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Jazz The New Chapter × Quiet Corner 特別座談会

2014年12月26日 (金)

Quiet Corner×Jazz The New Chapter記念対談

 今年の2月に発売されたガイド本「Jazz The New Chapter」は、新世代のジャズを象徴する一冊として、それまで更新という壁をなかなか打ち破ることができなかった既存のジャズ・シーンに一石を投じた。その影響は見る見るうちに広がった。ロバート・グラスパーという精神的支柱のもとで、R&B、ヒップホップ、インディー・ロック、ワールド・ミュージックなど、隣接するジャンルに手を伸ばして、ありとあらゆるリスナーたちを大きな懐で招き入れる結果となった。その後、ガイド本は大いなる反響を得ることになり、9月には早くも第二弾を刊行。こちらでは、ミュージシャンたちの貴重なインタビューを中心に構成され、LAやNYのビートミュージックやECM、さらにシカゴ音響シーンにまで視野を広げて、これからのジャズの可能性を見事に提示してくれた。
そして、11月にひっそりと一冊のディスクガイドが発売された。「クワイエット・コーナー」、これはHMVが発行するフリーペーパーが書籍化されたもので、“クワイエット”と“センシティヴ”を通奏低音に、ジャンルレスで350枚の作品が掲載されたもの。ジャンルを横断する試みは両方に言えることだが、それ以上に、2010年代の空気感がここに流れているようにも思える。どちらもシンコーミュージックから発売され、監修者も同世代、そしてページをめくるといくつもの共通事項が見えてくるのが興味深い。
今回、「Jazz The New Chapter」の監修者である柳樂光隆氏と、「Quiet Corner」の監修者である山本勇樹、そしてこの二つの編集を務めた小熊俊哉氏で、刊行記念の座談会を行った。

山本勇樹 (ローソンHMVジャズ担当)




小熊俊哉(シンコーミュージック)(以下、小熊):このQuiet Corner(以下、QC)のディスクガイド、柳樂さんは見るのは初めてですよね。

柳樂光隆(Jazz The New Chapter)(以下、柳樂):(パラパラとめくりながら)、これすごいなぁ、装丁もいい感じですね。

山本勇樹(Quiet Corner)(以下、山本):まず、紙の種類から決めましたからね(笑)。

小熊:そこにかなりの時間を費やしましたもんね。山本さんがお気に入りの紙質の本をいくつも持ってきて、入念深くミーティングしました。

柳樂:たまたま近くにいたんで僕もその場に顔を出したんですけど、山本さんがじっと黙って紙のサンプルを一枚一枚触ってた姿がすごかった(笑)。

山本:もう、この本は紙の種類で運命が決まると思いましたから(笑)。

小熊:この本は全部、山本さんの美学に基づいて作られたといっても過言ではないです。

柳樂:(ディスクの)掲載は何枚くらいですか?

小熊:350枚くらいですね。

柳樂:今ざっと見ていても、けっこう自分でも持っている作品があるなぁ。知らないのもあるけど。

山本:たぶん柳樂さんが好きなものもけっこう載っていると思いますよ。いくつかJazz The New Chapter (以下、JTNC)ともかぶっていますからね。

柳樂:今日、山本さんと対談するから、事前に色々メモってきたんですよ。スティーナ・ノーデンスタムとか。そしたら開いたページにいきなり『Memories Of A Color』が載っているという(笑)。

山本:柳樂さんは僕と同じ世代だから、これを選ぶ感覚をわかってくれると思うんですけど、まさに青春の一枚ですよ。90年代の前半だから、ちょうど高校生ぐらいの時かな。このアルバムと『And She Closed Her Eyes』は名作ですね。

柳樂:スティーナが登場してから、ちょっとこの手の音楽の空気が変わりましたよね。あとJTNC的には、やっぱりラドカ・トネフとグレッチェン・パーラトが大きく取り上げられているところが共通点ですかね。


スウェーデンの女性シンガーソングライター、スティーナ・ノーデンスタムのデビュー作。当時わずか15歳でありながら、すでに確立された内なる世界観はすでに完成されており、多くのリスナーに衝撃を与えた。爪弾かれるギターのアルペジオと、ガラス細工のように細やかなヴォーカルが唯一無二の存在感を放っている。


ノルウェイの歌姫ラドカ・トネフが、スウェーデンのピアニストのスティーヴ・ドブロゴスと残した名作。そのカリスマティックな存在感から北欧が生んだ屈指の一枚として現在もなお多大な影響を与えている。ジム・ウェッブ、エルトンジョン、ブロッサム・ディアリーといったカヴァーも抜群で、2010年代のジャズを語るにはふさわしい作品でもある。



小熊:山本さんはJTNCの紙面でも、この2人について書かれてますよね。ここでJTNCとQCがリンクするのも興味深い。そういえば柳樂さんは、打ち合わせの早い段階からラドカ・トネフをECMと絡めて掲載しようと考えていましたよね。

柳樂:そう、JTNC2でECM特集を組む時点でもう決めていましたね。実は、ラドカがスティーヴ・ドブロゴスと録音した『Fairy Tales』って北欧のジャズの歴史的な名盤を挙げたら、かならずトップ3に入るんですよ。一位はヤン・ガルバレクの『Witchi-Tai-To』で、それに続く名作として知られている。でも、ECMとの関係や、それこそこういった北欧ジャズの文脈って、なかなか日本語のテキストで読めないから、JTNC2で紹介したかったんです。

山本:やっぱり僕らの世代にとってラドカの評価って特別じゃないですか。特にこの『Fairy Tales』はただのジャズ・ヴォーカルとは明らかに異なる趣があります。ジム・ウェッブのカヴァーにはじまり、エルトン・ジョンとかブロッサム・ディアリーも入っているし。

