SIGH 川嶋氏が選ぶダサジャケ!

2013年6月6日 (木)

Mirai
酷過ぎるアルバムジャケット

 「へヴィメタル」という言葉は音楽の一ジャンルを指すものであるが、実際にはその言葉は音楽以外のものも包含している。例えばデニム・レザー、黒Tシャツ、そして長髪などのファッションも、「へヴィメタル」の一部だ。同様に、一口に「へヴィメタルのアルバム」と言っても、当然それは音楽だけで成り立っているわけではなく、歌詞、アーティスト写真など複合的な要素が絡み合い、そのアーティスト、そしてそのアルバムのアイデンティティを形成している。そして時に音楽と同等にまで重要性を持つのが、アルバムの顔とも言えるジャケット。「ジャケ買い」などという言葉があるくらい、アルバムのアートワークは大切。なので当然アーティストは、アートワークにも相当の気を使う、というか使うはず。使うはずなのだが、世の中には「何でこんなものを採用したの?」と呆れるしかないようなジャケットも多数存在する。

 ハードロック・へヴィメタルの世界で「最悪のアルバムジャケ」の話になると、大抵名前が挙がるのがドイツの Scorpions。1976年発表の "Virgin Killer"(注・リンク先商品のアートワークは差し替えになった物です) のオリジナルアートワークは確かに最悪。10歳の少女のヌード写真をフィーチャーしたこのアルバムは、とても堂々とレジに持って行けるような代物ではない。だがこれ、「最悪」であることを狙った、物議を醸しだすことを目的としたものであることは明白。79年の "Lovedrive" もそうだが、「何でこんなジャケにしたの?」と首をひねりたくなる言うよりは、むしろその意図は十分すぎるほど良くわかるもの。

 意図がわからない、というかセンスがわからない、ということになるとRiotあたりを挙げる人もいるだろう。Iron Maiden「エディー」は好き嫌いこそあるだろうが、少なくとも非常にへヴィメタルなキャラクターだ。しかし、頭がアザラシ、首から下が人間という Riot のマスコットキャラクター「ジョニー」はどうだろう?最早カッコいいのかそうでないのかも判別しづらい。"Fire Down Under" のジャケットなど、殆ど意味不明。しかしそんなジョニーも、ゴリ押しで使い続けた効果もあって、アザラシを見ただけで Riot を思い出してしまう人もいるほど、メタルファンには浸透している。


Eddie & Johnny

 いくら賛否両論あるとはいえ、Scorpions や Riot の作品は、少なくともデザインとしては一流。感じ方は人それぞれでも、決してデザイナーのそもそもの手腕を問われるようなものではない。だが、世の中にはとても作品を公に発表できるレベルにないはずのものが、堂々と流通していたりもする。それも少々の勘違いでは済まされないようなセンスのもの、100人が見たら100人全員が「これはちょっと」と眉をひそめるようなレベルのものが。今回はその中から、個人的なワースト5+番外編1つを選んでみた。ただ単に絵が下手とか酷いというだけではなく、多角的に、様々な要素を考慮した上での選出である。とは言えワースト3は、あまりの強力さ故、落書き系ジャケに独占されてしまったのだが。

【第5位】 "Extreme Cold Weather" Messiah

 スイスのスラッシュメタルバンド、Messiah のセカンドアルバム。1987年発表。いや、別に酷くはないですよ、このジャケット。爽やかですし。しかしこの写真、全然スラッシュじゃないですよね。知らない人が見たら、内容を想像できません。だいたいタイトルも何ですか、究極的な寒さって。タイトル曲の歌詞も凄すぎます。

「俺は髪が長いから帽子は必要無い。」
「温度計は0度以下、ヒーローになろうとして学校まで走って行くな、凍え死ぬぞ、バカが。」
「俺が神ならば、ずっと夏にしておく。」


もう滅茶苦茶です。確かにジャケットから歌詞まで一貫性があると言えばあるのですが。やはりスイスって凄く寒いのでしょうか。ある意味ブラックメタル=冬、というイメージを先取りしている、早すぎた作品と言えなくもないですけど。。。ちなみに SUNN O))) の Greg が、Messiah のことを物凄くバカにしていたところ、同じく SUNN O)))、そして Mayhem の Attila が「いや、俺は Messiah 好きだ!」と擁護していたことを付け加えておきます。

