SIGH 川嶋氏コラム第7弾!

2012年7月27日 (金)

SIGH / Mirai Kawashima
SIGH / Mirai Kawashima
<元祖殺人バンド NME!>

『Venomのせいで死んだ人間が、少なくとも6人はいる。』


Euronymous (Mayhem)

Mayhem の故 Euronymous の発言である。悪魔崇拝はロックやへヴィメタルの題材として、長らく使用されてきた。しかしそれはあくまで西洋社会において規範となるキリスト教への反抗の象徴としてであり、あの Venom であってもその点に何ら変わりはなかった。そもそも「机の下でマスターベーションをしていたら、女教師に見つかった!」などと歌っているバンドが、本気で悪魔主義者である可能性は限りなく低い。というより授業中にマスターベーションする方が、悪魔主義者であるよりもレベルが上のような気すらする。90年代初頭、ノルウェーのブラックメタルバンド、ファンが教会放火、殺人などの事件を次々に犯した件について聞かれたときも、Venom の Cronos は当然そのような行為を批判、自分たちは犯罪行為を一切支持しないと表明した。それに対するノルウェー側の返答が冒頭の Euronymous による発言だった。

 バンドのせいで人が死ぬ?一体どういうことか。例えば Judas Priest は、曲にサブリミナルメッセージが入っていたせいで少年が自殺した、というとんでもない理由で訴えられた。Ozzy Osbourne も "Suicide Solution" のせいで少年が自殺したと訴えられている。当然どちらもアーティスト側の勝訴に終わっているが、Venom がそのような裁判に巻き込まれたという話は聞いたことがない。Venom のコンサートで火災が起きて死者が出た、などということもない。ファンがステージに殺到、将棋倒しで死者が出たこともなければ、突風でステージが倒壊して犠牲者が出たこともない。確かに Venom は悪魔に関する歌を歌っているものの、どちらかというとその風貌も相まって、そのイメージはコメディチックですらある。それに Cronos はエアロビクスのインストラクターをやっていたことがあったり、Mantas はマーシャルアーツを実践していたりと、むしろ健康的な面も十分持っているバンドであった。Cronos のエアロビの生徒が、おかげで健康になりました!と感謝したのならばまだわかるのだが、Venom のせいで人が死ぬなんて俄かには信じがたい。


Venom

 では一体 Venom のせいで命を落とした6人とは誰のことなのか?実はこれ、はっきり言ってしまえば Euronymous による創作、完全な誇張。というのも本人に直接、その6人って誰?と問いただしたことがあるのだが、「NME と、あと5人は、うーん、忘れたなあ。」という状態。明らかに適当にごまかしているの丸出しであった。しかし、それでは架空の5人はともかく、NME とは何のことなのか。


