HMVインタビュー: Satoshi Tomiie

2015年5月19日 (火)



Q: 最新作『ニュー・デイ』についてお伺いします。15年ぶりの2ndソロ作品ということでファンとして待望の作品です。さっそく聴かせていただきました。キャリア最高傑作だと考えています。ずばり新作の構想はいつ頃から考えられていたのでしょうか?

A: 毎年シングルやEPをリリースしたりリミックスをやったりはしていたのですが、DJツアーがもの凄く忙しかったりニューヨークのスタジオが出来るまでに時間がかなりかかったりといった、スタジオにいるまとまった時間がとれない制作的には微妙な時期が何年も続きました。それでも音楽的にインスパイアされなかったということはなくて、ツアーなどの合間に曲をスケッチの形でたくさん書きためていました。ようやく機が熟したという感じですね。

DJ/プロデューサーによっては人を雇って音楽を作らせて、自分がDJツアー中でも制作が進むというやり方を取る人もいますが、実際に自分で機材を触って制作するやり方が好きなので3ヶ月ぶっ続けで旅が続くとかだと一曲にかかる時間も結構なものになったりします。
アルバムの6曲目の「Thursday, 2am」とかもだいぶ前にスケッチを作っていたものですが、曲にしたのは最近でした。


Q: 新作アルバムのジャケットのデザインに込められた意味やアイデアについてお聞かせください。

A: このアルバムは全体で一つの抽象的なストーリーと考えています。アブストラクトな12の「オブジェクト」が「章」となってストーリーを形作っているのというコンセプトですが、ストーリーそのものは聴く人の聞き方/解釈で自由に捉えてもらえたらいいなと思っています。

アートワークは”Abstract Nature” “Abstract Architecture”をコンセプトにアルゼンチン出身のアーティストPilar Zetaにイメージしてもらいました。前作はアートワークに建築のコラージュを使いましたがいまでも建築物のイメージをアブストラクトに素材にしている写真やアートは大好きなんです。建築という、目的があって作られたもののイメージがアーティストの解釈を通して別の意味を持つようになるとかワクワクしますね。見る人によって解釈は様々。音楽でそういう表現をしたいなといつも考えています。


Q: ご出身は東京と伺っていますが、どのあたりで幼少期をすごされたのでしょうか?

A: 保谷市(いまは西東京市)でした。東京と言っても周りには家と畑しかなかったような典型的な郊外の新興住宅地で、本当にあらゆる刺激がなかった環境でした。いずれ外国住んだり仕事で世界中を仕事で飛び回ることになるなんて想像だにしてなかった、、と言うか、刺激がないことしか知らない子供にそんなこと想像出来るはずもありませんでしたが。

10歳の頃、父親の都合で家族で1年間オーストラリアのシドニーに住んで、初めて「外の世界」を見たんですがその時も慣れ親しんだ土地を一年も離れるなんてメンドクサイな、、と思ったりもしましたが今考えれば本当に父親に感謝です。そんな刺激がない中、中学生の時の友達のシンセ自慢から電子楽器への興味が始まってますから、刺激がないのが逆に幸いしたのかもしれません(笑)。


Q: 芸術に関して、家庭環境はどのような感じでしたでしょうか?(音楽、美術に関して祖父母、ご両親が熱心であった、など)

A: 母方の遠縁に有名な音楽家/ミュージシャンがいますが、母親がそういう血筋を子供に自慢してた割には地味な芸術環境でした(笑)。母親もその流れで昔バイオリンを習ったりしてたようで、実際にうちにバイオリンがあったりしましたが弾いてるのを聞いた覚えがなかったのでまあ、大したことないに決まってます。じいさんがクラシック好きで家にその当時としては立派な家具調のステレオがありましたが、趣味で聞いていた程度だと思います。今でも僕以外に音楽をやっている親戚がいないので、一族の中ではまさにBlack Sheepですね。


