【HMVインタビュー】 SALU -後編-

2012年3月2日 (金)

interview

前週から続くSALUのインタビュー後編。後編はリリースされる新作『IN MY SHOES』の事を、濃く語ってもらった。冷静かつ熱いSALUの人柄、メッセージを感じていただければと思う。
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--- デビューアルバム『IN MY SHOES』改めて完成した感想はいかがですか?

僕としては、最終的に僕が曲に落とし込んでいるメッセージとか、BLさん、OHLD君のトラックには満足してるんですけど、ただ僕のフロウだったり、声、リリックのタッチパターンはもうちょっと勉強すれば、うまく出来たんじゃないかなって思ってますね。

--- なるほど、優れたアーティストさんってみなさんそうですね。どんなに凄いものを作っても決して100%満足していないというか。

ここはこうだったなとかが結構あります。

--- それがまたLIVE等でブラッシュアップされていくんですよね。

そうですね。LIVEでやらせて頂けるのは、ホント嬉しいですね。

--- このアルバム自体の制作作業はどのような感じで進められたんですか?

BLさん楽曲は、トラックを頂いて僕がラップを乗せてという作業でした。OHLD君楽曲は、僕がOHLD君のスタジオに付いて、彼のピアノ、ドラム、バイオリンを録音しながら生で作り上げていった感じですね。

--- アルバム制作にあたって、何かコンセプトはあったんですか?

何も決めずにでしたね。今までもコンセプトを決めて作品を作るって言う事はやった事ないんで。BLさんがトラックをくれて、僕がリリックを乗せる。1曲単位でしか考えてなかったですね。

--- タイトル『IN MY SHOES』は全ての楽曲が完成した後に付けたタイトルですか?

そうですね。『IN MY SHOES』っていうのは直訳すると「靴の中」になっちゃいますけど、本当の意味は「私の立場で」っていう意味で。だから、僕の立場から見た世界っていう14曲になってるんです。結果それしかなかったというか。コンセプトが元々あった訳ではないので。

--- アルバム楽曲に関して少し突っ込んで聞いてみたいと思います。1曲目「Balance」は、善と悪のバランス、必要悪をテーマにしたものだと思うんですけど、こういう哲学的な事って、よく考えたりするんですか?

悪も善も皆さんあると思うんですけど、自分が悪になった時もあれば、他人からみると善だった事もある。僕はどうにかして理想の世界にしたくて。僕が生きている間は無理でも、子供や孫の世代にはそうしたいと思ってるんです。でも現状、いろんな欲望だったり、犯罪が渦巻いているわけじゃないですか。じゃあどうしたらいいのかな?っていう考えを元に1曲にした感じですね。

--- “理想の世界のために”っていうメッセージは「Taking a Nap」「Butterfly Effect」からも感じられますよね。「人が何気なく選択したその行動の積み重ねが、今この時を作っている。つまり今行うその小さな選択で未来がつくられる。その事に気付く事。その事を意識する事。」をある種啓蒙しているというか。というのはSALUの大きなメッセージの一つなんですね。

この物理的な世界は因果で出来てると思うんですよ。本当の意味での自由、本当の意味での平和、僕達20〜21世紀にかけた人間が求めている世界っていうのは、今とは違う世界な訳じゃないですか。暴力がない、人を殺さない、気を使わなくていい、本当の自分をさらけ出す。そういう僕達の心の叫びが、ある種、理想の世界になると思うんですけど、その為には「Butterfly Effect」で歌っている、当たり前の流れをよく理解した上で、考えて行動しないと、と思って。

--- こういうリリックはどういう感じで書く事が多いですか?

様々なんですけど、雑踏の中で書いたりもしますね。電車の中とか、渋谷で誰かを待ってる時とか。家で一人でいるときに音をかけて、書く時もありますし。

--- それは何かを見たり聴いたりして、イメージを膨らませて書くのか、あるいは突然言葉が降りてくるような感じなのでしょうか?

それもどちらもありますね。やっぱり、いい映画だったり、何か訴えかけてくる作品にふれた後に、頭の中で考えている事の延長線でリリックを書く事はありますね。それは作品だけじゃなく、会話とか日常の中にもたくさんあると思います。後は、トラックを貰っていて、リリックを書く為に向かう事もあります。

--- 「Just a Conversation」で「あの人波にはタイプはふた通り 隠さず自分を出す様にしてる人 それからそうではない人のふた通り」と人のタイプを2種類に分けているけど、SALUは隠さずに自分を出す人ですか?

