[月刊] 和モノレゲエ市 第2号

2012年3月26日 (月)


[月刊]和モノレゲエ市 no.2

 


「全日本レゲエ歌謡ジャンボリー」 改訂版



はじめに

 「和モノレゲエ」とは、一般的にレゲエ・アーティストではない日本の歌手、グループによって歌われたレゲエ・アレンジ、スカ・アレンジの楽曲(純歌謡曲、ロック、ニューウェイヴ、アイドル、演歌等スタイルは様々)のことを少なくともここでは指しています。5年ぐらい前に出ていたECDのミックスCD『Strictly Rockers chapter 17』や、雑誌「Relax」監修のコンピレーション『Relaxin With Japanese Lovers』の、まさにあのセンスですね。こちらでは、そんな和モノ市場のトレジャーアイル「和モノレゲエ」を月イチ連載形式で少しずつご紹介していこうという目論み(のちにレゲエ〜ダブ・リミックスを施したものなどは除外しています)。あまりにも採算が取れない本コーナー、大手の悪フザケととるか文化遺産の正しき継承事ととるかは閲覧者であるお客様次第。いつまで続くかも皆目検討つかずですが、ローソンHMV 和モノレゲエ課のエリート刑事たちが日夜レコ屋街を這いずり回って検挙した”クロ”なブツの数々、定番モノからニューディスカヴァリーまで百花繚乱、「アレがねぇ、コレがねぇ」とザワツキながらおたのしみください。


 校了ギリギリセーフを大いに記念したい[第2回]は、HMV名物ライブ企画に登場することが決まったあのバンドの、あの銘レゲエ・カヴァーを上座に据えて、定盤・穴盤、もちろん廃盤・未CD化盤、各種取り揃えた心躍るラインナップに。



バックナンバーはこちら


  • [月刊] 和モノレゲエ市 創刊!

    [月刊] 和モノレゲエ市 創刊!

    根津甚八『火男』の初CD化にテンションうなぎのぼり。そんな全国1000万人の和モノレゲエ・フリークと悦びをこっそり分かち合う連載が慎ましくスタート!

 
 
  • Tico & Icchie 「青春レゲエ」

    青春レゲエ
    Tico & Icchie

    オリビアを聴きながら - feat. チエコ・ビューティー / あの日にかえりたい - feat. 中納良恵 / セカンド・ラブ - feat. 武田カオリ / 海を見ていた午後 - feat. チエコ・ビューティー
    ほか全12曲



  •  土生”TICO”剛(リトルテンポ)、icchie(デタミネーションズ)がガッチリ手を組んだ歌物プロジェクト=Tico&Icchie。彼らと旧知の仲にある、中納良恵(EGO-WRAPPIN’)、武田カオリ(TICA)、サヨコ(サヨコオトナラ)、チエコ・ビューティー、高木一江という実力派女性シンガーたちが、70年〜80年代の歌謡曲/ニューミュージックの名曲をレゲエ・アレンジに乗せて唄い上げる。まるで王道の娯楽映画のように、誰もが楽しめる『青春レゲエ』。ジャケットは、水森亜土のイラストを使用!


カーネーション
「いくいくお花ちゃん」 ('92)

作詞:佐藤信/補作詞:直枝政太郎/作曲:岡林信康

天国と地獄 20周年記念コレクターズ・エディション
 
 天国と地獄 20周年記念コレクターズ・エディション
 Pヴァイン PCD7318
 HMV主催の新たなライブシリーズ「HMV GET BACK SESSION」にカーネーションが登場! 今年発売20周年を迎えた『天国と地獄』の完全再現ライブが5月大阪・6月東京で実現! それに先がけて『天国と地獄』の20周年記念コレクターズ・エディション(DVD付き3枚組)もリリース! ということで、今月まずはこの目出度きプロダクツから”和モノレゲエ”をご紹介。「いくいく...」は、ご存知 岡林信康のURC期最後のスタジオ盤『俺らいちぬけた』(バックは柳田ヒロ、高中正義、鈴木慶一ら)に収録されたフォーク・ロックで、シングル盤「堕ちた鳥のバラード」のカップリング曲としても有名だろう。カーネーション・ヴァージョンは、量感溢れるストロング・スタイルのルーツレゲエ・アレンジ。キュートでモンドな合いの手コーラスが逆に歌詞世界の仄暗さと絶望感を際立たせている。本作から参加の大田譲(b)と矢部浩志(ds)のリズム・セクションは、ヨコノリ・タテノリ何でもござれのグルーヴマスターぶりで、アルバムが持つある種のカオスカラーの象徴ともなっている。島倉千代子「愛のさざなみ」のハードロック・カヴァーも最高!




