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『アルゼンチン音楽手帖』発売記念 〜著者・栗本斉さんインタビュー〜

2013年6月21日 (金)

フォルクローレから、ジャズ、タンゴ、音響派、エレクトロニカまで、21世紀以降の 「新しいアルゼンチン音楽」 を紹介するディスクガイド本 『アルゼンチン音楽手帖』 。フアナ・モリーナからカルロス・アギーレまで、南米音楽ファンならずとも必見の充実の内容。その発売を記念して、著者である音楽&旅ライター / 選曲家・栗本斉さんにお話を伺いました。アルゼンチン音楽との出会いや現在のシーンについて、そして当ディスクガイドのコンセプトやこだわりまで。
Photo By Andres Beeuwsaert


-- はじめてアルゼンチンを訪れたのはいつですか?

栗本: はじめて行ったのは2005年で、僕が35歳の時ですね。それから5、6回は行っています。

-- そんなに何回も!さすがですね。でもなぜ、アルゼンチンだったのですか?

栗本: 実はそもそもはブラジルに行くのが目的だったんです。当時はブラジル音楽も好きだったので、実際に現地でライブやカーニバルを体験したくて、それで3ヶ月ぐらいはどっぷりブラジルにはまっていたんです。とにかく1年間くらいは日本に帰るつもりはなく、次はどこに行こうかな、と考えて。じゃあ、隣国のアルゼンチンに行ってみようと思い立ったんです。

-- 現地で体験するアルゼンチンの音楽はどうでしたか?

栗本: いや〜、とにかく驚きの連続ですよ。元々アルゼンチン音楽は、タンゴなんかは好きで聴いていたのはピアソラくらいで、あとはフアナ・モリーナのような音響派くらい。でも実際にアルゼンチンで一番の衝撃的だったのはフォルクローレだったんです。でもメルセデス・ソーサとかユパンキとかわりと日本でも手に入りやすい古いアーティストではなくて、アルゼンチンのCDショップには、全然知らないようなもっとコンテンポラリーなフォルクローレの作品がたくさん並んでいたわけです。それで実際に聴いてみたら自分の好みに合うものがたくさんありました。

-- そこから栗本さんのアルゼンチン音楽への探究心がより強くなっていくのですね。きっかけとなったアーティストは誰ですか?

栗本: まずアカ・セカ・トリオですね。はじめて耳にした時は 「何だ、これは!」 という感じですよ。コード進行、メロディー、リズム、アレンジ、どれをとっても今までに聴いたことがないし、でも全体的のアンサンブルや醸しだしている雰囲気は不思議と牧歌的なんですよね。

-- アカ・セカ・トリオは私も大好きです!そうして、2008年に手がけた 『オーガニック・ブエノスアイレス』 というコンピレーションCDにも繋がっていくのですね。その頃から、南米音楽ファンを中心にアルゼンチンのコンテンポラリー・シーンにも注目が集まってきましたよね

栗本: あとコンピを制作する前年に、雑誌 「ラティーナ」 で 「オーガニック・アルヘンティーナ」 という連載をはじめたのもきっかけの一つでしたね。アルゼンチンから、アカ・セカ・トリオのような輸入盤が少しずつ日本にも入ってくるようになりました。でも自主制作盤が多いためか、入手できないCDはまだまだ沢山ありましたけどね。

-- 実はその頃、私もどうしても手に入れたいアルゼンチンのCDがありまして、まだ栗本さんとは面識がないのに、突然のメールで 「どうしたら入手できますか?」 って問い合わせをしたことがありました (笑) 。

栗本: そんなこともありましたね。それでたしか 「アルゼンチンでも入手が困難です」 って返事をしたと思います (笑) 。

-- アルゼンチン音楽はブラジル音楽と同じように、一度その魅力にはまったらなかなか抜け出せないですよね。どんどん他の作品も聴きたくなってしまうという。そういった意味では 『アルゼンチン音楽手帖』 は待望だと思います。制作のいきさつを教えて下さい。

栗本: ブラジル音楽の本はたくさん出ているのに、アルゼンチン音楽の本ってあんまり出ていないんですよ。それで初心者も読めるようなディスガイドを作りたいなと。でも数年前は、そういう本が実際に売れるような環境がまだ整っていなくて、なかなか実現に踏み切れずにいたんですけど、ここ1〜2年で、アルゼンチン音楽が広く浸透しはじめたので、出版社と 「ぜひやりましょう」 という流れになったんです。

