SIGH 『Scorn Defeat』 20周年!

2013年2月22日 (金)

SIGH (1993)
SIGH (1993) L to R Shinichi(G) , Mirai(Vo&B&Key) , Satoshi(dr)
< Scorn Defeat にまつわる思い出 >

今回は、かなり手前味噌な内容であることをお許し頂きたい。

 Sigh のファーストアルバム、"Scorn Defeat" が元 Mayhem のギタリスト、故 Euronymous の運営するレーベル Deathlike Silence Productions からリリースされたのが1993年のこと。今から20年前である。"Scorn Defeat" がリリースされた時には、残念ながら Euronymous は既にこの世にいなかったのであるが。


Euronymous

 92年頃、私は世界中のあらゆるアンダーグラウンドレーベルに、Sighの音源を送りつけていた。あわよくば契約してくれるレーベルがあるのではないかと期待しつつ。だが反応は芳しくない。当時はフロリダのデスメタルやグラインドコアの全盛期。80年代のスラッシュメタルが最も軽視されていた時代。(おかげで今では高値で取引されているレアなLPが、簡単に100円で手に入れられたりしたのだが。)スラッシュメタルからの影響が色濃い我々の音源に興味を示したのは、唯一 Euronymous だけであった。実を言うと、そもそも私が音源を送った相手は Euronymous ではなく、Mayhem のヴォーカリスト、Dead だったのだが、何故か返事をしてきたのは Euronymous の方だった。「音源どうもありがとう。Dead に送ってくれたようだけど、残念ながら彼は頭を打ち抜いて自殺してしまったよ。もちろん死体の写真に撮った。ところで君たちのアルバム、俺のDeathlike Silence Productionsからリリースしたいのだけど、どうかな。」凄い内容である。とても面識のない相手にいきなり送りつける手紙ではない。(この時点では死体写真撮影の真偽などわかりようもなかったのだが、後年その写真の存在が明らかとなるのは多くの方がご存じの通り。)興味を示してくれたのはうれしい。だが完全に狂っている。さらにはこの Deathlike Silence Productions、リリースらしいリリースと言えば、スウェーデンの Merciless のアルバム1枚のみ。まだ Burzum どころか、ブラックメタルの存在すら殆ど知れ渡っていない時代。本当にこのレーベル、きちんと機能しているのだろうか。大きな不安はあったが、それでもすぐに Yes の返事を返した。何しろ他に興味を示したレーベルは皆無。そもそもチョイスがなかったのだ。


Dead

 上にも書いたが、92年ごろはフロリダ、そしてスウェーデンのデスメタルの全盛期。「君たちチューニング何音下げ?」が挨拶だった時代。ただ、個人的にはどうしてもそういった風潮についていけないものを感じ始めていた。音楽的にはスラッシュメタルよりも過激なデスメタル。しかし何故か80年代に感じた興奮が、そこにはない。ブラストビートよりも、余程 、SlayerWhiplash の方が体感速度は速いのではないか。やはりメタルはイーヴルで無ければ面白くないのではないか。そんな思いを分かち合う相手など、周りには殆どいない。ところが、驚いたことに海を隔てた遥か遠くのノルウェーで、Euronymous を中心にまったく同じ思想を持ったグループが台頭し始めていたのだ。「Dead は今のシーンに辟易して死んだ。彼は黒いTシャツ、皮ジャン、弾丸ベルトが好きだった。SodomHellhammerBathory のようなバンドが好きだった。白いTシャツにバスケットシューズ、短パンに社会的な歌詞。これのどこが Death Metal だ?こんなものは Life Metal でしかない!」これが Euronymous の主張、当時としては衝撃的な内容だった。今では信じ難いこともしれないが、あの頃は本当に Hellhammer、Bathory が好きなどというのは時代遅れの極致というような風潮だったのだ。Euronymous たちは、それに真っ向から挑戦状を叩きつけた。そんな訳で彼は80年代スラッシュからの影響色濃い Sigh に興味を持ってくれたようだ。(それからもう一つ、Euronymous は南米その他辺境メタルマニアだったので、日本のバンドに興味を持ったのかもしれない。)


