年内すべり込み! 強力トリオ新録

2011年12月2日 (金)

N.Y. 最前線三銃士スクラム、至芸極まれリ、サガ・コンティニュー！

　2011年もいよいよ大詰め。各種マーケットも天王山を迎えるにあたって、少しでも多くの ”アタリ” コンテンツを抱え込みたいもの。そこに現れた年の瀬ジャズ市場のメシアがこちら。コンテンポラリー・ジャズ・シーン最強のトリオ・アンサンブルが、ヘッドスライディングにて年内すべり込みセーフ!

　アーロン・ゴールドバーグ、オマール・アヴィタル、アリ・ジャクソンJr. ・・・どうだいと言わんばかりの千両役者が揃い踏んだこちらの『Yes!』。これこそがジャズ年末商戦の真打ちにして、暗夜の灯。 三人いずれもが、誰もが認めるN.Y. ナンバーワン・ファーストコール・ミュージシャンであることはジャズ・ファンであれば百も承知二百も合点。されど、そんな高尚な枕詞を知らずとも音楽の強度いっぱつで途行く人を立ち止まらせるのが、ホンモノの証。この『Yes!』には、そんなホンモノによるホンモノのトリオ・サウンドが惜しげもなく詰め込まれているのです。

　アーロン・ゴールドバーグ、オマール・アヴィタル。この両者はご存知OAM トリオで活動を共にしている、現行シーン最高峰のピアニストにベーシスト。さらにプレイヤーとしてだけでなく、プロデュース業においてもその才能を存分に光らせている、大袈裟に言えば現代N.Y.メインストリーム・ジャズ・シーンの”聖人君子”、穿った言い方をすれば出セバ当タリの”錬金術師” 。そして今も進化を続ける、そんな二人にこそ「最も高い峰」という称号が相応しい。

　ゆえに、「マーク・ミラルタを差っ引いた”マイナス・ワン OAM トリオ”なのでは？」というお問い合わせが殺到してもおかしくはないのでしょうが、そこは聖人君子であり錬金術師でもある両雄。グループ、ソロ、別働プロジェクトと幾多の顔を持ち併せながらあの手この手で世界中のジャズ・ファンを悦ばせる、そのツボをよく心得ています。引き出しの数とその容量はあまりにも豊富で無尽蔵。アイデアだって超一流。アブドゥーラ・イブラヒム「Maraba Blue」をオープニングに放り込んでくるあたりの ”粋な前フリ” センスはもはや彼らにしか許されない芸当でしょうか。

　また、アヴィタル低音世界のよき理解者アリ・ジャクソンJr. の参加も当然ながらこの作品を独特のトリオ・イズムに満ちたものに押し上げています。アリはオリジナル・コンポジションを2曲書き上げ、方やパーカッシヴなリズムの上を清々しいメロディが流れる「Aziel Dance」（イメージはポリネシアン・ダンス？）、方やアンダルシアの青い海の如くどこまでも瑞々しく美しいバラード「El Soul」、そのどちらもが代えのきかない本作中のハイライト。

『Yes!』 収録曲

1. Maraba Blue 2. YES! 3. Aziel Dance 4. Epistrophy 5. El Soul 6. Way Way Back 7. Homeland 8. The Shepherd 9. Manic Depressive 　　Aaron Goldberg （p）, Omer Avital（b）, Ali Jackson Jr. （ds）

　手元の資料によると、三者の付き合いは N.Y.の名門ニュースクール大学時代にはじまり、その後SMALLSクラブを中心とした現場セッションを重ね実に15年以上にも及ぶそうです。そのためほとんどのテイクが1回こっきりのものばかり。そこには付き合いの長さや卓越した技術だけではなく、ホンモノのジャズメンでしか察知することができない互いの瞬間的な気、その巧みなやりとりがあって他ならないのかもしれません。リズムが複雑に入れ替わるアヴィタル作の表題曲では、まさにそうしたグランドマスター・トリオならではの”嗜み”が味わえることでしょう。

　モンクの「Epistrophy」は、さすがに本家（あるいはドルフィー版であったり）の妖気には及ばないものの、今昔数多存在するカヴァーの中でも群を抜いてキレがよし。「Way Way Back」、「The Shepherd」のエリントン・ナンバーにしろ、ジャズ百年の歴史に根差しつつも「独自にアップデートする」というジャズの本分を決しておざなりにしないところにも彼らが一流と呼ばれる所以があるのかもしれません。




　「Homeland」は、昨年リリースのアーロンのリーダー作『Home』にも収録されたアヴィタルのオリジナル。ベース・ソロの哀愁度にかぎってはこちらに軍配か？ 作者の類稀なるメロディメイカーぶりもあらためて推知。と同時に、今のニューヨークのサウンドスケープにはイスラエル慕情よろしくの哀愁がよく似合う、と心の中で独りつぶやく。ラストの「Manic Depressive」もこれまた旬な”メイド・イン・イスラエル”。ブラッド・メルドー、ロン・カーター、アル・フォスターという豪華メンツがバックアップした『Israeli Song』でニューヨーカーのド肝を抜いたN.Y.=イスラエルの次世代サックス・プレイヤー、エリ・デジブリのオリジナル・ブルース。バッファロー・ウィングを肴にヤルデン・ヴィオニエの白でも愉しみたい気分へと。

　今年は渡辺貞夫のN.Y.カルテットの一員として来日も果たしたアーロン・ゴールドバーグ。「自分のトリオでも来日したい」と切望していたそうで、是非ともこのトリオでの2012年来日公演実現を夢見て、さらにはジャズ色の「富士、鷹、なすび」、最高の初夢のお供に、大晦日、最強トリオの無敵スクラム実録『YES!』が到着します。おまけにオマール・アヴィタルの別働カルテット＝サード・ワールド・ラブの新作『Songs And Portraits』もうまくいけば同着。

　今年も世界を席巻したN.Y.=イスラエル強兵の舞、そのサーガはまだまだ続く。

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