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【総力特集】 イスラエル・ジャズメンの群像を追って

2012年11月20日 (火)


イスラエル・ジャズメンの群像を追って
テルアビブの街 撮影:ズィヴ・コレン

  
  はじめに
 「ここではないどこかへ行きたい」という想い焦がれはきっと誰にでもあるだろう。

国境を越えて言葉を越えて身を投じようとするその”どこか”が、ジャズを通じて心傾けるイスラエルであった場合 --------

 21世紀のエキゾティシズムの在り様が方々で論じられている最中、彼らイスラエル・ジャズメンのほとんどは若くしてジャズの本場ニューヨークに活動の場を求め、三々五々自らの出自と向き合いながらメッカを巡礼し漂流していった。彼らのそんな初期衝動や情熱の結晶が、今ではシーンにひとつの潮流をかたちづくるまでになったということは言うまでもないだろうが、そのあまりにも一頭地を抜いた活躍ぶりを見るにつけ聞くにつけ、やはりどうしても彼らから実際に話を訊いてみたかったのが本音のトコロ。

 日本では一部のジャズ・ファンを除いてまだまだ馴染みのうすい名前かもしれないが、すでに世界中で「今最も高揚感のあるジャズを生み出す男」といった称賛を浴びているベーシストのオメル・アヴィタル(Omer Avital)。運よく彼に取材を行なうチャンスに恵まれたことで、シーンの最前線を窺えただけでなく、ジャズという半ば得体の知れない、しかしながら歴史深く而も高速で進化を続ける音楽(音楽文化)のキメラな”本性”のようなものを朧げで大局的ながら捉えることができたような気もする。そんな興味深い話の数々を特集のコアに据えて。

 個性派揃い踏むイスラエル・ジャズメンを「彼ら」 「群像」とクラスター的に呼称する心苦しさは幾らかあるものの、やはり彼らには心情三派スクラム・ダウンでジャズの未来を切り拓いていこうとする連帯感や団結力としての強さがあるように思えてならない。四海同胞、類は友を呼ぶの精神か? とにもかくにも、ここ十年のシーンにおいて最もアツいジャズメンたちにググッとフォーカス。

 イスラエル・ジャズメン、彼らの群像を追い求める旅、おたのしみください。


小浜文晶 (ローソンHMVエンタテイメント)




  と、その前に、イスラエルってどんな国?
 「イスラエル」は国でもあり、民族でもあります。ユダヤ民族の歴史、またイスラエルの地におけるルーツは、3500年前にも遡れます。この地で、文化的、民族的、宗教的アイデンティティが形作られ、この地で、何世紀にも渡って、大多数が離散の憂き目を強いられた後でさえ、物理的な存在が途切れずに続けられてきたのです。1948年のイスラエル国建国に伴い、2000年前に失われたユダヤの独立が復活しました。

位置
イスラエルは中東に位置し、地中海の東海岸に沿った場所にあります。国境をレバノン、シリア、ヨルダンおよびエジプトと接しており、ヨーロッパ、アジアとアフリカの3大陸の交差する場所ともなっています。

地理
細長い形をした国土であり、縦の長さは290マイル(470km)、横幅は最も広いところでも85マイル(135km)です。国土のサイズは小さいものの、イスラエルは森林の広がる高原、肥沃な緑の谷から、山々の連なる砂漠地帯まで、あるいは海岸の平野から亜熱帯のヨルダン渓谷、世界で最も低い位置にある死海まで、大陸のあらゆる気象的条件の特徴を併せ持っています。国土のおよそ半分が、半乾燥地帯です。

気候
イスラエルの気候は日差しが豊かであること、11月から4月までの雨期があることが特徴です。年間の降水量は北部で20〜30インチ(50〜70cm)、南部では1インチ(2.5cm)です。地域的な気候条件はバラエティに富んでおり、海岸の平野地方に見られる蒸し暑い夏と穏やかで湿気の多い冬、渓谷地域の暑く乾燥した夏とヨルダン渓谷のように過ごしやすい冬、また南部の半乾燥気候では暖かい、もしくは暑い昼と冷涼な夜があります。

人口構成
イスラエルは移民の国です。1948年の建国以来、イスラエルの人口は10倍近くにまで増えていますが、その780万人の国民はあらゆる人種背景、生活様式、宗教、文化と伝統のモザイクから構成されています。今日では、ユダヤ人が人口の75.4%を占め、一方ユダヤ人以外の国民の24.6%のうち、大半(20.5%)がアラブ人です。

主要都市
イスラエルの首都、エルサレム(人口788,100人)は、ダビデ王が約3000年前に王国の首都として以来、ユダヤ人の民族的および精神的な中心として立つ街です。今日ではエルサレムは繁栄し活気のある大都市であり、政府が置かれ、イスラエル最大の都市となっています。

テルアビブ−ヤッフォ(人口404,300人)は、1909年に最初の近代ユダヤ人の町として創設され、現在は国の産業、商業、経済、文化生活の中心となっています。

ハイファ(人口268,200人)は古代より海岸の町として知られ、地中海に面した港湾都市であり北部イスラエルの産業および商業の中心地でもあります。

ベエル・シェバ(人口195,400人)は聖書に族長たちの宿場としてその名が登場する街です。現在ではイスラエル南部最大の中心都市となっており、南部地域の行政、経済、保健医療、教育・文化サービスを提供しています。


