Candle『街角ジゴロ』 Interview 

2007年3月5日 (月)

2005年9月にシングル「街角ピエロ / 明日は此処から」でデビューしたラップ・プリンス、Candle(キャンドル)。Vector Omega(Shing02のスタンド、プロデューサーとしての名義)が「明日は此処から」をプロデュースしたことをきっかけに、日本Hip Hopの名門、Mary Joy Recordings のメンバーとして活動を開始。シングルを発表する頃には既にアルバム『街角ジゴロ』制作の構想は出来たという。 そして2007年3月9日。満を持してファースト・アルバム『街角ジゴロ』を発表。リリースを間近に控えたCandleにアルバムの制作経緯などを中心に質問してみた。


Candle/街角ジゴロ
3月9日発売


今回のアルバムはご自分でも大絶賛とのことですが、どの辺が気に入ってますか?

Candle:「全部。客観的に聴いてもめちゃくちゃカッコいいアルバムだと思います。これ、誰が聴いてもおもしろいと思いますよ」

私が聴いた印象では、自分のラップと相性のいいトラックを選んでいるな、と思ったんですけど、今回最も多くトラックを手掛けているMAGI(マジー)はどういう人なんですか?

Candle:「彼はロサンゼルスのプロデューサーですね。超昔3 Melancholy Gypsys(Murs, Eligh, Scarubのトリオ)のプロデュースをしていたらしいです。3年前、DJ Quietstormが『Soramiro』ツアーをやった時期に、Mursと一緒に来日していて、彼が「日本で自分のビートに合うMCが居たら使ってくれ」ってMary JoyにビートCDを置いていってくれたんです。自分は2002年頃にMAGIが自主で出したインストCDを買って聞いていたので、だいぶ興味があって、レーベルにCDを聞きに行ったんです。そしたら案の定気に入ってしまって、それを彼に伝えたら更にビートを送ってきてくれたんです。自分はレーベルを通してコンタクトとっていたので、直接はまだ会ったことないんですが」

それはキャンドル君自身が選んだんですか?

Candle:「選びました。30曲くらいの中から」

でもある意味、Mary JoyがMAGIのビートはCandleに合うだろうと見込んでビートを渡したわけですよね?

Mary Joy:「MAGIの作るビートはかなりエクスペリメンタルで、ラップを乗せるにはちと難しいかな、と思ったんですけど、Candleはそういうのが好きかな、と思って。あとは、Candleがライブで使っているトラックが、電子音っぽくてハネたビートが好きそうだったから」

それで、聴いてみたらやっぱり好きだったと?

Candle:「好きでした。非常に。ちょっとビックリしましたね。こんな奴はいないぜ、と思いました。それがなかったら始まらなかったですね」

他の曲はどうやって選ばれたんですか?

Candle:「プロデューサーに聞かせて貰ったトラックの中から選んだものもあるし、「こういう曲作りたいから」って言って制作を依頼したものもあります。Khaosist(a.k.a. KK)の曲は2曲とも、聴かせてもらったものから好きなものをピックアップさせてもらって、Inner Scienceは「ちょっと落ち着いたビートが欲しい」って言ったらその通りのものが来て、Ari1010もテーマを渡して、それに合ったビートを作ってもらいました。不思議とドンピシャなものが来ましたね」

では、自分でイメージしていたものに近い曲が揃った感じですか?

Candle:「近いか、それ以上。それ以下はないですね!」

MCでは唯一、Rumiちゃんがフィーチャーされていますが、今までにない感じですね。歌ってますもんね。

Candle:「ライブでやりたくないって言ってましたね(笑)。どんな顔して出ればいいのか分からないからって(笑)。歌って欲しい、っていうのは僕のリクエストです。Rumiちゃん歌上手いんですよ」

Rumiちゃんのどんなところが好きなんですか?

Candle:「僕の感覚に近いし、演技上手だからですね。言っていることとか、おもしろいじゃないですか。近い距離にいた人だから、「一緒にやりましょう」っていう話になったら、それはやらないテはないと思って」

どうやって二人で作ったんですか?

Candle:「テーマの「バケ猫」っていう言葉を決めて、お互いに1ヴァースだけ書いて、まず歌詞だけを渡し合ったんですよ。それから、Khaosistのビートが5曲くらいあって、それも渡して、僕の中では絶対これだな、って思った曲をRumiちゃんも選んできた。「バケ猫」っていう言葉から連想する歌詞も近かったし。何回かミーティングもしたんですけど大して何も決まらなくて(笑)。結局、〆切直前に1日スタジオに入って、そこでその場で書いた部分が大きいですね。スクラッチ入れる場所とかもその場で決めて。スクラッチはDJ Ken-Oneが合うんじゃないかな、って勝手にイメージしていて、やってもらったらこれもドンピシャで。俺ってすごいな、って思いましたね(笑)」

苦労したこと、難しかったことは何ですか?

Candle:「時間を守ったり、一緒にやっている人たちに迷惑かけないようにすることですかね」

アルバムの曲順に意味があると小耳に挟んだんですけど、どんな順番になっているんですか?

Candle:「それほど厳密に時系列になっているわけではないんですけど、まずモンモンとした憤りを持った少年が恋を覚え、傷つき、さらに憤り(笑)、だけどそんなことも、Ari1010が言っていたように、「忘れやすい生き物」なので、忘れていい思い出になり、「明日もがんばろう」っていう気持ちになっていく。そういう人間の、普通のサイクルですよね。「明日は此処から」の後は、結局また元(「おんぶ抱っこアスリート」)に戻るんですよね。繰り返すんです(笑)。人生、これの繰り返しだと思います。大人になったら、例えば子供ができたりしたら全然違うんでしょうけどね。現時点ではこの繰り返しです(笑)」

このアルバムにはとても満足しているけれど、まだまだやりたいことはたくさんあるそうですね。

Candle:「満足してるって口では言ってますけど、「こうしたら良かった、ああしたら良かった」っていうところもゴマンとあります。他に入れたかった曲もたくさんあるし。だから絶対に、これが100%ではないです。いっぱいやりたいことがある中の、一つです。でも、自分でいいと思えるものだけ世に出すべきだと思う。自分でいいと思えないものは出す価値がない」

中学生の頃からやり続けているラップの、おもしろいところってどんなところですか?

Candle:「自分の思ったことを消化できるってところですかね。字にすると、嫌だったことも良かったことも具体的になるじゃないですか。そうすることによって、自分の中に溜まったものが消化できるんですよ」

では、おもしろいというより、そうした方が自分の調子がいいってことですか?

Candle:「そうしなかったら調子が悪いですね(笑)」

ラップが難しいと思うことはありますか?

Candle:「ないですね。でも、何でも1枚皮がむけるときって辛いと思うんですよ。「あー、このやり方飽きたな」とか。でも、飽きたことも続けているとズルッとむけるときがあるし、一度止めてみると、次にやり始めたときにすでにむけてるときもあるし。だから辛いときも辛いと思わないで、気分転換して、普通の生活を続けていれば辛くなくなります。っていうか、ラップしてるのに悩むっておかしくないですか?」

いや、ラップしたことないんでよく分からないんですけど……

Candle:「(悩むのは)無駄ですね。ラップにすれば、笑い話になりますから」


Candle/街角ジゴロ
3月9日発売


取材:Yuko Asanuma

協力:Mary Joy Recordings