僕は、ものすごい人見知りで、隠しているタイプですね。今までは100%隠して来たんですよ。でもSALUっていうキャラクターを通して、普段の生活の中でも、なるべく自分が思っている事を、出そうという風に変わってきて。100%自分をさらけ出してる人間になりたいんですけど、僕はなるべくさらけ出して行こうとしてる人ですね。

--- 「隠さず自分を出す様にしてる人」の“様にしてる”がポイントですね。

そうですね、そっちにあてはまりますね、僕は。

--- 日本人はどちらかというと、本質的に自分をさらけ出せない人が多い人種だと思うんですけど、「さらけ出せないのはわかってるから、少しでも出せるようにしようよ」っていうのもSALUさんのメッセージの一つかなと思うんですけど?

そうですね。僕が、HIP HOPというツールを見つけてやっているように、方法、ツールを見つけて、自分を出そうよっていう感じですね。普段の生活で会社に行っていきなり上司にキレろとかそういうことじゃなくて 笑
一つの歯車以外の可能性、価値を自分に付けた方が絶対に良いと思いますよっていう。

--- 自分を出して行こうって思うようになったのってここ数年ですか?

そうですね。それまでは家から出ない、引きこもりと変わらないような感じでしたね。金だけなんとか自分で確保して、なるべくなら人と関わらず、仲間と女とだけで、幸せに音楽作りながら暮らしていきたいと思ってた時期があったので。

--- 自分を出せずに100%隠している時期に得たものっていうのも、今のSALUさんにとって大きいんじゃないですか?

そうですね。そうだと思います。

--- 「Daredevil」では管理社会に対して、「The Watcher on Woods」ではインターネット社会に対してうたっている曲だけど、メッセージは共通してる部分があって、“人々が、与えられた社会や仕組みに対して、疑問を持たない事、何も気付かずに情報に流される危険性”のような事に対する危惧が、SALUの伝えたいメッセージの一つかなと思うんだけど。

本当に恐ろしい事じゃないですか。結構陰謀説とかいろいろありますよね。それは馬鹿げているとか言う人もいるんですけど、完全に操作されてますからね 笑
完全に全て作られた世界だからと思ってて。でもそれを力説したところで、「あいつ頭おかしい」ってなるじゃないですか。でもそうじゃないタッチパターンで、みんなに気付いてもらって、革命じゃないけど起こしたいというか。

--- そういうメッセージをリリックの中に落とし込みながら、説教的、宗教的にならないように、ちょっとした“ハズし”を意識的に仕込んでますよね。

そうですね。完全に説法者になりきる事も出来るんですけど、でもそうすると、そうじゃない考え方の人たちを置いていってるというか。聴いてる人に選択する余地がないと、ただの押し付けになっちゃうと思うんで。僕も他人に対して「こうだ」って言ってもらう事を望む時もあるんですけど、なるべく僕のアルバムはそうしたくなくて。「こういう考え方もあるんだけど、どう思いますか?」っていう風にしたくて。

--- 今23歳という事は、物心付いた頃には、インターネットも携帯もあった世代ですよね?ある意味、そういう情報ツール技術の進歩と共に歩んできた世代が、インターネットが孕んでいる危険性に気付いている、それに警鐘を鳴らすうたを歌っているというのが面白いなと思って。

Twitterでも何でも、そこにアカウントを一つ取得するって言うのは、その世界に自分のキャラクターを一つ置くわけですよね。それこそ、日本では対面で自分をさらけ出せない人が、そのアカウントでは好き勝手言うわけじゃないですか。でも現実は何も変わらない。そこには魅力を感じないというか。

--- そういう意味では、「KAZE」ではSALUが、バーチャルよりも圧倒的にリアルを信用している様子が感じられる。その辺はいかがですか?

そうですね。僕がここまで生かして頂いて思った実感として、人との繋がりが本当に大きいし、それだけと言っても過言じゃない世界だと思うんですよ。なので、バーチャルだって、もちろん人が動かしているものではあるんですけど、ただそこにはチートがたくさん使われているというか。生身の人間とは、違うと思うので、なるべく人と会いたい。LIVEでもそうですけど、僕が発した言葉が伝えるその空間の振動、僕の気持ちの乗ったその振動を肌で感じてもらいたいなって思います。

--- 「To Come Into This World」など、日本の将来に対する不安や、世の中の仕組みの不自由さなどを凄く感じていると思うんだけど、決して絶望はしていない感じがする。その辺はどうです?

