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連載コラム 野村卓史さん(第三回)

2007年12月29日 (土)

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 今回の担当は、野村卓史さん  
なかなか好評をいただいている「ヘイワ・オンザネット〜巨峰と仲良く〜」。第三回 目の更新はスペシャルゲスト、ライターの松永良平氏(リズム&ペンシル)をお迎え しての対談形式でお送りします。 野村卓史×松永良平スパークリングワインとケーキに囲まれ聖夜に収録。

進行:長崎貴将(ギャラクティック)
撮影:井上智子

松永良平
【プロフィ−ル】
リズム&ペンシル所属/ハイファイ・レコード・ストア勤務、和文ライター、 翻訳、レコード関係の仕事中。単行本「20世紀グレーテスト・ヒッツ」発売中。
 
メリークリスマス!!

松永良平(以下、 松永):いやホントにね〜。俺の頭の中では24日に、その、恋人達で賑わっているカフェみたいなところで男2人「うーん」みたいな(笑)するはずだったんですけど。何故かこういうことに(笑)。

野村卓史(以下、卓史):僕が松永さん家に行ってみたかったので(笑) しかし今年のフジロックの時からYIMOくんに「一回は松永さん家にいったほうがいい!」って言われていたんで、やっと念願かないました。

松永:いやいや…どうですか、とりあえず短冊シングル発売おめでとうございます。あれ、2007年の日本で初短冊CDだったんじゃない?

卓史:どうなんですかね〜。例えば演歌とかって…8cmでリリースしたりしないんですかね?

松永:ああ〜そうですね。演歌は短冊CD出してるのかな?

長崎貴将(以下、長崎):もう現行で作ってるものではないらしいので、トレイとか昔の在庫の余りで作ったんです。

長崎:ところで松永さんと野村はどうして知り合ったんですか?

松永:ちょうど野村くんが抜けた直後か、数ヶ月たったぐらいのときにサケロックのライヴを吉祥寺のスターパインズカフェかどっかでみて…それが初めてみたサケロックなんですけど、そうこうしているうちに、そういえばYUTAのCDをみるともう一人メンバーがいるなぁ、っていうことに気がついて、「弟義父さん」「CHINESESKATER」とか書いている人がいるなぁと思って。それでそれを星野くんに聞いたら、やめちゃったんですよ、みたいな(笑)その時は野村くんが抜けたダメージが残っていたせいかあんまり喋りたがらなかったけど。それでグッドラックヘイワってバンドを始めたっていうのを…大地くんから聞いたのか…当時うちの奥さんが高円寺の円盤で働いていて…それで聞いたのかな?よく思い出せないんだけど、とにかく始めたというのを聞いたのが最初の野村卓史生息情報ですね。それまでは未確認生物というか(笑)それからしばらくしてクイックジャパンの対談(星野源×野村卓史、インタビュー=松永良平)があって、その後ペンギンハウスで初めてライヴ観て。やっぱりペンギンはホームって意識が有るの?

卓史:そうですね。グッドラック始めた当時はよくやっていたんで、マスターの亜郎さんがすごく気に入ってくれたっていうのもあって。ペンギンの音も好きですし。

松永:そう、ペンギンっていい音すんだよね。どんなに機械的なことやっても何故かウッディーな感じがするという。

卓史:そう、わりとライヴハウスって張り付いたような音圧の音が多いけど、ペンギンハウスの音は違いますね。

松永:あと、よく思い出せないんですけど、確か俺が最初にグッドラック観たペンギンハウスのライヴの時、演奏が終わって最後に野村くんと大地くんが握手したのを憶えていて。俺はそれをクイックジャパンで原稿にかいたんだよ。最後、握手で終わるのもいいなぁと思って。

卓史:なんかありましたね!!握手した事。今思い出した。アンコールもらったけど、もう曲が無いから握手した(笑)

松永:そう、その辺りから野村卓史ってどういうことを考えている人なのかなって気にしだして…でも取材するとかそういう機会は無くて。ペンギンで取材じゃないんだけどワーって話した事あるよね。カウンターんとこで。

卓史:ありましたね。

松永:そう、もうちょっと知りたいな、なんて思いを抱えてライヴを何回か観たりして、それで今年のフジロックもみて。でもフジの苗場食堂でやったあのライヴは俺好きだなぁ。あと最初にみたペンギンでのライヴ。その両方が好き。

卓史:最初と最後がいいっていいですね。

松永:まぁ「最後」じゃないんだけど(笑)

 
【ここから話は宮武外骨の話題に】

長崎:卓史くんは外骨を知ったのも松永さんを通して?

松永:そうなの?もっと早いんじゃないの?

卓史:YIMOくんは松永さんに教えてもらったんですかね?

松永:いや、彼がうちでこの滑稽新聞をみたのは間違いないんだけど、その前に外骨っていう人が気になっていたようなことは言ってた様な気もしたんだけど。違ったかな?

