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カルロ・マリア・ジュリーニ逝く

2005年6月16日 (木)

「私たちは、私たちの時代の最も偉大な音楽家の一人を失いました」

エサ・ペッカ・サロネン) 


 美しい名前と洗練された容姿、そしてヒューマンな人格の持ち主だった稀有の名指揮者、カルロ・マリア・ジュリーニは、1914年5月9日、南イタリアのヴェローナ近郊、バルレッタという都市に、北イタリア出身の裕福な両親の息子として誕生しました。
 ジュリーニは5歳のときに旅回りのヴァイオリン弾きに魅せられ、父親にねだってヴァイオリンの学習を始めます。地元の音楽学校に学んだ後、1930年にローマの聖チェチーリア音楽院に入学、ヴィオラと作曲を専攻。在学中から同音楽院管弦楽団のヴィオラ奏者も務め、ブルーノ・ワルターオットー・クレンペラーヴィルヘルム・フルトヴェングラーといった名指揮者たちのもとでの演奏を経験。卒業後、聖チェチーリア国立アカデミーで指揮法をベルナルディーノ・モリナーリに師事し、指揮者への道を志すこととなります。

【1940年代】
 第二次世界大戦中の1942年、ローマで知り合った実業家の娘、マルチェッラ・デ・ジローラミと結婚。その後、イタリア陸軍に従軍し、パルチザン掃討のためクロアチアに赴きますが、そこでの経験が彼を平和主義者に変え、強固な反ファシストの考えのもと、ローマに戻ったのちに軍隊から離脱、ポスターなどで手配されるものの、妻の叔父の家にある秘密の部屋に9ヶ月間潜伏して終戦を迎えます。
 その後、ローマが開放された1944年6月、記念演奏会で聖チェチーリア音楽院管弦楽団を指揮してデビュー。ブラームスの交響曲第4番ほかを指揮した公演は大成功を収め、プレヴィターリの後任として、ローマ・イタリア放送交響楽団の指揮者に起用されます。
 1946年、ローマ・イタリア放送交響楽団の音楽監督に就任。
 1949年、7月にマリピエロ、ミヨー、ペトラッシの作品をローマ・イタリア放送交響楽団と演奏。

【1950年代】
 1950年、ミラノ・イタリア放送交響楽団に移ります。この頃からヨーロッパ各地の音楽祭を中心とした客演活動を盛んにおこなうようになります。
 1951年、ミケランジェリとモーツァルトのピアノ協奏曲で共演、さらにミラノ・イタリア放送交響楽団との演奏会形式オペラ上演では『アッティラ』『二人のフォスカリ』『ブルスキーノ氏』を取り上げています。また、ジュリーニの指揮したハイドンの『月の世界』を聴いたトスカニーニが演奏を絶賛、これを機にトスカニーニから指揮について教えを受けてもいます。
 1952年、スカラ座にデビュー、この年にはジュリーニ初のレコーディング・セッションとなるケルビーニのレクイエムをEMIに録音。
 1953年、フランクフルトで、ヘッセン放送管弦楽団(現フランクフルト放送交響楽団)に客演してグリュミオーのヴァイオリン独奏でメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を指揮。同年12月7日には、スカラ座のシーズン初日でカタラーニの『ワリー』をテバルディの主役で上演し成功を収めます。
 1954年、ヴィクトル・デ・サーバタの後任として、スカラ座首席指揮者に就任し、ロッシーニ『セビーリャの理髪師』『シンデレラ』、ヴェーバー『オイリアンテ』グルック『アルチェステ』などを指揮。
 1955年、セッションでロッシーニ『アルジェのイタリア女』、ペルゴレージの『奥様女中』をEMIに録音。さらにフィルハーモニア管弦楽団を指揮してヴィヴァルディの『四季』をEMIに録音。オペラ上演では、5月28日のマリア・カラスとの『椿姫』が話題になったほか、グラインドボーンに客演した際の『ファルスタッフ』も大評判となります。
 1956年、スカラ座首席指揮者を辞任。フィルハーモニア管弦楽団とのレコーディング・セッションに熱心に取り組み、ビゼーの『子供の遊び』、チャイコフスキーの交響曲第2番『小ロシア』、ストラヴィンスキーの『火の鳥』、ムソルグスキー『禿山の一夜』、ラヴェル『マ・メール・ロワ』、ボッケリーニ:シンフォニア、ハイドン:交響曲第94番『驚愕』などをEMIに録音。オペラ上演では、1月29日、スカラ座でのマリア・カラスとの『椿姫』や、同じくスカラ座で2月16日におこなわれた『セビーリャの理髪師』などがありました。
 1957年、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、名演の誉れ高いフランクの交響曲ニ短調を録音。同じ7月にファリャの『三角帽子』も収録され、9月にはシュタルケルとのシューマンのチェロ協奏曲とサンーサーンスの第1番を録音します。
 1958年、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、シューマンの交響曲第3番『ライン』[マーラー版]&『マンフレッド』、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』第2組曲ほかをセッション・レコーディング。オペラ上演では、ロイヤル・オペラ100周年記念上演をヴィスコンティの演出による『ドン・カルロ』で指揮して評判となります。
 1959年、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、『フィガロの結婚』全曲、『ドン・ジョヴァンニ』全曲、チャイコフスキー:交響曲第6番『悲愴』ロッシーニ:序曲集をセッション録音。