Q: 音楽の原体験についてお聞かせください。

A: 特にあまり音楽的な家庭ではありませんでした。 音楽にどっぷり浸って育ったわけでもないのですがおもしろいな!と思ったのは中学生の時で、友人が買ったシンセに興味を持ったんです。当時YMOやプラスチックスが流行っていたしメカとしてのシンセで音楽が作れるというのを純粋に面白いと思いまいした。80年くらいでヤマハのモノフォニック・シンセがそれなりに安く出始めた頃でした。その友人がシンセのロジック、エンベロープ、フィルターとかの構造を教えてくれた記憶はいまでも残っています。

でも多重録音が出来ない環境ではいい音色が作れてもシンセ一つだけでどうにもならないし、シーケンサーも含め手に入れるには本当にひと財産だったので子供の自分では到底買えないしこれはまあ無理だなと思っていました。一旦火がついてしまったのでとにかく楽器がやりたくてシンセの次に楽しそうだと思ったのはドラム。なんとか親を説得してみたもののもちろん却下されました。ドラムセットなんてあの住環境で(普通の家)自分が親なら間違いなく却下するでしょう(笑)。

しかし楽器をやりたい熱は覚めやらず、ギターもアンプがうるさいからダメだけど最終的にピアノならOKとなってめでたく熱中出来るものが手に入りました。やっぱり基礎をしっかりやらなきゃということで最初は近所のおねえさんにクラシックをすこし習ったんですがクラシックはあたりまえだけどすでに作曲されたものを演奏する音楽で、自分の解釈で弾けるようになるまで相当な時間がかかりちょっと堅苦しく感じて、中二くらいに自由な感じに惹かれてジャズを始めました。

ビル・エバンスとかのモダン・ジャズをラジオからテープに録って、自分でコードとかスケールとかを研究したんです。毎日、家で6時間くらい聴いたり弾いたりしていましたがその時の経験がいまでも生かされていると思います。なのでモノシンセと、ピアノでのジャズが音楽の原体験ですね。ちなみにMy First SynthはヤマハのCS01でした。


Q: 早稲田大学のご出身ですが大学時代はどのように過ごされていましたか?

A: 大学時代は友人と音楽ばかりやっていました。大学が高田馬場だったので帰りに中野とかの中古楽器屋に通ってTR909(今でも使ってます)とか808(友達に貸したまま行方不明に(泣))をゲットしたり、友達と一緒にやってたバンドにそういう機材とかターンテーブルを持ち込んだりして本当に楽しかったですね。

DJのまねごともその頃始めて、最初のころはヒップホップでしたが、ドラムマシンでビートを打ち込んで、その上にレコードのブレイクビーツを手動で録音して、その上にスクラッチをして、さらに居間にあった生ピアノにマイク立てて録音とかそうやってカセット4トラックで簡単なトラックを作ったり、そのころから音楽制作とDJが同時進行していた感じでした。

ハウスを知ってからは使われていた機材への興味もあって(もうすでに持ってたから)のめり込むのに時間はかかりませんでした。今でもお世話になってる木村コウ君に出会ったのもそのころで、このアルバム収録の「Thursday, 2 am」は水曜の西麻布「TOLOS」での彼のレジデンシーの時聞いた一連のシカゴ・ハウスから受けた強烈な影響を形にしたものです。とにかく十代の終わりは音楽漬けでしたね。新しい音楽を聴く場所の一つとして、クラブに行ってた感じです。


Q: 2014年3月31日に偉大なるハウスの父、フランキー・ナックルズが亡くなられました。あらためてフランキー・ナックルズとの出逢いについてお聞かせください。

A: 出会ったのは大学生の時、彼の初来日公演のお手伝いをした時でした。DJしたかったんですが、DJはさせてもらえなかった(笑)かわりにジャパン・ツアーのテーマ曲(資生堂スポンサーのパーティでした)を作らせてもらってそれが彼に音楽を聴いてもらえた初めての機会でした。

当時は英語は全然駄目でコミュニケーションで苦労しましたが、なんか音楽を気に入ってもらえたようだって言うことはわかったので調子に乗ってNYまでデモテープを渡しに行ったのが初NYでした。

