--- 実際、ファッション・ショー云々を抜きにして、「菊地さんが選ぶヒップホップ/R&Bの何枚」のようなオファーも、これまでに各方面から色々とあったようですが。
菊地 それこそ今、ブラック・ミュージックもハイ・ファッションに寄ってるからさ。松尾(潔)さんとかが出てくるような雑誌の企画、季刊だけど、そこで、「菊地さんのオススメする大人のブラック・ミュージックは?」って訊かれたことがあって。あれとかさ、どちらかって言うと、もうフードはやめようよって本じゃない?DJもラグジュアリーに行こうぜって。
--- そこで、勿論、キャレドは選んでいないですよね?(笑)
菊地 選んでない、選んでない(笑)。あれは、完全に子供のブラック・ミュージックですよね(笑)。大人のブラック・・・ブラックって言っちゃったら、デューク・エリントンからルーサー・ヴァンドロスまでになっちゃうでしょ?だから、R&B/ヒップホップで「大人」っていうのは難しいよねって、松尾さんと話してましたね。だって、ドクタードレーでいくつ?
--- 40ちょっとだったかと思います。
菊地 でしょ。それで重鎮っていうかさ、ドレーでK点越えじゃん。だから、音楽業界的にまだまだ子供の世界ですよね。ジェイ・Zがいくつ?38、9でしょ?まだまだね(笑)。だって、50代の人ってほとんどいないもんね。グランドマスター・フラッシュとかぐらいでしょ?だから、「大人のヒップホップ」って言ったところでねぇ。まだまだ子供の国ですよ。ロックで言ったら、ビートルズ以前ぐらいですよね。まぁ、好きなものはありますけどね、常に。
--- 以前、菊地さんの著書の中で、リュダクリスをフェイヴァリット・ディスクに挙げているくだりなどもありましたが。
菊地 リュダクリスはそんなに好きじゃないんだけど(笑)、なんで挙げてたかっていうと、シカゴに行った時に、ハロウィンのすごく緊張してる状態の中で、黒人がハロウィン・パーティの前にでっかいバンを止めて威嚇してたんですよ。その時に、フル・ヴォリュームでかけてたのがリュダクリスで(笑)。おっかねえなって(笑)。リュダクリスでこんなことすんのかって、書いたことはあったんですけど。
ボクは、50セントが好きなんですよね。カニエよりずっと好きです。こないだの『Curtis』は、めちゃめちゃいいですよね。ヒップホップ・ファンはみんな、あんまり良くないって言うじゃない?真味がないとか言うけど。ゴリラ系が好きだから、50セント、ジェイ・Zあたりのサルみたいな感じの人は、好きなんですよね(笑)。
--- 50セントは、トラック/ビーツも含めて、総合的にお好きなのですか?
菊地 ビーツも好きだし、MCも巧いよね。MCは、訛ってれば訛ってるほど好きだから。スヌープ・ドッグも好きですよ、訛るから。だから、ファレルがあまり好きじゃないのは、結構ジャストだし、子供っぽいってところで。あんまりフロウしないんで。やっぱり、今のところフロウする大物っていったら、50セントと、スヌープ・ドッグと、ジェイ・Zは、バーに対して、かなり、ガァーッて引っ張るじゃないですか?(笑)もたれるよね。あれが堪らないですよね。ちょっと、どもりというかね、ライムが訛っていくのが好きなんですよ(笑)。で、トラックはミニマルなほどいいから。あんまり、R&B系のラグジュアリーな感じは、ネリーとかさ、才能あると思うけど、得意ではないですね。
--- もっとギャングスタ・バンギンな感じの方が・・・
菊地 そうそう。ギャングスタ以下っていうね(笑)。フッド丸出しな感じのね。もう、ひどいねこれっていう(笑)。教育受けてないでしょ?っていう感じの(笑)。リリックの内容は最低だけど、とにかく訛ってるのと迫力があるのっていうのが好きなんですよね。一方で、カニエみたいなのも好きだけど、もうあれは、ヒップホップとは言えないって部分もあるし。すごく良く出来たブラック・ミュージックだから。インテリジェントすぎて。
--- カニエで言えば、一時期トレンドになった、ネタの早回しの手法をトラック制作に取り入れて、ソウル・ミュージックの要素を間接的に垂らし込んだりと、正当法からは、少し逸脱しているようなところを見せたりしますよね。
菊地 そう、カニエはね。だから、ボクは、この『Revolution Will Not Be Computerized』で、アコースティック・ジャズでそれがやりたいってところがあったんですよね。早回ししたり、特定の音だけ選んでピッチを下げるとかさ。ヒップホップ・リスペクトだっていうことは、ほとんどのリスナーに通じないと思うんですけど(笑)、やってるつもりなんですけどね。
特に2枚目の『Dub Orbits』の方は、バーに対して、ライムの代わりのソロが訛っていくってことをやってるんで、完全にヒップホップに射程が定まってるっていうことになってるんですけど。次は、ヒップホップのアルバムを作りたいと思ってるんで、打ち込みの。
--- DJなども招いて、本格的に作り込む感じなのでしょうか?
菊地 そうですね。できれば、MCも自分でやってって思ってるんですけどね。まぁ、そこら辺はまだ夢の話で、やれたらいいなって。さっき言ったように、ウェアリングの話も、ジャズとヒップホップは同じなんで、ボク自身、ジャズ側にいますけど、シンパシーはヒップホップにあるんで。誰もボクのこと見て、ヒップホップのアーティストだなんて思わないし、やってないですけど。アルバムの中には、コスリも入ってるし、ヒップホップ・リスペクトにやってるつもりですけど、はい。
--- 今度、機会がありましたら、あらためてヒップホップのお話を伺いに来ても宜しいでしょうか?(笑) 菊地さんのヒップホップ話に、ものすごい興味があるのですが。
菊地 全然大丈夫ですけど(笑)、何もやってないんで・・・ただ好きなだけよ(笑)。だから、語る立場にないと思いますけどね(笑)。ジャズだったら演奏もしてるし、言及もしてるけど、ヒップホップは本当に好きなだけですからね。ラーメン好きな人が、片っ端からラーメン食ってきた話するようなもんで、ほとんど意味ないと思いますけど(笑)。まぁ、何かありましたら、是非。
--- 是非宜しくお願い致します。今日は長い時間ありがとうございました。
菊地 とんでもないです。ありがとうございました。
【取材協力:East Works Entertainment】