【1960年代】
 1960年、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、ブラームスのピアノ協奏曲第1番をセッション録音。ピアノ独奏はクラウディオ・アラウ。また、トリノでは、モーツァルトの40&41番を指揮しています。オペラでは、コヴェントガーデンにて『セビーリャの理髪師』を上演。

 1961年、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』、ブラームス:ハイドン変奏曲をセッション録音。コンサートでは、同じくフィルハーモニア管と、『悲愴』『展覧会の絵』チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(ルービンシュタイン)ショパンのピアノ協奏曲第2番(ルービンシュタイン)などを演奏。オペラでは、コヴェントガーデンにてヴェルディの『ファルスタッフ』を上演。
 1962年、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、名高いドビュッシー:海、夜想曲、ブラームスの交響曲第1番、第2番、第3番、ピアノ協奏曲第2番(ピアノ独奏はクラウディオ・アラウ)、悲劇的序曲、ドヴォルザーク:交響曲第8番などをセッション録音。コンサートでは、ブラームスの交響曲第2番とヴェルディ聖歌四篇ほかをとりあげたボストン響への客演がありました。
 1963年、コンセルトヘボウに客演して、ヴェルディの『ファルスタッフ』を演奏会形式上演。フィルハーモニア管弦楽団とのコンサートでは、ヴェルディのレクイエムや、ドヴォルザークの交響曲第8番を演奏。
 1964年、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、ヴェルディのレクイエムをセッション録音し、さらにロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのコンサートでも演奏。また、TV放送コンサートで、モーツァルトの40番と、ムソルグスキーの展覧会の絵、ファリャの三角帽子を演奏。オペラでは、コヴェントガーデンにて、ヴィスコンティ演出によりヴェルディの『トロヴァトーレ』を上演。
 1965年、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団を指揮してモーツァルトの交響曲第40&41番を、デッカにセッション録音。オペラではローマで『セビーリャの理髪師』を上演。また、ミラノでは、ハイドンの交響曲第104番とモーツァルトの交響曲第40&41番を指揮しています。
 1966年、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団を指揮してラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』と『スペイン狂詩曲』を、EMIにセッション録音。コンサートでは、同じくニュー・フィルハーモニア管とベートーヴェン『ミサ・ソレムニス』、モーツァルトのレクイエムを演奏。オペラでは、ローマとフィレンツェで『リゴレット』を上演しています。
 1967年、シカゴ交響楽団を指揮してシューマンのピアノ協奏曲(ルービンシュタイン)をRCAにセッション録音。コンサートでは、同じくシカゴ交響楽団とドヴォルザーク交響曲第7番、ブラームス交響曲第2番、モーツァルト交響曲第39番、ケルビーニ:レクイエムなどを演奏したほか、ローマで、モーツァルトのグラン・パルティータ、シューベルトの交響曲第4番、ロッシーニのスターバト・マーテルをとりあげています。オペラでは、コヴェントガーデンにてヴェルディの『椿姫』を上演。
 1968年、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団を指揮してブラームスの4番、ベートーヴェンの田園、エグモントを、EMIにセッション録音。コンサートでは、セント・ポール大聖堂でのベートーヴェン:ミサ・ソレムニスのほか、エジンバラで、シューベルトのミサ曲第6番交響曲第4番を演奏。この年、シカゴ交響楽団首席客演指揮者に任命されます。
 1969年、シカゴ交響楽団を指揮してブラームスの交響曲第4番、ストラヴィンスキーのペトルーシュカ、火の鳥、ベルリオーズ『ロメオとジュリエット』抜粋をEMIにセッション録音。コンサートでは、ボストン交響楽団に客演して、シューベルトの交響曲第4番、ブラームスの交響曲第4番、ムソルグスキーの展覧会の絵、ハイドンの交響曲第94番などを演奏したほか、ロイヤル・アルバート・ホールで、ブリテン:戦争レクイエムを、ローマでベートーヴェンのミサ・ソレムニスをとりあげています。