正直、絶望的だと思うんですよ、現状は。
どちらかというと今まで、ただ絶望していて、何も変えられないと思っていて。絶対おかしいのに何も変えられないし、誰も賛同してくれないし、もうダメか…と。じゃあこのままそういうもんだと思って、好きなことだけやって、生きていこうかなんて思ってたんですけど。
ただ、それだとホントに何も変わらないというか。で、ちょっとは変えられるかもっていう可能性を信じる、自分の思ったことを信じるっていう気持ちを持つようになったんです。それは、いろんな人と接して、話したりしているなかで、僕の中に芽生えさせてもらったものですね。

--- ここまで質問してきたようなメッセージの強い楽曲もありながら、「Its ya boy..」のようなスウィートな曲もあったり、「The Girl On a Board」のようなポップセンスが光る楽曲、トラック自体も様々で、凄くカラフルな作品になりましたよね。

そうですね。

--- そういうメッセージ性の強い楽曲とは、作り方が違ったりするものですか?

メッセージ性の強い曲は、論理的に書いていくんですけど、女の子を歌った曲とかはなるべく、情景、心情を描写する。僕やっぱ映画が好きなんで、そういう映像をリスナーの頭の中に起動させるスイッチを散りばめるように作りたいっていうのはありますね。

--- 収録曲の中で特に気に入っている楽曲は?

ただ単純に「Daredevil」が一番、首振って聴けるかなと思います。OHLD君の曲のスウィングを意識して乗って書いた感じで気に入ってます。レコーディングしてる時も揺れながら録ったんで。笑

--- 1stアルバムをリリースして、今後SALUさんがどのようなアーティストになっていきたいっていうヴィジョンはありますか?

あまり偏り過ぎないというか、いつまでも今と同じく「こう思うんだけど、どうしますか?」っていうスタンスは崩さずに、もっと核心に迫っていきたいですね。あと、僕自身、映画や音楽で「あぁそうか、大丈夫なんだ」って思った事が多いので、そういう風に人に思って頂けるような曲を作れたらなって思います。

--- 今後、一緒にやりたいアーティストやトラックメイカーはいますか?

ホント生意気言って申し訳ないんですけど桑田佳祐さん。ホント好きで。親父がサザンが好きだったのもあって。勝手に桑田さんの作る楽曲に、勝手に慣れ親しんでるところがありまして。

--- SALUさんってコアなHIP HOPファンも納得させる側面と同時に、大衆を惹き付けるポップセンスの両面を持っている稀有な存在だと思うんで、桑田さんとの共演って、あながち夢物語ではない気がしますよね。

有難う御座います。

--- 最後にHMV的にはCDショップの事聞きたくて。SALUさんCDショップ行ったら何見ます?

やっぱり新譜ですね。新譜とやっぱ、おねーちゃんすかね 笑
で、好きなアーティストの欄を、新譜出てないの知ってるのに見ちゃう 笑

--- HIP HOP以外も見ます?

そうですね。去年だったら、ADELEとか、BON IVERとかJames Blakeとか。結構勉強になるような新しいの出てきたんで。

ADELE 『21』 / ADELE
全世界セールスが1700万枚を突破し、2011年圧倒的な世界売上第1位を誇る天才シンガー、アデルによる感涙の2ndアルバム!第54回グラミー賞で、主要3部門を独占し、最多6部門で受賞の快挙を遂げた。

BON IVER 『BON IVER』 / BON IVER
'08年に発表した奇跡のデビュー・アルバム『For Emma, Forever Ago』で、世界中の音楽メディア、批評家、アーティスト(特にカニエ・ウェストは最新アルバムに4曲参加させている)から絶大な指示を得るシンガー・ソングライター=Justin VernonことBon Iverのセカンド・アルバム。第54回グラミー賞にて最優秀新人賞を獲得!