原田芳雄
「カラー・ミー・ライト」 ('91)

作詞:ちあき哲也/作曲:佐藤宣彦

ゴールデン☆ベスト

「天然色」
原田芳雄
「天然色」
(廃盤)
 
 ゴールデン☆ベスト
 EMI TOCT11111
 1979年、日本に残されたレゲエの深い爪痕。「ボブ・マーリー症候群」と呼んで差し支えがないほど、80年代日本の音楽シーンには一気にレゲエは伝播され定着した。そして、スズナリ横丁のブルースロック番長・原田芳雄にもボブが半分憑依。卑近なナショナリズムに一石を投じるリリックをブッといルーツレゲエに乗せて唄わせたら、当時の映画界ではこの人の右に出る者はいなかったハズ。タモリ倶楽部出演時には微塵も感じられないキザなセンスが要所で小爆発。オリジナル盤CD『天然色』及び本ベスト盤のジャケ写もワイルドすぎる。十八番だった「りんご追分」のレゲエ・カヴァー(『りんご追分・これくしょん』所収のものとは別ヴァージョン!)もお忘れなく。







  • 知名定男
    「バイバイ沖縄」 ('78)

    作詞・作曲:知名定男

    赤花
     
     赤花
     ポニーキャニオン PCCA50045
     とあるツィッターで知ったことだが、芸歴55周年を記念して行なわれたつい先日のリサイタルで、沖縄ミュージックの巨人・知名定男が引退を決意したという。「4、5年前から思うような声が出なくなってきたので、引退を決意した。今後は、先輩方から受け継いできた島唄の根元にある大切な部分を若い人たちに伝えたい」というのが本人のコメントだ。その知名定男、記念すべき本土デビュー・アルバムから。島唄にレゲエやロックの要素をミックスさせ、所謂「ウチナーポップ」、「オキナワンロック」を確立し沖縄音楽の新たな地平を切り拓いたのは、喜納昌吉と、何を隠そうこの知名さん。 






  • 小坂忠
    「ミュージック」 ('76)

    作詞・作曲:小坂忠

    小坂忠シングス
     
     小坂忠シングス
     SHOWBOAT SWAX705
     細野晴臣およびティン・パン・アレイらとの二人三脚で、日本の音楽シーンに本格的なソウル/リズム&ブルースの夜明けを導いた小坂忠の傑作『ほうろう』。 その『ほうろう』ツアーから1年、充実と疲労から解放されるかのように、レコーディングではティン・パン一派とは距離を置き、ハワイにて再びミッキー・カーティスとの制作を決意。カントリー、ハワイアン、ニューオリンズなど多彩なタッチで穏やかに唄われる楽曲が並ぶ中異彩を放つのが、冒頭のズッシリとしたレゲエ・チューン「ミュージック」。消え入りそうに切ないファルセット・ヴォイスで音楽家稼業のペーソスを訥々と語る。こちらは、デジタルリマスター&W紙ジャケット仕様+オリジナル帯復刻のショーボート30周年記念盤。





    平山みき
    「電子レンジ」 ('82)