卓史:僕は確か2〜3年前にYIMOくんから宮武外骨の事を教えてもらったんですよ。そしたら僕の彼女が赤瀬川源平のファンで「外骨という人がいた」(※photo001)を持っていて。

松永:あれは俺が高校のときに出た本なんだよね。でも多くの人はあれで宮武外骨の事知ったんじゃないかな。

卓史:そうですよね。そうじゃないとこれ(滑稽新聞 ※Photo002)いきなり見ても、あまりに情報量が多過ぎて、おもしろいものかどうなのかって咀嚼できないかもしれないですね。とにかく僕にとって衝撃の出会いでした。

松永:とにかくYIMOくんはそん時は盛り上がっていて、滑稽新聞に外骨が怒ってパカって頭が割れて飛び出している絵があるんだけど、それをすごく気に入ってたね。頭が割れてかんしゃく玉が出てる、みたいな絵なんだけど。

卓史:うん。YIMOくんのwebのプロフィール写真でもオマージュ的に使われてますよね(笑)でも外骨って本人が絵を描いたりする訳ではないのに、表現手段としては凄く一貫したものがあって、その、人のものでも全力で表現しちゃうっていうサンプリングの感覚が僕にとっても、YIMOくんにとっても衝撃だったと思います。

松永:逆に俺が衝撃だったのは、YIMOくんが衝撃受けてたのは知ってたけど、卓史くんがここまでとは思ってなかったので(笑)。でクアトロのライヴだったんじゃないかな、「次の曲はムッシュ・ミヤタケ」とか言ってて、なんじゃそりゃ!!って。

卓史:そのこと松永さんのブログに書いてくれてましたよね。変なキノコの名前みたいだって(笑) 

松永:そう。でもあれは宮武外骨のことだろうからどう伝染したのか…なんて考えたりした。伝染したというより野村卓史、宮武外骨好きか!!みたいな(笑)

卓史:僕が知った頃、田中馨(サケロック)くんも好きだって言ってたし、知る機会があればみんな衝撃を受けると思うんですよね。

松永:しかし確かに、サンプリングの先駆けみたいな要素はあるよね。

卓史:そうですね。なんかアスキーアートの原型みたいのもあるし。そういう突き抜けちゃってるっ感じというか…自分の顔拓とかも誌面でやっちゃうし、アホだなって(笑)


松永:でも、そういう、笑わすみたいな…笑われてなんぼみたいのはあるよね。

卓史:うん、それにくどいんですよね。あのくどさは…インド映画並み(笑)

松永:そうそう、レイモンドスコットって分かる?

卓史:ああ、星野源(サケロック)くん好きでしたね。

松永:そのレイモンドスコットの話をある人から教えてもらったんだけど、日本でも戦前にSP盤とかで紹介されているんですよ。あの、彼の代表曲「発電所」とか。それが紹介されているだけじゃなくて、実際に演芸場で…要するに「玉川なんとかカルテット」みたいな音曲っていうのかな、演奏して人を笑わせるみたいな人たちが、レイモンドスコットをカバーしてみんなお客さんがそれを見て…もうヤンヤヤンヤみたいな、大笑いみたいな話だったというのを聞いて、今となっては超プログレッシブな奴らだよみたいに言われてるけど、当時はまず最初に笑かすっていう、笑かしてつかむみたいな部分が大事だったんだっていう話があって…それがすごく興味深かったんだけどね。骸骨だってそうだもんね。笑わしてなんぼなんだけど、実は超反逆児だし、アナーキストだし。

長崎:宮武外骨っていつくらいの人なんでしたっけ?

卓史:明治〜昭和の人ですね。

松永:職業としてはフリーの出版社(笑)とにかくフリーなんですよ。自分のレーベルを持って自分で思いついた雑誌をどんどん発行していっちゃう人みたいな。

卓史:でもほとんど第1号で廃刊、みたいな(笑)

長崎:今でいう自費出版的なとこに近いんですかね。大手の出版社と組んでやったわけじゃないですよね。

松永:違うんですよ。完全に自分でやってて、ある程度「滑稽新聞」みたいに売れたものもあり、全く売れなかったものもあるみたいなんですけど。とにかく思いついたものからどんどんやっちゃうみたいな、趣味は出版、仕事も出版、みたいな(笑)そういう人ですよね。なんだろう…だから今の出版社とかに働いている人と比べるというよりも、最近の音楽家とかに近いような気もする。今日曲思いついてテープに録ったんで、明日配信しますみたいな(笑)

卓史:あと、書いてることがアーナキー過ぎて検閲のために出版が遅れるのを、誌上でネタにしてたり(笑)

松永:結構、投獄もされてるし。

卓史:そうそう、それで出獄してきたら投獄中の事を記事にしてて、それがまたくどくていいんですよね。(笑)

松永:そうそう、でも暗さ(陰鬱)がないんだよね、基本的に。根に持つってことが無くて…あ、もちろん根には持っているんだけど(笑)復讐しようとしているんだけど…。

卓史:カラッとしているというか(笑)湿度がないんですかね。

松永:そうだね。なんとかあいつをネタにして笑かしてやりたいみたいな、そういう風に持っていくみたいなとこはあるなぁ。

長崎:宮武外骨の影響下にあるような今の著名人って誰かいますか?

