--- 菊地さんの中では、アルバム制作中の段階で、そういった服飾的なコンセプトも同時に描いていたりするのでしょうか?
菊地 ボクはもう、ジャズやるって決めた時から、Tシャツとジーパンはイヤだなっていうのがありました。ブルーノート行って洋楽だけ聴く、年取ってある程度お金のある人が、そこそこ着崩したスーツ・ルックに対し(笑)、若いコが、そういうのはF--Kなんだっていう状況も飽き飽きだっていうのが、Date Course(Date Course Pentagon Royal Garden)やってる頃からあったんで。
Date Courseはレイヴだったから、Tシャツと半パンのコが、フェスで泥だらけになって転げ回って、失神したりしてましたけど。アコースティック・ジャズの『Degustation』作り始めた時からは、ずっとスーツでいきたいということで、一貫してたんですよね。だから、昨日今日始まったことじゃなく、今回のアルバムの時には、鉄板というか、固まってたんで。よくできてるもんで、そういうことを何年か言い続けていると、スーツ屋がアプローチして来たりするんですよね(笑)。でまぁ、仲良くやってるわけですよ。
--- 菊地さんご自身のブログにも、「現在最も興味があるのは、ジャズで踊っている際に、どんな服装が考えられるか。ということです」とありました。
菊地 これも、話し出したら根本的なことになってキリがないんだけど、ジャズは最初ダンス・カルチャーだったんですよ。要するに、スイング・ジャズは。ニューオリンズは、「行進カルチャー」っていうかね。ニューオリンズ・ジャズは、ダンスはなかったと思うんだよね。あれは、葬送=フューネラル・マーチで。葬送を踊りながら行なったんだっていうね。セコンド・ラインで。ファースト・ラインが棺担ぐヒトで、次の2番目のラインっていうのが、それを追っかける子供たちのことをセコンド・ラインって呼んだんだけど。そこからあのセコンド・ライン・リズムが生まれて。
フューネラル・ウォーキングとダンスがくっついたようなカタチでニューオリンズ・ジャズが始まって。そのあとビッグバンド・ジャズになって、完全にアレはもう・・・何て言うか・・・まぁ、ジェフ・ミルズとかと変わんないですね。夜通し踊るんだっていう感じで。社交ダンスの激しいやつだよね。だから、クラブ・カルチャーに近いですよね。そこからビバップ以降は、シッティング・ミュージックになって。で、日本においては、ダンスはロック。ジャズは、ジャズ喫茶で体ぶるぶる震わせながら聴く(笑)っていう風になっちゃって、しばらく踊りから離れてたでしょ?
80年代のTalkin' Loudで、ジャズとフロアがまた結びついたけど、ジャズ・ファン「総かっさらい」はできなかったしね。US3がブルーノート「お墨付き」をもらって、クラブ・ジャズをやったけど、アルフレッド・ライオン好きの古いブルーノート・ファンが全員US3で踊ったかっていうと、踊らないわけで(笑)。やっぱりまだね、デヴァイスされてるわけよ。行ったり来たりしてるじゃないですか?
ボクは、Date Courseで「マイルス・リスペクト」な音楽をやって、はたして若い子が踊り狂うかどうかと思ってやってみたのね。踊り狂わないかも知れないと思って、最初は。で、やったら、バァーッって踊り狂ったわけですよ。8年間ぐらい、2,000人単位のヒトが踊ったり、失神したりするってことをやって(笑)。踊りは判った、踊ったぞと。相当踊れるんだねっていうことが判ったんですね。
その後、スーツ着て、女性は当然ハイヒールでドレスアップして、踊らずに座って聴くっていうことで、Pepe(Pepe Tormento Azucarar)もやってたし。ここで1往復したわけですよね。踊れるジャズをレイヴのスタイルで聴く。踊らないジャズをドレスアップして聴く。じゃあ次は、マッシュ・アップというか。アコースティック・ジャズをレイヴの格好で聴くっていう・・・単なる順列組み合わせで言うとね(笑)。レイヴの格好でホールに来てね。
UAと『cure jazz』っていうのをやったんですよ。それで、去年の12月にオーチャード・ホールでライヴをやったんですけど。そうすると、UAのファンのヒッピーみたいな格好したコが、オーチャード・ホールに座ってるわけ(笑)。ドレス着たUAが「Over The Rainbow」とかを歌ってるのを聴いてるんですよ、「いい」とか言って。で、そういうのもやったと、1回だけなんだけど。もっと増やしたいんですよ。つまり、ホールとかドレスアップして来るべきところに、ヒッピーの格好したヒトがジャズを聴きに来るっていうことも、21世紀までに起きていない出来事ですよね?それはやってみたいし、ずっと継続的にね。
本当言うと、
