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2013年8月25日 (日)
連載 許光俊の言いたい放題 第224回「ナガノ万歳!」
ついこの前まで万年青年みたいだったサロネンが近頃すっかりおやじっぽい雰囲気を出してきたのには、仕方がないとはいえ、寂しい気がするが(でも、演奏は老けていない)、これまたいつまでも青年みたいな印象だったケント・ナガノもすでに還暦を過ぎた。カリフォルニア出身のアジア系青年音楽家のホープ、みたいな売り出し方だったのは、はるか昔のこと。
そのナガノ、現代でも屈指のいい指揮者だと思う。名演奏家にもいろいろな段階や種類があって、死後ずっと聴き継がれる人もいれば、時が経つに従って忘れられてしまう人もいる。当然、後者のほうが圧倒的に多い。ナガノにしても半世紀後でも聴かれ続けるような、超強力な個性を持っているわけではない。しかし、それでいいではないか。その時代に人々を喜ばせる高水準の演奏をしていたとすれば、もう十分に立派ではないか。後世に名が残るかどうかなんて、おそらく半分以上偶然なのだし(ま、きっと竹内貴久雄サンみたいな奇特な人が聴き続けてくれると思うけど)。
そのナガノが、バイエルン州立歌劇場の音楽監督のポストを去った。まことに残念な話である。例によって、劇場内の人間関係によるものらしいが、人気、実力とも彼以上の音楽監督を見つけるのは至難の業だろう。後任のペトレンコは、確かに悪い指揮者ではないが、この重責がつとまるかどうかは不安が残る。
ナガノが現代音楽を指揮する予定は来シーズン以後もあるとはいえ、やはり聴衆に惜しまれながら去る音楽監督としての最後の姿を見届けようと、2012/13年シーズンの最後を飾る「パルジファル」を見に行った。暑い盛りに「パルジファル」をやるなんて、バイロイト以外ではまずあり得ないことである。つまり、これはもちろんナガノのための特別のプログラムなのだった。
すばらしかった。本当にきれいで、しみじみとしていて、この指揮者のいいところが発揮された演奏だった。詳細は最新号の「ステレオサウンド」に書いたが、オーケストラがすっかりナガノ風になっている。こうなるには時間がかかる。音楽監督の職を離れたら、なかなかこういうふうにはいくまい。終わってから拍手が20分くらい続いた。「パルジファル」前奏曲よりずっと長いということだ。
そのとき、会場で売っていたのが、ミュンヘンのオペラのオーケストラと演奏したブルックナーのCDセットだった。既存録音のお得セットかと思ったら、第8番の初稿が入っている。聴いて驚いた。ナガノが晩年のヴァントのもとに出入りしていたのはよく知られている。しかし、どうやらチェリビダッケも大いに研究したらしい。演奏時間が普通より長くかかる初稿とはいえ、なんとほとんど100分、おそらく聴いて誰もが唖然とする堂々たるスローテンポだ。慌てず騒がず、オーケストラを柔らかくたっぷり、しかも官能的に鳴らす。おお、これはまるで「パルジファル」の交響曲版ではないか。そんな感じだ。
一般的に演奏される版は、この初稿よりもっとスマートに書き直されている。流れがいいというか、無駄がないというか、ストレートというか、もってまわったところがない。でも、初稿は、次はこうなるでしょうという予測を裏切って、わざと立ち止まってじらすかのような場面が多い。ナガノだとそれがすごくよくわかる。インバルのように音の斬新な重ね合わせ方ではなく、もっと横の線で聴かせるからだ。こっちがブルックナー本来だとしたら、一般的な版は、添削のしすぎということになろう(この差は、第4番の初稿だともっとはなはだしい)。
ナガノは、極言すると何でもドビュッシーにしてしまう人である。リズムに厳しさや重々しさはない。精神的な深みもない。が、すばらしく心地よい。現代においてこれ以上のブルックナーをやれる人は他にいないのではないか。マーラーではほとんど無敵じゃないかというほどの超絶演奏を行う可能性があるラトルとベルリン・フィルも、ブルックナーではナガノにはるかに及ばない。
私はそう考えるがゆえに、ここ何年か、できるだけ彼のブルックナーを生で聴いてきた。また、ナガノもミュンヘンのこのオケや、ベルリン・ドイツ響とブルックナーをさかんに演奏してきた。すいすいと流れていくくせに、物足りなさがない。見事な洗練ぶりを示してきた。が、今度の第8番は、そのこれまでのナガノの流儀からすると信じられないほど別方向を向いている。ところどころで、「おお、これはチェリビダッケ!」と思わず言いたくなる箇所もあるが、物まねっぽいいやらしさがない。
ミュンヘンのオケはやはりオペラハウスの楽団である。ごく当たり前に表情がつく。そこがベルリン・ドイツ響と違う。ベルリンのほうが技術的には上かもしれないが、無表情というか、愛想が悪いというか、そういう音楽である。私はもっと生身の人間らしいミュンヘンのほうが好きだ。そういえばこういうところがチェリビダッケやヴァントが指揮するミュンヘン・フィルにもあった。
フィナーレの最後、本当に現代では稀な堂々たるコーダに到達する。こんな演奏が今でも聴けるのか?とブルックナー歴が長い愛好家は衝撃を受けること間違いなしだ。
ミュンヘンとの契約が切れるナガノを、あっという間にハンブルクのオペラがさらっていった。しばらくしたら、今度はハンブルクで見事なブルックナーが聴けるようになるだろう。でも、ハンブルクの楽団が、このセットのような生き生きした表情で弾くかといったら、私はそうは思わない。失われたものを改めて惜しませる罪深い録音である。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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