HMVインタビュー: Orbital

2012年3月23日 (金)

interview

Orbital

突然の解散→そして突然の復活を遂げた伝説のテクノ兄弟、オービタル 8年ぶりとなるニューアルバムのリリースを記念してメンバーのポール・ハートノルに訊きました!

休止していたおかげで、自分達がやっていたこと、やっていることに感謝できるようになっていたんだ。


--- 8年ぶりの新作アルバムとなりますが、この作品を作るに至ったきっかけや経緯を教えてください。

Paul Hartnol: 俺にとっては、ケミカル・ブラザーズのギグを見に行ったことかな。2人のライブセットを見て彼らのキャリアに感銘を受けたんだ。10年ぶんのアルバムやヒット・ソングがつまった美しいショーだった。そのキャリアの全てを聴く事ができるライブだったんだ。
で、それを見て、俺達にもこんなことができるかもしれないのに、こっちはお互いにソロ活動をしてる…フィルとはもう随分一緒に仕事してないな、と思ったんだ。その時にはもうソロ活動のおかげで気持ちがリフレッシュされていたし、歴史を再開してもいいんじゃないかと思った。「本当にオービタルを諦めたいのか?」と思う様になったんだ。彼らのライブに考えさせられたんだよ。少なくとも、自分にとってはそれが活動再開のきっかけ。

ラジオから流れて来るビートソングもそうだし、ダンスミュージックにもインスパイアされたよ。しばらくそういう音楽から離れていたからね。また戻ってもいいな、戻ってみたいな、と思う様になったんだ。
そんな時に昔一緒にバンドをやってて、フェスのビッグ・チルを始めた友人が連絡してきたんだ。彼が「オービタルとしてビッグ・チルのヘッドラインをつとめてくれないか?」と言ってきて…だからフィルに聞いてみて、試して、どうなるか見てみようってことになったんだ。
しばらく離れてたからこそ、そういう音楽や活動が2人とも恋しかったんだな。で、実際にやってみたら、最高のショーになった。休止していたおかげで、自分達がやっていたこと、やっていることに感謝できるようになっていたんだ。
もし休止せずにあのまま活動を続けていたら、つまらなくなっていただろうね。離れていたからこそ、やる気がわいたんだ。活動できていることの有り難さがわかったんだよ。俺には子供が3人いるからライフスタイルも変わってたし、それもあってこういう活動が恋しかったんだ。

--- この8年という期間はあなた方にとってどのような期間でしたか?活動を再開させて何か意識的に変った部分などはありますか?

Paul Hartnol: それぞれ違うことをやってたんだ。俺は旅にでることにしてイギリスを出たんだけど、母親が癌になり医者から余命9ヶ月と宣告されたので急遽戻らないといけなくなって…だから戻ってきて、ライティングを始めたんだ。

俺はずっとオーケストラをやってみたかったから、自分にそれが出来るかどうか試してみたくてオーケストラのプロジェクトをやったりしてた。それから2、3年はソロアルバムを書いてレコーディングしてたんだ。『アイディール・コンディション』をね。ソロ・オーケストラや聖歌隊と一緒に仕事してたんだ。最高だったよ。オーケストラを9人に濃縮して作品を作ったんだけど、それがすごく面白かったから続けようってことになった。本当に楽しい作業でね。
あとは、『トーメンティッド』っていうホラー・アルバムのスコアを書いたりもしてたな。音楽は全部エレクトロニック。それもすごく楽しかった。

フィルはDJをやったり、ロング・レンジのアルバムを作ったりしてたね。特に変わったってことはないけど、色んな経験ができたおかげでリフレッシュはできたかも。
あと、オービタルとしてやっていたこと、オービタルでいることの良さがわかるようにもなったね。真価がわかるようになったんだ。

--- 本作はいつ頃に制作されたものでしょうか?

Paul Hartnol: トラックの構想を考え出したのは…多分2010年の10月だと思う。でも、アルバム全体のことをしっかりと考え出したのは1月。実際にレコーディングがスタートしたのもその時だよ。アルバムの中には1989年に作られたものもありはするけどね。

--- 楽曲を制作する際はどのような役割分担で作業されるのですか?