柳樂:あと背景にあるECMという存在が大きいですよね。その辺りは、JTNC2でも山本さんがじっくり書いているのでぜひ読んでほしいですね。

小熊:なるほど、ということはまずJTNCとQCを結ぶ重要なキーワードがECMだと。

山本:たしかにQC本の中でもECMの作品はたくさん載せています。でも僕は柳樂さんみたいに、紐づけたり体系的にディスクガイドを作っていないから、わりとECMという要素を織り込みたい気持ちが強かったですね。選んでいるのは膨大なECMのカタログの中でもかなりピンポイントだと思いますし。でも、ポスト・クラシカルやSSWと同列で語るという意味では、JTNCとも共鳴しているかもしれません。

小熊:でもQC本も、ページを眺めていると何らかの文脈が浮かんでくると思うんですよ。

柳樂:僕もそう思う。「Conversations with Myself」という章で、シモン・ダルメを軸に、エリオット・スミス、ホセ・ゴンザレス、ニック・ドレイク、それでテイラー・アイグスティ、続いてルーファス・ウェインライト、ジョー・ヘンリー、サム・アミドン、ヴィニシウス・カントゥアリアを並べてあるんですけど、こういう文脈というか感覚はJTNCと近いですね。僕と山本さんって意外と聴いているものも、見ているものも近いんですよね。アウトプットが違いすぎて表面的にはすごく違うように見えるけど。

山本:SSWに混ざってテイラー・アイグスティとかヴィニシウス・カントゥアリアを載せている感覚は、たしかに他のディスクガイドでは見られないかもしれません。「ジャンルレス」って言葉も、もはや共通言語であえて説明するのも野暮かもしれないんですけど、それでもやっぱりほとんどのディスクガイドが縦割りになっていますからね。


ビーチボーイズのデニス・ウィルソンとロバートワイアットをこよなく愛するフランス出身のシンガー・ソングライター。まるで映画を観ているような映像美あふれるサウンド・メイキング。フォーク/ジャズ/ロック/クラシカルなど、多彩なエッセンスを織りまぜながら作りだされる音像はオリジナリティーに満ちあふれている。


カエターノ・ヴェローゾの後継者にしてブラジルが誇る音楽家ヴィニシウス・カントゥアリア。本作は「アパート暮らしのインヂオ」と題されたとてもプライヴェートな空気感が漂う一枚。坂本龍一、ノラ・ジョーンズ、ジェシー・ハリス、ビル・フリゼールといった、兼ねてより親交が深い音楽家たちも名を連ねている。



小熊:それってわかりやすさを追求しているからですよね。別に悪いことではなくて、でもJTNCとかQCみたいな本が、この「ジャンルレス」が当たり前な時代に、なかなか生まれなかったのも事実で。

山本:15〜20年くらい前は、まだ当たり前のようにそういうディスクガイドがたくさんありましたよね。もちろん引導する人がいて、未知な音楽を掘ったり、DJカルチャーが盛んだったり、CDとかレコードがたくさん売れる時代だったから、という理由もあるんですけど。

小熊:音楽の市況の縮小とともに、そういう自由な企画が少なくなったのかもしれませんね。

柳樂:たしかに「ドミンゴ」以降、そういうディスクガイドはそんなに出てないですよね。

小熊:その後はブログやSNSで、個人が自由にお気に入りを紹介できるようになりましたからね。

柳樂:そういえば、ブルータスの雑誌が紙面でジャンルレスな特集を組んでいたりしてましたね。近年だと、メロウ・アウト特集は印象的でしたね。

山本:でも書籍のディスクガイドで個人の感覚を出し過ぎると、ただのエゴっていうか、一人で盛り上がっているだけになってしまう恐れもありますよね。

柳樂:そうなんですよ。それに今みたいにあらゆるジャンルに素晴らしいものがあって、一人では追いきれなくなっているところもあって。それを一人でまとめるって少し傲慢な気もするんですね。それよりは集合知的にみんなの共有している感覚をまとめたいっていうのは僕にも山本さんにもある気がしますね。

山本:たしかにそのバランス感覚が難しい。でも個人が選ぶ盤って、やっぱり音楽を熱心に好きな人は、見ると楽しいんですよね。柳楽さんだって、ジャズだけを聴いているわけでもないし、色んな音楽にアンテナを張っているからJTNCのような本が出来たわけで。

小熊:柳樂さんは元レコード屋の店員なだけに、古い作品にも精通してますもんね。レアグルーヴとか。最新のものと古い名盤の両方を追ってるのがJTNCでは大きい。山本さんもそうですよね。

山本:60年代や70年代を追うだけでは、あまり広がらないというか。一部のコアなリスナーはたしかに喜ぶかもしれないけど、ちょっと目指すところが違うなかと。だからQCもディスクガイドとしては、“掘り起こす”という目的や役割は全然持ちあわせていなくて、しかも意外にも2010年代の作品がけっこう紹介されているんですよ。

小熊:掲載された作品のほとんどは、CDで買うことができますし。

柳樂:今までに色々なディスクガイドが出たから、それなりにアーカイヴも溜まってきて、もうできることはないだろうというところで僕と山本さんにしかできないことがあったのかなと。CDが売れないとか言われてますが、実は新譜がこんなに面白いという紹介の方法になったんですよね。

小熊:10年くらい前のものでも、実は良いのがけっこうあるよ、という提案もされていますよね。どうしても60〜80年代あたりが何度も評価されがちで、最近の音楽にはスポットがあたりにくい状況は否めないわけで。00年代以降の作品って、当時は一瞬盛り上がっても、後から振り返ってもらえないものも多いじゃないですか。まさにJTNCはジャズにおける失われた部分を拾っているわけですけど。