Dead & Euronymous

 Euronymous を通じ、多くのバンドを知った。Burzum、EmperorEnslaved などなど。当時はもちろんインターネットなど普及していないから、やりとりはもっぱら手紙にカセットテープ。やはり印象的だったのは Burzum の Varg Vikernes。「俺はノルウェーの教会を焼いている。お前も日本の教会を焼いてくれ。そんなことを平気で書いてくるような人物だった。もちろん当時は、どこまで本気なのか量る術もなかったのだが。Euronymous からDarkthrone の次のアルバムはブラックメタルだ。」と告げられた時は驚いた。何しろテクニカル・デスで売っていたバンド。それが突如ブラックメタルに転向するとは!だが、それを上回る驚きだったのは、「次の KERRANG! は、表紙が Burzum だ。」と教えられた時。まだまだ Burzum など知る人ぞ知るという程度のバンド。ブラックメタルというジャンルすら認知されていない。もちろんノルウェーのブラックメタルバンドが KERRANG! の記事に登場することもなかった。それがいきなり表紙である。聞き間違いかと思い、何度か確認し直したことを覚えている。KERRANG! の表紙、しかも放火、殺人を行う邪悪な集団というセンセーショナルな取り上げ方だ。ブラックメタルはあっという間にブームになった。だが何しろネガティブな要素を含んだブームであったため、マスコミに追い掛け回された Euronymous は自身のレコードショップを閉店に追い込まれるなど、当事者たちはかなりの混乱状態に陥ったようである。彼は電話でも「放火の話はしないでくれ。ICPOが盗聴している可能性があるんだ。」と言っていた。ICPO などという単語を、銭形警部以外が発するのを聞いたことがあるだろうか?当時は正直なところ、そんな大げさなと思ったものだが、今思い返すと強ち有り得ない話でもなかったのかもしれない。


Shinichi Ishikawa : Guitar

 そんな中、Sigh は93年3月に "Scorn Defeat" を録音。大がかりなレコーディングなど初めての経験。しかもまだアナログリールテープの時代。よくもまあ乏しい技術、知識で乗り切ったものだと思う。レコーディングスタジオの値段も今と比較にならないくらい高く、限られた予算の中、わずか数日ですべてを仕上げたように記憶している。途中ギタリストの石川が、何度も立て続けに失神するという事態があった。しかも本人は気を失っていることを認識していないのだ。話していたかと思うと失神、そしてまた何事もなかったかのように会話に加わる。「大丈夫か?」と問いかけても、本人は何を心配されているのかすらわからない様子。一体あれは何だったんだろう。
 何とかアルバムはひとまず完成。本人たちにとっては待ちに待ったファーストアルバム、レコーディングが済んだらすぐにでもリリースしてもらいたいと思うのが心情。だがEuronymous の答えは、「まず1ヶ月毎日聞いてみろ。それで直すところがなければ OK だ。」であった。そんな悠長なこと、と思ったのだが、彼は正しかった。毎日アルバムを聴き返すにつれ、修正ポイントがいくつも出てきたのである。(当たり前のことですけど。当時はまだ若かったので。)その後再度スタジオ入りし、ギターの追加などを行い、Euronymous からもOKが出た。さあ、今度こそ早くリリースを!と思ったのだが、遅々として話は進まない。Deathlike Silence Prodcutions って、レーベルとして大丈夫なの?という当初の懸念が現実となり始めたのである。どうやら Euronymous、時々電話が料金未払いで止められていたりと、資金面ではかなり困っていたようなのだ。


Varg Vikernes

 レコーディングから早5ヶ月、93年8月7日。Euronymous は電話で、「喧嘩をして相手に怪我をさせてしまった。刑務所に行かなくてはいけないかもしれない。」と心持ち沈んだ様子で言っていた。刑務所に入るとなると、レーベルの運営に支障が出るかもしれないとは思ったが、それ以上深く考えることはなかった。だが事態はまったく予想外の方向に進む。それから約2週間後の8月20日、Emepror の Samoth から手紙が来ていた。何気なく読んでみると、そこには衝撃の内容が。「Scorn Defeat 聞かせてもらったよ。とてもいいアルバムだ。でももう一度レーベルを探さなくてはいけないな。Euronymous が殺されたから。」ついこの間言葉を交わした相手の死。しかも事故や病気ではない。ショックは大きかった。もう細かいことは忘れてしまったが、ノルウェーやイギリスの知人、音楽関係者などに電話をかけ、Samoth の手紙の内容が真実であることを確かめたように記憶している。