-- まず表紙のデザインが目を引きますよね。アンドレス・ベエウサエルトの 『Dos Rios』 ですよね。

栗本: そうですね。僕が考えるアルゼンチン音楽のイメージは “自然” なんです。例えば広い大地に吹く風とか、太陽の光とか、つまり本の副題にも付いている“オーガニック”ということです。そういうものを象徴する表紙の写真は何がいいかなと思った時に、ふとアンドレスの 『Dos Rios』 のジャケットが頭に浮かんだんです。

-- 私自身もアルゼンチン音楽に対して熱心になるきっかけの1枚が、この 『Dos Rios』 でした。もちろんこのディスクガイドでも掲載されています。ちなみに今回250枚の作品はどういう基準で選んだのですか?

栗本: ヴィジュアル的にも楽しめるディスクガイドにしたかったので、まず、たくさんのジャケットを並べました。どれもジャケット・デザインのセンスがいいんですよ。それでセレクトの基準は、21世紀以降の作品に限定しました。ジャンル的にはオール・ジャンルで偏りがないように、でも、先ほど言ったように、アルゼンチン音楽のイメージは “自然” なので、なるべくそれに近いサウンドのテイストの音楽を選んでいます。

-- 本当にどれもジャケット・デザインが良いですよね。思わずジャケ買いしそうです。あと21世紀以降という括りで、250枚選べるところに、現在のアルゼンチン音楽の充実度が伺えますね。

栗本: もちろん古いアルゼンチン音楽にも素晴らしい作品はたくさんあるんですけど、それ以上に、現行のシーンにも注目してほしいという期待を込めました。音響派が出てきたのも2000年以降でしたし、そういうシーンともリンクできるかなと。


Photo By Nobuhiko Nakamura


-- ディスクガイドの中では、ジャンルではなくて、 「水」 「風」 「光」 「空」 「大地」 というようなイメージで分類しているのも共感できました。

栗本: そもそもアルゼンチン音楽はジャンルで区別できませんからね。とはいえ、初めてアルゼンチン音楽に触れる人にとっては、このイメージだけだとハードルが高いので、本の途中には 「アルゼンチン音楽学校」 と題して、現代のアルゼンチン音楽のベースとなっている音楽や、楽器や用語などを紹介しています。

-- それにしてもここ数年に入手しやすくなったとはいえ、まだまだ知らない作品がたくさんありますよね。中には入手が困難な作品もありますよね?

栗本: そうですね。アルゼンチン音楽は、ハンドメイドで制作されている作品や個人で制作している作品が多いので追加プレスとかは難いと思いますよ。ですから、このディスク・ガイドをきっかけにレコード・メーカーが再発や国内盤化に乗り出してほしいですね。

-- 2010年にカルロス・アギーレ・グルーポの 『CREMA』 が国内盤で再発されましたよね。しかもオリジナル盤のハンドメイドを忠実に再現して。それが予想以上に広がりをみせたのは、とてもポジティブなことで可能性を感じました。ここ数年のそういう広がり方はどのように感じますか?

栗本: アルゼンチン音楽を聴いて、僕が 「面白い」 と感じたなら、きっとみんなも同じように 「面白い」 と感じてくれる確信はありました。それで、そういう同じ思いを持っている熱い人たちが各地にワサワサと現れてきて、アギーレの来日もあったりして、とても有機的な絡み方をして広がっていきましたよね。それに、この盛り上がりのきっかけになった人たちに共通しているのは、けっしてアルゼンチン音楽のマニアではなくて、良い音楽なら何でも聴いているような、幅広い音楽ファンなんですよね。

-- たしかにそうですね。みなさん良い音楽を探している中で、たまたまそこにアルゼンチン音楽があったという感覚かもしれませんね。

栗本: 「アルゼンチン音楽だから」 という理由で聴いている人はほとんどいないと思います。わりと好きなテイストも似ていたりしますし。でもこうして改めて250枚を聴き直すと、本当にアルゼンチン音楽って懐が深いと思いますよ。

-- 本の中では、各業界の人が選ぶ 「私のアルゼンチン音楽ベスト3」 という企画あって、恐縮ながら私も選ばせて頂いたのですが、みなさん興味深いセレクトでした。

栗本: 本当はもっとたくさんの方に書いて欲しかったんですけれど、ページの都合もあって15人に絞らせていただきました。例えば、音響派の頃から熟知されている勝井祐二さんやケペル木村さんの様な方から、ここ最近になってはまったという藤本一馬さんや山本さんまで、それぞれの選ぶ盤が個性的で、とても面白かったです。意外にみなさん、本書掲載盤を選んでなかったりするし (笑) 。

-- あと、サバービアの橋本徹さん、ハンモック・カフェの中村真理子・信彦さんご夫妻による料理や、H.P FRANCEの竹本祐三子さんのファッションに関するコラムなども写真付きで掲載されて充実していますね。そういう間口の広い切り口は面白いと思いました。なぜこういったコラムを入れようとしたのですか?