【第4位】 "Easy Prey" Predator

 アメリカはカリフォルニア出身のスピードメタルバンド、Predator の唯一のアルバム。何なんでしょう、この写真。おそらく出演者はバンドのメンバーと知り合いの女性一名のみ。唯一の費用はビーチまでのガソリン代と写真の現像代くらいでしょうか。アルバムのタイトル、"Easy Prey" =「良い鴨」、そしてバンド名 "Predator" =「捕食者、略奪者」 を一枚の写真で表現したセンスは素晴らしいとは思います。裏ジャケでは、この女性が Predator に捕まってしまっているというストーリー仕立てにまでなっています。しかし、それにしてもですよ、もうちょっと何とかならなかったのでしょうか。特に問題なのは Predator の出で立ちです。穴だらけの白いTシャツ。何を意味しているのでしょう。一方で下は普通のジーンズ。ついでに裸足です。もう少し、ほんのもう少しで良いので何らかの工夫ができなかったものでしょうか。狙いの路線としては、Scorpions と同系列かもしれませんが、これでは物議を醸しようもありません。写真の内容よりも、そのあまりのショボさにショックを受ける人しかいないでしょう。しかもこれ、天下の Metal Blade からのリリースです。ついでにこの作品、音楽的には悪くないのです。ちょっとダメなスピードメタルが好きならば、きっと楽しめるはず。80年代アメリカに良くいた、Iron Maiden をスピードアップしたようなタイプです。このバンド、Metal Blade 所属だったくせに、まったく無名で殆ど情報がありません。84-5年くらいに結成、86年にアルバムリリース、翌87年には解散してしまった模様です。これ、CD化されていないのでしょうか。ダイハード盤トリプルLPなどが出ても良さそうなカルトバンドなのに。

【第3位】 "Carrion for Worm" Nuclear Death

 アメリカはアリゾナ出身のデスメタルバンド、Nuclear Death のセカンドアルバム。このバンド、世界初の女性Voのデスメタルバンドとも言われています。しかしこのジャケは何なんでしょう。色鉛筆で描いたんでしょうか。そもそもこの絵、意味がわかりません。中央の子泣き爺のような生物、何なのかわかりませんし、その右上にいる生物も意味不明です。さらに子泣き爺の右側にある、野球の投手板みたいなものは一体何なんでしょう。意味がわからなくても、絵としてのクオリティが高ければ良いです。でもこれ、クラスでも絵が下手なレベルの高校生が描いたような作品ですよね。いや、私は絵心はまったくないので、見る人が見れば高い芸術性を保持しているのかもしれません。Nuclear Death の作品は、全部こんな感じのアートワーク(と呼んで良いのかわかりませんが。)です。強いこだわりがあるのでしょうか。
音ですか?とりあえずよく聞こえません。ヴォーカリストは何とオペラの正式な訓練を受けているらしいですが、とにかくよく聞こえないんですよ。全体的にボワっとしてて。

【第2位】 "In the Name of Metal" / "Break the Silence" Executioner

 アメリカはマサチューセッツのスラッシュメタルバンド、Executioner は2枚ランクイン。まずは86年のデビュー作、"In the Name of Metal" から。「メタルの名の下に」。カッコいいアルバムタイトルです。しかしこのジャケは何ですか。これはもう一目見て酷いとわかる作品ですね。落書き系とでも言うべきでしょうか。バンド名である "Executioner"=「処刑人」というイメージで、中学生に描いてもらったのではないかと推測されます。ただこのアルバム、中身も同じレベルなので、そういう意味では内容を如実に表した、優れたジャケットなのかもしれません。
翌87年のセカンド "Break the Silence" も酷いですが、ちょっと酷い方向性が違います。アルバムタイトル、「静寂を打ち破れ」をヴィジュアル化したのでしょう。絵のテクニック的にはファーストとは比べ物にならないくらい高いです。しかし訳のわからなさは格段にアップしています。何だかよくわからないオッサン(?)が叫んでいるだけ。いや、それもわかりません。ムンクの「叫び」は、人が叫んでいる様子を表しているのではなく、叫び声に対して耳をふさいでいるところを描いたものです。これも同じかもしれません。打ち破られた静寂に、顔を歪めているという可能性もあります。まあどっちでもいいですけど。中身はファーストに負けず劣らず酷いものですが、このアルバムでは AxCx の故 Seth Putnam がベースを弾いているというオマケがあるのです。