 今では周知の事実だが、犯人は Burzum の Varg。二人の仲が急速に悪化していたこともあり、初めから Varg を疑う声もあった。私も Euronymous が、Varg の悪口をさんざん言っているのを聞いていたので、もしかしたらとは思ったが、それでもまさかという気持ちが大きかった。確かにノルウェーではブラックメタルバンドによる犯罪が多発していたが、とは言え仲間内での犯罪、ましてやリーダー格同士による殺人というのは俄かには信じ難かったのだ。


Euronymous


Anti Mosh!
Euronymous というのは非常に面白い人物であった。当時のデスメタル界で大人気だったプロデューサー、Scott Burns の写真にバツをつけたマークをアルバムに載せたり、LP のジャケットの内側まで真っ黒にしてリリースしてみたり、斬新な、時によくわからないアイデアを次々と思いつく人物であった。過剰にハイハットの音が大きく、音質が悪いアルバムを賞賛する一方、当時レコーディング中であった Mayhem の "De Mysteriis Dom Sathanas" については、いかに高音質であるかを力説していたものだ。フレットレスベースを使っているとも語っていた。そもそも白Tシャツを攻撃対象にするというのは、並大抵の発想力ではない。彼が生きていたら、ブラックメタルはまた違った様相を呈していたのではないだろうか。


Satoshi Fujinami : Drums

 結局 "Scorn Defeat" は、Euronymous の死後、Deathlike Silence Productions を引き継いだ Voices of Wonder Records からリリースされた。初めて自分たちの CD を手にした時の感激は、今でも忘れられない。ワープロで "Worse Than Ever!" (Noise Records が、Celtic Frost の確か "To Mega Therion" につけたキャッチコピー)や "Better Than Metallica's Master of Puppets!" (同じく Noise Records による、Kreator "Pleasure to Kill" の名キャッチコピー)などのシールを作り、輸入 CD 屋さんを回っては、自分たちの CD にこっそり貼りつけるなんていういたずらもした。(自分が買ったのはシール付だったという方がいらしたら、是非教えて頂きたい。あの時のシールがリスナーの手に届いたのか、それともその前にすべて処分されてしまったのか、ずっと気になっているのだ。)


 今年で "Scorn Defeat" リリースから20年。つまり、今年の8月10日で、Euronymous の死からも20年ということだ。本当に時が経つのは早い。生まれてから Sigh を始めるまでの20年間と、その後の20年間が同じ長さというのはどうしても信じることができない。今20歳の人たちも、気付いたら40になってるからそのつもりで。それはともかく正直なところ、あの頃20年後に Sigh が存続しているとは夢にも思わなかった。Euronymous には感謝をしてもしきれない。彼が Sigh を見初めてくれなければ、おそらく我々はアルバムをリリースする機会にすら恵まれなかっただろう。そしてデモを数本残しただけのバンドとして、早々に解散していたに違いない。そしてまたあの時、自分たちの作ったファーストアルバムが、20年後も聞かれているだろうとは、予想だにしなかった。Sigh はファーストアルバムが一番だという意見を耳にすることがある。確かにその気持ちはわかる。演奏力も、作曲に関する技術も今の Sigh の方が遥かに高い。今の技術で "Scorn Defeat" を再アレンジ、再録音すれば、音楽的にはもっとグレードの高いものができあがるだろう。だが、あのアルバムが持っていた独特の雰囲気は確実に失われる。"Scorn Defeat" は、あの時にしか作れなかった特別なアルバムなのだ。


Mirai Kawashima : Keyboards, Bass, Vocals

さて最後も宣伝だが、来たる3月17日浅草 Kurawood にて、Scorn Defeat 20周年ライブを行う。演奏曲は "Scorn Defeat" からの曲+ Venom のカバー+アルファのみ。20年前にやっていたライブを21世紀に復活させようという試みだ。共演は、AbigailDeadly SpawnReturnEvil、そして Sigh と Abigail のメンバーによるプロジェクト CutThroat。CutThroat は、基本的に80年代スラッシュのカバーのみを演奏するプロジェクトで、ライブは21世紀になってからは初! WarfareHiraxSacrificeAnvil Bitch などの名曲をカバーする予定。Sigh のこんなセットリストは最初で最後、CutThroat も次はまた10年後かもしれないので、是非ともお見逃しなく!

