【コラム】Akira Kosemura第28回 細い糸に縋るように Akira Kosemuraへ戻る

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2011年11月11日 (金)

連載コラム『細い糸に縋(すが)るように』
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小瀬村 晶 / AKIRA KOSEMURA

1985年生まれ。東京在住の音楽家、音楽プロデューサー。
これまでに国内外の音楽レーベルから作品を発表しているほか、TVやWEBのCM音楽、ファッションブランドのサウンドデザインなど、様々な分野で活動を展開。
2007年より自身が手掛けるレーベルSCHOLE RECORDSを主宰し、これまでに数多くの若手音楽家を発掘、作品のプロデュースも行っている。
2011年4月に自身5枚目となるソロアルバム「how my heart sings」を発表。



10月18日から26日に掛けて、イタリア北部の町、ボローニャで録音をしてきた。

今年はツアーで日本全国を回ったり、夏には中国ツアーで、北は北京から南は広州まで3000 kmを回ったりと、僕のプライベートを知っている人なら非常に驚きの、外出ばかりの一年、最後の締めくくりのイタリア遠征でした。
僕は普段、ほとんど自宅(兼スタジオ)か事務所にいるので、プライベートで旅行などほとんどしない、お家大好き人間ですが、今年は珍しくよく働き?一年の内の一ヶ月以上をホテルで過ごした計算になる。
おかげで新幹線は大好きに、飛行機嫌いも解消されて空の旅も苦にならない程に成長した。
僕のような人間でもそうなのだから、人間というのはよくできた動物、本当に適応能力が高いんですね。

話は戻ってイタリアのこと。
普段プライベートで旅行などしないものだから、ヨーロッパに行くのは初めてでした。中国ツアーでだいぶ自分の体力&精神力の弱さと胃腸の弱さ(これは日頃からなのでさらに…)を痛感し(しかし、中国のオーディエンスは本当に最高だった!)、それ以降、ちょっと苦しいことがあっても、あれに比べれば…とだいぶ心も強くなり、いざヨーロッパへ。
今回は録音だけの予定だったので、コンサートは無いし、スケジュールも向こうのスタジオと臨機応変に対応しながらのやりとりで、非常に快適で愉快な旅だったということは先に話しておきたい。

始めはローマに着いて少し町を散策。
着いた瞬間から、潮の匂いの混じった透き通った空気に心をほぐされ、美しい町並みに顔もほころぶ。
12時間のフライトの疲れもなんのその、適当に散歩しているだけで、こんなにも楽しい気分になれるなんて、旅行が好きだという人の気持ちを少し理解できた。
映画が大好きな僕は、日頃からスクリーン越しに観るイタリアの美しい町並みに大きな憧れを抱いていたので、始めにローマで観た町並みや人々の姿、感じた空気は本当に夢のようだった。
海外の友人達は、イタリア人はとても閉鎖的で、保守的だと言うけれど、その理由もなんとなく分かるような気がした。
こんなに美しい遺跡に囲まれた場所に住んでいて、果たしてこれ以上なにを望むというのだろう。分からないでもない。

ローマからユーロスターで二時間半、ボローニャはローマよりももう少し愛らしい町。
ローマは世界を代表する観光地であり都市であるのに対して、ボローニャはもう少し人懐っこいような、こじんまりと佇んでいる印象があった。
ネプチューンの像が佇むマッジョーレ広場は、それはとても美しく、日々この広場で珈琲を飲んで煙草を吸って、移ろいゆく時間を眺めながら友人達との会話を楽しむイタリア人の日常は、他の何にも代え難いもののように思える。
生きることとは、楽しむこと。

マッジョーレ広場は町の中心地にも関わらず、夕方になると人々は広場でお酒を飲み始め、19時頃には飲食店以外のほとんどの店が閉店する。
日曜日には、カフェ以外、ほとんどのお店がお休みしてしまうので、買い物もろくにできない。
日本人からすると、彼らは本当に働かないのだ。
朝の10時から夕方17時まで働いて、残業はしないし、日曜日にはお店もお休み。

ロベルト・ベニーニやジョヴァンニ・アレヴィのような素晴らしい才能が生まれてくるのも、なんとなく理解ができる。
共通しているのは、喜びも悲しみも、ユーモラスに語れること。日本では難しい。

録音はというと、ボローニャから少し車で離れた郊外にあるスタジオ「music 2000」で行われた。
今回の録音は、ロンドン在住の音楽家、Dom Mino’との共同プロデュースのアルバムを制作するためで、友人のエンジニアでスタジオ経営者のアントニオに協力を仰いで実現した。
アントニオは本当に素晴らしいエンジニアで、過去にはIK Multimediaや、Native Instrumentsで開発エンジニアとして働いていたこともある。(音楽家には有名な企業で、実際に僕も彼が10年前に開発したソフトウェアをいまも使っていたりする…これには驚いたけれど)今は故郷のイタリアに戻り、ボローニャで家族と暮らしながら、スタジオを経営している。
そこで、僕は一週間弱の間、フェンダーローズによる即興的な演奏と、そこから派生させた作曲部について、アントニオによる特殊なマイキングで録音を続けた。
これは、僕の過去の作品「ポラロイドピアノ」をすごく気に入ってくれたアントニオが、その手法を元にもう一捻り、アイディアをくれて実現したのだけれど、そのあまりに美しいサウンドに、正直舞い上がってしまったくらい。
Dom Mino’は、僕がそこで派生させた作曲部について、エレキギターで様々なアレンジを加えてくれたり、逆にDom Mino’がロンドンで作ってきたサウンドに合わせて僕が即興的な作曲を加えたりもした。