Paul Hartnol: 今は50/50かな。大抵は俺がライティングをやってそれをフィルとプロデュースすることが多いけど、今は彼(フィル・ハートノル)が書く時もあるからね。

--- フィルはどのくらい書くんですか?

Paul Hartnol: 時々。でも殆どは俺。全部とはいわないけど大部分は俺が書いて、それを一緒にプロデュデュースするんだ。

--- 作品を拝聴させて頂き、今作はあなた方の初期から近年までの作品をイメージさせる様々なタイプの楽曲が収録されていると感じたのですが、その辺りは意図したものでしょうか?

Paul Hartnol: 自然と出てきたんだとと思う。ただ書きたいと思うものを書いてたらこうなったんだ。今回は書きたいと思うものを、自分の気持ちにただ素直になって書きたかったんだよ。でも受けてきた影響とか、そういうのは自然に出て来るものだから。昔の自分達の作品からだって影響は受けてるし。だから、本当に色んなものが混ざってるんだ。そういうプランは全くなかったんだけどね。

--- 今回ゲスト参加している、Zola JesusとLady Leshurrはどのような経緯で参加する事になったのでしょうか?また実際にコラボしてみたご感想もお願いします。

Paul Hartnol: まずゾラは、アメリカに住んでる俺たちの友達が彼女を勧めてきたのがキッカケだったんだ。だから一度聴いてみる事にしたんだけど聴いた瞬間、最高!と思った。彼女こそ、自分達が求めてるボーカルたったんだ。そうしたら彼女がちょうどその時期にロンドン公演をひかえてて、こっちに来る予定になってたから、最終週にスタジオにきてもらって一緒にレコーディングしたんだ。ギグの合間に 2、3日来てくれたかな。タイミングがよくてね。レコーディングも本当に順調で最高だったよ。

レディもゾラと同じ。女性ボーカルを探していたら、知り合いがレディを勧めてきたんだ。「ウォンキー」を書いてる時に、この曲にミッシー・エリオットみたいな女性ラッパーの声が乗ってるのを想像してたんだけど、それを実際に試してみることにしたんだ。良いチャレンジだと思ったからね。
そんな時に一緒に仕事をしてた知り合いが、レディはどうかと言ってきた。彼女はまだレコードをリリースしてなかったから手元に音源がなかったんだけど、その知り合いに、「彼女こそ、君たちが探してるボーカルだぜ!」と言われてね。で、実際に音源を手に入れて、それを聴いてみたら、確かに!って思ったよ。俺もフィルも同意見だった。彼女は本当に素晴らしいアーティストだよ。女性のラッパーは多くないから、本当は見つけるのが難しいけど、彼女を発見できたのは本当にラッキーだったね。

--- 1曲目「One Big Moment」で日本語のナレーションを使われていますよね?やはり日本人としては気になる所なのですが(笑)。これには何か特別な意味があったりしますか?

Paul Hartnol: これは日本語でのタイトルは何て言うのかわからないけど(日本でのタイトルは『ワンダフル・ライフ』)、英語では『アフター・ライフ』ってタイトルの日本の映画からとったんだ。
死を迎えた人たちが駅にあつまってて、自分が一番大切だと思う思い出を選ぶっていうストーリー。その一番大切な記憶をひとつだけ選んだら、死後の世界でその思い出と共に過ごすことができるんだ。日本語だからなんて言ってるかわからなかったけど、字幕では"It's time to pick up your best memory"(=自分にとって一番大切な思い出を選ぶ時だ)って書いてあったからその表現が好きだったし、日本語そのものの聴こえも気に入ったから使うことにしたんだ。

--- その映画はどうやって知ったんですか?

Paul Hartnol: フィルムを勉強してる友達が教えてくれたんだ。いい作品があるよってね。それで見てみたらすごくよかったんだ。お気に入りの映画の1つだよ。

--- 7曲目「Beelzedub」ではポスト・ダブステップ的なアプローチを感じますが、あなた方から見たこのシーンはどのようなものでしょうか?

