Cappablackミニインタビュー&全曲解説

2006年10月30日 (月)

『Facades & Skeletons』発売記念インタビュー&全曲解説

ドイツのエレクトロニック・ミュージック・シーンの重要人物Poleが惚れ込んだ才能、 イレヴン(i11even/ programing)&ハシム・B(hashim b./ programing&scratching)の二人から成る 日本発ブレイクビーツ・ユニット、 Cappablack。

これまでAlex Paterson(Orb)やDabryeら大物アーティストから大絶賛され、欧米では既に一定の評価を受けている彼らが、 アブストラクト・ヒップホップの名盤と評価されるアルバム『state of the night』以来、実に9年ぶりとなるニューアルバム『Facades & Skeletons』をリリースします。

人気レーベルScapeからワールドワイド・デビューを記念して、 イレヴンさんとハシムさんのお二人にインタビューと全曲解説をしていただきました!


Interview with Cappablack


それぞれ自己紹介をお願いします

i11even(以下i): 千葉県民。ジェフサポです。川淵サッカー日本協会会長解任要求 デモにはもちろん参加しました。
hashim b.(以下h): 74年日本生まれ、現在LA在住の牡羊座。サッカーよりもお笑い 観賞の方が好きです。運転もできないのにLAに引っ越したことを少し後悔してる今日 この頃です。

新作のコンセプトは?

i:コンセプトは特にないです。敢えて言うなら、これが日本の<ブルーカラー>の ビートです。
h:コンセプトを決めて制作に挑んだわけではないのですが、どこかでヒップホップ では通常サンプリングされないような音楽をサンプリングしようというサブリミナル な意図はあったかもしれないです。

ワールドワイドデビューの感想は?

i:待たせ過ぎて、契約金を返せと言われるんじゃないかとビクビクしてたので、出 来上がって良かったです。
h:前からScapeの人達とは日本で一緒にライヴをやったり交流があったので、自然 の成り行きでこうなったと思います。Poleはヒップホップ、エレクトロニクス、ダブ など僕らと共通した音楽のバックグラウンドをもってるので、僕らの音楽をよく理解 してくれてると思いますし、それが最終的にマスタリングされた音に反映されていま す。日本で生み出される音楽のクォリティは世界に比べても高いので、これからもど んどん世界に出て行って欲しいと思います。

2人でトラックメイキングするときはどちらがリーダーシップを取って制作されま すか?

i:どちらもとってない、あるいはどちらもとってると言えます。ポジティヴに、行 き当たりばったり、です。
h:そのときの曲にもよります。どちらかが最初の音のアイデアを作って、その後は お互いにどんどん音を足していきました。民主的な作業方法でもあったり、それが突 然独占体制になることもあります(笑)。でも、最終的なミックスとアレンジは illevenがやってると言えるでしょう。

新作はどんな人にどんなシチュエーションで聞いて欲しいですか?

i:みなさん、もうちょい世の中のいろんなことに腹を立ててもいいんじゃないかと 思うし、人と意見を異にしても堂々と発言したり、行動したっていいでしょう。たと えそれで独りぼっちになったとしても。まあ、そうなったときには、ぜひ聴いてみて 欲しいです。
h:それはリスナーに決めて欲しいことですが、このアルバムの楽曲は どれも言葉では表しづらい感情や思想が表現されてると思います。社会的な問題や政 治問題に二人とも興味があるので、スクラッチする言葉や、サンプリングするネタに それが反映されてると思います。脳を刺激しつつ、ケツを刺激する音楽だと思ってま す。

・ハシムさんはロスに移住してしまうそうですが、今後のCappablackの活動と野望は ...?

i:まったくわからないです。ただ、何処にいても、自分達にしか出来ない音を追求 して行きたいと思っております。
h:今までは千葉県と下北沢と結構離れていたので、あまり顔を合わせて曲を作るこ とが少なかったです。なので、千葉県にデータのCD-Rを送ってもらっても、速達なら そんなに変わらないと思います(笑)。でもillevenが言った通り、誰にも出来ない 音は今後も作れると思います。



*Cappablack/Facades & Skeletons
1 Counterattack Intro
2 Slide Around feat. Awol One
3 Twisted Minds
4 New Tone feat. Emirp
5 Evil Clap
6 City of Amnesia
7 Defying Gravity
8 Tower of Babel (interlude)
9 Towe of Shodows
10 Morphing Truths
11 Hear No Speak No feat. Awol One
12 Them In Us (interlude)
13 Akarui-mirai feat. Emirp
14 Exterminating Saints
15 Tokatonton feat. Emirp
16 suikinkutsu 09.12.2003

* HMVインターネット・オリジナル特典:未発表音源CD-R(日本盤だけの特典!