柳樂:JTNCは最新のジャズを紹介するのが大きな目的でしたけど、もう一つは90年代以降の紹介されずに放ってある穴を埋めたかったというのもありましたからね。あの頃って面白いものは沢山あったけど、文脈自体が示されてないものも多いし、文脈から漏れてないものも多い。QCはそれを再確認させてくれる気がします。

山本:たとえばQCでいうと、シカゴ音響派にしてもブリストル・シーンにしても、当時の捉え方とは違う聴き方もできるのかと思ったりします。サム・プレコップとかも載せているんですけど、ただ懐かしいだけでは片付けられない、新鮮な聴き方があればいいなと。


元シュリンプ・ボート〜現シー・アンド・ケイクのサム・プレコップが1999年に発表したシカゴ音響の名作。ジャズやボサノヴァなど大胆に取り入れたラウンジーなサウンド・アレンジが当時幅広いリスナーに受け入れられた。アーチャー・プレヴィット、ジョン・マッケンタイアも参加、またジム・オルーク・プロデュースも話題になった。


英国のシンガー・ソングライター。ノラジョーンズ以降+クラブ・ミュージック以降を体現する佇まい。憂いを帯びたその歌声はジョニ・ミッチェルやファイストらを彷彿とさせジャジーかつフォーキーなサウンドも素晴らしい。地味ながらも可憐な輝きを放つ00年代を代表する作品でもある。


柳樂:たしかに聴こえ方は変わってきていますよね。僕だって、ホセ・ゴンザレス聴いてからマッシブアタックの聴こえ方が変わったし。ポストロックをもう一度聴き直す時期に来ているのは間違いないって認識が、JTNCとQC両方にあるのもすごくうれしいですね。

小熊:JTNCとQCはスタンダードを定義し直す役割も出来ていると思いますよ。渋谷系以降、意外にもそういう視点ってなかったかもしれない。

柳樂:あと、QCはJTNCだと漏れてしまうような作品を、セレクトしているのも面白い。ロージー・ブラウンの『Clocks And Clouds』とか、僕もすごい好きなんだけど、ちょっとJTNCの主旨と違うから載せられないんですよ。あとは、サラ・ジェーンモリスもそう。JTNCだとマーク・リボーとかもばっさり外していますけど、QCだと拾えちゃうんですよね。

山本:いわゆる2000年代の米国のインディー・シーンとか、アメリカーナって呼ばれる音楽に寄っている部分が、QCに見て取れるからですかね。ボニー・プリンス・ビリーとか、そういう渋めの音楽(笑)。

柳樂:JTNC2で登場している田中徳嵩さんはカイロ・ギャングと共演しているし、やっぱり繋がる部分がありますね。

小熊:ボニプリのページにはジョー・ヘンリーとかジョノ・マクリーリーが一緒に載っているんですけど、こういう文脈を今に紹介するディスクガイドってありそうでないですよね。

山本:ただボニプリとかすごいハイペースで作品を出すんでよね。ちょっと追い切れないくらい(笑)。僕もドラッグシティとか心酔するほどマニアでもないし、そういうアメリカーナのシーンが全部好きではなくて。でもQCが、ジャズやブラジル〜アルゼンチン音楽を紹介するだけのものではないという思いは、どこかに表現したくて。


アメリカン・ルーツ・ミュージックを体現するプロデューサー〜SSWであり、00年代以降のジャズとアメリカーナを結ぶキーワードとしても欠かせない存在でもあるジョーヘンリーの14年作。前作同様にアコースティック・ギターを主軸にシンプルな編成でレコーディング。とはいえ、その背景にただようブルース、フォーク、ソウルなど、豊かな情景はやはり彼ならでは。


現代アメリカを代表するシンガー・ソングライターの一人、ボニー“プリンス”ビリー。ビョーク、ボビー・ギレスピー、ベック、マリアンヌ・フェイスフル、故ジョニー・キャッシュ、キャット・パワー、PJ ハーヴェイ……、その音楽を称えるアーティストは枚挙に暇がないほど。エメット・ケリー=カイロ・ギャングの全面バックアップでなんとも味わい深い歌声を聴かせる。



柳樂:よくわかりますよ。それがいいバランスで出てると思います。それにしてもこの本、ぱらぱらめくっているだけで、今日話そうと思ってメモってきたものがたくさんある。ケティル・ビヨンルスタとかミシェル・フルームとか、どんどん出てくる。ちょっと怖いな(笑)。

山本:柳樂さんって僕の趣味を分かっているんですよね。JTNCの原稿依頼だって、ベッカ・スティーヴンスとかグレッチェン・パーラトとかラドカとか、絶対全部好きなものだし。

柳樂:そうですね、JTNCでは山本さんが聴かなくても書けるくらい好きなものをふってますから(笑)。

山本:でもJTNCに比べると、QCは古典的な印象も拭えないですね。何だかんだいってもやっぱり、ビル・エヴァンスとチェット・ベイカーとニック・ドレイクという存在が精神的な支柱になっている。あとはヴァシュティ・バニヤンとか。

柳樂:でも僕もJTNC2のECMのところでは字数の関係で書かなかったけど、ECMも遡ればビル・エヴァンスとマイルスの『Kind Of Blue』に行きつくじゃないですか。だからそれはお互い削った部分の違いで、実は考えていることとか、音楽に関する認識は変わらないと思いますよ。

山本:僕もジョアン・ジルベルトを本編に入れるか入れないか三日三晩悩んで、結論としては入れなかったんですけど、でも結局最後の付録の方に入れてしまったという(笑)。

柳樂:今たまたま見つけたんですけど、ビル・シャーラップとリニー・ロスネスの『Double Portrait』とか、実は僕もすごい好きで、JTNCの掲載候補に挙がっていたんですけど結局載せられなくて。この作品こそQC以外では振り返ってもらえないと思うんですよね。ピアノ・トリオ好きからは、見逃されてしまいそうな作品だし。