Paul Hartnol: 最近のダンス・ミュージックの中ではモダン・サウンドの音楽の1つだと思う。ダブステップはダンス・ミュージックの中でも、俺たちがここ何年かずっと聴いてきた音楽なんだ。最も新鮮で、面白いサウンドの1つだよね。このアルバムは確実にその影響を受けてるよ。

--- 今作の作風に対して強く影響をあたえた作品やアーティストは誰ですか?

Paul Hartnol: 俺はフォーク・ミュージックを聴くんだけど、そこからは影響を受けてると思う。ボーカルのサンプルとかね。あとはダブステップみたいなモダン・ミュージック。特定のアーティストとかはいないな。もっと全般的に音楽を捉えてるから。
敢えていうなら、エイドリアン・シャーウッドとかタックヘッドとかかな。彼らの初期の作品。自分達がここ何年かの間で好きで聴いてた音楽がメインだよ。

--- アルバムの中の曲で一番気に入っている曲とその理由も教えてください。

Paul Hartnol: お気に入りはないね。それぞれが全部違うから。それぞれを違う理由で好きなんだ。ひとつ選べるかな…いや、無理だな。
「ストリンギー・アシッド」はライブでいい役割を果たす曲だと思うし、「ネヴァー」も好きだし…「ネヴァー」は、ある日の午後にスラスラと書けた曲なんだ。「ディストラクション」も好き。ライブではプレイしないだろうけどあれも好きだね。ワントーンだからプレイはしないけど結構気に入ってる。

今思いついたから、この3つが勝者かな。理由はちょっと説明するには難しすぎるかも…
でも、アルバムとして全てのトラックを繋げて考えてるから選ぶ事はできないけどね。アルバムの構想の地図にしてそれを壁に書いたんだ。各トラックが大きな一部になるような構成になってるんだよ。

--- 最もチャレンジングだった曲は?

Paul Hartnol: メイキングで言えば…どれだろう?多分「ホェア・イズ・イット・ゴーイング?」だと思う。あれが多分一番長くかかった曲だったから。でも楽しかったよ。DJして、また作り始めて変えて、またDJしてって感じの流れの中で辿り着た曲だから時間がかかったんだ。何度も変え続けてね…。
でも変えるのは楽しかった。時間がかかっただけさ。敢えて選ぶなら、そういう理由でこの曲だと思うよ。

--- 貴方のスタジオはどんな雰囲気なんですか?

Paul Hartnol: すごく良いよ。本当に楽しかった。今回は何もかもを新しい場所でやったんだけど、そうしてよかったと思う。新鮮だったんだよね。これからは毎回違う場所で試していこうと思ってるんだ。リフレッシュはいいことだから。アーティストがレコーディングで違う国に行ったとか、山に行ったとかっていうのをよくきいてたけど、今では何故かが理解出来るよ。本当に楽しかった。周りの機材も変えてみたんだ。違うシンセを使ったり…少しだけどね。

--- フラッドのスタジオですよね?

Paul Hartnol: いや、それはミックスだけ。レコーディングは全部自分達でブライトンで借りた小さなスタジオでやったんだ。

--- レコーディングの機材は?

Paul Hartnol: アナログ・シンセサイザーを沢山使ったんだ。あとはアップルのマックのコンピューター。それだけさ。iPadはレコーディングやライティングには使わないんだ。ライブでプレイする時だけだよ。

--- 5月に日本で開催されるイベント「メタモルフォーゼ」への出演が決定していますね。当日のステージはどのようなものになりそうですか?もしも何か具体的な構想があれば少しで良いので教えてください!

