THE OFFSPRINGのあの日、あの時 15
2012年12月1日 (土)
連載前回に書いたとおり、自身のキャリア初のベスト盤『THE GREATEST HITS』を2005年6月に発売したのに合わせ、THE OFFSPRINGは再度ワールド・ツアーに出ている。7月には、東京・日本武道館の“檜舞台”に立った前回2004年7月の再来日以来1年という最短ペースで戻ってきてくれた上に、翌々年2007年夏のサマソニ07参戦で再来日した。4年で3度の来日っていうのはバンドにとっては異例のペースであり、サマソニ参戦はこのときが2002年に続いての2度目だった。
7枚目『SPLINTER』(2003年)に続く、次のオリジナル・スタジオ録音作は、言うまでもなく8枚目『RISE AND FALL, RAGE AND GRACE』。発売は2008年6月とこの時期からまだ先のことなのだけど、にもかかわらずバンドは驚くことに2006年秋には早くも制作に取りかかってる。ベテラン・プロデューサーのボブ・ロックとともに新曲のデモ音源5曲を持ってスタジオ入りしたことが報じられたのだ。ボブはこれまでにMETALLICA、MOTLEY CRUE、デヴィッド・リー・ロス、THE CULT、BON JOVIといった数々のビッグ・ネームとの仕事であまりに有名な辣腕プロデューサーで、特に90年代に名を馳せた人物だ。ただ、それまでにいわゆるパンク・ロック畑での仕事がほとんどなかった人ゆえ、その人選を聞いたときはけっこう意外に思えた。
その後バンドは一度スタジオを出て、翌2007年夏あたりから再びボブと一緒に、US西海岸カリフォルニア州オレンジ・カウンティにあるD-13スタジオで本格的なレコーディングに突入した。現任ドラマー、ピート・プラダ(元FACE TO FACE、SAVES THE DAYほか)の正式加入がアナウンスされたのも、この頃だ。上記サマソニ07参戦がピートにとってのTHE OFFSPRINGライヴ・デビューであり、このとき新曲“Hammerhead”も初披露されている。だけどピートはレコーディングには不参加で、プレイしたのは『SPLINTER』のときと同じく、セッション・ドラマーとしてもかなり高名なジョシュ・フリーズだった。少々複雑なのだけど、前任ドラマー、アトム・ウィラード(元ROCKET FROM THE CRYPTほか)は実はこのときまだメンバーの一員だったのだけど、BLINK 182のトム・デロング(vo,g)の別バンド、ANGELS & AIRWAVESの構成員でもあり、所属のGeffen Recordsとの契約にも縛られていたためレコーディングに参加できずでそのまま脱退した、という経緯がある。その間、'92年あたりの未発表楽曲「Pass Me By」や「Dirty Magic」が再録され、次作に収録されてるんじゃないか、っていう噂が一部で流れたものの、デクスター・ホーランド(vo,g)は「そんなことをしたらファンたちに対して詐欺行為以外の何物でもないでしょ」と一蹴した。そして2008年4月、ついに次作は完成を見た。タイトルが『RISE AND FALL, RAGE AND GRACE』であることも同時に発表された。そしてデクスターはこうコメントした。
「今回の作品はここ何作品よりもずっとラウドだよ。『SMASH』(‘94年)や『IXNAY ON THE HOMBRE』(‘97年)の二番煎じではないけど、かなりパンク・ロックっぽいよ。ギターが前面に出たエネルギッシュないいものができたんだ」
このときの制作プロセスにおいての特徴のひとつが、かなりの時間を費やしたこと。デモ音源制作期間も含めると、軽く1年半以上となる。そしてもうひとつが、制作期間中に何度かスタジオを出入りしてはライヴ活動を行い、休暇もとっていることだ。ライヴ活動は上記サマソニ07参戦をはじめ、2008年春にオーストラリアで開催のSoundwave Festivalに出演し、INCUBUS、KILLSWITCH ENGAGEとともにヘッドラインを飾っている。休暇は2007年年末のクリスマスで、デクスター、ヌードルズ(g)、グレッグ・K(b,vo)がそれぞれゆっくり家族と過ごした。こういったことはTHE OFFSPRINGのキャリアでは初めてのことだった。