    作詞:近田春夫/作曲:岡田陽助/編曲:窪田晴男

    鬼ヶ島
     
     鬼ヶ島
     ブリッジ BRIDGE079
     筒美京平の秘蔵っ子が親元離れ大冒険。束の間その身を預かるのは日の丸ニューウェーブ・コロネル近田春夫というのだから皆ドキドキ。 ”NEW 平山みき”をめぐる御両人のミニ対談はライナーノーツに掲載されており、筒美氏は「僕は音楽を作る方、近田君の場合はこわすっていうか、そういう立場でしょ」とまずは先制パンチ。返す刀で「京平さんの芸術的意図はボクにとって複合的すぎて、よく判らないけど」と近田氏。作家的なコンセプトは違えどどちらも偉大なる昭和の作曲家。このふたりをアレコレ悩ませるのだから、唄い手としての平山みきの魅力が如何ほどのものかを推して知れる。レゲエ・チューンは2曲。ミニマルビートを採用しながらも歌謡世界の王道を決して踏み外さない「月影の渚」と、シュールでキッチュなゴリゴリのダブ・レゲエ「電子レンジ」。後者は、ビブラトーンズによる恐ろしいまでにストイックなワンドロップ・スタイルにつき、和モノレゲエ・フリークは大昇天も時間の問題。





    森光子
    「君恋し」 ('95)

    作詞:時雨羽音/作曲:佐々紅華/編曲:船山基紀

    Mitsuko Mori
     
     Mitsuko Mori
     ポニーキャニオン PCCA03031
     1995年、国民栄誉賞受賞記念として制作された2枚組アルバム。ディスク1には豪華作家陣が書き下ろしたオリジナル10曲。ディスク2には森さんのフェイヴァリットと思しきカヴァーソングが10曲。何とここに驚きのレゲエ・チューンが! これを見つけ出した刑事は見事二階級特進。「これでようやく息子を私立に行かせることができる」と、ホッと胸を撫で下ろしていたとか。「君恋し」は所謂大正時代の流行歌で、戦後はフランク永井や寺岡真三、わりと最近ではジェロのカヴァーでおなじみかもしれない。名アレンジャー船山基紀の閃きがとにかく勝利への第一歩。岡沢章(b)、増崎孝司(g)ら鉄壁のバックがお手本のようなワンドロップ・サウンドを展開。森さんの艶だらけの歌唱も気持ちよい。これだから和モノレゲエ・ディギンはやめられない。




    参考図書 )
    「ジャパニーズ・シティ・ポップ ディスクコレクション」       「Light Mellow 和モノ 669」は現在お取り扱いしておりません   「和モノ レア・グルーヴ」は現在お取り扱いしておりません

     

    岡林信康
    「あの娘と遠くまで」 ('80)

    作詞・作曲:岡林信康

    グッド・イヴニング
     
     グッド・イヴニング
     ビクター VICL62564
     ミックスの流れ的には、やはりお次は”岡林レゲエ”がベスト。元ワイルド・ワンズの渡辺茂樹(key)をミュージック・ディレクターに迎え行なった1980年5月の大阪・厚生年金ホールでのライヴ盤。すでにニューミュージック路線を推し進め、「フォークの神様」という呪縛から完全解放。リラックスした岡林の唄とレゲエのリディムは相性抜群。ビールと枝豆がよくすすむ。フォーク仕込みの哀愁ハーモニカは、バニー・ウェイラー「Black Heart Man」を聴いているかのような錯覚にも。ここから遡ること2年、1978年に初来日を果たしたボブ・ディランは「くよくよするなよ」をまさかのレゲエ・アレンジで披露。多くの熱狂的なディラン信者をレゲエに覚醒させたとも言われているが、もしその客席に岡林が居たとしたのであれば...ディラン的なメタファーをことさら多用した「あの娘と遠くまで」がこのようなアレンジになったことに至極合点がいく。ほか岡林作品では、はっぴいえんど解散後の細野晴臣(b)、松本隆(ds)らが参加したニューイヤー・ライブ盤『1973PM9:00 → 1974AM3:00』に収録の「見捨てられたサラブレッド」が和モノレゲエ・ファンには人気か。純正なレゲエ・リディムではないが、かなりタメの利いたファンキー・アレンジは、さしずめ ”リトル・フィート×ソウル・シンジケート”。演奏各者、多分にレゲエを意識していることも窺える。







  • 松田優作
    「ベイ・シティ・ブルース」 ('81)