小熊:知っている作品と、知らない作品を見つけるのも楽しいですよね。

柳樂:ムースヒルとかも選んであるあたりが共感できる。以前、Bar bossaの林さんとも話したことがあるんですけど、ムースヒルって、伊藤ゴローさんのディスコグラフィの中でもかなり重要ですよねって。エレクトロニカとかポストロック寄りなのにゴローさんぽいという。

山本:そうそう、ゴローさんは早い時期から面白いことしていて、でもどこかのジャンルに入れて紹介するには難しい音楽なんですよね。その隣には『GLASHAUS』を載せました。


ビル・チャーラップとリニー・ロスネスというジャズ界のトップ・ピアニストによる4手ピアノ演奏。実のパートナーでもあり結婚以来ピアノの共演を重ねてきた2人が、音楽的コラボレーションの実りを発表した初共演録音。アントニオ・カルロス・ジョビンはじめカヴァー曲も素晴らしい仕上がりに。


サックス奏者トラヴィス・サリヴァンが2004年に結成した「ビヨークをビッグバンドでプレイする」、その名もビヨーケストラ。2008年にリリースし話題をさらった『Enjoy!』に続くバンド第2弾。独自のビッグ・バンド・アレンジにより再編成されたまさにワン・アンド・オンリーなビヨーク・ワールド。ヴォーカルでベッカ・スティーヴンスも参加。



小熊:QCもJTNCも、90年代の東京の音楽カルチャーを体験してきた、同じ世代の監修者が作っているというのがミソだと思うんですけど。

柳樂:東京の音楽っていうか、山本さんは今もCD屋だけど、僕も元レコ屋っていうのが大きいのかな。僕らの世代はレコ屋カルチャーにどっぷり浸かっていた人が多いですよね。渋谷のレコード屋のヴァイブスというか。でもあのカルチャーはやっぱりDJカルチャーなんですよね。それがひと段落した後の世代というか、クラブで躍らせるよりはカフェのBGMを選びたい人という感じがする。だから別に現場でなくても、家で選曲できるし、匿名性があってもいいみたいなマインドかな。

山本:それって言いかえればメロウ・アウト的な感覚であって、サバービアとかフリー・ソウルを聴いてきた世代には、みんな共通してもっている感覚なんですけど、2000年代以降になると、そうして今まで蓄積したモノやコトを、一人一人が咀嚼して自分なりに吐き出すようになった。

小熊:橋本徹さんもツイッターで「Jazz The New Chapterはフリー・ソウルで、Quiet Cornerはサバービア」って書いてましたね。

柳樂:山本さんのコンピレーションを聴いて思ったのはループしても気持ちよくて、BGM感がすごいあるなと。僕の選曲したJTNCの『White Radio』もそれを意識したんですけど。

山本:『White Radio』も冒頭に、絶対にみんなが好きな、トラヴィス・サリヴァンズ・ビョーケストラの「Hyperballad」とかアラン・ハンプトンを選んでいなくて、ミシャ・フィッツジェラルド・ミッシェルのニック・ドレイクの「Pink Moon」のような渋めなカヴァーを持って来たりして、けっこうゆるやかにスタートするんですけど、そういう感覚はよくわかります。

柳樂:僕もそうなんですけど、きっと山本さんもプライヴェートでもコンピレーションを選曲しているから、そういう感覚がダイレクトに反映されるんじゃないですかね。

山本:たしかに。そう意味ではQC本もある意味プライヴェートな感覚が強いですよ。そうでなきゃこんな選盤できなかった。

小熊:先ほども言っていたとおり、JTNCもQCも一人で書いていないですよね。プライヴェートなつながりでいろんな人を巻き込んで作っている。

柳樂:たぶん編集感覚も含めて自分っていうか。そういう気持ちで本を作りたい気持ちがあるんですよね。論みたいなものは、ブログやSNSでもできるけど、編集するなら、本のような形にしたいっていうか。たぶん僕らの本はコンピを選曲する感覚にも近いのかもしれない。

山本:僕は単に自分の文章だけで、引き寄せる自信がないから書けない。それに同じ価値観を共有する人たちが書いていた方が、読んでいて楽しいですよね。本当に今回、執筆で参加して頂いた方々のレビューやコラムが素晴らし過ぎて・・・。だから僕はできれば選盤だけをしていたいくらい(笑)。

柳樂:あとは、何かそういう場みたいなものを作りたい感覚もあるのかな。あとは誰かに書かせたい気持ちもあるし、自分でも書けるけど、誰かが書けるなら、そっちを先行してしまうかも。本を作るときに、自分の好きなものをこの人に書いてもらいたいっていうアイデアが、自分が書きたい気持ちよりも先に立つケースも多いですよ。

山本:今回、QC本でもテイラー・アイグスティとニック・ドレイクを並べて紹介したんですけど、どちらも違う人に書いてもらって、だけどお互いに共鳴し合っている感じがいいなと。

小熊:あのページのニック・ドレイク考はQCならではというか、アレクシ・マードックとガレス・ディクソンが並んであったりして。


グレッチェンパーラトの傑作『The Lost And Found』でその見事なまでのピアノを聴かせた若き才人。今作はニック・ドレイク〜エリオット・スミス〜ファイスト〜フェデリコ・モンポウが連なるテイラー流「ホワイト・レディオ」。ベッカ・スティーヴンス、ジュリアン・レイジ参加のメロウなフォーキー・ジャズの名盤。


