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2006年8月3日 (木)
連載 許光俊の言いたい放題 第31回「『展覧会の絵』編曲の傑作」
ムソルグスキーの『展覧会の絵』には、大げさでなく数え切れないほどの編曲版がある。しかも、まだまだ新しいものが登場してくる。
むろん、その中の大半は、思いつき以上のものではないと言っても過言ではないだろう。部分的なおもしろさはあっても、オリジナルのピアノ版、ラヴェル編曲版を上回るのは並大抵のことではないのだ。
さて、このたび現れたのは、チェロとコントラバス合奏のための編曲。これはいかに?
正直言って、それほど乗り気になって聴き始めたわけではない。というのも、低弦楽器の合奏団といえば巷でもっとも有名なのはベルリン・フィル楽員たちのチェロ・アンサンブルだが、連中の演奏はひたすら大味で、私などにとっては苦痛でしかないのだ。デリカシーのかけらもない、豊かな音の垂れ流しは、悪趣味ですらあるとまで考えてしまう。そして、おそらく、チェロとコントラバスで「展覧会」をやってもあの延長線上で終わるのではないかと漠然と思っていたのだ。
しかし、想像をはるかに超えて、よかった。非常によかった。
聴き始めてすぐ、冒頭からして、例の主題がどうしようもなくエキゾチックに聞こえるのに耳を奪われた。いいじゃないか、これ。人なつっこい歌が荒野に鳴り響くかのような趣だ。
ところが一転、「グノームス」では、20世紀音楽のような激しさで楽器がうなりをあげ、怪しく不気味な世界に突入する。そういえば、チェリビダッケは、第1曲と第2曲の激しい落差がこの曲の本質だと言っていたっけ。
さらに以後、各タブローやプロムナードごとに明快・雄弁な心理描写が繰り広げられるのである。「ビドロ」の厳しい歩み、それに続く「プロムナード」の悲痛な表情、「カタコンベ」以降のじわじわと迫る冷気。そして最後、いよいよ姿を現す「キエフの大門」の異様に感銘深いこと。平凡なオーケストラ演奏とは比べものにならない濃厚さである。
6つのチェロと4つのコントラバスは、硬軟さまざまな音色や響きを駆使して、存分に色彩感ある音楽を奏でている。表現のパレットの豊富さは、単に低弦楽器だけでも演奏できました、という程度の低いハードルをやすやすと飛び越えてしまっている。これは可能性の証明ではなく、立派な音楽を生み出すための演奏なのだ。なお、この版を作り上げたのはラハティ交響楽団の独奏チェロ奏者である。それゆえに、一丸となったきわめて集中度の高い演奏が実現されたことは間違いだろう。
この「展覧会の絵」のあとは、妙にサービス精神旺盛で、『トロイメライ』、ラフマニノフ『ヴォカリーズ』、リムスキー=コルサコフ『クマバチの飛行』などが続く。これらは程度の低い演奏ではないけれど、舌が焼けるようなウォッカのあとで、ぬるい麦茶を飲むようなものだ。『展覧会の絵』が異常に高密度な演奏だったことを示してしまっている。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授)
@ムソルグスキー:組曲『展覧会の絵』
Aシューマン:『トロイメライ』
Bラフマニノフ:『ヴォカリーズ』
Cフォーレ:『シシリエンヌ』
Dドビュッシー:『小さな黒人』
Eリムスキー=コルサコフ:『熊蜂の飛行』
Fモンティ:『チャルダーシュ』
ラハティ交響楽団チェロ&コントラバス・セクション
録音
@2002年4月フィンランド、ラハティ、シベリウス・ホール
AーF2003年11月フィンランド、ラハティ、カレヴィ・アホ・ホール
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