    作詞:松田優作/作曲:藤崎良

    ハーデスト・ナイト・ライブ

    「ハーデスト・デイ」
    松田優作
    「ハーデスト・デイ」
    (廃盤)
     
     ハーデスト・ナイト・ライブ
     ビクター VICL15062
     「アニキ、またボブ・マーリーを肴に飲み明かそうゼ」と、ハマのブルースロック大将・松田優作。映画「BJブルース」の挿入歌でもある「ヨコハマ・ホンキー・トンク・ブルース」(作詞:藤竜也/作曲:エディ藩)の影に隠れがちかもしれないが、元祖”横浜ハードボイルド・レゲエ”と言えばやっぱコレ。主役の恍惚歌唱もさることながら、クリエイションの硬質な演奏にも心のヒダを弄られる。とりわけ竹田和夫の燃え上がるギター・ソロにはアール”チナ”スミスも目をひん剥いたとかひん剥かなかったとか。オススメは俄然ライブ・ヴァージョン。「アイ・ラブ・ボブ・マーリー、ジミー・クリフ!」とレゲエ愛を実直に吐き出しており、唄・演奏共にスタジオ録音のざっと7割増しの鬼気迫るパフォーマンスを堪能できる。ちなみに、この時期の”横浜レゲエ”ものでは、本牧のブルースロック大王・柳ジョージ&レイニーウッドと永遠のショーケンによるジョイントで演奏された「ハーダー・ゼイ・カム」も未音盤化(ライブ盤『熱狂雷舞』に収録された1979年の「Angel Gate Tour」での演目 )ながら永代語り継がれている。








  • クリスタルキング
    「初夏の忘れ物」 ('80)

    作詞:今給黎博美・江尻博/作曲:今給黎博美/編曲:川上了&クリスタルキング

    クリスタルキング
     
     クリスタルキング
     ビクター VICL63173
     第10回世界歌謡祭グランプリを受賞した泣く子も黙る「大都会」...の次のトラックであるがゆえに見落とされがちだが、こんな所にこんな素敵なロックステディ歌謡が隠れていたとは! 斉藤ノブ(per)もひっそり参加し、”和製ロバート・プラント”の7年越しの「ディジャ・メイク・ハー」アンサー成就を後ろ盾。








  • りりィ
    「E・S・P」 ('78)

    作詞・作曲:りりィ/編曲:木田高介・マーカス・デューク

    ゴールデン☆ベスト

    「E・S・P」
    りりィ
    「E・S・P」
    シングル
     
     ゴールデン☆ベスト
     EMI TOCT10979
     「私は泣いています」など独特のハスキーヴォイスで一世を風靡した女性シンガー・ソングライター兼女優、りりィ。1978年の7thアルバム『気にしないで』に収録の「E・S・P」は現在CDで唯一入手可能な彼女のレゲエ・チューン。作詞・作曲はりりィ自身。アレンジを、ジャックス〜六文銭での活動でも知られ、彼女のバックを務めるバイバイ・セッション・バンドの主幹・木田高介が担当。このバイバイ・セッション・バンド、参加メンバーが流動的ながらめくるめくスゴ腕メンツの集まりで、木田をはじめ、坂本龍一、土屋昌巳、吉田健、斎藤ノブ、西哲也、国吉良一、伊藤銀次という当時の日本を代表する精鋭ミュージシャンが録音・公演毎に入れ替わり立ち代わりその名を連ねている。ゆえに”分かってる”レゲエ・サウンドがきっちりと鳴動。りりィとレゲエの相性の良さを知る上では、『オーロイラ』(教授全面バックアップ)、『りりシズム』も必須。前者は未CD化、後者は廃盤ということでファンにとっては辛く長い冬が続いている...








