「8月も終わり」(許光俊)
2006年8月30日 (水)
連載 許光俊の言いたい放題 第87回「8月も終わり」
早いもので8月ももう終わりだ。私などは毎年、夏はこうしよう、ああしようなどとあらかじめ考えているのだが、いつもしたいことの数分の一しかできない。今夏は外国文学の入門書と、マニアックな聴き比べの本という2冊を完成させるつもりだったが、まだまだである。何とか秋には書き上げたい後者だが、どれくらいマニアックかというと、ヴィヴァルディの『四季』、それも「春」の聴き比べだけで、軽く原稿用紙80枚分になっている。他の有名曲についてもしつこく聴き比べる予定で、部屋には『幻想』だの『モルダウ』だのが山積みになって早くも数年たってしまった。
思った通りに仕事ができないのは、ふだんやれないことをついついやってしまうのも大きな理由で、つい先日は突然、「やっぱり夏はギターだぜ」と思い立ってHAKUJUホールに出かけてしまった。武満徹がらみのプログラムに、有名ギタリストの饗宴という企画で3日連続のコンサートが行われていたのだが、ふだんはギターも武満も聴かないくせに、突然気まぐれで行く気になったのである。私はギターに関してはずぶの素人みたいなものだから、たいしたことは言えないが、やっぱり日本のギタリストはうまいしきれいだけど、あのギターならではの濃密な、生々しい音は海外の演奏家のほうが出るなあと思った(武満の演奏としてそれが好ましいかは別の問題として)。他方、フルートの高木綾子は、ちょっとアルゲリッチを思い浮かべたほど押しが強くて鮮明な音楽で、内田光子やいろいろな日本の女流演奏家も連想しつつ、女性のほうがよほどやりたい放題できているのかもなどと考えさせられた。最近の学生などを見ていてもそうである。とにかく男のほうが無難安定志向が強い。女のほうが女優になりたいだの(http://yuriafukatuki.blog49.fc2.com/)、手帳を売り出すだの(http://yaplog.jp/ha-chu0122/)だの、好きな人生を送っているようで、楽しそうだ。こんな子たちを見ていると、オレも負けられんと、意味もなく奮い立つのであった。高木嬢のCDも買うことにしよう。
それはともかく、夏→ギターとくれば、次は当然焼き肉しかない。気まぐれにそんなコンサートを聴き、うまいものを食べに行くというのは、さすが東京ならではの楽しみである(と、田舎暮らしの私はいちいち思ってしまうのである)。
おかげでCDも手つかずのままが多い。ざっと聴いたもののなかでは、ヴァントのブルックナー第5番は、特に第2楽章の精密さがたまらない。金属の部品がぴかぴか光っているような美しさがすばらしい。
最近解説を書いたケーゲルのシベリウスの交響曲第1,4番のライヴ録音もきわめて魅力的で、前者はめちゃくちゃロマンティックでヒロイックな濃厚風味、後者はスタジオ録音を上回る薄気味の悪さだった。あとでヤンソンス、オラモ、サラステ、ヴァンスカ等々をチョイ聴きしたが、重さ、暗さ、深刻さという点では誰もケーゲルの足下にも及ばない。北欧的なさわやかさなど求めると筋違い。
ヴァントにしてもケーゲルにしても、音質がちゃんとしていて、演奏のイメージがかなり伝わるのはありがたい。そうそう、音がよいといえば、平林直哉復刻のベートーヴェンの交響曲第5番には驚かされた。
ムターが弾いたモーツァルトのヴァイオリン・ソナタは、サントリーでのライヴもそうだったが、どれも第2楽章が聴きもの。極端な弱音でつぶやくようなジメジメぶりが私好み。CDでは、トラックを飛ばして第2楽章ばかり聴いてしまった。好き嫌いは別として、この弱音のニュアンス、音色コントロールの技はものすごいですぞ。しかし、CDケースはいただけない。すぐに壊れてしまいそうな変な作りで、取り扱いの上でも不利。
ところで、9月にあのメキシコの暴れん坊指揮者、エンリケ・バティスが来日することが突如判明した。3日と4日、ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラをサントリーホールで指揮するのだ。どうせならメキシコの楽団が聴きたかったが、日本のオケとはいえ、ベートーヴェンの第5交響曲、シュトラウス『ドン・ファン』、そして、レスピーギ『ローマの松』という強力なプログラムである。さぞやニヤニヤさせてくれるのではないかと楽しみにしている。
もともと私は情報にうといが、この件は音楽関係者にもあまり知られていないようだ。というのも、主催は(株)NTTデータという会社で、一般にはチケットが売られないようだ。サントリーホールのホームページを見たら、チケットは公募抽選などと書いてあった。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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交響曲第5番 ヴァント&ミュンヘン・フィル
ブルックナー (1824-1896)
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