『RISE AND FALL, RAGE AND GRACE』は2008年6月に発売された。タイトルの由来は収録曲2曲からきている。『RISE AND FALL』はオリジナル収録楽曲のクロージング・ナンバー「Rise And Fall」のタイトルと歌詞からで(日本盤にはこの楽曲の次にD.I.のカヴァーである「O.C.Life」がヒドゥン・トラックとして追加収録されている)、『RAGE AND GRACE』は“Fix You”に出てくる歌詞の一節だ。本国では発売初週に45,000枚強売れ、USチャートの10位に初登場した。世界7ヵ国のチャートでトップ10入りを果たし、ロシアと日本ではインターナショナル・チャートの1位に輝いた。先にデクスターが言ったことと同感で、自分の今作を聴いた第一印象は、わかりやすい言葉で言うと“原点回帰しつつも音楽的新境地を切り開いた”だった。「Half-Truism」によってキック・オフされる今作はいつもと変わらず“珠玉チューン”の連発/連打だ。「Half-Truism」の、ときに顔を覗かせるデクスターの声を重ねたデュアル・ヴォーカル・パート、「Trust In You」のサビの響き、「You're Gonna Go Far, Kid」のフックの強い歌メロ、「Hammerhead」が放つときにメタルな疾走感、「Takes Me Nowhere」が漂わすアッパーでややファニーなヴァイブ、「Nothingtown」の昔ながらのパンク・ロック・フレイバー、「Fix You」の穏やかなメロウ感、「Let's Here It For Rock Bottom」のレゲエなグルーヴ、「Rise And Fall」の“パンク・ロック特有のイケイケ感”などがたまらなくいいし、だからこそピアノを取り入れたややドラマチックな「A Lot Like Me」も、アコギが弾かれるもダイナミックな世界観を描く「Kristy, Are You Doing Okay?」も余計引き立つし、生きるのだ。
実は今作の欧米メディアでの評価は賛否両論だった。そうしたメディアの評価について、当時デクスターはこう語っている。
「これがパンクロック、これはパンクロックじゃないと誰が決める?俺は楽曲を書き、それを聴きなにかを感じてくれる人たちがいる。そして、より多くの人たちに自分の音楽を届けたい、と俺は思う。それができて、かつやり続けることができれば、俺の人生は成功さ。俺の望みは世界いちクールな人間になりたいとかじゃなく、聴く人にとってなにか意味を持つような音楽を書きたいっていうことだ。成功によって一部のファンを失い、新しいファンを獲得することもあるさ」
途中ベスト盤『THE GREATEST HITS』発売は挟んだものの、オリジナル・アルバムとして今作は前作から実に5年ぶりのものとなった。オリジナル・アルバム発売で、バンドがここまで長いインターバルを置くのは、このときが初めてだ。それを意識してのことだろう、バンドはいつもより少し早目の時期からライヴ活動を再開させている。今作発売の1ヵ月前の2008年5月からで、グレッグが奥さんの出産につき添うため頭の約2週間ほどは不参加だった。代役を務めたのが、FACE TO FACEやME FIRST AND THE GIMME GIMMESでの活動で知られるスコット・シフレットだ。FOO FIGHTERSのクリス(g)の兄弟としても知られる。このときからバンドはツアー要員を同行させ始めた。このときはHURRICANE〜LYNCH MOBと80'sメタル・バンドを渡り歩いたアンドリュー・フリーマン(g,vo)が同行した。これまた意外な人選だった。
そして2008年10月、バンドは今作を携えて再来日した。その東京公演初日を観たのだけど、すばらしいの一言につきた!始終エキサイトさせられっばなしだった(笑)。続いて2010年夏のサマソニ2010出演でも再来日した。
手前味噌な話ながら、GrindHouse magzineでTHE OFFSPRINGが表紙を飾ったのは、右にある写真Vol.48が初めてだった。
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■■■ 有島博志プロフィール ■■■
80年代中盤よりフリーランスのロックジャーナリストとして活動。積極的な海外での取材や体験をもとにメタル、グランジ/オルタナティヴ・ロック、メロディック・パンク・ロックなどをいち早く日本に紹介した、いわゆるモダン/ラウドロック・シーンの立役者のひとり。2000年にGrindHouseを立ち上げ、ロック誌GrindHouse magazineを筆頭にラジオ、USEN、TVとさまざまなメディアを用い、今もっとも熱い音楽を発信し続けている。
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