MARILYN MANSONのあの日、あの時17

2012年11月19日 (月)


『THE GOLDEN AGE OF GROTESQUE』まとめ、そして“課外活動”
文●有島博志(GrindHouse)

 『THE GOLDEN AGE OF GROTESQUE』は意外にも、MARILYN MANSONのこれまでのキャリアにおいてヨーロッパでもっとも大きな成功を収めた作品となった。主要5ヵ国のチャートで初登場1位もマークした。今思い返してみると欧米各国、そして日本での今作に対する評価はさまざまだった。批判的な意見もあり、なかには「マンソン自身からして音楽から離れようとしている」といったお門違いの批評を読んだ覚えがある。確か英ラウド・ロック誌『KERRANG!』だったかと…。

 ヨーロッパで最大級のセールスを挙げたという裏には、今作のテーマがヨーロッパの歴史上の出来事からインスパイアされたもの、ということもあるもかもしれない。連載16回にあたる前回に、マンソンの発言を用い、今作が「1920年代のデカダンの香り漂うスウィング音楽からインスパイアされた作品」と記した。テーマとしてさらに置かれているのが、1930年代の、特にナチス・ドイツ政権以前のワイマール共和国の裏社会、退廃芸術の実態だ。大学教授メル・ゴードンの著書『VOLUPTUOUS PANIC:THE EROTIC WORLD OF WEIMAR BERLIN』が手本になっている。ナチス・ドイツに制定される前、性の氾濫を窮めた街ドイツのベルリンの裏社会を暴いた内容だ。マンソンはこのために教授と直接連絡をとり、著書の内容をテーマとして使用することの快諾を得たそうだ。実は今作では、三重のストーリーが展開するのだ。憶測が充満した未来のない生についてまくしたてるパンク・ロックの流行シンガーの物語、そして精一杯生きるという理想論が人間を虚無的な愚か者にするということをパロディのように語るというものだ。歌詞的には前作『HOLY WOOD (IN THE SHADOW OF THE VALLEY OF DEATH)』(2000年)のそれと同様に歴史や大衆娯楽の要素が伺え、マンソン得意の言葉遊びやダジャレ、二重の意味をもつ言葉、造語も随所に飛び出す。が、しかし、前作にはわりと難解な隠喩の歌詞が目立ったのに対し、今作のそれは一転、ストレートな表現によるものが多いのが特徴だ。オーストリア系アイルランド人画家ゴットフリート・ヘルンヴァインによるアートがジャケに使われている、とは前回にも書いた。後日、マンソンは今作についてこう回想している。

「想像力は常に必須だ。それが悪いものだとは思わない。(ゴットフリート・)ヘルンヴァインとともに生みだしたイメージを“悪”だとか“冒涜”だと言う人がいるかもしれないが、これよりはるかに悪いものがCNNで放送されている。それが現実さ。だから俺たちにだけ禁じることはできない。現実の世界こそ子供に悪のメッセージを送っているじゃないか」

 今作発売時にまたぞろあちこちから噴き出したマンソンと今作への批判に対するコメントだ。と同時に、当時もうひとりマンソンに異を唱えた人物がいる。なにを隠そう、今作のジャケを担当した、先のゴットフリート・ヘルンヴァインその人だ。ヘルンヴァインとマンソンはジャケのほかにも絵画展用などの作品も一緒に取り組んだらしいのだけど、それらの多くが日の目を見ることがなく、失望したと近しい人たちに語った、とされている。

 今作を携えてのGrotesk Burlesk Tourは、2003年4月より、まさにうってつけの公演地選びと言える、ドイツのベルリンからキックオフされた。今作のテーマの世界観をさらに膨らませたセットが組まれ、ステージにはドイツのキャバレー、ボードビルショー、大衆演芸の劇場風の要素がふんだんに盛り込まれ、2人のストリップダンサーが4曲に登場した。ゴットフリート・ヘルンヴァインはそうは言うも、装飾には彼による緻密なアートがけっこう使われていた。そしてメンバー全員がステージの上下問わず、有名デザイナーによる衣装を着始めたのも、このときからだ。そのうちの一着と思しき第二次世界大戦中のナチスの軍服に似た衣装をメンバーがまとって登場したビデオは現在、非公開となっている。

MANSON'S SINGLE COVER GALLERY

「THIS IS THE NEW SHIT」 (2003年)
まず『THE GOLDEN AGE OF GROTESQUE』からの2ndシングル「THIS IS THE NEW SHIT」。2003年9月の再来日公演を記念し日本盤化もされ、表題曲のアルバム・ヴァージョンと同リミックス・ヴァージョン、「Tainted Love」のリミックス・ヴァージョン、未発表音源「Mind Of A Lunatic」のほか、日本では未発表だった1stシングル『mOBSCENE』B面収録曲の表題曲リミックス・ヴァージョン2曲(うち1曲はRAMMSTEINリミックス)が聴け、さらに「This Is The New Shit」「mOBSCENE」「Tainted Love」など3曲のPVも観られる。このヴァリュー高しの内容で税込価格¥2,079は買い得だ。が、しかし、残念ながら絶版。本文に、第二次世界大戦中のナチスの軍服に似た衣装をステージで、と書いたけど、このジャケの写真がそれを如実に物語る。
「PERSONAL JESUS」 (2004年)
続くは3rdシングル「PERSONAL JESUS」。表題曲のほか同リミックス・ヴァージョンに「mOBSCENE」の上記とは異なるリミックス・ヴァージョン、そして表題曲のPVという内容だ。こちらも絶版。PVにはマンソンが本物の赤ん坊を抱き、あやすシーンが出てくる。