◆Cappablack本人たちによる全曲解説◆


1. counterattack intro

i:のっけからカウンターアタックです。何に? 二世だのセレブだのなんとか様だ のなんとか君だの、そんなのの牧羊に喜んでなりたがってる世の中に対してです。
h:心の中のBボーイを表現するために、バトル風の言葉をスクラッチしました。 "cappablack is on the counterattack"と言っているのは、ラッパーのawol oneで す。

2. slide around feat. awol one

i:awol oneは『beneath the serface』で初めて知って以来、大ファンでした。それ で彼がmushのツアーで日本に来たときにオファーをしました。awolは、hip hop史上 最もユニークな声に恵まれたラッパーのひとりだと思う。声そのものが、危ういス トーリーを孕んでいるというか。例えば晩年のジョニー・キャッシュ。彼の曲にラッ パーがフィーチャーされてたとします。それはawol以外には考えられません。
h:メインストリームのヒップホップ・サウンドとエレクトロニクスを知らないうち に合体させることができたと思います。

3. twisted minds

i:我々の野蛮さがよく出た曲だと思います。
h:頭をたたき割るようなトライバルなドラム・サウンドと、オルガンのネタの組み 合わせが気に入ってます。"how many people got controlof their minds"(自分の心 をコントロールできる人はどのくらいいる?)という言葉が今の社会に向けられた メッセージです。僕が実際にインタビューしたある伝説的な映画監督の言葉が、曲の 途中で登場します。

4. new tone feat. emirp

i:emirpとやるきっかけになった曲。ラップ入りのヴァージョンを初めて聴いたとき は驚きました。彼はとても音楽的なラッパ−で、ともすると音楽的過ぎて個人的には そこが気に入らず駄目出しを連発したりするのですが、この曲では彼のそういう面が 良い方に出たように思います。ステファンは低音を最大限に引き出しつつ全体を丸く バランス良く仕上げてくれましたが、ちょっと凶暴過ぎたデモ・ヴァージョンも個人 的には気に入っていて、そっちの雰囲気は是非ライヴで。
h:illevenの緻密な音作りと、emirpの変態的な言葉遊びが上手く絡んだ曲だと思い ます。こんなヒップホップ・ソングは今までなかったと思う。

5. evil clap

i: さ〜っ...というのは衣擦れの音。どん!というのはドアを蹴る音。こつこつ鳴っ てるのは石で路面を叩く音。ぜひ踊っていただければ。スズキスキーも僕も、その 昔、クラブでは踊り狂っていたのです(ホントです)。
h:2年前くらいにダンスホールのプロダクションに夢中になって、その要素を反映 させようとしてこのトラックを作りました。それで最終的にできあがったのは、全く 別のものになっちゃいました。ダンスホール的なビート、現代音楽のストイックさ、 脳を突き刺すサイン波など、かなり幅広い音を堪能できるトラックです。この曲で踊 る人を見てみたいものです。

6. city of amnesia

i:アルバム中いちばん古い曲で、最初にハシムからデモを受け取ったのが03年。な のにマスタリング直前までアレンジが変わり続けた曲です。タイトルは、もうちょい あれこれこだわってみてもいいんじゃないスか?の意。いくらなんでも流し過ぎで す。
h:ピアノの音とドラムビートから始まり、illevenが更にドラムを加えたり、言葉 を加えてどんどん進化していった曲。言葉で表せないような悲しさを感じて泣きたい 人は、この曲を聴くといいでしょう。

7. defying gravity

i:これも古い曲。途中までは「generic city」というタイトルでファイルを交換し あってました。その元のタイトル通りトリトメもなくビートが増殖して、これが ショート・ヴァージョンなので自分達でも呆れます。
h:一つのシンプルなピアノ・ネタから、どれだけ音のバリエーションを生み出せる かを挑戦しました。あらゆる方法でピアノの音をチョップしたり、加工してます。曲 のタイトルの"重力に抵抗する"というのは建築学的な思想ですが、僕らは音の世界 で、"音の法則に抵抗"しようとしてるんだと思います。

8. tower of babel (interlude)

i:僕らはこれまで、お金のことや、ブッシュやラムズフェルドについての曲をつく りました。これもそういった類いの曲です。ハシムがやった声の加工が素晴らしいで す。
h:この曲の言葉は、反体制的な思想で有名なアーティストの言葉を使ってます。 "9.11のときに世界貿易ビルが倒れたとき、バベルの塔に見えた"という意味が込めら れてます。

9. tower of shodows

i:後半、マッシヴなドラムのおかずを入れたのですが、却下されました。
h:この曲は僕の中で、"ポスト・パンクとダーティ・サウスと電子音楽"のクラッ シュです。69BPMのグルーヴには南部系ヒップホップの影響が出てるはず。

10. morphing truths

i:途中まで「フリッツ・ラング」というタイトルだった曲。かの亡命映画監督の フィルモグラフィーをぼんやり眺めながら最初のビートを組んだという点で、1stの 延長線上にある曲。なぜこの曲をヨーロッパ盤に入れなかったんだ、ステファン? h: ドローンとヒュ−マン・ビートボックスを組み合わせた画期的な曲です。ホラー 映画のサントラにも使用されそうな、怪しげな雰囲気が流れてます。