James Blake 『James Blake』 / James Blake
BBCが期待の新人を選出する「Sound Of 2011」でも2位にランクイン!2011年、クラブ・シーンで最も話題にった注目人物、James Blakeによる待望の1stアルバム。

でも、ふらっと見てみるのがCDショップの醍醐味だと思ってるんで、ふらっと見に行くようにしてますね。コレなんだろうって発見出来るのがCD屋さんのいいところだと思うんで。

--- ありがとうございます。今日はいろいろと話聞けて楽しかったです。

僕も楽しかったです。有難う御座いました。

取材協力:LEXINGTON Co.,Ltd.
インタビュー/文:松井剛・馬場洋弥

SALUの最新作はコチラ!

SALU 『IN MY SHOES』 / SALU
[2012年03月07日 発売]


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     SALU
    『IN MY SHOES』

    2012年03月07日

    2010年後半頃から既に関係者や耳の早いリスナーの間で話題となっていたSALU。その卓越すぎるフロウと深い洞察力に導かれた独特のリリックセンスは瞬く間に評判を呼び、2011年はSCARS,SIMON,SEEDA,JAY'ED,KYN(from SD JUNKSTA),NORIKIYO 等、シーンの重要アーティスト達の作品へ客演参加し、日本語ラップシーンは「10年に1人の“イツザイ”」と言えるその才能に異常な盛り上がりを見せている。そんな中、遂にSALUのデビューアルバムがBACHLOGIC全面バックアップの元リリースされる事が決定した。シーンからの期待の高さは、先ごろ公開された映像『Album Trailer「To Come Into This World」-Full Ver.-』(YouTube)にも深く刻まれている。この映像では、BACHLOGIC , NORIKIYO , SIMON , AKLO , OHLDというSALUと縁の深いシーンの最重要人物達がSALUのヤバさを語っている。メディア露出が全くない事でも有名なBACHLOGICが、姿を露にし、SALUを神輿する為に『ONE YEAR WAR MUSIC』を立ち上げたと語るあたりからも、SALUの才能がこれまでになかった程に何かを動かし始めている事がわかるだろう。この作品に収録された14曲がシーンに変革をもたらす事は、既に約束されている。

    [収録曲]
    01. BALANCE(Pro.by BACHLOGIC)
    02. BURN IT(Pro.by OHLD)
    03. STAND HARD(Pro.by BACHLOGIC)
    04. JUST A CONVERSATION(Pro.by BACHLOGIC)
    05. DAREDEVIL(Pro.by OHLD)
    06. ITS YA BOY..(Pro.by OHLD)
    07. THE WATCHER ON WOODS(Pro.by BACHLOGIC)
    08. KAZE(Pro.by BACHLOGIC)
    09. TAKING A NAP(Pro.by BACHLOGIC)
    10. BUTTERFLY EFFECT(Pro.by OHLD)
    11. THE GIRL ON A BOARD feat.鋼田テフロン(Pro.by BACHLOGIC)
    12. IN YOUR SHOES(Pro.by OHLD)
    13. 夢から醒めた夢(Pro.by OHLD)
    14. TO COME INTO THIS WORLD feat.鋼田テフロン(Pro.by BACHLOGIC)
profile

1988 年北海道生まれ。現在、神奈川県在住。
4歳でDr.Dre "Let Me Ride" を聴き音楽と出会う。
14 歳からラップを書き始める。MONSTARS STREET 所属。
SEEDA, NORIKIYO, SIMON,SD JUNKSTA らが絶賛する若手RAPPER。HIP HOP のジャンルを越え響くリリック、着眼点やテーマ、他には真似できない日本人離れしたフロウスキル。
ブレる事の無いフリースタイルや人間性、作品そのままのLIVE が彼の魅力。どれをとっても、同年代の青年が持ち合わせているものでは無い。彼の曲中に溢れる感情、知性、表現に多くの人が虜になり聞き入ってしまう。23 歳にしての豊かな人生経験、彼個人の持つ才能が抜群に発揮されている今回の1stALBUM はこれまで数多くのクラシックを生み出しているプロデューサーBACH LOGIC、新世代プロデューサーOHLD(7070PRODUCTION) 二名がサウンド面で支え、間違いなく2012 年にリリースされる作品の中でもトップレベルであり期待を裏切らない「大型新人アーティスト」と言っても過言ではない。当然の様に洋楽のリスナー、邦楽のリスナーを問わず魅了してくれる。


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     SEEDA
    『23edge』

    SEEDAの9枚目となるオリジナルアルバムにも注目!