 また後日、マンソンは今作に関してこんなエピソードを明かしている。今作で聴かれるキーボード/シンセサイザーのほとんどは、当時布陣に顔を並べていたマドンナ・ウェイン・ゲイシー(key)によるものではなく、マンソン自身によるものだったそうだ。ゲイシーは今作制作の初期段階からやる気がなく、スタジオにくることすら拒んでいたという。それでも彼はGrotesk Burlesk Tourには同行し、最終的には2007年発売の次作で通算6枚目にあたる『EAT ME, DRINK ME』までマンソンと行動をともにするのだけど…。

 タイムライン的には少し遡ることになってしまう。連載前回にマンソンが、KORNのジョナサン・デイヴィス(vo,g,bagpipe)がヴァンパイア映画『QUEEN OF THE DAMNED』(邦題『クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア』/2002年)のサントラのために書き下した5曲のうちの1曲である「Redeemer」に参加し、歌っているということは書いた。90年代後半からマンソンがMARILYN MANSONの活動と並行して、いわゆる個人の“課外活動”もちょこちょことやってきている。なかでも90年代後半から2000年代前半にかけて一世を風靡したUS東海岸ハードコア・ラッパー、DMXの2枚目『FLESH OF MY FLESH, BLOOD OF MY BLOOD』('98年)収録曲「The Omen(Damien U)」へのゲスト参加はよく知られる。ホラー風味のある楽曲で、DMXがラッピングする後ろでマンソンが囁くように歌う。さらに2000年にはメジャー・レーベルEMIの傘下にあったPriority Records内に自身のレーベル、Posthuman Recordsを設立した。第一弾アーティストとしてGODHEADと契約、『2000 YEARS OF HUMAN ERROR』(2001年)を発売した(同タイミングで日本盤化もされた)。いわゆるインダストリアル・ミュージックがかったヘヴィ・ロックで、THE BEATLESのカヴァー「Eleanor Rigby」のラジオ・ヒットも手伝い、当時けっこう話題になり、注目もされた。マンソンも相当の入れ込みようで、元BLACK GRAPEのダニー・セイバーとともに作品を共同プロデュースし、「Break You Down」に参加し、激烈スクリームも披露している。が、なぜかPosthumanの作品発売はこの作品が最初で最後となった。また、『PORTRAIT OF AN AMERICAN FAMILY』('96年)でのメジャー・デビュー前からその後にかけての頃のこと。マンソンは一時活動拠点を置いていたUS南部フロリダ州ラウダーデールを中心に活動していたインダストリアル・ミュージックからの影響が強いロック・バンド、JACK OFF JILLの“後見人のような存在”だった時期がある。すでにバンドは解散しているけど、その頃の音源が『HUMID TEENAGE MEDIOCRITY 1992-1996』(日本盤未発売)にまとめられている。24曲収録で、うち18曲をマンソンがプロデュースしていることからも、そのゾッコンぶりが窺えるというものだ。

 次回、話は『EAT ME, DRINK ME』へと突入する。



MARILYN MANSON 関連タイトル!

FILTER / 『SHORT BUS』('95年)
FILTERのデビュー作。NINE INCH NAILSの『PRETTY HATE MACHINE』('89年)発売に伴うツアーでギターを弾き、次のEP『BROKEN』('92年)収録曲で製作のPVにも出演したリチャード・パトリック(vo,g)のバンド。MARILYN MANSON同様、NINE INCH NAILSのトレント・レズナー(vo,g,key,synth.)によって押し上げられたアーティストだ。いわゆる“歌もんインダストリアル・メタル”と言えるサウンドで、ダークでヘヴィながらもしっかりと歌う、というスタイルをこの世に初めて送り出した作品と言えなくもない。ド頭を飾る「Hey Man Nice Shot」がラジオでかかりまくったこともあり、100万枚以上のセールスをマーク、見事プラチナ・ディスクに輝いた。ダーク過ぎることも、また激し過ぎることもない、実に聴きやすく、それでいて聴く者にしっかりと印象を残す作品だ。
文●有島博志(GrindHouse)

MARILYN MANSON 最新作ニュース

■■■ 有島博志プロフィール ■■■

80年代中盤よりフリーランスのロックジャーナリストとして活動。積極的な海外での取材や体験をもとにメタル、グランジ/オルタナティヴ・ロック、メロディック・パンク・ロックなどをいち早く日本に紹介した、いわゆるモダン/ラウドロック・シーンの立役者のひとり。
 2000年にGrindHouseを立ち上げ、ロック誌GrindHouse magazineを筆頭にラジオ、USEN、TVとさまざまなメディアを用い、今もっとも熱い音楽を発信し続けている。
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3部作完結後のマンソン新章突入作

Golden Age Of Grotesque

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Golden Age Of Grotesque

Marilyn Manson

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マンソンとKORNのジョナサンの共演曲収録

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マンソンがゲスト参加

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マンソンのレーベルからのリリース第一弾

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収録24曲中、18曲をマンソンがプロデュース

Humid Teenage Mediocrity 92-95

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Humid Teenage Mediocrity 92-95

Jack Off Jill

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発売日:2006年05月09日
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関連タイトル

Short Bus

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Short Bus

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    Marilyn Manson

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