「Nicked Drake」としてニック・ドレイクの曲の研究を行い、ライヴで演奏し、ネット上で公開するひそやかな試みでしたが、本作はそのプロジェクトの待望の音源化であり、今回のために新たにレコーディングし直したもの。名作『Pink Moon』収録曲を中心に、彼なりに解釈して演奏された名曲群は、オリジナルよりもガレス・ディクソンらしい彼岸感に溢れる、幻想的で繊細な歌となっている。



柳樂:JTNCの中でもテイラー・アイグスティの『Daylight At Midnight』は、かなり重要な位置づけで紹介しているけど、あの作品の感覚ってまさにQCですよね。ニック・ドレイクとルーファス・ウェインライトしかり、そこにフェデリコ・モンポウが入っているのが重要で、こういうのがもしかして東京の感覚でもあるのかなと。モンポウつながりで中島ノブユキと並べて聴くことができる感覚。

山本:たしかにテイラーの『Daylight At Midnight』はQCの中でも大きい存在ですよ。フリーペーパーの2号目では、グレッチェンの『The Lost And Found』と、ギデオン・ヴァン・ゲルダーとラドカ・トネフも並べていたんです。

柳樂:完璧ですね。そういえば、山本さんのQCコンピを聴いて思ったんですけど、アメリカの音楽が3曲くらいしか入ってないですよね。ダイアナ・パントンもカナダだし。あとは北欧とかヨーロッパも多いですよね。

山本:寒い国で生まれた音楽に惹かれますね。たしかにカナダの音楽は好きですね。

柳樂:そうそう、ぱっと浮かんだのがやっぱりカナダなんですよ。ジョニ・ミッチェルとかトニー・コジネクとかブルース・コバーンとか絶対好きじゃないですか。アメリカともちょっと距離があるし、音の空気感も明らかにことなるじゃないですか。だからコンピを聴いてもう一つ浮かんだのが、KDラングの『Hymns of the 49th Parallel』なんですよ。

山本:なるほど。ひんやりした空気とか、透明感がある音が好きなんですよ。夏よりも冬の方が好きだし。そういえば本の中でも「A Hazy Shed Of Winter」という章もありました。とはいえ本では南米音楽は、紹介していますけどね。

小熊:でもソウル・ミュージックとかヒップホップはほとんど選んでいない。

山本:アフリカ音楽はけっこう載ってますよ。バラケ・シソコとかロキア・トラオレとか…。

柳樂:あー、ロキア・トラオレの『Tchamantche』は、2009年の年間ベストですよ。ちなみに2001年の年間ベストは、ここにも載っているホープ・サンドヴァルの『Bavarian Fruit Bread』。なんだか僕の年間ベストがたくさん載っているな。

小熊:2000年以降の「実は僕の好きな作品」がけっこうありますよね。

山本:実は年間ベスト号的な役割も果たしているかも(笑)。


アフリカ、マリのルーツに根ざしながらも、ひとつのスタイルに縛られることなく、独特の静で繊細なニュアンスに富んだサウンドと、低く艶やかな美声により、欧米ではワールドミュージックの垣根を越えて絶大な支持を集める女性シンガー・ソングライター、ロキア・トラオレ。今作は4枚目にしてキャリア最高傑作として評価が名高い。



元マジースターのホープ・サンドヴァルとマイブラのコルム・オコーサクによる奇跡の邂逅。しかもペンタングルのギタリストであるバート・ヤンシュも参加というこれ以上にない作品に仕上がり。アシッドフォークという言葉を知るにはかっこうの教材であるが、それ以上に00年代のクワイエットシーンの象徴的な側面もあり。


小熊:山本さんとは、この本が「単なる雰囲気もの」みたいに見られたくないって話ははじめからしていたんですけど、最初に掲載リストをもらったときは、「これはやばいのが来たな、この人本気だわ」と正直思いましたよ(笑)。

柳樂:だからQCはJTNCみたいに体系的でもないし、一つのものから枝分かれしていく感じでもないから、なんとなく好きなものを集めただけみたいに見えるけれど、きちんと読むと不思議と全部がぼんやりと繋がっているんですよ。それは読む人が自分なりに繋げばいいというか、自分なりに繋げられるような余白が用意してあるっていうか。だから10枚くらい聴けば、絶対に何かが繋がっていくようにできてる本なんですよね。

山本:たしかに雰囲気ものだけでは終わりたくない、という思いはありましたけど、でもマニアックにはしたくない。自分なりに色んな思いで作りましたけど、もう読者の手に渡ってしまえば、その人の感覚に委ねたいというか。別に決められたルールもありませんし。最初から順番に読む必要もまったくありません。ぱっとページを開くサプライズとかいいじゃないですか。

小熊:開いたらいきなりマリオン・ブラウン!とか。

柳樂:マリオン・ブラウンいいですね(笑)。そう、QCとJTNCがリンクするもう一つに、ブラック・ジャズっていう要素もあるんですよね。

山本:実はサン・ラーとかジョン・ヒックスとか、スピリチュアル系のジャズはQCでも重要な役割を担っている。もちろんその背景にはカルロス・ニーニョとかビルド・アン・アークの影響があるんですけど。

柳樂:マリオン・ブラウンなら『Vista』が、まさにQCのラインに乗りますよね。

山本:今回載せたのは『November Cotton Flower』なんですけど、レビュアーの中村さんも『Vista』について触れていましたよ。けっこう柳楽さんいい所をついてきますね(笑)。

柳樂:なんかここに載っている作品って、情景描写というか映像的な音楽が多いですよね。『KALMA』以降のファラオ・サンダースにもそういうものを感じるし。「November Cotton Flower」の曲なんてまさにアメリカの広い大地を思い浮かべる。

山本:橋本徹さんにも以前同じことを指摘されたことがありましたよ。「よく映像美って言葉を使っているよね」と (笑)。

柳樂:「思想」よりも「映像美」とかの感覚を大切にしているのが伝わってきますよ。ECMとかもまさにそうじゃないですか。だからファラオとECMって遠いようで実は近いところにあるんですよ。