  • 庄野真代
    「心中芝居」 ('82)

    作詩:庄野真代/作曲・編曲:小泉まさみ

    逢・愛・哀

    Reminiscence2 〜月がとっても青いから
    Reminiscence2
    〜月がとっても青いから
     
     逢・愛・哀
     コロムビア CORR10739
     「飛んでイスタンブール」のヒットでよく知られ、昨今のテクノポップ歌謡界隈でも引く手数多の庄野真代。ダニー・エルフマンを中心としたL.A.の音楽劇一座オインゴ・ボインゴとのジョイント(M1〜5)も聴ける通算9枚目のアルバム。そのオンデマンドCD-Rから。これももはや定番と言っても過言ではない王道マイナー調レゲエ・チューン。ただし、バックはオインゴではなく、ジム・インガー(key)、ジョージ・マリネリ(g)らを擁したビータ−ズ・ファミリー。また、2010年リリースのカヴァー集『Reminiscence2』にも、東京ブラススタイルのふくよかなブラス・アンサンブルをフィーチャーしたレゲエアレンジ楽曲が収録されているのでチェックされたし。初期の旧作、是非正規CD化を!




    鳥羽一郎
    「東京ブルース」 ('03)

    作詞:水木かおる/作曲:藤原秀行/編曲:宇崎竜童

    時代の歌
     
     時代の歌
     日本クラウン CRCN20292
     唄う遠洋漁業、夢は果てなくモンテゴベイ。宇崎竜童をブレインに付け、鳥羽のオジキが遂にレゲエと出逢うべくして出逢ってしまった。西田佐知子 1964年のヒット「東京ブルース」も、鳥羽の熱き心、宇崎のモダニズム・マジックにかかればあっという間に、セドリック・マイトン(コンゴス)級のソウルフル・レゲエに大変身。「鳥羽さんの壮気ってレゲエにピッタリね☆」と港々のトバギャルも目を見合う。フィッシャーマン・アンセム「兄弟船」がワンウェイでリリースされたってちっともおかしくない。






  • 内海利勝
    「鏡の中の俺」 ('75)

    作詞・作曲:内海利勝

    ジェミニ:Part 1

    鏡の中の俺
    内海利勝
    「鏡の中の俺」
    シングル
     
     ジェミニ Part 1
     ユニバーサル UPCH3034
     永ちゃん、ジョニーの陰に隠れがちだったが、キャロルの知られざるルードボーイ、ウッちゃんこと内海(うちうみ)利勝の本作こそが、グループ解散後のソロ・アルバム・リリース第1号。英国のレゲエ・バンド:シマロンズ、パイオニアーズの鍵盤奏者ジャッキー・ロビンソン、さらにはプロデューサーにシドニー・ クルックスらを迎えて録音という気合の入り様。シングル・カットされた「鏡の中の俺」をはじめ、「いつもあの娘」、「スウィート No.1」、「泣いてるあの娘」、「星の下に」、「レゲェレゲェ天国」と、ギミックなしのレゲエ・チューンが都合6曲。グローバルな”レゲエ&ロール”視点で見れば、クラプトン『461 オーシャン・ブルーバード』に本作が追随し、その後ストーンズ『ブラック・アンド・ブルー』が世に出た、という流れとも言えそうで、 当時の大英帝国のレゲエ通にもアジアの底力を見せつけたのでは? さらに、ホルヘ・サンタナより2年早いこのジャケも肝。ゆえに真のワールドワイド盤。廃盤にさせておくのは勿体ない。



    久保田早紀
    「肌寒い午後の日」 ('83)

    作詞:川田多摩喜/作曲:久保田早紀

    ネフェルティティ
     
     ネフェルティティ
     ソニーミュージック MHCL1068
     デビュー曲「異邦人」が彼女の代名詞だろうが、和モノレゲエ党には何と言ってもコチラが人気。所謂”洋楽”的なエッセンスやデビュー曲タイトルさながらのエキゾティシズムを自作曲に巧く反映させることができた、当時の数少ない女流シンガー・ソングライターのひとり。その音楽に対する貪欲な姿勢は、ユーミン、りりィ、石川セリ、尾崎亜美らと比べても全く引けをとっていない。ファド、ボッサ、ボレロなどワールド・ミュージックのエッセンスを取り入れ幻想的な異国情緒を漂わせる『夢がたり』、『天界』、『サウダーデ』といった初期の三部作、または後の『夜の底は柔らかな幻』と並び称される、彼女のアーティストとしての真の意欲作。「肌寒い午後の日」はレゲエでありながら、陽気な南国情緒とはおよそかけ離れた、至極低温のメランコリーが濃霧の如く辺りに立ち込める、そんな風情。調べによると、このアルバムの録音直前にブルガリアへと赴いているそうだ。現在彼女は、「久米小百合」という名で教会音楽家として活動している。