文化
数千年の歴史と、70カ国以上からのユダヤ人移民、多様な人種の共存する社会、そして衛星やケーブルを用いた限りのない国際的な情報の流入は、世界基準に照らし合わせつつ、自らのアイデンティティへの葛藤も併せ持つイスラエル文化の発展に貢献してきました。文学、演劇、コンサート、ラジオ・テレビ番組、娯楽、博物館やギャラリーなどの文化表現は、人々の多彩さ同様に多様なものとなり、あらゆる関心や趣向を持つ人に応えられます。公用語はヘブライ語とアラビア語ですが、街の通りでは数多くの他の言語を耳にします。聖書の言葉であるヘブライ語は、長期間に渡って祈祷と文学のための使用のみに制限されていましたが、1世紀前、この地におけるユダヤ人の生活の復興とともに復活しました。

(駐日イスラエル大使館)


Red Sea Jazz Festival
(レッド・シー・ジャズ・フェスティヴァル)

第1回大会は1987年。毎年夏に4日間の日程で、イスラエル最南端の港湾都市エイラートで開催される大規模なジャズ・フェスティヴァル。自国のミュージシャンだけでなく、国際的に活躍するジャズ・アクトが出演することもあって、毎年国内外から7万人以上の観衆を集めている。これまでにもランディ・ブレッカー、ミロスラフ・ヴィトウス、ジョン・アバークロンビー、チャーリー・ヘイデン、ジョン・スコフィールド、クリス・ポッター、カーラ・ブレイ、リチャード・ボナ、カート・ローゼンウィンケル、ディー・ディー・ブリッジウォーター、リッキー・リー・ジョーンズ、さらに日本からは上原ひろみなどが出演。2008年からは同フェスのディレクターにアヴィシャイ・コーエン(b)が就任。若手ジャズ・ミュージシャンを積極的に紹介する場として、世界中から少壮血気のホープを数多く招聘した。今年2012年からはアヴィシャイに代わりエリ・デジブリが新たに芸術監督に就任している。


「彼らはどこでも物怖じしない」

 イスラエル ではジャズの敷居がとても低い。出演者も観客も若者が多く、ライブ・ハウスの入場料は日本円で900円から1800円程度と手ごろだ(日本と物価は同程度)。ドリンクは頼まなくてもいいし、満席だったら地べたに座ればいい。アーティストと観客の距離は極めて近く、アーティスト本人やその家族に「素晴らしい演奏だった!」と演奏を聴いた感動を直接伝えることができる。そんな場所に東京ジャズフェスにも登場したギタリストのギラッド・へクセルマンやオズ・ノイ、また日本でも注目株のシャイ・マエストロが登場する。ファンにはたまらない環境だ。

クリックで拡大  ライブで耳にする音楽は、スタンダードよりもアーティストのオリジナル曲が圧倒的に多い。これもイスラエルのジャズの特徴の一つだ。イスラエルでは、ジャズ・アーティストを目指してジャズ専科のある芸術学校に通う中高生が増えているが、彼らは中学校ですでに作曲を始める。世界のステージで活躍している現役アーティストが直接指導する教育環境に加えて、「他人と違うこと」を高く評価する社会が、若者の作曲活動を後押しする。世界に巣立ったアーティストも、若い頃に鍛えられた経験を生かして自己表現を追及し、オリジナル作品を発表し続ける。

 そのオリジナル作品はあまりに多様だ。音楽の多様性は、イスラエル社会の多様性を反映している。学校では共通語のヘブライ語を操りながらも、家に帰ればロシア語、フランス語また英語など別の言語で生活する子どもがクラスに何人も存在する。イスラエルは、国民の三人に一人が国外出身という移民社会のため、言葉に加えて、子どもの頃から耳にした「音の原風景」が家庭によって異なるが、それがテレビやラジオを通じて社会にも染み出している。そんな多様な音楽に囲まれて育った若者が、自由で変化し続けているジャズという音楽の言語を通じて、泥臭さと新鮮さの調和した新しい音楽を生み出している。そして、より大きな自己表現の場を求めてNYなど世界に飛び出していく。


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 イスラエルのレストランでメニューを選んでいると「私だったらこれは頼まない、こっちが絶対お勧め」と「アドバイス」するウェイターにしばしば出くわすが、自分の好みに自信を持って主張するのはジャズ・アーティストも同じだ。ニューヨークのジャズ・メン達のイスラエル人アーティスト達に対する「彼らはどこでも物怖じしない」との評価も納得できる。

 「1992年1月、アビシャイ・コーエン、オメル・アビタルそしてアビ・レボビッチの3人がNYに飛び立った」ことはイスラエル・ジャズ界の伝説となっているが、それから20年が経過した今、NYに飛び立ち、活躍するイスラエル人アーティストは数え切れない。ジャズを通じて何かを表現しようとする若者は増え続け、世界で活躍するアーティスト達が彼らを育てている。これから誕生する新たなイスラエル人アーティスト達が、どんな魅力的な作品を発表してくれるのか今後も楽しみだ。

樋口義彦 (フリーライター)



特集コンテンツ

【インタビュー】 オメル・アヴィタル

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【特集】 イスラエル・ジャズメンの傑作を追う 〜 主要ディスクガイド

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