山本:僕にとってそれを体現しているのが、ECMのチャールズ・ロイドなんですよ。サイケデリックを通過した穏やかな風景が見えますよ。

柳樂:それ、わかるなぁ。ロイドの『The Water Is Wide』とかそうですよね。さっきも言いましたけど一見繋がりがないようで、どこか繋がっている快感がありますよね。アルファを選ぶあたりにもそれは言えるかも。


モダン・ジャズ〜フリー・ジャズといった怒涛の時代を通り抜けた巨人チャールズ・ロイドはその後ECMに住み、多くの次世代のプレイヤーたちと作品を吹き込んでいるが、本作はその中でも傑作とされる一枚で、ジェイソン・モラン、ルーベン・ロジャース、エリック・ハーランドといったサポート陣も完璧。


ノーマの詞にハーシュが曲を付けて歌う二人の珠玉のコラボレイション・アルバム。透明感触れる歌声と、ハーシュが紡ぎ出すリリカルなピアノ・タッチの対話が特筆すべき。ECM〜アジマスの諸作品とは異なるリラックス感。まさに名作と呼ぶにふさわしい充実した内容。ゲイリーバートンもゲスト参加。


山本:アルファの『Impossible Thrill』は、この中ではちょっと異質かもしれませんが、僕の中では色んなものと地続きなんですよ。だから「In A Mellow Tone」という、グレッチェンが主人公の章で、エミリー・キングと並べて紹介したら面白いと思ったんです。あとアルファに関しても、ここで載せないと、もう二度と語られないかもと、そういう個人的な思いもあって。

柳樂:アルファのサウンドって、昔でいうとゲイリー・マクファーランドのスカイ・レーベルにも通じたり、もっと解釈させるとフレッド・ハーシュとノーマ・ウィンストンの『Songs And Lullabies』だったり。

山本:いや〜、名作が出てきましたね。『Songs And Lullabies』は別格ですよ。もう全てが完璧。

柳樂:だからパラパラめくるだけでも色々繋がってくる。なんか読んでいると音楽についてしゃべりたくなる本だな。

山本:JTNCも同様で、いろんなリスナーが共感する部分が多いから、その一冊で話題が無限に広がりますよね。そういう視野が広いジャズ誌は今までになかったし。

小熊:どちらも名盤ガイド的な価値観からは離れて、自分の文脈をきちんと作って好きな音楽を紹介しているのが共感を呼ぶんじゃないですかね。

山本:歴史を踏まえて、名盤を語ることはとても大切なことだと思うし、いつの時代も必要だと思いますけど、それはあえて自分の仕事ではないと感じました。もっときちんとできる人がたくさんいるので。

柳樂:しかしほんとすごいな、ニルヴァーナも載っているんですね。もちろんUKの方だけど(笑)。

山本:『To Markos V』はいいアルバムですよね。中でも「Love Suite」って曲が好きなんですよね。

柳樂:今聴いてもピンとくるソフトロックですよね。プライヴェートな感じのサウンドかな。同じページに載っている、シェルビー・フリントとかノラ・ガスリーも同じようなことが言える。

小熊:(QCでは)ソフトロックも再考されていますね。

柳樂:ところで一番最後の章は、紙の色が違いますね。

小熊:そうそう、ここは山本さんが一番こだわったところです。

柳樂:ジャケだけ載せてある「Extra Quiet Corner」って何ですか?

小熊:本編では掲載できなかった作品を載せているんですよ。

柳樂:その理由は、パッと見ても分かるなぁ。たしかにベニー・シングスの『I Love You』は本編ではないけど、ここまで読んだリスナーなら絶対好きですからね。

山本:どれも脈絡はないんですけどね、ただ好きな作品を載せてあるだけ。だから紙の質感や色を変えたのは、特別付録のような感じにしたかったからです。

小熊:クラフト紙のような紙を使いました。山本さんが参考用に持ってきたジャック・タチの本にも同じような紙が使われていて(笑)。

山本:女性が見たときに「かわいい」って言ってもらえるかなと(笑)。

柳樂:それわかる(笑)。こういう紙で作りたくなる。

小熊:QC本には「for a quiet girl」ってテーマの章もありますけど、女性にもぜひ読んでほしいですね。

山本:ディスクガイドって、基本、男の世界じゃないですか。でもエッセイを読むような感じで、気軽に眺めてもらえたら嬉しいですね。きっとJTNC女子だっているんじゃないかな。

柳樂:いや、どうだろう(笑)。でもQC本の表紙にヴァージニア・アストレイのジャケが飾ってあるのもわかるな。僕も女の子にプレゼントしたことあるもん(笑)。

山本:プレゼントしたくなるレコードって誰にもありますよね。

柳樂:あとQC本の中で「雨と休日」の寺田俊彦さんと山本さんが対談しているんですけど、そこでお互い影響を受けたディスクガイドについて話しているんです。もちろん「サバービア・スイート」は筆頭に話題に出るという。

柳樂:それ、興味深いな。

小熊:僕もその対談の現場に同席したんですけど、ほんとにすさまじい対談で。お互いの共感っぷりが半端なかった。途中からどっちが寺田さんで山本さんかわからなかったです(笑)。

柳樂:ジム・ホールとパット・メセニーのデュオみたいだね、それ(笑)。でもサバービアはもちろんマストだけど、ここにも挙げられている堀内さんの「ドミンゴ」も大きいですよね。ビジュアルやデザイン要素も含めて、「日曜日に合う音楽」っていうテーマも、当時の空気感をよく表していた。

山本:「ドミンゴ」もよく読みましたね。そう、僕らリラックス世代でもありますからね(笑)。でも「ドミンゴ」みたいに、実は、僕も当初「Sunny」「Cloudy」「Rainy」ってテーマでやりたくて。