  • 本木雅弘
    「ベルベット・イースター」 ('92)

    作詞・作曲:荒井由実

    D+F+M 〜東へ西へ〜
     
     D+F+M 〜東へ西へ〜
     クラウン徳間 TKCA-30592
     渋柿解散から早4年。役者としてシンガーとしてヒト皮もフタ皮も剥けたモックンの3rdアルバムから。同年ソロ初の紅白出場を決めたヒット・シングル「東へ西へ」のカヴァーがお茶の間的には最も有名だろうが、もう1曲収録されているカヴァー楽曲、つまりユーミンの「ベルベット・イースター」こそが超ダビーなレゲエ・アレンジにつき大本命。この時期のバックバンドには、バンマスの朝本浩文をはじめ、前年活動を開始したばかりのラム・ジャム・ワールドの面々が顔を揃えている。それゆえにこのアレンジ、と大きく納得。ほか、田島貴男、小西康陽、玉置浩二、森若香織という作家陣が楽曲を提供しているだけあって、(いかにも90年代の空調ではあるが)一筋縄ではいかないパフォーマンスが敷き詰められている。





  • りりィ
    「天気になあれ」 ('76)

    作詞・作曲:りりィ

    オーロイラ
     
     オーロイラ
     東芝EMI ETP-72168
     今月二発目のりりィ。「 ≪LIGHT MELLOW 和モノ669≫で紹介されているので和モノDJは要チェック!」などと今さら気張っても、いまだ未CD化だけに購買分母は必然的に益すことを知らない。坂本龍一全面アレンジャー/各種鍵盤参加ということで、そこに権利関係上ヤヤこしい問題が発生しているのか否か、どちらにせよ素晴らしいアルバムなのだから、早急にCD化を望むばかり。さて、上掲にもあるように、りりィの”レゲエ☆ラブ”は本作においても顕著。ストリングスとコーラスを巧みに用いて、リオン・ウェアばりのメロウ・ソウル・テイストを加味しながら、ズッチャカ、ズッチャカ♪ りりィ以下、教授、バイバイ・セッション・バンドのセンスの良さにただただ平伏し、時間を忘れて体を揺らす。



    うしろゆびさされ組
    「ハナイチモンメ」 ('87)

    作詞:沢ちひろ/作曲:後藤次利

    ∞ (UNLIMITED)

    「ベスト:うしろゆび大百科」(+DVD)
    うしろゆびさされ組
    「ベスト:うしろゆび大百科」
    (廃盤)
     
     ∞ (UNLIMITED)
     ポニーキャニオン D32A0276
     「オニャン子、ひいては昭和アイドル作品には、レゲエ要素がひっそり垂らし込められているケースが間々あるんだ。気を抜くな!」と、トコロ構わずパイセン刑事は口にする。その理由のひとつとして、特にオニャン子ものにおいては、やはり音楽監督・後藤次利大先生の存在が大きいのだろう。ベーシストならではの”リズム・コンシャス”な感覚は、シンコペの効いたロックにしろファンクにしろ、それこそラテンやレゲエのエッセンスなどを”気の利いたスパイス”として歌謡曲にブチ込むことができるセンスに秀でているという点で、一本調子になりがちなアイドル歌謡曲の進化・発展を促したに違いない、と勝手に考察。とは言え、この時期まだまだレゲエは「売れねぇんだから手出すな!」と上層部から苦い顔をされていたワケで、そう簡単に着手できるものではなかったハズ。だからして、こんなラヴリーなレゲエ・チューンを検挙した日にゃピンドンの一本でも空けたいぐらいの大騒ぎに。『RELAXIN' WITH JAPANESE LOVERS』に収録されていても全く不思議じゃない、超大穴曲。




