【HMVインタビュー】失敗しない生き方『常夜灯』

2014年1月20日 (月)

たった1枚の自主制作CDR『遊星都市』(現在入手困難)、というよりも、たった1曲の収録曲「月と南極」で、東京インディーシーンで最も注目を集めるバンドにひとつになってしまった“失敗しない生き方”。「月と南極」が、シティポップ～山下達郎を感じさせる楽曲だっただけに、危うくそのイメージが定着しそうな彼らだが、1月22日にリリースされる1stアルバム『常夜灯』を通して聴いてみると、全然シティじゃなさそうだ。
都市と郊外の狭間＝東京中西部にて、生まれ育ったという共通項を持つ同世代が、どうしようもない暇をつぶす為だけに一時的に結成したバンド。“失敗しない生き方”という逆説的で皮肉めいたバンド名が象徴するように、とってもひねくれた"ヌルめ"の若者たち。CITY(都会）ではなく、TOWN(街）で生まれたベッドタウンポップミュージック、或いはコンビニエント・サバーブ・ポップグループなどと表現される集合体。
この、どろどろで混沌と破壊衝動が入り混じるポップミュージックを生み出す彼らにメールでいろいろと聞いてみた。

「月と南極」 (SoundCloud)

--- アルバム『常夜灯』に収録された全12曲の多様な楽曲を聴いて、メンバー個々の嗜好を知りたいと思いました。まずはメンバーそれぞれに質問

■ [一番初めに買ったCD]
天野： ひみつ。
千葉： MILES DAVIS 『The Cellar Door Sessions 1970』
蛭田： グミ『Catch You Catch Me』
今井： JUDY AND MARY 『THE POWER SOURCE』
村上： 多分『ロケット団のテーマ』
寺尾： 『夢色ロリポップ / 荒野のメダロット』/ 『MOTHER2のサントラ』

■ [好きなアーティスト]
天野： ブリアル、銀杏BOYZ、オリヴィア・トレマー・コントロール、ボブ・ディラン、川本真琴さん
千葉： set fire to flames、Mattia Coletti、KEITH JARRETT、FAUST、MR.CHILDREN、大友良英、Rodion G.A.
蛭田： ペイヴメントと剣崎真琴
今井： Benny Sings、Joao Gilberto、Blossom Dearie、大貫妙子 etc.
村上： 特になし
寺尾： 玉井詩織、柏木由紀

■ [最近気になるアーティスト]
天野： あらべぇくん、ヤング・エコー周辺、食品まつりさん、Hi,how are you?、ぇゎモゐ／§✝§、Arca、〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉、〈ブートレッグ・テープス〉、花澤香菜さん、TOURS、〈L.I.E.S.〉
千葉： いなはたえみ、SOLID AFRO
蛭田： 剣崎真琴とμ’s
今井： Mocky、Ben Westbeech、Bruce Hibbard、往年のAORアーティスト全般、μ's
村上： 特になし
寺尾： 玉井詩織、柏木由紀

■ [音楽以外で興味がある事]
天野： 言葉、政治、映画、哲学、アート、雑誌、性愛、寿司、魚介類、酒、漫画、はなまるうどん、薄皮つぶあんぱん、ローズネットクッキー
千葉： LUSH
蛭田： うさぎ、ハムスター、主に小動物
今井： 書籍、漫画、アニメ、声優、建築、ラジオ
村上： 犬のしつけ
寺尾： ヨガ、美容、健康

--- メンバーが同じ地域（東京中西部）で育った同世代の仲間である事は、バンドにとって大きいと思いますが、自分達が育った町はどのような町なのか教えて下さい。

天野： 都会はひどく臭いですが、三鷹の端のほうはそういうにおいのしない町（≠街）です。生活のにおいがします。書店があり、TSUTAYAがあり、ブックオフがあり、ファミレスとファストフード店とスーパーマーケットと牛丼屋とコンビニがあります。住宅展示場と自動車ディーラーと学校と交番があります。川と公園と歩道橋があります。大小のマンションやアパート、建売住宅、公営住宅がたくさんあります。夜遅くになると、何車線もある大きな道路でもほとんど車が走っていないような、そんな町です。

千葉： 普通の町です。三鷹市は大沢に住んでいるのですが、それ以外の街に住んだことがないので、何とも言いようがありません。
蛭田： 住むには便利
今井： 学園都市。
夜になればヤンキーは溜まるし、パチンコ屋がジャラジャラしていますが日頃から比較的穏やかな印象があります。銀杏並木や桜並木があるので四季折々で街並が様相を変えるので散歩するにはもってこいだと思います。
村上： 東京という響きとかけ離れた田舎です。
特徴としては、タヌキがでるよ！とはよく言います
寺尾： マサラタウンとまでは言わないが、ニビシティほどでもないような、そんな町だと思います。