川嶋未来/SIGH
https://twitter.com/sighmirai
http://twitter.com/sighjapan


Asakusa Extreme vol 24
SIGH -Scorn Defeat 20th anniversary show
http://armageddon.exblog.jp/19516250/

SIGH (special set : Scorn Defeat + VENOM cover + @) CUTTHROAT ABIGAIL DEADLY SPAWN RETURN EVIL

2013 3/17 (Sun)
OPEN : 16:00 / START 17:00
ticket : adv 2500 yen / door 3000 yen

チケット予約
Kurawood : 03-5827-1234
※終了しました。

【SIGH 再発盤が限定入荷! HMV ONLINE オリジナル特典ポスター付き】(※完売しました)


現在入手困難な再発盤3タイトル限定入荷!※完売しました。

SIGH 『Scorn Defeat』20周年コラムの掲載を記念して

「Scorn Defeat」 1993年発表1stアルバム
(HODCD018/2011年再発・ブラジル盤/オリジナルジャケット復刻/95年のVENOMカバーCassette EP "To Hell and Back"をボーナス収録)
※完売
「Hail Horror Hail」 1997年発表3rdアルバム
(MORT067/2012年再発・中国盤2枚組/Disc2には完全未発表曲の他、アルバムのラフミックスを収録)
※完売
「Gallows Gallery」 2004年発表6thアルバム
(BLOOD011/2012年再発・フィンランド盤2枚組/Disc1はリマスター、Disc2は未発表のGallows Galleryデモ音源を収録)
※完売

上記の再発盤3タイトルをHMV ONLINEのみで限定発売致します(HMV店舗では取り扱いはありません)!そして、上記再発盤をお買い上げのお客様に HMV ONLINE オリジナル特典『SIGH 初期アーティスト写真ポスター(B3サイズ)』をお付けします!川嶋氏曰く SIGH でポスターを作るのは初めてとの事!しかも世界を震撼させたデビュー時のアーティスト写真です!レア化必至!この機会をお見逃し無く!!


ポスターはコチラ!
上記の3商品はHMVではHMV ONLINEのみの発売です。HMVストア(店舗)では取り扱っておりません。
ポスターは上記商品いずれかお買い上げの際に対1でお付けします。(デザインは全て同じです)
ポスターは筒状に巻いて、商品と同梱し配送いたします。
配送の都合上、ローソン受取は不可とさせていただきます。予めご了承ください。
海外発送の場合は、ポスターを折りたたんで発送とさせていただきます。予めご了承ください。
特典の有無は必ず商品ページをご確認くださいませ。
特典は無くなり次第終了となります。予めご了承下さい。


SIGH 関連 Links

※表示のポイント倍率は、
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

限定入荷!オリジナルジャケ復刻/VENOMカバーEP "To Hell and Back"をボーナス収録!

Scorn Defeat

CD 輸入盤

Scorn Defeat

Sigh

価格(税込) : ¥2,860
会員価格(税込) : ¥2,488

発売日:2011年09月06日

  • 販売終了

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限定入荷!Disc2には完全未発表曲の他、アルバムのラフミックスを収録!

Hail Horror Hail

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Sigh

ユーザー評価 : 5点 (2件のレビュー) ★★★★★

価格(税込) : ¥3,080
会員価格(税込) : ¥2,680

発売日:2012年09月06日

  • 販売終了

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限定入荷!Disc1はリマスター、Disc2は未発表のGallows Galleryデモ音源を収録!

Gallows Gallery

CD 輸入盤

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Sigh

ユーザー評価 : 4点 (3件のレビュー) ★★★★☆

価格(税込) : ¥3,080
会員価格(税込) : ¥2,680

発売日:2012年11月06日

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