦めてくれたのもあって、一緒にやってる作品はないかなって探していたら、その『Blue Hour』に行き着いたんですよね。
--- その『Blue Hour』を最初に聴いた印象というのはいかがなものだったのでしょうか?
平戸 もう、ドス黒いの一言でしたよね。ゴスペルとか、ルーツ・ミュージックに根差した演奏もあって、すごい衝撃的な1枚でしたね。
--- ジーン・ハリスのピアノ・プレイもお好きだったわけですね?
平戸 大好きでしたね!ジーン・ハリスのハッピーで、尚且つ黒い感じのピアノが。
--- 須長さんは、先ほどおっしゃていたポール・チェンバースの『Bass On Top』。
須長 そうですね。
--- それは、みなさん、大体おいくつぐらいの時だったのでしょうか?
松岡 多分、18、19・・・20歳あたりですかね。
須長 僕も10代後半ですね。学生の時に、帰り途いつもHMVで試聴して帰ってたんですよ(笑)。
本文中に登場のブルーノート作品はこちら
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4 Kenny Dorham 『Afro Cuban』
ポテト・ヴァルデス(conga)、アート・ブレイキーの強力なアフロ・リズムを得て、ドーハムのキューバッブな演奏が展開する。1955年3月29日録音ということで、ハードバップが新しい段階に突入する少し前の録音ながら、ドーハムのプレイは、バップの香りを残した訥々としたアドリブを繰り広げ時代感をストレートに伝えてくる。
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4 Kenny Burrell 『Midnight Blue』
ブルースを基本としたスタイルで日本でもファンの多いケニー・バレルが、同じくブルースを最も得意とするスタンレー・タレンタインを迎え、レイ・バレットのコンガを加えたクインテットで展開するラテン・アンド・ブルース・テイストのジャズ。玄人筋に評価の高いビル・イングリッシュ(ds)の参加もこの作品の価値を高めている。
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4 Solomon Ilori 『African High Life』
アフリカ回帰を探求していたアート・ブレイキーの『The African Beat』などに起用されていた、ナイジェリア人パーカッショニスト、ソロモン・イロリの63年唯一となるブルーノート・リーダー作。西アフリカのハイ・ライフ・ミュージックをアクセントに、6人のパーカッション部隊が、ジャズと純然たるアフリカン・ポリリズムの間を行き来する。
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4 Art Blakey 『The African Beat』
アート・ブレイキー作品群の中で、リズムのルーツをアフリカン・ビートの中に見い出す意欲作の中でも、集大成的な作品。ジャズという枠を超えた本作は、“これもジャズだ!”と訴えるような広がりも感じさせてくれる。ブレイキーにプラスして6人のパーカッション奏者が織り成す、アフリカの大地を感じさせる“うねるリズム”を敲き出し、打楽器の原点がかつてトーキング・ドラムだったことの郷愁さえ呼び起こす演奏。
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4 Art Blakey 『Orgy In Rhythm』
”アフリカン・リズムへの飽くなき探求”を掲げ、構想12年、アルフレッド・ライオンと共に推進した夢実現への第一歩を印した記念碑的アルバム。サブー、カルロス”ポテト”ヴァルデス、ホセ・ヴァリエンテ、ウパル・ニトエ、エヴィリオ・キンテーロといった名パーカッション奏者らが集結したリズムの饗宴盤。
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4 Art Blakey 『Holiday For Skins』
レイ・バレット、サブー、ヴィクター・ゴンザレス、フリオ・マルティネス、チョンギート・ビンセントといった名パーカッション奏者を配し、さらには、フィリー・ジョー・ジョーンズ、アート・テイラーをドラムに招き入れ吹き込まれた58年のセッション。リズムの洪水に飲み込まれるとは、まさにこのこと。
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4 Stanley Turrentine & Three Sounds 『Blue Hour: The Complete Sessions』
1960年に録音された、スタンリー・タレンタインとジーン・ハリス率いるスリーサウンズの組み合わせによる『ブルー・アワー』のコンプリート版。いわゆるダウン・トゥー・アースな黒人独特のタレンタインのテナーと、黒人ながらソフィスティケイテッドされた雰囲気が持ち味のスリーサウンズの組み合わせがタイトルどおりの見事な空間を作り出した。
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4 Paul Chambers 『Bass On Top』
ブルーノートの作品群の中で、ベーシストとしての側面を前面に押し出したアルバム。ハンク・ジョーンズ、アート・テイラーに、デトロイト出身でチェンバースの僚友であったケニー・バレルを加えたカルテットによるアルバム。「You'd Be So Nice to Come Home To」、「Dear Old Stockholm」など多くのジャズメンが吹き込んでいる素材をいかに料理していくか、チェンバースのお手並み拝見の1枚。
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