Paul Hartnol: メタモルフォーゼでのパフォーマンスは初めてだからまだよくはわからいけど、完全に新しいショーになるよ。ヴィジュアルも最新だし、使う機材も新しいんだ。今、ビデオを作ったりとか、色々計画してるとこ。今年、機材を見直したんだよ。妥協はしたくないからね。前に運んでたシンセサイザーはちょっと大き過ぎて…それを運ぶのに慣れてはいたけど、それよりも小さくてパワフルなやつに変えたんだよね。だから、どこにでも持って行けるようになったんだ。

--- 今後の活動の予定を教えてください。

Paul Hartnol: 今はライブセットを考えてるところなんだ。4月からはギグの予定がつまってる。UKとかヨーロッパ、オーストラリア、日本とか色んな国を廻るんだよ。5月のあとはフェスも続く。ライブは旅ができるから好きだし、フェスも好きだね。色んなミュージシャンに会えるからめちゃくちゃ楽しいんだ。

--- では最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

Paul Hartnol: これからはできるだけ多く日本でライブができるようにするよ。日本が大好きだからね。来日はいつだって楽しみなんだ。君たちは、世界の中でもベスト・オーディエンスのひとつ。本当に最高!また行くのが待ちきれないよ。ウソじゃないよ。(笑)
もしこれがドイツとかフランスだったら、同じこといってない。(笑)俺は彼らが好きだけど、彼らが俺たちを好きじゃないみたいだから。(笑)
オランダとスペインはいいけどね。日本は他と違うから、いつもエキサイティングなんだ。どのミュージシャンもそう言ってるよ!

新譜Orbital / Wonky
突然の解散→突然の復活を遂げた伝説のテクノ兄弟オービタルが遂に8年ぶりとなるニューアルバムを完成!自らがやるべき事を客観的にとらえ、これまでの作品でみせてきた彼等ならではの美しいテクノ・サウンドに現行のトレンドを散りばめたかのようなバランス感満点の完全復活作!!また限定盤は30分以上のライブ音源CD付きですのでお見逃しなく!



    • Wonky(限定盤)
      Orbital
    • 2012年3月28日発売


    • 【収録曲】
      01. One Big Moment
      02. Straight Sun
      03. Never
      04. New France (Feat. Zola Jesus)
      05. Distractions
      06. Stringy Acid
      07. Beelzedub
      08. Wonky (Feat. Lady Leshurr)
      9. Where Is It Going
      10. P.E.T.R.O.L (Final Drop Mix) *Bonus Track for Japan

      【初回限定盤ボーナスCD】(Live in Australia)
      01. Lush
      02. Impact
      03. Satan
      04. Belfast
      05. Chime / Crime

      試聴できます♪
      「Never」(Beat Records)



    【関連作品】


    • Blue Album
      Orbital
    • 2012年3月28日発売(リイシュー)

    • Conatus
      Zola Jesus
    • 2012年1月7日発売


profile

Anchorsong

80年代の終わりにポールとフィルのハートノル兄弟によって結成されたオービタル。名曲「Chime」を皮切りに「Belfast」「Satan」といった傑作を立て続けにヒットさせ、一躍トップ・アーティストとなった。ここ日本でも、エレクトラグライド、フジロックでヘッドライナーを務めるなど絶大な人気を誇ってきた彼らだったが2004年の『Blue Album』発表と同時に、WIREでのライブを最後に活動休止を宣言。5年ぶりに活動再開を宣言すると、海外の名だたる大型音楽フェスティバルにヘッドライナーとして出演し、その圧巻のパフォーマンスが喝采を浴びることとなる。その経験から得たインスピレーションから彼らは新たな作品制作に取りかかった。アルバム全体的に感じられるテクノ・ピュアネスは、聴く者の魂を揺さぶり、それでいてどこかメランコリックな雰囲気を纏う、まさにオービタル・サウンドが存分に詰まった最高傑作といえるだろう。本作にはポスト・ビョークの座に最も近いと言われるゾラ・ジーザスや、グライムMCレディー・レシュールがゲストとしてフィーチャリングされている他、ダブステップ的なリメイクを施した楽曲など、彼らの新たな挑戦も垣間見る事ができる。活動を再開し、新しい命を吹き込まれたオービタルは、再びシーンの頂点に戻ってきたのだ。

ハウス/クラブミュージック最新商品・チケット情報