--- その町の“手書き地図”を書いてみて下さい。

※クリックで画像が拡大します

--- このベッドタウンと呼ばれる町。子供の頃見ていた印象と、大人になった今見る印象は違いますか？

天野： 僕の住んでいる（た）町はそれほどベッドタウンでもありません。どちらかといえばベッドタウン寄りではありますが、ベッドタウンにも都会にもなりきれないような中途半端な町です。子供の頃は住んでいる町がすべてでしたが、今は大きな地図のなかのひとつの点、あるいは染みのように俯瞰的に、客観的に見えます。その一方で、良くも悪くも過去の残像みたいなものも染みついているので客観的にもなりきれません。懐かしさや安心も感じますが、心がざわざわもします。

千葉： 毎日見ているので変化に気付けません。
蛭田： 都市開発うざい
今井： 特にありません。
町の人の入れ替わりが極端に少ないので、印象は一緒です。
村上： 特に変わりませんが、近所の川の水位は低くなりました
寺尾： まだ本当に大人になれているのかわからないので、なんとも言えないです。場所と場所の距離は縮まった。

--- アルバムタイトルの『常夜灯』という言葉は、「終電車」や「魔法」の歌詞にも使用されています。天野さんは、この言葉にどのようなイメージを持っているのでしょう？

天野： 生活、住宅、夢、過去の記憶、疲労、（湿っぽい）感傷、懊悩、エロティックなもの、誘惑、未読／既読、裏切り、心理的な距離感、不安／安心、隔離、密室、現実、現実ではないどこかへトリップするための抜け道。

--- アルバムのレコーディング作業はどのような感じでしたか？印象的なエピソードなどもあれば教えて下さい。

天野： 苦しかったです。ギリギリまで書いていた3本の詞がボツられたことと、別室にこもってずっと練習していたことが印象に残っています。今井は歌いまわしを細かく指示してきました。蛭田はうさぎのぬいぐるみで遊んでいました。僕はセブンイレブンのコーヒーを毎日飲んでいました。今井、寺尾、慎吾はフリスビーで遊んでいました。明治通りで警察に職質されました。エンジニアのヒロロンさんが歌詞をすごく褒めてくれました。

千葉： ずっと楽譜を書いていました。
蛭田： うさぎがいじめられた
エンジニアのヒロロンさんの服がオシャレだった
ドーナツを沢山買った
今井： 主にウサギの人形で遊んでいました。
村上： てんややんやで何を言ったらいいのやらという感じです
寺尾： 期末テストみたいなかんじでした。

--- 7インチがHMV限定でリリースされます！収録楽曲は「海を見に行こうよ」「魔法」の2曲。この2曲が出来た経緯やまつわるエピソードをそれぞれ教えて下さい。

■ 「海を見に行こうよ」…

「海を見に行こうよ」 (SoundCloud)

天野： 海には憧れがあります。なにかドリーミーなものを感じます。海を見ることは好きですが、最後に見に行ったのはいつのことだか思い出せません。高校生の頃、授業をサボって自転車で多摩川をひたすら下りました――海と地平線を見に行こうと考えていたのです。何時間も自転車をこいで羽田空港へは辿り着いたものの、結局海を見ることは叶いませんでした。磯のにおいだけしました。離着陸する飛行機を見て、それを写メに収めて帰りました。海は自分の住んでいる町からは遠い、別世界です。
　予算のないインディー映画のような、安っぽく暴力的な言葉を歌詞に使ってみました。たぶん、逃避についての歌です。
　1950～1960年代前半のシングル曲のように非常に短く早く展開するスリー・ミニッツ以下のショート・ポップ・ソングとして気に入っています。千葉の書いたホーン／ブラス・アレンジも気に入っています。慎吾のベースが強調されています。寺尾のドラムもいい味を出しています。

千葉： 管楽器の譜面をプレイヤーさんの来る直前まで書いていました。
蛭田： ありません
今井： Marina ShowのRose Marie(Mon Cherie)を踏襲して。A→Bへの転調が個人的に気に入っています。
村上： コードがいっぱい使われてるのでルートの音を弾いてるだけでなんとなーくいい感じになって楽だったなぁと…
寺尾： 彼女がいっつも嬉しそうに無限ループで口ずさんでます。