  •  

    沢田研二
    「エデン」 ('88)

    作詞:大津あきら/作曲:石間秀機/編曲:ココロ

    トゥルー・ブルー
     
     トゥルー・ブルー
     EMI TOCT9585 
     中々見つけることができないジュリーのレゲエもの。全編英詞の「愛の逃亡者」(74年)、エキゾチックスとのスカ歌謡人気曲「バタフライ・ムーン」(81年)以外で釣果が上げられない人も多かったのでは? その場合は発想を変えて、廃盤が多いLPからCDへの転換期、つまり80年代半ば〜後半のプロダクツに目を向けることをオススメしたい。その結果こういった盤に出会うことができる...ときも稀にある。1988年、一部では”落ち目”とも揶揄されていた時期だが、ジュリーの音楽人としてのド真ん中はココにもある。チト河内(ds)、石間秀機(g)らを中心にしたバックバンド(バックバンドとは言え、その関係性は「ロッド・スチュワート&フェイセズ」のような感じを標榜):CO-CoLO(ココロ)との最終作では、前作に引き続きアダルト・オリエントなロック・サウンドを指向。中でも「トゥルー・ブルー」、「エデン」という本格的なレゲエ・チューンの完成度の高さが耳を引く。あの根津甚八『火男』をプロデュースしたことでもよく知られるチト河内の ”和モノレゲエ名仕事” のひとつに数えられるだろう。何より、ジュリーの伸び伸びとした歌唱が心地よい。



    尾崎亜美
    「バッド・ボーイ、バッド・ガール」 ('83)

    作詞・作曲・編曲:尾崎亜美

    ミラクル
     
     ミラクル
     ポニーキャニオン PCCA00236
     80年代ニューミュージック・シーンが生んだマルチ才媛、ポニキャン期の隠れ名盤から。TVCMタイアップ曲「愛に恋・ラヴ・イズ・ゴナ・ゲット・ユー」などが当時は人気だったそうだが、往年のファンの間では”新境地開拓”ゆえ「比較的世間から黙殺されている1枚」と謂われている。テクノポップの潮流にライドしようとしている曲もおもしろいが、我々が見逃せなかったのはやはりレゲエ仕立ての「バッド・ボーイ、バッド・ガール」。後藤次利&山木秀夫(あるいは青山純)のリズム隊に、鈴木茂(g)のカッティングが絡むオーソドックスなレゲエ・サウンドだが、ベーシストの岡沢章との濃密デュエットということで、ブラコン・テイストがほんのり漂うものとなっている。尾崎亜美レゲエはまだまだ掘る余地アリ。


    奥田瑛二
    「エンド・マーク」 ('89)

    作詞・作曲:TOUCH/編曲:久石譲

    ブラック・バージン
     
     ブラック・バージン
     ユニバーサル H30C-10008
     「金妻」、「男女7人」、「火サス」で女子大生〜人妻を腰砕けにしたのは数知らず。今もマルチに活躍する昭和プレイボーイ列伝最後の残党(?)、なお元気に東西奔走。こちらは、役者人気もピークになりつつあった1989年発表の2ndアルバムから。プロデュースおよびシンセサイザーを久石譲が担当した、かなり”本気”の1枚。全般的にシーケンス&プログラミング主体のデジタル加工だが、主役が概ねペンを執ったと思しきその歌詞によって、起き抜けの布団のような生温かさが残された。サード・ワールド辺りの世界を想起させる「イタイのそこが」と、左項「ベルベット・イースター」、ダウンタウン「くつみがき」などと共通するひゃっこいワンドロップ「エンド・マーク」、この2曲のレゲエ・チューンだけでも、本作の、あくまで当時におけるカッティングエッジぶりが窺える。


    南正人
    「泣きぬれて」 ('77)