小熊:QC本のテーマを考えるときに、山本さんも「大体のことはやり尽されている」と、嘆いていましたからね(笑)。

山本:そうなんですよ、すでに偉大な先人が色々素敵な企画を行っているわけです。「ひとり」とか。

柳樂:でも、やり尽されているようで、まだ意外と残っていると思うけどな。あと、山本さんが選曲したQCのコンピを聴いて思ったんですけど、サバービアとカフェ・アプレミディの影響を受けているけど、確実に次の世代の匂いがするというか、なんというか、選んでいるのは生音なんだけど“エレクトロニカ以降”の感覚がするんですよね。

小熊:へ〜、その聴き方は面白い。

柳樂:あの…リッキー・リー・ジョーンズの00年以降のアルバムでジャケに少女が・・・何でしたっけ、すごい僕の好きなアルバムなんですけど。

山本:もしかして『The Evening Of My Best Day』?

柳樂:そうそう、それ!

山本:QC本でも載せてますよ(笑)。

柳樂:そうなんだ(笑)。これは彼女のディスコグラフィの中でも断トツに好きな一枚ですね。この作品で彼女の音の響きが変わりましたよね。それまでバーバンクとかアメリカのルーツ・ミュージックのイメージだったのが、深くでメロウな感じになる瞬間かな。それで、山本さんのコンピにも同じような肌触りがあるというか、新しいと思ってわざと選曲しているわけではなくて、こういうのを当たり前に普通にやっている。

小熊:それってつまりセレクトする際に響きを大事にしているからですかね?

山本:音の響きとか質感って重要ですよね。それにメロディアスな音楽であることが大事。だからポスト・クラシカル系でも、ただポロポロ弾いているだけではなくて、ちゃんと旋律があるものに惹かれますね。しかも余白もある音楽。


リッキー・リー・ジョーンズが6年間の沈黙を破り発表した今作は、そのブランクをまったく感じさせないどころか新たなリッキーの魅力を垣間見えた傑作であった。ベン・ハーパーやビル・フリゼールといったゲスト陣のサポートもさることながら、緻密に練られたアレンジメントも素晴らしい。


現代ジャズ史にその名を刻むベーシスト、故チャーリー・ヘンデンと英国が誇るモダニズムを体言するピアニスト、ジョン・テイラーの静かな対話のような演奏を収録した高音質オーディオメーカー、ネイムオーディオのデュオ作品。もちろん録音も内容も聴き所であるが、何より全編にわたって流れる静寂に寄り添うような美学に引きこまれる。



柳樂:アンビエントやチルアウトとかとも違いますよね。だからビートのあるサウンドとか、余白があり過ぎたサウンドもだめですよね。そうなるとデュオぐらいがちょうどいいかもしれない。QCって何かの間にあって、さらにそのすき間をついてくる絶妙な感じがある。たとえばジャズを聴いていて漏れる部分を、いい感じで拾っているんですよね。ここでも推しているチャーリー・ヘイデンのデュオ作とか、まさにそう。

小熊:「Intimate Dialogue」という、デュオの作品にフォーカスした章もありますからね。

山本:まるでヘイデンはデュオしか残していないってくらいのレビューを書いていますよ(笑)。

柳樂:一般的なジャズの巨人ではなくて、チャーリー・ヘイデンを再評価するっていうのがいいですね。

山本:オーネット・コールマンについて何にも触れていないから、ちょっと熱心なジャズ・ファンには怒られるかもしれませんが。でもキース・ジャレットとの『Jasmin』とかも、『The Melody At Night With You』と同じくらい名作だと思うんですよね。

柳樂:でもヘイデンのクラシカルな部分を切りとるのは、すごい今の感覚だと思いますよ。スピリチュアルで教会音楽にも通じるような、ある種ジャズのブラック・ミュージックから離れた路線というのかな。つまりジャズの聴き方ではなくて、歌ものが好きな人の聴き方。

小熊:柳楽さんもJTNCではそのジャズの白人性について深く論じていますよね。

山本:ブラッド・メルドーのSSW化とか、ノラ・ジョーンズ以降のインディー・ロック・シーンとの接近とか、あれを読んでとにかく共感をおぼえました。今回、柳樂さんが選曲した『White Radio』なんて、その象徴ともいえる内容だと思います。

小熊:『White Radio』の選曲も本気感ありますよね(笑)。

柳樂:面白かったのが、QCのコンピと同じ曲が入っていたんですよね。ジム・ウェッブの「The Moon Is A Harsh Mistress」で、山本さんの方はラドカ・トネフで、僕の方はジョン・ホーレンベック。

小熊:冒頭にも話したように、両者にとってこの曲の存在は大きいんですね。

柳樂:世間的にはグレン・キャンベルのヴァージョンが有名ですけど、僕らにとってはやっぱりラドカ・トネフになるのかな。

山本:あとコンピには、他にもニック・ドレイクとかビョークのカヴァーとか、あとヴォーカル曲も多いから、マニアックな匂いがしないのがいいですね。程よいポップな感覚があるから、JTNCの入口には最適かも。

柳樂:ベッカ・スティーヴンスやフレッド・ハーシュ、アラン・ハンプトン、レベッカ・マーティンとかQCとかぶっているアーティストも多いですね。

山本:後半、デイヴ・ダグラスからの流れは柳樂さんのパーソナルな部分がみえる選曲だと思いました。あっデイヴ・ダグラス、QCで紹介してなかったな。

柳樂:山本さんの好きなラインですよね(笑)。フレッド・ハーシュとジュリアン・レイジはジスモンチへのオマージュで、ショーロぽい雰囲気もあるし、QCともリンクするかも。