■ 「魔法」…
天野： 「魔法」という言葉を気に入っていました。曲のアイディアを出す時に、言葉から何か喚起されるものがあればということで、今井にいろいろな単語やフレーズのリストを送りました。なかでも「魔法」は今井も気に入っていた言葉だったので、こうやって曲名になりました。
　魔法という非現実的なものは、現実をねじ曲げる強い力を持っています。でも僕はそういった力強くて恐ろしいものよりも、もっと微弱で力のないものが好きです。だから「魔法」という言葉にネガティヴな形容詞をつけてみました。「弱い魔法」というのがあってもいいと思うのです。「『弱い魔法』って何？」と訊かれたことがありますが、いったいなんなのでしょうか？　みなさまのご想像におまかせします。
　ボブ・ディランを聞いていて、英語の“he”“she”は歌詞に自然に置けるが、日本語の「彼」「彼女」という三人称の言葉を主語として歌詞で使うのは少し難しい面がある、と思いました。主語に限らずどのような役割であれ三人称を使うと、詞というよりもどうも散文っぽくなってしまうんですね。日本語は主語を置かなくてもわりと機能するので、詞の抽象度を上げるために僕は主語を省くことが多いのですが、しかし三人称を主語として使ってみたかったので、工夫して「彼女」という言葉を置いてみました。
　明暗、灯りと暗闇との緊張関係についての歌です。「海を見に行こうよ」とも言葉でつながっているところがあります。「踊る」って言葉もよく使いますね。なぜでしょう？　わかりません。考えておきます。それと、この歌詞はとある有名な映画を観たあとに書きました（なんの映画か知りたい方はライブ会場やツイッター等で僕に直接訊いてください。観たことのある方はわかると思います）。
　蛭田の壊れそうな、儚げな歌声が楽曲の雰囲気と歌詞に合っていてとても好きです。キラキラとした鍵盤の音、モヤモヤとしたダビーなプロダクション、スライ＆ザ・ファミリー・ストーン風のドラムマシン、気味の悪い音色に変換されたサックス・ソロ、どれも気に入っています。
　2曲とも7インチで聞いてみたい曲だったのでうれしい限りです。

千葉： 魔法のような曲だなと思っています。
蛭田： ありません
今井： 原ミドリさんのある曲をモチーフにしています。あとは基本的に今井の手癖全開の曲。
村上： アレンジどうしようかと悩んだ結果、上物が頑張るという結論に達したような気がします
寺尾： きらびやかで好きです。

--- 今、バンドとしてやってみたい事は何でしょう？

天野： 特にありません（さて。ここまで書いてきたことは実はすべて嘘でした）。
千葉：ダンスパーティとか良いですね。
蛭田：鷲羽山ハイランドでサンバのダンサーをバックにビンゴゲーム
今井：録音物としてなにか出来れば。
村上：とりあえず新曲なんかスタジオで合わせられたらなと
寺尾：ピクニック

--- ありがとうございました。

千葉： いえいえ、どうも。

アルバム『常夜灯』ティーザー (Youtube)

　失敗しない生き方　『常夜灯』[2014年01月22日]

アルバムには、「月と南極」「終電車」(これも名曲！)というシティーポップを感じさせるような楽曲もあれば、しっとりしたジャズボーカルが後半にむけて混沌としていく「私の街」、「煙たい部屋で」「常夜灯」のようなフリーフォームなジャズ、ノイズ、パンクを感じさせるものも。そうかと思えば「ラグタイム」「アメリカ人じゃあるまいし」というカントリーチューンや、「うわ言のジャイブ」のようなアイドルジャズ歌謡のようなナンバーも。とにかく一筋縄ではいかないのがこのバンドの大きな魅力。

【HMVオリジナル特典】アナザージャケット(HMV ver)

※特典は無くなり次第終了となります。ご購入前に必ず商品ページにて特典の有無をご確認下さい。

『常夜灯』収録楽曲

01. 海を見に行こうよ
02. 月と南極
03. クックブック
04. 私の街
05. 煙たい部屋で
06. うわ言のジャイブ
07. 魔法
08. ラグタイム
09. アメリカ人じゃあるまいし
10. 常夜灯
11. 終電車

　失敗しない生き方　『海を見に行こうよ/魔法』 (7inchアナログ)【Loppi・HMV限定盤】[2014年1月22日]

アルバムの冒頭を飾るシネマティックなポップチューン「海を見に行こうよ」と、アルバム収録曲の中でもとりわけポップなメロディーが印象的な夢うつつな楽曲「魔法」の2曲がアナログ7インチとしてシングルカットされる事になった。Loppi・HMV限定盤としてアルバム『常夜灯』と同時にリリースされる。激レア化必至の限定7インチ『海を見に行こうよ/魔法』お見逃しなく！

『海を見に行こうよ/魔法』 (7inchアナログ)【Loppi・HMV限定盤】収録楽曲

01. 海を見に行こうよ
02. 魔法

失敗しない生き方プロフィール

2010年秋、都市と郊外の狭間＝東京中西部にて、天野龍太郎（gt.／vo.）、今井一彌（key.）、千葉麻人（t.sax）、寺尾拓未（dr.）、蛭田桃子（vo.）、村上慎吾（ba.）によって結成されたベッドタウン・ポップ・グループ。2013年1月に上梓したEP『遊星都市』がごく一部の奇特な聴衆の間で話題となる。現在、都内を中心に癒やしと狂騒と破綻のライブ演奏を展開中。

ベッドタウン
（和製英語：bed town、英語ではbedroom town、dormitory town、commuter town）とは、都心へ通勤する者の住宅地を中心に発達した、大都市周辺の郊外化した衛星都市の俗語。ベッドタウンという言葉には、「寝に帰るだけの場所」という語感がある。（Wikipediaより引用）

失敗しない生き方オフィシャルサイト