11. hear no speak no feat. awol one

i:最初に渡したビートに、どういうわけかawolはいつになくハメを外したラップを 載せて来て、僕たちもそれに応える強力なビートをつくらなくてはなりませんでした。
h:このトラックは何度も変化を重ねてこういう形になりました。illevenが作った基 本的なビートに僕がインドのタブラを加えました。そのあと、illevenは普通のドラ ムを完全に消し去って、スカスカのビートにしたんですが、そのグルーヴの中毒性が 凄いです。この曲ではawolの声もかなり加工して、不思議な音を作り出してます。

12. them in us (interlude)

i:ビートも入ったちゃんとした曲をつくったんですが、イントロのほんの一部だけ をスキットとして採用しました。
h:このイントロの後に出てくるビートもいつか発表したいです。親指ピアノのサン プルを加工した音色です。

13. akarui-mirai feat. emirp

i:未来が明るいものかどうかは知らない。emirpは月に一度大宮でイヴェントを主催 しているので、興味のある方は是非足を運んでみてください。
h:加工されたオルガンの音やemirpの声と、変化し続けるトラックの絡みがたまら ないです。

14. exterminating saints

i:このヴァ−ジョンの後に、もっと声をエクストリームに加工したヴァ−ジョンを つくりかけていたのだけれど、とても間に合わなかった。
h:僕の中では、"フリー・ジャズ・ミーツ・ドクター・ドレ"のようなトラックで す。実際にフリー・ジャズのレコードをサンプリングしましたが、そこから頭を振り たくなるようなヒップホップ・ビートを作ることに挑戦しました。この曲も何度も変 貌してこの形になりました。声のチョップとビートの展開が聞き所です。

15. tokatonton feat. emirp

i:この曲のemirpのラップは素晴らしいと思う。彼は深夜のガソリン・スタンドで働 いて生計を立てています。"new tone"もそうですが、そうした日常から出て来る言葉 を列ねて、社会の現状に対する違和感をじょわっとあぶり出すのは、彼のリリックの 持ち味のひとつです。
h:ある意味ベルリンのダブに対する、カッパブラックの返答でもあり、オマージュ だと思います。

16. suikinkutsu 09.12.2003

i:いまや「こういう機材を使ってこれこれこういうことをした」と言うよりも、む しろ「俺はこういうことをやらなかった」と言う方が、よほどつくり手の意図や曲の 個性を伝えうるような環境が、音楽に携わるほとんどの人に与えられているわけで す。でもこの曲で、ハシムは「こういうことをした」ということで、曲に個性を与え てくれました。ひとつは、水琴窟のフィールド・レコーディングをしたこと。もうひ とつは、このような曲にビートを入れたことです。
h:もともと、illevenから送られてきた加工されたオルガンのネタから始まった曲で す。それとは関係なく、僕はある日本庭園にある水琴窟の音をDATで録音したことが ありました。その音で曲を作ろうと思っていたら、オルガンのネタが送られてきたの でいいチャンスだと思いました。オルガンの音と水琴窟の音をどんどん加工して、そ れを切り刻んで、ストーリーを作ったような感覚です。この曲を作ったときはリル・ ジョンのプロダクションをよく聴きまくってたので、808のビートを作って重ねちゃ いました。一見合わないんだけど、そこに中毒性があるんです。



協力:Disques Corde



disques corde and Onsa presents moxa

2006年の締めくくりにふさわしく、ベルリンからエレクトロニック・ダブ・マスターPole、ロスからブレイクビーツの魔術師Nobodyを招いて、パーティー“moxa”開催!
Pole初来日時に唯一出演した日本人DJであるDJ Kenseiも久々にこのシーンに登場!  Poleのレーベル~scapeよりワールドワイド・デビューを飾ったCappablack、リセット&リスタートとなるベスト・アルバムを発表した白石隆之の二組のリリースを記念するパーティーでもあります。SaloonでもRiow Araiらの強力メンツがサポートする注目の一夜!

【DATE】 2006 / 12 / 23 (SAT)
【TIME】 OPEN/START 23:00
【CHARGE】 Adv.3,500yen / Door4,000yen

【LINE-UP】
UNIT
LIVE :
Pole, Nobody, Cappablack
DJ:
DJ Kensei, 白石隆之

SALOON
LIVE:
Inner Science, Conflict

DJ:
Riow Arai, Azzurro, Ten




*関連ニュース

白石隆之インタビュー
70年代末のパンク〜ニューウェイヴ黎明期から活動をスタートし、<R&S>や<Syzygy>から<Libyus>まで様々なレーベルからリリースを重ね、テクノ・ブレイクビーツ・ハウス・アンビエントとジャンルを横断しながら高い評価と支持を集めてきた音楽家、白石隆之。今回リリースされるアルバム『Time6328』は、25年以上にも及ぶ活動歴を大胆かつ斬新な視点で総括するセルフミックスアルバムです。その『Time6328』リリースに際しインタビューをさせて頂きました。本作のことからご自身の音楽遍歴などをお話いただいています。