【1970年代】
 1970年、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してベートーヴェンのハ長調ミサを、ロイヤル・オペラを率いてヴェルディの『ドン・カルロ』をEMIにセッション録音。オペラでは、ローマでモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』を演奏会形式で上演。
 1971年、シカゴ交響楽団を指揮してベートーヴェンの交響曲第7番、マーラーの交響曲第1番をEMIにセッション録音。
 1972年、ロンドン交響楽団を指揮してベートーヴェンの交響曲第8番、第9番をEMIにセッション録音。コンサートでは、セント・ポール大聖堂でのバッハ:ロ短調ミサが話題に。
 1973年、ロンドン交響楽団を指揮してブラームスのピアノ協奏曲第1番(ワイセンベルク)をEMIにセッション録音。コンサートでは、チェコ・フィルにベートーヴェンの第九で客演。この年、ウィーン交響楽団の首席客演指揮者に任命されます。
 1974年、ウィーン交響楽団を指揮してブルックナーの交響曲第2番をEMIにセッション録音。ほかにウィーン交響楽団とのセッションとしては、放送用のスタジオ録音で、J.シュトラウスの『皇帝円舞曲』がありました。コンサートでは、ボストン交響楽団に客演して、ブルックナーの交響曲第2番、ヒンデミット:画家マティス、ヴィヴァルディ:四季、ヴェーベルン:パッサカリア、ロッシーニ:スターバト・マーテルを演奏、ニューヨーク・フィルではブルックナーの交響曲第9番、チャイコフスキーの交響曲第2番、モーツァルトの交響曲第38番、ブラームスのピアノ協奏曲第1番(フィルクシュニー)を指揮しています。
 1976年、シカゴ交響楽団を指揮して『展覧会の絵』をドイツ・グラモフォンに録音、以降、シカゴ響とのコンビで、マーラーの交響曲第9番シューベルトの交響曲第9番ドヴォルザークの第9番『新世界より』を相次いでレコーディング、EMIからのブルックナーの交響曲第9番と併せて大きな話題となりました。
 1978年、ロスアンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任、直後に録音したベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』は、そのユニークなアプローチで注目を集めました。ロス・フィルとはその後もベートーヴェン『運命』、シューマン『ライン』チャイコフスキー『悲愴』ブラームス:交響曲第1番等を次々とレコーディングしています。
 1979年には9年ぶりのオペラ録音となるヴェルディの『リゴレット』を、ウィーン・フィル、カプッチッリ、ドミンゴなど豪華なメンバーでレコーディング、絶賛を浴びています。

【1980年代】
 1982年、ロス・フィルとのヴェルディ:『ファルスタッフ』で、実際の舞台上演としては十数年ぶりにオペラを指揮、ロスアンジェルスとロンドンで公演をおこなっています。この時期にはロンドン夏の名物「プロムス」にも登場、ブルックナーの交響曲第7番、同じくブルックナーの交響曲第8番で2年連続で指揮台に立っています。
 1984年、夫人の病気のためロスアンジェルス・フィルの音楽監督を辞任、以降はヨーロッパに活動を限定して、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団バイエルン放送交響楽団など選り抜きの名門オーケストラに客演、それらの公演の多くはライヴ収録(または公演前後のセッション)されてドイツ・グラモフォンから、1989年以降はソニーからリリースされています。また、スカラ座フィルを指揮したベートーヴェン交響曲ツィクルスも話題を呼びました。

【1990年代】
 80年代後半に引き続き、限られた名門オケへの客演活動を継続しますが、夫人の病状の悪化にともなって、その回数を徐々に減らしてゆきます。
 1990年、ウィーン市の名誉ゴールド・メダルと、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の名誉リングを授与されます。
 1991年12月5日、モーツァルト200回忌のための「レクイエム」を、法王ヨハネ・パウロ2世臨席のもとヴァチカンにおいて指揮。
 1994年には、ロシアのサンクトペテルブルグ・フィルハーモニー管弦楽団へ客演、ブラームスの交響曲第2番と第4番を指揮して大成功を収めています。
 1995年、マルチェラ夫人が死去。指揮活動が激減します。
 1998年10月、すべての公的活動からの引退を表明。以後、若い音楽家たちの指導に当たることがあったとされていますが、指揮台に立つことはついにありませんでした。
 2005年6月14日、イタリア北部のブレシアにて逝去。享年91歳でした。

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