―― あなたがゲーム音楽に携わるようになったキッカケを教えてください。
Junkie XL: エレクトロニックアーツとは、4年前くらいから密に仕事をするようになったんだ。今回『Need For Speed Pro Street』にサントラと提供したきっかけというのは、今年の2月ごろにゲームを手がけるスタッフがゲーム内での音源を探していたときに、今ボクが取り掛かっているアルバムの音源をそのスタッフに楽曲を聴いてもらったら気に入ってくれたんだ。そういった感じでゲーム用の音楽をピックアップして欲しいと依頼されたんだ。カナダにある『Need For Speed』の制作スタジオに行ってこのオファーを受けたんだけど、このシリーズは何回か手がけているから彼らがどういうイメージを持っているのかはある程度わかっていたんだ。そしてスタッフの人たちとゲームについていろいろな話をして、そのすべてを踏まえたうえでサントラを制作したんだ。今回のメインテーマ「More」はそういったイメージから制作した。そしてそれをスタッフが気に入ってくれたから、さらにゲーム内でしか聴けない楽曲も手がけることになったんだ。
―― 『Need For Speed』シリーズについての印象は?
Junkie XL: 初期のNeed For Speedは「イリーガルなストリート・レーシング」というテーマがあった。そこから自分としては「パンク」なイメージを思い浮かべていたんだ。だからこのシリーズに対してはとても最先端なイメージがあったよ。
―― 『Need For Speed』のサウンド面についてはどうですか?
Junkie XL: ゲーム音楽っていうのは、そのゲームをやる人はヒップホップだったり、エレクトロニック・ミュージックだったり、ロックだったり、いろんな音楽が好きな人がいると思うんだ。だからある決まったジャンルの音楽ばかり掛かっていたら飽きてしまうと思うんだ。だからボクのようなサウンドはマッチしていると思う。あとゲーム音楽はテレビやラジオと並ぶような発表の場だと思う。特にこの『Need For Speed』は世界中で発売されているし、いろんな人がプレイしていると思うから、必然的にボクの音楽を聴いてくれているはずなんだ。
―― ゲーム音楽を制作する際、どんなところからインスピレーションされますか?
Junkie XL: これはゲームだけじゃなく、映画やコマーシャルなんかすべてそうだと思うんだけど、ポスターやゲームなど目にすると、そのための音楽が頭に浮かんでくるんだ。そういったサウンド・トラックを制作する際、クライアント側はアーティスト性を重視すると思うんだよね。その商品にあった楽曲をアーティストがどこまでできるのかってことだと思うんだ。良いパーツが集まれば、良い作品出来ると言う考え方もある。しかし重要なのはそのアーティストの問題で、要は生み出される過程が重要だってことだと思うんだ。
―― 『Need For Speed Pro Street』のメインテーマ「More」についてお聞きします。2006年にリリースされたアルバム『Today』の楽曲とは違ったテイストの作品ですが、どのようなイメージで作り上げたのでしょうか?
Junkie XL: 「More」は今作っているアルバムに収録されているものなんだけど、今回のアルバムはどちらかというとボクの初期のころの作品に近いと思う。「自分のルーツに戻る」っていうテーマで作り上げたんだ。ハードなエレクトロニック・ミュージックやインダストリアル、そしてパンク的なギター・サウンドなどの要素が入ってる。ライブで良いヴァイヴが生まれることを考えて作り上げたんだ。
―― 「More」にフィーチャーされているヴォーカリスト Lauren Rocketについて教えてください。
Junkie XL: ロス出身のアーティストで、彼女自身もパンクバンド“Lauren Rocket & The Rockets”というバンドをやっているんだ。彼女はアメイジングなパフォーマーで、声もすごい気に入って、友達を通して彼女を紹介してもらったんだけど、彼女の声にヤラれてアルバムの3曲に参加してもらった。「More」のミュージックビデオにも写っているよ。髪がブロンドの女性さ。
―― あなたが良くプレイするゲームのジャンルは?