松永:んんん。

卓史:実際どうなんですかね、宮武外骨の影響で何か始めた人って。

松永:いると思うけど、やっぱり宮武外骨って人の事考えると…量より質とかっていうけど、この人は量より質なんだけど質より量みたいな、更に上をいった量をつくっているから、そこが凄いなって思う。大抵みんな、量より質だよみたいになるじゃないですか、吟味して考えて良い作品を作るんだよ、みたいな。だけど外骨は「質も有って量も有る」世界があるんだよって事を提示してた感じがある。

卓史:うん、その量による印象がありますしね。これだけの量を出してないと外骨から受けるイメージってまた違いますし。

松永:例えばそのくどい性格もそうだと思うし。くどいくせにさっき卓史くんも言ってたけど、カラッとしている。それも現在やれている人っているのかなぁ…。

卓史:不思議ですよね。たぶん影響はいろんな人に与えたんだろうけど。でも、結構ワンマンなイメージはありますよね。誰かと組んだりとか、弟子を育てるとかそういうイメージはないですよね(笑)

松永:うん(笑)でもワンマンじゃないとできないって。帝国を作ってやらないと。

卓史:そうですね。まあ出獄してから戻って来れる場所があるわけだから、支持者はたくさんいたんでしょうけどね。

松永:だろうね。

長崎:後世になってからが評価されている人なんでしょうね。

松永:そうだね。それはやっぱり表現がモダンだったっていうのもあると思うんですよね。洒落が効いてて…なんちゅうんだろう、その表紙とかもピカソ(キュビスム的絵を指して)なんだよね。

卓史:これなんか普通にアートしてますもんね。妙に下品なやつも多いですけど。あと広告があったらその裏のページにその広告のパクリとかやったり(笑)そういうのとか凄くカッコいい。

松永:でもどうしてムッシュ・ミヤタケみたいな曲を書こうと思ったの?なんてインタビュアーらしい質問も(笑)もっと広げて聞くと野村卓史はどうやって曲のインスピレーションを思い浮かべるわけ?

卓史:曲は一気には出来ないですね。スケッチがたまってきて、それにプラス、例えば宮武外骨とか、そういうモチーフがあるとできてきます。単純に音のスケッチだけだとただ単に繋ぎ合わせていくだけみたいな…そこにおもしろそうな素材があってそれが結びついたりすると…例えばディジーガレスピーの「Salt Peanuts」と宮武外骨がくっついたら!!ってすごくおもしろそうな感じがして。あとムッシュ・ミヤタケの名前は…前からセニョール・ココナッツの名前ってカッコいいなって思ってて、そういえばフランス語で「セニョール」に近い意味で「ムッシュ」ってあるな、と思ってムッシュ・ミヤタケって並べてみたらカッコいいなって思ったんです。

このあと近所に住むYIMOが松永家に乱入。「杉浦茂」「80年代のテレビCM」「James Brown」「超芸術トマソン」と話題を変え、夜は更けていくのでした。
 おわり...
 
 
  今回の推薦盤は、コラムに参加していただいた松永さんの推薦作品です。  
   その@  
  Latin Playboys Latin Playboys / Latin Playboys
 <推薦コメント>
グッドラックヘイワの「ムッシュ・ミヤタケ」は、明治・大正・昭和を図太く駆け抜 けた出版人、宮武外骨に捧げた曲。この“外骨”とは、ガイコツであり、 ドクロのこと。メキシコで秋に行われているというガイコツのお祭り「死者の日」に 一度は行ってみたいと思っている。行けない気持ちを晴らしたいときは、 このラテン・プレイボーイズを聴く。歪んだ太陽の下でチリ・ビールを飲みながら開 催される音の実験室は今日もにぎやかだ。
       
 
 そのA  
デス・プルーフ デス・プルーフ
 <推薦コメント>
ガイコツと言えば、このドクロ・カー。タランティーノの傑作『デス・プルーフ』に 出て来る恐怖の耐死カー。タランティーノ選曲の南部R&Bとざっくりし たロックが今回も相変わらず気持ちいい。また、この映画の隠れたテーマは友情だと 思うのだが、グッドラックヘイワのテーマも、ドラムとピアノの友情だっ たりする。その友情を、このドクロ・カーがカーチェイスで蹴散らしにかかる。その スリルもまたグッドラックヘイワのライヴに似てる。
       
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