しかし、このプロジェクト、時間の関係でなかなか難航していたにも関わらず、毎日、スタジオに着いてしばらくは、エスプレッソを飲みながら、音楽の話、家族の話、イタリアの話、日本の話、となかなか仕事までいかない。
実際に僕もその会話を楽しんでいたのだけれど、時折、(このままで録音は間に合うのだろうか…)という疑念が頭の片隅をよぎることも。
イタリア人に囲まれながら、自分が日本人であることを痛感した瞬間です…
それでも、終始リラックスして楽しみながら録音を重ね、なんとか最終日には想定していた程度の録音までやってのけた。

最後の日のお昼には、アントニオが自宅に招いてくれて、イタリアの家庭料理を振る舞ってくれた。
彼の奥さんと、お子さん二人。日本に似た作りのアパートに住んでいて、日本通のアントニオは、なんと家に障子まで持っていた。
家庭料理というのは、トルタリーニで、パスタの生地に詰め物をしたものなのだけれど、Dom Mino’曰く、イタリア版餃子だよ、と。
それからオーブンで煎った栗や、牛骨で煮込んだスープなど、どれも美味しかった。
そしてなにより、アントニオの子ども達がとても可愛らしくて、僕は心から、アントニオは人生で最高の授かり物を得たんだなぁと感動した。

本当は夢の地「ベニス」にも行ってみたかったのだけれど、今回は仕事だったので行けずじまい。
ベニスは僕にとって世界で一番行ってみたい場所で、憧れだけで曲を作ってしまったくらい(ポラロイドピアノ収録)本当に憧れている。すべて映画の影響だけれど、僕は割とそういう所がある。
ベニスが舞台の映画を観るたびに、このプロダクションクルーは皆、ベニスに行きたいからこの映画を作って、俳優は皆、ベニスに行きたいからこの映画を受けたのだろうなとさえ勘ぐってしまう…

と、どんどん話が脱線してしまうので、今回はこの辺にして。
さて、どんな作品に仕上がるのかは、乞うご期待。




  http://www.akirakosemura.com/
  http://www.scholecultures.net/

※現在scholeでは東日本大震災支援プロジェクト『SCHOLE HOPE PROJECT』が発足。
 詳しくはレーベルサイト http://www.scholecultures.net/にて。




 Akira Kosemuraの「今月のオススメ」
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 Dom Mino'  『Unknown Coordinates』
    [ 2009年12月16日 発売 / 通常価格 ¥2,100 (tax in) ]

亡き父への思い出に捧げられた、Dom Mino’のセカンドアルバム。この作品は、彼の希望もあってDom Mino’の数ある楽曲を聴かせてもらいながら、監修的な立場でアルバムの構成を担当しました。内二曲、共同プロデュースの楽曲も収録しています。
この作品の延長線上の話として、今回のイタリア録音が実現しました。







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  Akira Kosemura  『how my heart sings』

    [ SCH018 / 2011年04月11日 発売 / 通常価格 ¥2,310(tax in) ]





音楽は歌うように。
小瀬村晶、ピアノアルバム。

これまでに発表してきた4枚のソロアルバムを始め、様々な音楽家とのコラボレーション、TVやWEBなどへの楽曲提供、ファッションブランドへのサウンドデザインなど、小瀬村晶はデビュー以降、様々な手法で自身の音楽と向き合い、それを発信し続けてきた。
今作「how my heart sings」は、そんな彼が最も愛する楽器である「ピアノ」と向き合い、昨年の春から秋に掛けて、歌うようにして紡いできた音楽の記録である。
秋の夕刻、鈴虫が歌う初秋に、大倉山記念館にて録音された本作品には、昨年春のピアノコンサートツアーのために書き下ろされた楽曲やコンサートアレンジに加え、荒木真 (saxophone) と白澤美佳 (violin)を演奏家に迎えた楽曲、そしてツアー後に自宅スタジオで作曲された楽曲が収録されている。
この作品はなによりも、小瀬村晶という一人の人間が、自分の心に映っては消えていく旋律をピアノという楽器を用いて歌うようにして紡いできた、とてもプライベートな音楽である。そして時折、心を寄り添うようにして演奏される二人の音楽家によるハーモニー。

芽吹の春から、静謐な秋へ。音楽は歌うように。

  『how my heart sings』SPECIAL SITE




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  Quentin Sirjacq   『La Chambre Claire』
    [ SCH020 / 2011年11月09日 発売 / 通常価格 ¥2,100 (tax in) ]

親密な音楽の調べ。
フランス・パリ生まれの作曲家 / ピアニスト、Quentin Sirjacq による日本デビューアルバム。
光の揺らめきを題材にした本作。 時に踊るように、果ては慈しむように、ロマンティシズムに溢れた Quentin Sirjacq のピアノの調べが、波のように満ちては引いていく、あまりに美しい「明りの部屋」。 そこはかとなく揺らめき合う明りを眺めながら、身を委ねて沈んでしまいたくなるほどに、心の奥底に眠る美意識の湖畔へと誘っていく。 ピアニストとして、すでに Fred Frith や Joelle Leandre, William Winant の作品への参加、さらには、James Tenney や Steve Reich, Frederic Rzewski, Jose Maceda の作品にも関わり、作曲家としても、Bruno Bayen, Marion Bernoux, Richard Bean, Jacques Taroni 等と映画やテレビ、ドキュメンタリーの仕事を共にしているというフランスの若き巨匠。
音楽に身を委ねた後に残る、親密な心模様を感じられるような、パリからのささやかな贈り物。

※本作は、フランス国内にて2010年に発表された作品の国内盤となります。



次回へ続く…(12/12更新予定)。


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