Junkie XL: ボクが音楽的に認知されてきた1997年くらいまではかなりゲームをやっていたんだけど、それ以降は音楽の仕事が忙しくなってきたからゲームをする時間が全然なくなってしまったんだ。その頃は1日14時間から16時間くらい音楽と向き合っていたからね。もちろん、サントラを手がけた作品はプレイをするよ。まわりにはゲームに詳しい友達も居るし、彼らに最新のゲーム情報やトレンドは聞いているよ。でも最近のゲームは何時間もかけて攻略しなくちゃいけなかったりするから、なかなか手を出せないでいるんだ…。
―― 最近のクラブミュージックシーンについて、なにか思うことはありますか?
Junkie XL: これはボクの個人的な意見なんだけど、2つ同時進行しているものがあると思う。一つはプログレッシヴ、トランスといった、いわゆる純粋なクラブミュージック的なもの、そしてもう一つはエレクトロニック・ミュージックとオルタナティブなものを融合させたサウンド。ボク自身としては後者に近い考え方を持っていると思う。たとえばJustice、Steve Aoki、MSTRKRFTみたいに、ちょっと捻くれたサウンドがとても面白く感じるんだ。
―― なるほど。
Junkie XL: 基本的に異なったジャンルを融合することが好きなんだ。15年というキャリアの中でそういった発想を元に音楽を作り続けている。融合すると楽しい作品が出来上がったり、ときには良くない作品も出来上がったりする。ボクの音楽が注目されだした96〜97年というと、Fatboy Slim、Chemical Brothers、Prodigyが出てきた時期とも重なるね。このころ野外のフェスティバルなんかでオルタナのファンも居つつ、ダンスミュージック・ファンも共存する状況がとても面白かった。97年のフジロックで来日したときも思ったんだけど、そういったいろんなファンのためにプレイするっていうのがとても面白いと思ったんだ。そういった意味でさっき言ったJustice、Steve Aoki、MSTRKRFTみたいなアーティストに注目しているよ。
―― 前述のJusticeのような新しい世代のアーティスト達は、長くシーンで活動するあなたからはどのように映りますか?
Junkie XL: これからそのジャンルがどういう方向に向かっていくかという点において、彼らは大事な存在だと思う。彼らの作品を聴いていると「究極」な感じがするんだ。それはボクと近い考え方ではあるんだけど、スタイルが違う思うんだ。僕の音楽はダンスミュージックだけど、彼らの場合はパンク的な要素も感じられるエレクトロニックミュージックって感じかな。こういう音楽は今までにない新鮮な印象を受けた。たとえばボクはたまにプログレッシヴのイベントに出演したりするんだけど、そういうところでは10年前くらいのサウンドイメージのままなんだ。そういう意味で彼らの音楽はとても刺激的で面白い。今、シーンで人気も出てきているし、僕自身も注目しているよ。
―― 先ほどからもお話の中に出てきていますが、現在制作中のアルバムはどんな作品になりそうでしょうか?
Junkie XL: 2008年3月末ごろにリリースする予定だよ。「More」で参加してくれたヴォーカリスト Louren Rocket、そしてSteve Aoki、Scissor Sisters、Tommie Sunshineがアルバムに参加してくれたんだ。あとElectrocuteともコラボレーションしたよ。彼らはエレクトロニック・ミュージックと60’sのガレージ・パンクを足したような音を作っているんだ。
―― 今回参加しているScissor SistersのRemixを結構やってらっしゃいますよね?
Junkie XL: うん、彼らとは4年前に出会った。そこから彼らのリミックスを手掛けるようになったんだ。よく世界中のフェスでも顔を合わせるね。一番最近だと2007年のフジロックで会ったよ。そのときから頻繁に連絡を取るようになって、「なんか一緒にやらない?」って言ったら今回の作品に参加してくれたんだ。
―― では最後に、『Need For Speed Pro Street』をどのように楽しんで欲しいですか?
Junkie XL: これはレースゲームだから、実際の道路を走るわけじゃなく、自分の家で座って楽しんで欲しいね(笑)。
―― ありがとうございました!