栗本: ここ数年、僕もいろいろな人たちと関わりをもつことができて、アルゼンチン音楽を良いかたちで広めることができたと思います。そういう人との繋がりの大事な感覚を、ディスクガイドにも可能な限り入れたい思いました。だからこの 『アルゼンチン音楽手帖』 はけっして僕一人で作り上げたわけではなくて、みんなで作り上げたと思っています。

-- 音楽一辺倒になると、どうしてもマニアックな方向にいきがちですからね。きれいなアルゼンチンの風景の写真もたくさん載っていますから、とても風通しのよいフレンドリーなディスクガイドだと思います。

栗本: ただでさえアルゼンチンは馴染みのない国ですからね、音楽も含めていろんな文化に触れて、少しでも興味をもったら、ぜひ次はアルゼチンへ旅してほしいですね。

-- そうですね。ぜひ僕も行ってみたいです!では最後の質問です。栗本さんが選ぶ 「アルゼンチン音楽の3枚」 を教えてください。

栗本: う〜ん、悩みますね。でも間違いなく一番に選びたいのはアカ・セカ・トリオのファーストの 『ACA SECA TRIO』 ですね。このディスクガイドにも最初に紹介していますし、 『オーガニック・ブエノスアイレス』 でも一曲目に選びました。あとはマリアナ・バラフの 『Margarita y Azucena』 ですね。彼女は伝統音楽に対しても熱心で熟知しているんですけど、エレクトロやアヴァンギャルドな振り幅に驚かされました。あとは実際にライブを観て感じたのは圧倒的な歌声の力ですね。最後はプエンテ・セレステの 『Manana Domingo』 です。彼らもライブを観て衝撃を受けました。各プレーヤーの超高度な演奏と、それが合わさった時のアンサンブルは凄いの一言ですよ。でもポップでユーモアもあってモダンでもあるから、そのバランス感覚が絶妙ですよね。特にリーダーのサンティアゴ・バスケスのパーカッション・セットは圧巻でしたよ。どれも本当におすすめですね。

-- 本日はありがとうございました。私も早速このディスクガイドを片手に、まだ持っていない作品を探してみます!



栗本斉 著 『アルゼンチン音楽手帖』 (2013年6月発売)

日本初!世界初!21世紀以降の 「新しいアルゼンチン音楽」 を紹介するディスクガイド。
フォルクローレ、ジャズから、タンゴ、音響派、エレクトロニカにいたるまで、洗練されたセレクトは、南米アルゼンチン音楽の固定観念を覆し、知られざる世界に誘います。
ディスクガイド部分は、イメージごとにカテゴリー分けし、ジャンルを超えたラインナップで約250枚を厳選。
旅行、料理、ファッションなどのコラムも挿入し、多角的にアルゼンチンとその新しい音楽を浮き彫りにします。
アルゼンチン音楽入門書の登場です。

栗本斉 Kurimoto Hitoshi:

音楽&旅ライター、選曲家。アルゼンチン音楽を中心としたラテン、ワールドミュージック、和モノから、旅行記や世界遺産にいたるまで幅広く活動中。著書に 『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』 (マイナビ) 他。


アルゼンチン〜ウルグァイ周辺音楽 アーカイブ アルゼンチン周辺音楽 アーカイブ
アルゼンチン及び周辺の地域を軸に、SSW・フォーク・ジャズ・タンゴ・音響・エクスペリメンタルなどこれまでのオンライン特集を一覧化しました。随時更新中。
※表示のポイント倍率は、
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

21世紀以降の「新しいアルゼンチン音楽」を紹介するディスクガイド

アルゼンチン音楽手帖 Organic Music of Argentina

本

アルゼンチン音楽手帖 Organic Music of Argentina

栗本斉

価格(税込) : ¥2,200

発行年月:2013年06月

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