【第1位】 S/T Abiogenesi

 プログレに分類されることも多い、イタリアの Abiogenesi の 1stアルバム。1995年発表。これについては最早解説不可能です。ご自分の目で確かめて頂く以外にありません。これ描いたの、きっと小学生ですよね?しかも低学年でしょうか。元ネタは Fates Warning"Night on Brocken" という気もするのですが、これが狙いなのか、本気なのかは非常に判断に迷うところです。というのもこのバンド、これまでに4枚のアルバムを出しているのですが、2枚目以降もかなり微妙な絵を使っているのです。もちろんファーストのこれよりは格段に進化はしているのですが。レーベルもよく NG を出さなかったものです。もしこれがインパクトを狙ったものであるならば、確かに成功したと言えなくはないですが。。。
音の方も非常にダメで、これは褒め言葉なのですが、ああイタリアのダメバンドだな、というダメさです。イタリアのダメさが好きな人ならたまらないと思います。このジャケも含めて。こういう方向へのプログレッシヴさというのもあるのだなと、気付かされます。

【番外編】 "See You in Hell" / "Second Attack" Crossfire

 80年代に活躍したベルギーの Crossfire。これは決してアートワークが酷いという訳ではありません。しかし訳分からなさではかなりのものです。83年のファーストアルバム "See You in Hell" と85年のセカンド "Second Attack" を見比べてください。何なんですかね、これ。

セカンドのアートワークは、ファーストの一部を拡大して左右逆転させただけ。何でこんなことをする必要があったのでしょうか。こういうことされると、間違えて同じアルバム2枚買っちゃったりするんですよね、どっち持っているのかわからなくなって。是非やめて頂きたいです。

 ここに挙げた作品は、すべて90年代中盤以前の作品である。つまり誰もが気軽にディジタルの技術を使えるようになる前の作品。あの時代、予算が殆ど、もしくは全然ない状態でジャケットを作るとなると、選択肢は二つしかない。適当な写真を撮ってそれでごまかすか、ただでやってくれそうな、そこそこ絵のうまい知り合いを探すか、だ。前者で失敗したのが MessiahPredator、後者が Nuclear DeathExecutionerAbiogenesi だ。問題の本質は、「予算の無さ」ではない。予算の無さを、アイデアでカバーしているバンドはいくらでもいる。例えば Bathory の名作、"Under the Sign of the Black Mark"。このアルバムジャケットは、知り合いのボディビルダーに被り物をさせ、公演中のオペラのセットを一瞬借りて写真を撮っただけのものだ。友人に何か被せてちょっと出かけて写真を撮る。コンセプトとしては Predator とまったく同じ。しかし出来上がりの差は歴然。Bathory のジャケットを見て、「随分チープだなあ。」と思う人は皆無だろう。それどころか写真であることに気づかない人も多いのでは。私もずっと絵だと思っていた。ところが一方の Predator はと言うと、失笑する以外にないような仕上がり。本人達は、どういう思いで出来上がったLPを見つめたのだろう。とは言え、リリースから20年近くもたって、こうやって酷すぎる作品として取り上げられるわけだから、インパクト勝負には勝ったと言えるのかもしれない。


PREADATOR "Easy Prey" & BATHORY "Under the Sign of the Black Mark"

 最近は、音楽もデザインもディジタル全盛。楽器など弾けなくても、それなりの音楽作品が作れるようになり、絵筆の使い方がわからなくても、それなりのデザインが出来るようになった。それはもちろん素晴らしいことだ。だが、芸術において「そこそこ」の作品ほどつまらないものはない。圧倒的に優れた作品が一番なのは言うまでもないことだが、そこそこの作品を鑑賞するくらいなら、圧倒的に劣ったもののほうが余程楽しめるというのもまた事実。確かに現在ではプリミティヴ・ブラックメタルのように、劣悪であることを良しとするジャンルも認知されている。だが、ディジタル以前の劣悪な作品の多くは、おそらくは故意に意図されたものではない。予算がない、才能がない、センスがない。理由は様々であれ、やっている本人たちには劣悪なものを作ろうという意思はなく、それどころか凄くカッコいいものを作っているくらいの勘違いはあったかもしれない。そしてこれこそがかつてのB級〜Z級メタルバンドが持っていたパワーの源であり、また上に挙げたアルバムジャケットが、得体の知れぬ魅力を備えているのも同じ理由によるのではないか。ディジタル技術の普及により、様々な修正が可能になり、誰にでもあり程度のものが作れるようになり、そのせいで心底酷いものを鑑賞する楽しみが減ったとすると、それはそれで寂しい限りである、ってそれはないか。


PREDATOR "Easy Prey" back


川嶋未来/SIGH
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