オーディエンスのウェアリングっていうのは、
オーディエンスが作るものだからね。
菊地 まず今、このDub Sextetが孕んでいるネクスト・レベルっていうのは、ウチらはスーツ着てアコースティック・ジャズをやっているんだけど、フロアで人が踊ると。・・・ただ、ハイヒールっていうのはご存知のとおり、踊れるどころか、立ってるだけでも苦痛なシューズなわけで(笑)。ましてや、ドレスアップなんかした日にはね。でも、初期のリンディー・ホッピングのパーティーとか、3、40年代のスイング・ジャズのビデオを観ると、よくこんな格好で踊り狂ってたなぁって思うんだけどね。ハイヒールで踊ってますから。脱いじゃうヒトもいましたけどね。こんなヒラヒラで踊ってて、よく隣のヒトの指輪とかに引っかかんないなぁとか。黒人の身体能力ってスゴイですなぁって(笑)。あるいは、破れてても気にしなかったのかもしれないけど。
まぁ、あんな状況は、日本ではちょっとムリ・・・ムリっていうか、よっぽど奇矯なパーティーじゃないとっていうさ(笑)。だから、一般のヒトが来るのにドレスアップ・ダンスはちょっとキツいだろうと。一番手軽なのは、Date Courseのファンだっていうヒトが「菊地の次のバンドだ」って、「オレはDate Courseの頃からこの格好」って言って、ヒップホップみたいな格好で来て、ウチらだけステージの上でスーツ着てるんだけど、フロアはそういうコが踊ってるっていう・・・のもいいですけど・・・それだと単純な組み合わせじゃない?だから、踊るためのドレスアップの格好があったら面白いかなって思ったんですよ(笑)。それは、ボクにも想像つかないんで(笑)。
本当言うと、オーディエンスのウェアリングっていうのは、オーディエンスが作るものだからね。ボブ・マーリーが、この格好しろって言ったわけじゃないから。自然と客がそういう格好をしていったんですよね。ボクにそんな力があるとは思わないですけど。だから、「お互い」っていう言い方をしますけど・・・勝手にフロアが、或るファッションを作り出すほどの音楽だとも思わないですけどね。でも、そういう音楽もいっぱいあると思うんですよ。テクノが、段々とTシャツになっていったとかさ。日本のヒップホップが段々とエイプになってきたっていうのは、やっぱり音楽が強かったからですよね。まぁ、仕掛け人がいたとも言えますけど。
ただ、ボクとクール・ストラッティンが仕掛け人となって、踊れるフォーマル・ジャズの格好はコレだ!とか言って、みんながそれを買うとかさ、考えられないですからね(笑)。その辺は投げちゃってるんで、みんなで考えようっていうね(笑)。
そこそこフォーマルなんだけど、踊れる格好って何だろうか?っていうのは、どうかしら?っていう程度のことで、ブログに書いたんですけど。まずは、シューズからだよねっていうさ。女の子のハイヒールは無理だから、フラット・シューズで・・・フラット・シューズには、可愛いのがいくつかあるけどね。だけど、Date Courseみたいに、服が汚れてもいいっていうこととは違うから。
あの頃は、服が汚れるどころか、眼鏡はかけてくるなっていうね、割れちゃうから。あと、宝石も禁止っていう。ネックレスもダメっていうさ。そうすると自然と、運動会みたいなことになりますよね(笑)。初期の頃ですけど、ハイヒールで踊った人がいて、スニーカーの人のつま先を貫通しちゃったっていうさ。それはまずいじゃない?だから、女の子もハイヒールは絶対禁止だって。その代わり、3時間演るから好きなように、めちゃくちゃにタコ踊りしましょうっていう感じだったんですけどね。今回は、そんな、何時間もタコ踊りしてぶっ倒れるぐらいに、とは言わないんで。
ジャズ・フェスなんかの醍醐味だと、プレイヤーの方はスーツ着てさ、黒人のヒトとか。汗だくでずっーと演奏しててさ。もうぐっちょぐちょになってるのが判るんだけど、かっこいいなスーツ着てっていうさ。汗だらだらかいて。古くは、エルヴィン・ジョーンズとかからそうですよね。もう、汗かいた写真しかないじゃないですか(笑)。いいよ、エルヴィン、Tシャツでやれよっていうさ(笑)。あの人、Tシャツで完全にカジュアル・ダウンして演奏したことって、あんまりないと思うんですよ。ほとんどスーツだよね。全盛期のジョン・コルトレーン・カルテットの時は勿論スーツだし。
ステージあがる方はいいけど、終わったら着替えられるから。お客さんに、それで来いって言うのは、帰りの電車もあるしさ、なかなか強要できないじゃないですか?だから、それで来て帰れるぐらいの感じで、かといってTシャツ、半パン、バッシュってわけにはいかないってなった時に、何かある?っていう問いかけですよね。クールビズ・スーツみたいになるのか(笑)、ちょっと判らないですけどね。