NME


『Satan's Revenge』
 NME は1984年、アメリカのワシントン州で結成されたスラッシュメタルバンドである。85年に New Renaissance Records"Satan's Revenge" というオムニバス LP に参加、翌86年にはデビューアルバム "Unholy Death" をリリース。だが、バンドを(それなりに)有名にしたのは、音楽のクオリティではない。アルバムリリース後、ギタリストの Kurt Struebing養母を斧とハサミで惨殺。ドラッグにより錯乱、自分はロボットであると思い込み、養母も同様であるのか、体内がどうなっているか見てみたいと思った末の犯行と自供している。一方で、Kurt は悪魔主義に傾倒、養母は性的暴行も加えられており、殺人は儀式的側面もあったのではとする説もある。これにより、彼は第2級殺人で懲役12年の判決を受けているのだが、決して90年代のノルウェーにおけるブラックメタルようなセンセーショナルな取り上げられ方をされたわけではなく、せいぜいメタル雑誌のニュース欄に数行の記事が載った程度。事件によりアルバムの売り上げが上がるどころか、逆に Satan's Revenge 、Unholy Death ともに廃盤、ますますバンドの知名度は下がる結果に。NME がアンダーグラウンドメタルファンの注目を引いたのは、実は90年代に入り、Euronymous がその名を口にしてからのこと。しかもNMEファンを公言していた Euronymous ですら、"Unholy Death" を所持していなかったほど、その流通枚数は少なかった。これは事件でアルバムが廃盤になったということよりも、そもそもそれ以前に殆ど売れておらず、市場にまったく出回っていなかったことを示している。(当時はCD再発前。)  肝心の楽曲だが、これはもう Venom 直系としかいいようがない。リフも Venom だし、ヴォーカルも Cronos 系列。実際 Venom のカバーもやっている。ただ、当時のインタビューでは、「Venomには影響を受けてはいるが、やっていることはあくまでもオリジナル」であるとかなり執拗に主張してはいるのだが。まあいずれにせよ、シンプルだがとにかくパワフルでカッコいい。ただしリハーサルテープかと思うような音質かつチューニングも非常に怪しいので、万人向けではない。Venomの100倍汚いと思ってもらえれば間違いない。"Satan's Revenge" に至っては、なぜか曲でななく、ただのノイズイントロを収録。アルバムリリース前のオムニバス LP 参加ということであれば、普通は気合を入れて、一番の自信作を収録するはずなのに、一体何を考えていたのだろう。NME に関してはわからないことだらけだ。

 1994年、予定よりも数年早く刑期を終え、Kurt は出所。Euronymous の発言のおかげで、刑務所に入る前よりも NME の知名度は格段に上がっていたが、皮肉なことに Euronymous 自身はすでにこの世を去っていたのだが。伝説の激レア LP は CD で再発され、さらにはニューアルバムまでレコーディングされるという話になった。その時の煽りが秀逸、「この間まで刑務所で過ごしていたため、モダンヘヴィネスに一切毒されていない、80年代の本物のスラッシュが期待される!」。確かに非常に説得力がある。何しろモダンヘヴィネス、ニューメタルを知らずに、いきなり80年代から90年代へワープしてきた人間が作るスラッシュアルバムである。期待するな、という方が無理な話。


『Machine of War』
 果たして翌95年にリリースされた "Machine of War 95""Machine of War"というのは元々85年に作成されたデモのタイトル。中身は昔の曲の再録+新曲+カバーという、言ってみれば肩慣らしレベルの作品。とは言え NME の新作となれば、その期待は大きい。アルバムは過去の名曲、"Lethal Dose" の再録からスタート。しかし、何といえばいいか、これ、アレンジが全然違う。どう違うかというと、これ、言うなれば完全にモダンヘヴィネス。。。しかもかなり中途半端な。。。スラッシュを無理やりモダンヘヴィネス/ニューメタル化しようとして大失敗したような出来。しかもこれ、"Lethal Dose" 1曲だけではない。リメイクされた曲、新曲すべてがモロにモダンヘヴィネス。さらにカバーの出来も酷い。Black SabbathAC/DCSlayer などのカバーが入っているが、アマチュアのコピーバンドのリハーサルを聞かされているような気分になる。しかも Slayer に至っては、選曲が "Sounth of Heaven"。これ、リリースは88年ですよね?ということは Kurt は刑務所にいたはずですよね?もうすべてが壮大なギャグだったのかもしれない。だいたい Kurt は刑務所にいたかもしれないが、他のメンバーは思いっきり塀の外にいたわけだし、この音を聞く限り、相当モダンヘヴィネスに入れ込んでいたのではないだろうか。とにかく「モダンヘヴィネスに毒されていない」ことを売りにした、「モダンヘヴィネス丸出しのスラッシュ」という、Celtic Frost"Cold Lake" クラスの訳わからないアルバムだ。しかも斜めに見て楽しむことすら不可能な、擁護しようのない酷い作品だ。当然何の話題にもならずに終わった。せっかく Euronymous がチャンスを作ってくれていたのに。そこが NME らしいと言えば NME らしいのかもしれないのだが。