    作詞・作曲:南正人

    希望峰
     
     希望峰
     キング KICS8069 
     『ファースト・アルバム』というタイトルの2ndアルバム、その”ギリギリ”のジャケを見れば一目瞭然だろうが、”元祖・ニッポンのヒッピー”と言えばやはりこの人。しかも内省世界を恍惚気味に旅するのではなく、実際に世界中を放浪して体中にそのリズムやメロディを叩き込んできた、ガチンコ・バックパッカーだ。1977年、いくらか洗練された見た目で登場してはいるものの、そのヴァイブスは変わらずオーガニック&マッタリ。ベルウッド時代の再演曲となるファンキーな「上海帰り」がDJ一番人気だが、ナイヤビンギ寄りの超アーシー・レゲエ「泣きぬれて」が何と言ってもオススメ。念仏を唱えているかのような南の唄もドブロクによく合う。



    福島邦子
    「背中あわせ」 ('82)

    作詞・作曲:福島邦子/編曲:後藤次利

    夢幻
     
     夢幻
     フォーライフ 28K-42
     なでしこジャパンのあのヒトに似ているから採り上げたワケではない。CD時代突入〜定着後あまりにも長い間再評価されずにいるため、せっかくだからこの機会に、ということでご紹介。1977年、「ヤマハポピュラーソングコンテスト」通称「ポプコン」入選をきっかけに、翌78年フォーライフよりシングル「グッバイ」でデビューを飾った福島邦子。当初は、ギターを片手に、リンダ・ロンシュタットなどのカヴァーも披露していたこともあり、新主流派シンガー・ソングライターとして好事家からも一目置かれていた。ソングライティングの才能にも光るものを持ち、2ndシングル「ボサノバ」は研ナオコが唄ってヒットを記録。その他、チェッカーズ、中森明菜、水谷豊、風見慎吾などへの楽曲提供も行なっている。こちらは、4thアルバムに収録されているレゲエ・チューン。プロデューサーに小泉正美、編曲に後藤次利、そして、鈴木慶一、白井良明、かしぶち哲郎、岡田徹らのムーンライダーズ組に、山木秀夫、青山純と、バックは磐石の布陣。この楽曲自体が突出して素晴らしいというわけではないが、ここでの僅かながらの露出が、福島邦子の初期オリジナル・アルバム再発のトリガーになることを祈って。   


    参考図書 )
    「ジャパニーズ・シティ・ポップ ディスクコレクション」       「Light Mellow 和モノ 669」は現在お取り扱いしておりません   「和モノ レア・グルーヴ」は現在お取り扱いしておりません

    原田糸子 「ジャマイカの青い浜辺」 シングル盤

    原田糸子 「ジャマイカの青い浜辺」 ('68)
    作詞:関根浩子/作曲・編曲:小杉仁三
     クラウン CW-805

     スカでもない。レゲエでもない。だけども、こんな愛らしいジャマイカ讃歌ほかにはない。R30以下はまずもってご存知ないであろうその女性(ヒト)の名は、原田糸子。Wikipediaを開けば一発だろうが、金井克子、由美かおる、奈美悦子、江美早苗らとともに「西野バレエ団5人娘」として芸能キャリアをスタート。その後60年代後半、松竹映画や「レ・ガールズ」などのテレビ番組を中心に女優、タレントと幅広く活躍した、ご覧のとおりのカワイコちゃん(ジャケ写当時18歳)。同時期、歌手業にも励み、発表作品こそ多くはないが、5枚のシングルはいずれも和モノ・グルーヴ歌謡ファン垂涎のレア・アイテムとして知られている。その全シングルAB面+1=11曲を収録した、響かおるとのスプリット式のベスト盤が右掲のCDで、無論ここにも「ジャマイカの青い浜辺」は収録。エキゾチック歌謡とは言え、当時はまだリズムやメロディなどでその異国情緒を表現するというのは至難の業だったのだろうか、乙女の恋心を絡めた”まんまだろ”の情景描写にてまだ見ぬジャマイカを想う。下の句に「ジャマイカ」が入れば丸く収まるこの潔さは見習うべき。クリシェもラヴリー。何度でも聴ける。        
    昭和ガールズ歌謡シングル・コレクション
    原田糸子&響かおる
    「昭和ガールズ歌謡
    シングルコレクション」




    次号は5月25日(金)発行
    「スカ歌謡ミニ特集」を予定!



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