小熊:お互いのコンピのライナーを読むと同じ言葉が共通して使われていますね。ニック・ドレイクとか室内楽とか。

山本:QCもかなり『White Radio』に通じる部分はありますよ。先ほども言ったように、JTNC1で「白人音楽のスピリチュアリティ」という入口があって、その続きにJTNC2がECMまで視野を広げた時にはもう拍手するしかなかった(笑)。僕がやりたいけどできないことを全部書いて、やってくれているから。

柳樂:QCコンピで、すごいのはECMはコンピに入れられないから、ECMにかなり近いジョン・テイラーとチャーリー・ヘイデンの「Bitter Sweet」を入れているんですよ。bar buenos airesの新しいコンピにもカルロス・アギーレとキケ・シネシにパット・メセニー&ライル・メイズの「September Fifteenth」をカヴァーしてもらったりして、やっぱりコンピを本気で作っている人は違うなと。

山本:いえいえ、ありがたいことに、そういう収録できる環境を整えてもらっているだけです。でもそういう細かい部分まで聴いてもらえてうれしいですね。

小熊:とにかく、JTNCとQCが少しでも多くの人に届くといいですね。

山本:そうですね、興味を持って頂ければ嬉しいです。柳樂さん、小熊さん、本日はありがとうございました!


 VARIOUS『Jazz The New Chapter:White Radio』

今からお送りするのは、ロバート・グラスパーがヒップホップを携え新たな時代を切り開いたのと同じ時代に生まれた"白き"ジャ ズのマスターピースたちだ。エリオット・スミス、アイアン&ワイ ンへの憧憬がジャズをインディーロックへとも接続し、室内楽由来のアンサンブルが更なる洗練へと誘う。ブラジル音楽へのアプローチは空へ舞い上がるような軽やかさや透明感をも たらし、ニック・ドレイクとも通じる"白き ゴスペル"的な 響きは敬虔な祈りのようなささやかな力強さを纏わせる。ゲイリー・バートン~パッ ト・メセニー~ブラッド・メルドー~ノ ラ・ジョーンズと長い間、ジャズが紡ぎ続けてきたフォーキーなサウンドが今、大きく花を咲かせている。 そんなジャズの新たな世紀を代表するベッカ・スティーブンス、グレッチェン・パーラト、アラン・ハンプトンらのフォーキーな歌声が彩る珠玉のプログラム"Jazz The New Chapter - White Radio"を東京からお送りしよう。(柳樂光隆)

01.Pink Moon / Misja Fitzgerald Michel 02.The Spinning Wheel / Mike Moreno 03.Free Flying / Fred Hersch & Julian Lage 04.Hyperballad / Travis Sullivan's Bjorkestra 06.Change Your Mind / Alan Hampton 07.The Space In A Song To Think / Rebbeca Martin 08.Pro Lenku / Eternal Seekers 09. Winter Wind / Gretchen Parlato 10.Weightless / Becca Stevens 11.Be Still My Soul / Dave Douglas Quintet 12.The Moon's a Harsh Mistress / John Hollenbeck 13.Elysium / Ben Monder



 VARIOUS 『Quiet Corner -a Collection Of Sensitive Music』

メディアで大きく取りあげられることはなくとも、幅広いリスナーが深い愛情をもって聴き、自身で語りはじめている「クワイエット」で「センシティヴ」という共通感覚。それを通奏低音に、ジャズ/ワールドミュージック/SSW/ポスト・クラシカルなど、ジャンル〜国〜年代を超えて厳選した、日常生活にやさしく寄り添い、ささやかな幸せと豊かな彩りを届けてくれる18曲。同名のディスクガイドブックも同時発売。

01.The Moon Is A Harsh Mistress / Radka Toneff & Steve Dobrogosz 02.Moon River / Diana Panton 03.But Not For Me / Joe Barbieri 04.Bright Days Ahead Closing / Quentin Sirjacq 05.Musical Express / Giorgio Tuma 06.Our Day Will Come / Naim Amor 07.Hold On / William Fitzsimons 08.Parallel Flights / Ryan Francesconi/Mirabai Peart 09. Chance / National Jazz Trio Of Scotland 10.Landscape With Birds / Karen Peris 11.Moving To Town / Simon Dalmais 12.Carinhoso / 中島ノブユキ 13.Uma Valsa Em Forma De Rvore / Andre Mehmari 14.Memoria De Pueblo / Pablo Juarez 15.Bittersweet / Charlie Haden & John Taylor 16.Woyzeck / Lucas Nikotian & Sebastian Macchi 17.Heartleap / Vashti Bunyan





プロフィール

柳樂光隆(Jazz The New Chapter)

ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。島根県出雲出身。現在進行形のジャズ・ガイド・ブック「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan, intoxicate, ミュージック・マガジンなどに執筆。Otis brownV『The Thought Of You』, Taylor Mcferrin『Early Riser』, Flying Lotus『You’re Dead』ほか、ライナーノーツ多数。


小熊俊哉 (シンコーミュージック)

1986年生まれ。2012年の年末よりクロスビート編集部に在籍。現在は主にムック/書籍の制作に携わっている。2014年に携わった本→『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『Jazz The New Chapter(1&2)』『アフロ・ポップ・ディスク・ガイド』『CON-TEXT』


山本勇樹 (HMV/Quiet Corner)

HMV渋谷店のバイヤーを歴任後、現在はHMV本社でワールド/ジャズを担当。「Windfall Light」「Floral Voices」などのCDの選曲やライナー・ノーツを手がけ、2010年より音楽文筆家の吉本宏氏と共にbar buenos airesを主宰し4枚のコンピレーションを制作、また2013年には同レーベルを発足。著書「クワイエット・コーナー〜心を静める音楽集」(シンコーミュージック)。





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