彼は音楽のセンスだけでなくDJとしての説得力/カリスマ性がスゴい人で、こういう天性のものはどんなに頑張ってもどうしようもないけど音楽のセンスのエッセンスとかは学べるかもという感じで、彼のDJセットを聞きに行くことはまさに「学校」でしたね。探してもそう簡単に見つからなかった「先生」だと思います。まさに「オーガニックな繋がり」。DJ中に「この曲なに?」と聞きに行くと「2枚あるからあげるよ!」とレコードをその場でくれたりして、大切に持ち帰ったのを今でも覚えています。


Q: トミイエさんはNY以外にヨーロッパ、そして南米でもたいへん人気があり頻繁にツアーで訪れておられます。以前、ブエノスアイレスやベルリンのシーンについてインタビューでお話されているのを読ませていただきましたが、ここ最近でHOTな国はどちらになりますでしょうか?またその国のCLUBシーンについて教えてください。

A: ずっと前からですがプレイして面白いのはアルゼンチンですね。客のエネルギーがすごいんです。ノリがイタリアのクラウドに似ていると思いますが南米だからなのかイタリアよりもさらにアツい感じです。

純粋に街として面白かったところはたくさんありますが、意外性と言う意味で最近ではブタペストが面白かったですね。もしかしたらこれからどんどんシーンが面白くなって行く街なのかも知れません。


Q: これまでのREMIXワークについてお伺いします。思い出深いエピソードがありましたらお聞かせください。

A: 誰のどの曲ということではないのですが、2インチ・マルチトラック(ドラムとかベースとかが48トラック別々に録音されたもの)がレコード会社から送られてきて、各々のトラックを最初に聞くときにオリジナルのレコーディングセッションの情景が頭に浮かんだりして興奮したのを覚えてます。普段はステレオにミックスされた完成品を聞いているものがバラバラの、例えば歌だけアカペラ状態とかのパーツで聞けて、これをどういう風に変えていこうかとか考えるプロセスはとても楽しかったですね。ただ考えすぎてよく壁にぶつかって悩んでました(笑)。


Q: トミイエさんは若き日にNYへ移住され、道なき道を切り拓かれたまさに先駆者であると考えています。これから海外に出たいと考えている若きアーティストたちに贈るメッセ―ジ・アドバイスをいただけないでしょうか?

A: 大学生のころにニューヨークへ行き始めましたが、完全に「道なき道」でもなくて、本当にオーガナックに自然に繋がっていったものです。すごく大変だったこともあったかもしれないけど、自分のやっていることが本当に好きだったのでそこまで苦には感じませんでした。というか大変だったことは多分ほとんど忘れました(笑)。

海外に出るにしても日本に留まるにしても説得力のあるスタイルがある人はそれが大きなアドバンテージになると思いますが、自分のスタイルが最初からガッチリとしている人はあんまりいなくてだんだんと色々な経験を経て固まって行くものだと思います。人と違うことをするのも大事だけど、この人はすごいな!と思うところを自分に取り入れることも大事だと思います。人のスタイルの真似をしようとしても結局は真似しきれないということが個性に発展することも多いんじゃないかと思うし、それが「影響を受けた」ということでもあるはず。

日本から音楽で海外に出るとしたら今はベルリンが多いかもしれないけど、どこにいるとしても、結局は自分のスタイルを確立することが一番。さらに言えば一人だけでやるより周りの影響を受けやすい環境に自分を置くこともメリットだと思います。そういう環境にあることはそれ自体が刺激になるし、人のテクニックも参考になったりします。一人で篭ってやっていると方向を見失ってしまうこともあるから、ベルリンのようなアーティストが多く、間違いなく制作向きな環境にある土地に移住するのはプラスだと思います。



サトシ トミイエ 『New Day』  [2015.05.20 Release]

故フランキー・ナックルズとの伝説的コラボレーションでデビューして以降、世界のハウス・ミュージック・シーンを牽引してきた日本が誇るDJ /プロデューサー、サトシ・トミイエ。2000年に発売された『Full Lick』以来となる超待望の2nd アルバム『ニュー・デイ』が遂に完成!全曲新曲で構成される12曲収録の最新作!!




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