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2013年5月27日 (月)
連載 許光俊の言いたい放題 第221回「ヴァイオリン女王対決」
行きたいコンサートは妙に重なるものである。今年の6月も、都内ではあれこれおもしろそうな催しがある。それにしても驚かされたのは、本当に久しぶりに来日するチョン・キョンファと、まさに現代ヴァイオリン界女王ムターが連日のように来日公演を行うことだ。
チョンのほうは、引退したとか、教師になったとか、情報はあれこれあったが、無事復活したようだ。試しにソウルのホールの予定を調べたら、演奏会が複数見つかった。かつて彼女のあまりにもすごい演奏に呆然となった経験がある人にとっては、まさにバンザイを叫びたくなるようなカムバックであろう。実際、最近発売された彼女の来日ライヴ盤の売れ行きは非常に好調という。聴いてみれば、この人が他のいわゆる名ヴァイオリニストとは別世界にいることは明らか。現在これほどまでに精神的なヴァイオリンを弾く人は、たぶん他にいない。特に、これは他の人も言うことだけれど、バッハの「シャコンヌ」のすさまじさは、演奏史に残る。{G線上のアリア」の深さも空前絶後かもしれない。いずれにしても、彼女が弾くバッハは、長い長い一本の歌である。悠久の、という言葉はこういう音楽にふさわしい。こういうのを聴いてしまうと、いわゆる「名ヴァイオリニスト」のほとんどは、ただ音を出しているだけに感じられてしまうに違いない。
年齢を考えれば、あと何回聴けるだろう。そう考えると、ソウルまで行ってもよいと思えてきたが、まずは日本公演である。カムバック後の映像がインターネットで見られるが、演奏は冴えている。ブランクゆえの心配はなさそうである。
ムターはドイツでは圧倒的な人気を誇るが、日本ではそれほどでもないようだ。彼女あたりからだろうか、メーカーが売り出す女性アーティストが、ヨーロッパ、特にドイツでは相当の人気を得ても、日本ではそれほどでもないという現象が出てきた。音楽関係者でも彼女を評価しない人を私は何人も知っている。
しかし、ムターもやはり他とはレベルが違う世界に住んでいる音楽家である。あまりにもハードな演奏スケジュールのため(常人では移動だけで疲れて倒れそうなほどたいへんな演奏旅行。ローカルオケとも共演多数。尋常でないスタミナの持ち主であることは間違いなし)、適当に手を抜いているときもあるのかもしれないが、当たりはすごい。その点では連日試合をしていた昔のプロレスラーたちにも似ているのかもしれない。いったい何が彼女をこれほどまでにハードな仕事に駆り立てるのか? 謎である。もう偉いのだから、もう少し楽なペースでもよさそうなのだが。ただ、一般論として、演奏家の多くは傍目にはハードすぎるほどハードな生活が好きなようではある。
弱音じくじくで体力温存を図っているのかと思いきや、ベルリン・フィルと共演したりすると、恐ろしい鳴りっぷりを示す。大衆のために「ツィゴイネルワイゼン」をいいかげんに弾き飛ばしたかと思うと、あまりに精妙な「サマータイム」で悶絶させたりする。スキャンダルめいた話もいくつもあり、興味をそそる音楽家である。いずれにしても年々表現は大胆になっているようだ。基本的に、私は彼女の昔の録音は聴かない。その頃はチョン・キョンファと比較するなんてとてもじゃないがあり得ないほど格が違った。だが、比較的近年の爛熟路線のものはよい。LPも発売されたようなので注文してみたのだが、なんと品切れのようだ。マジですか。
今回の来日公演では、ふたりのスケジュールがほとんど重なっていることがミソだ。演奏家は、口では何を言おうとも、どこかで「自分が一番」と思っているものである。だから、ライバル心に火がつくととんでもないことが起きる。特に女性がそうだ。コンサート選びのなキモとは、演奏家が普通以上に力を出しそうなものを選ぶことである。今回などその典型的な例になるのではないか。少なくとも私はそう期待している。
もうだいぶ前だが、昔、東京でグルベローヴァとバトルの公演が重なったときがある。このときのバトルがすごかった。アンコールで、わざわざグルベローヴァと同じベッリーニの長大至難なアリアを歌ったのである。これがもう、まさしくお客を征服せんばかりの、とんでもないド迫力。客層は、テレビCMでバトルを見て来た人が多そうだったので、どうして彼女がアンコールでこれほど本格的な曲を選び、かつ燃えたのかわからなかったのではないだろうか。いまだ忘れられない、私にとって最高の思い出のひとつである。
梅雨直前の女王対決、私はどちらも可能な限りよい席を入手して、待ち構えているのである。特にムターは、弱音のニュアンスが聞こえなければまったく意味がないので、可能な限りステージに接近すべきだ。実はムターについて批判的な評論家は、遠い招待席で聴いていることが多い。反省してもらいたいものだ。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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チョン・キョンファ 1998年東京ライヴ第1夜〜シューベルト、シューマン、バッハ(2CD)
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カルメン幻想曲 ムター(Vn)レヴァイン&ウィーン・フィル
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