『Vermination』
 2002年にも "Vermination" というアルバムを出したが、本作ではこれまた何故かまったく理由はわからないが、突如として C.O.C. の "Animosity" 期を思わせるようなクロスオーバーを披露。これは "Machine of War 95" に比べれば遥かにマシ、決して悪い作品ではないのだが、ずば抜けて良い作品であるはずもなく、やはり何の話題にもならなかった。 "Machine of War 95" と "Vermination" の2枚ついては、おそらくバンドが CDR で販売したのみであると思う。なので現在では入手はほぼ不可能。今後物好きなレーベルが発掘でも行わない限り、発見は難しいかもしれない。いずれにせよ、どちらも(特に前者)は無理して聞く必要はまったくないのであるが。


Abigail

 2002年の11月に、日本の Abigail がシアトルでライブを行った際、NME のTシャツを着た男が現れ、「お前らが Abigail か?」と話しかけてきたそうだ。それが何と Kurt 本人。どうやら Abigail が NME のファンであることを聞きつけ、わざわざ会場までやってきたらしい。「俺はウルトラマンとゴジラが大好きなんだ。」と最初は紳士的にフレンドリーに話していた Kurt だが、酒のペースが上がるに連れ凶暴化。Abigail のライブが始まり、NME のカバー、"Louder than Hell" を演奏すると、Kurt はテンションが上がりすぎたのか、そこら中にビールをぶちまけるは、Abigail のメンバーの靴のヒモをほどくなどの小学生並みのいたずらをしたりと大暴れ。ついにはライブ中断に追い込まれるまでに至った。何とか Kurt をなだめ、一緒に "Louder than Hell" をセッションしようということでライブは再開、無事終了するも、その後も Kurt は暴れ続けていたらしく、Abigail のメンバーは、オーガナイザーから「あいつはクレイジーだから関わらない方が良い。」と忠告を受けたそうだ。おそらくはアルコールや薬物が入ると、自分でも訳がわからなくなってしまうタイプだったのだろう。

NME の伝説はここで終わらない。


Kurt Struebing
 2005年3月、例のギタリスト Kurt Struebing がハイウェイから車ごと転落、39歳の若さで突如この世を去った。Kurt は仕事帰りにハイウェイをドライブ中、大型船舶を通過させるために開閉式になっていた道路から転落。結局は単なる交通事故ということで処理をされたようであるが、当然途中いくつもの警告が出ていたのを無視して突っ込んでいることから、自殺ではないかという噂も根強い。だが遺書があったわけでもなく、特に何かトラブルに巻き込まれいた、或いは悩んでいたという様子もなかったようだ。当時私もメールでやりとりをしていたが、特に自殺を仄めかすようなことは一切なかった。発作的に、突発的に自殺をしてしまったのか。あるいは何か考え事をしていて警告を見逃し、不運にも事故にあってしまったのか。真相は最早わからない。オリジナルのヴォーカリスト、Brian が復帰、モダンヘヴィネスを脱却して昔のような音でやり直そうとしていた矢先の事故だったようで、非常に残念である。現在バンドは休止状態。活動はしていないものの、決して解散を宣言をしたわけではない。今後復活する可能性も十分にありうる。


 というわけで、確かに NME は音的に Venom 直系のバンドではあったが、だからと言ってその殺人事件までもが Venom のせいかと言うと微妙も微妙、Venom に言わせれば関係あるわけないだろ、というところだろう。ただ、デビューアルバムの "Unholy Death" だけは汚いスラッシュが大好きな人は必聴。これまでに CD は正規に4度、ブートで2度も再発されているという人気ぶり。最近では LP3枚組、CD2枚組もリリースされている。この手の作品は廃盤になるのも早いので、再発盤を見かけたら、迷わず入手しよう。

川嶋未来/SIGH
http://twitter.com/sighjapan

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