--- そうしたエレガンスとは相対的なところにある、セレブリティや華奢に重きを置く「東京ガールズ・コレクション」でかかる音楽も、ハウスだったりしますよね。
菊地 そう、同じなんですよ。東京ガールズ・コレクションは踊るんだけどね。要するに、YVES SAINT LAURENTでも、109でも、同じダフト・パンクが流れたりするんですよね(笑)。YVES SAINT LAURENTでは絶対踊らないですよね。しゃなりしゃなりと。で、マルキューのブランドが・・・名前は分からないけど、東京ガールズ・コレクションに出ると、エビちゃんとかが、もうガンガンに踊りながら出てくるわけで。客も踊ってるから。全員踊ってるんですよね(笑)。エレガントではないですよね。ダンスがエレガントじゃないって言ってるわけじゃなくて、踊っちゃってるって段階で、ハイ・モードの側面から較べるとエレガントじゃないんで。でも、セレブだから・・・エレガントなきセレブ。リュクスっていうことじゃない?子供セレブ、子供リュクスですよね。それは、良い悪いじゃなくて、そういうものとして成立しちゃってるっていう。
--- 『服は何故〜』では、小西康陽さんの発言として「ハウス・ミュージックをファッション・ショーに使うのは、単にゴージャス感、セレブ感が欲しいだけで、それ以外は理由も意味もない。」ということが記されており、一方で、菊地さんは「日常的には見えない音楽とフットワーク。ミクロの時差のうねりが、モード界が構造的に持っている大きな時差に直結しているのではないか」と発言されており、両氏の視点が全く異なる点が興味深かったのですが。
菊地 そうですね・・・視点が違うというか、深く考えてるか考えてないかだけだと思うんですけどね。まぁ、誰でもぱっと考えるのは、ハウスは、貧乏くさくないですからね。ハウスは、リュクスな音楽だから。それが、ファッション・ショーはリュクスだから、かかるだろうって言っちゃえば、もうそれで終わりだし、間違ってないんだけど。ハウスがかかってるのに、あえて踊らないっていうのが、倍エレガントなんだ(笑)っていうところまで考えてるかどうかだけだと思いますけどね。
--- テクノだと、また違うのでしょうか?同じ四つ打ちベースのクラブ・ミュージックとして。
菊地 テクノもそんなにかからないですよね。もっとミニマリズムみたいなものを硬質に表現しているブランドが、ゴリゴリにエレクトロなテクノをかける時があって、それはそれでひとつの表現っていうかね。服は真っ黒で、モノトーンで無機的でっていうものは、テクノの音楽と合ってますよね。だけど、大体、洋服って、そういう服か、あとはゴージャスな服かしかないんで。パリコレで、あんまりドレス・ダウンしたものを見せるっていうのはないから、結局、ハウスみたいなものに落ち着くっていう。
--- ハウス・ミュージックは、まさにファッションのために生まれた音楽と、決め定めしてもおかしくないのでしょうね。
菊地 まぁ、知ってると思うけど、ハウスは、ゲイが作ったんで・・・ゲイが、ゲイ・カルチャーのために、ディスコから独立してハウスを作ったんで。ゲイっていったら、もう服飾のね。ゲイは清潔でオシャレですから、パリコレとくっ付いてもおかしくないですよね。ていうか、パリコレ、ゲイだらけだけどね(笑)。ハウスは、厳密に言うと、ゲイの黒人ですけど。初期のパラダイス・ガラージとか、あの手の感じのね。
踊っちゃうのは、出された飯食ってるのと同じで、あんまりリュクスじゃないですよね。ご馳走がきたから、ワァーッて食ってるのと同じなんで、いい曲かかったら、ワァーッて踊ってるわけでしょ。だから、ダンス・ミュージックが流れてるのに踊らないっていうのは、ご馳走が出てきたのに食べないってことだから、ものすごいゴージャスというか、ものすごいリュクス・・・お姫様みたいな行為ですよね(笑)。その、さらに上にゴージャスがかけてあるってことが、同じ音楽使っても、東京コレクション見て踊っちゃうと、全然バクバク食ってるわけで(笑)。連中は元気だなっていう(笑)・・・っていうのが浮き彫りになりますよね。踊るか踊らないかで、えらい違いなんだってことですけどね。
--- レゲエもかからないですよね?
菊地 レゲエも聴いたことないね。でも、メッセージ性も含めて、VIVIAN WESTWOODが、ボブ・マーリーを一瞬かけるとか、ジミ・ヘンをかけるとか、あの人はお婆さんで、ロック古典みたいなの好きだから、そういうことはありますけど。
--- サプライズ的な意味合いも含めてと。
菊地 そうそう。もうメッセージですよね。一般的に様式のベーシックとして、レゲエがかかり続ける状態っていうのは、全くないですよね。ダブもおっかないから、あんまりないんですよね(笑)。リー・ペリーがかかることもないし。でも、テクノは、ヨーロッパのドイツ系のデザインなんかでさ、結構、無機的なコレクションをやる時の必須アイテムなんですよ。だから、レゲエよりはテクノの方がかかりますよね。
ハウスとテクノだね。ヒップホップもかからない。ジャズも勿論、今全然かからないですから。
--- クラブ・ジャズも全く?
菊地 クラブ・ジャズも全然かからない。ラテン絡みのものはかかるけど。でも、その感じは、クラブ・ジャズっていうよりは、もうラテン・ハウスだから。あと、ジャジー・ヒップホップみたいのなものも全然かからない。かえって東京の方がかかりますよ。東京は、ジャジー・ヒップホップみたいのなものかけたりするし。インストも含めて。パリ、ミラノじゃ、お目にかかったことがないですね。