マイルス黄金クインテットの名演が

2011年7月22日 (金)

アコースティック・ジャズの最高到達点にて。
黄金のセカンド・クインテットによる欧州ツアー音源＋映像が公式リリース

　マイルス・デイヴィス 黄金のクインテットによる1967年ヨーロッパ・ツアーの記録を4枚組のボックスセットにまとめた『Bootleg: Miles Davis Quintet Live In Europe 1967』が出る。SONYのレガシー盤シリーズとして公式に。週末ごとに西新宿あたりをガイドマップ片手にフラついていたディープで不埒なジャズ・ファンであれば、このおしらせに、あの伝説の地下流出盤『Live in Europe』や『No Blues』なんかをアタマに思い浮ばせて「お、いよいよかい」と思わず膝を叩く方もやはり多いのではないだろうか？

　地下盤を漁る不埒者とは言ったものの、「黄金のクインテット」と称されているにもかかわらず、「これまでにこのクインテットによる公式のライヴ音源が、『Miles In Berlin』と『Plugged Nickel』（すいません忘れてました。。ご指摘ありがとうございます!）以外に円盤として残っていないのはいかがなものか？レコード会社の怠惰でしかないっ」といったストレスを抱え込みカラダを悪くしてもアレだと地下盤にすがる気持ちも、真理と言えば真理だ。しかも公式に発表されてもおかしくないレベルの高音質でひっそり提供されれば誰だって・・・というのが言い分であって、据え膳喰わぬはナントカだというナルシストな開き直りさえもある。大手企業の無意味とも思える ”出し渋り” が地下盤狩猟の免罪符になるかどうかはともかく、今回の公式リリースはそれなりの事件であることには違いない。

　1967年の10月29日～11月7日にかけて行なわれたマイルス・デイヴィス・クインテットによる短期間のヨーロッパ・ツアーでは、「黄金のクインテット」、つまりはマイルス以下、ウェイン・ショーター（ts）、ハービー・ハンコック（p）、ロン・カーター（b）、トニー・ウィリアムス（ds）という所謂「第2期」に区分される二管五重奏団、その最末期ならではの怒涛の演奏が各所（全9公演）で繰り広げられていた。

　ほんの5ヶ月前に『Nefertiti』の録音を終えたクインテットは、この時点でアコースティック・ジャズの最高到達点に達していたことはジャズ・ファン誰もが意見を揃えるところ。それゆえに「その先のサウンドを模索するにあたって、越えなければならないある臨界点に差しかかっていた」とも評されていた。

　「ある臨界点」とは結果的に「エレクトリック化との分かれ目」を指すわけだが、当時のクインテットはそこに舵をきる一歩手前で、さらなるアコースティック・ジャズの可能性を探求し続けている。しかもステージの上で、だ。だからしてこの時期のライヴ・パフォーマンスにはフリー・ジャズに接近したかのような各プレイヤーの激しく振り切れた演奏や、バンドとしてのテンションの高さがムキ出しになっているのだ。特にトニーの縦横無尽にスペースを駆け抜ける知的な暴れ太鼓には、筆舌に尽くしがたいかっこよさがある。

収録曲

ディスク 1

1. Agitation
2. Footprints
3. Round Midnight
4. No Blues
5. Riot
6. On Green Dolphin Street
7. Masqualero
8. Gingerbread Boy
9. The Theme

Recorded on October 28, 1967 at the Konigin Elizabethzaal, Antwerp, Belgium by Belgian Radio and Television [BRT].

ディスク 2

1. Agitation
2. Footprints
3. Round Midnight
4. No Blues
5. Masqualero
6. Agitation
7. Footprints

M-1～5 recorded on November 2, 1967 at the Tivoli Konsertsal, Copenhagen, Denmark by Danish Radio; M-6,7 recorded and broadcast on November 6, 1967 at the Paris Jazz Festival, Salle Pleyel, Paris, France on France Inter [ORTF]. Radio Program Producer: Andre Francis.

ディスク 3

1. Round Midnight
2. No Blues
3. Masqualero
4. I Fall In Love Too Easily
5. Riot
6. Walkin'
7. On Green Dolphin Street
8. The Theme

Recorded and broadcast on November 6, 1967 at the Paris Jazz Festival, Salle Pleyel, Paris, France on France Inter [ORTF]. Radio Program Producer: Andre Francis.

ディスク 4 （DVD）

1. Agitation
2. Footprints
3. I Fall In Love Too Easily
4. Walkin'
5. Gingerbread Boy
6. The Theme
7. Agitation
8. Footprints
9. Round Midnight
10. Gingerbread Boy
11. The Theme

M-1～6 recorded on November 7, 1967 at the Stadthalle, Karlsruhe, Germany by Sudwestfunk TV; M-7～11 recorded on October 31, 1967 at the Konserthuset, Stockholm, Sweden by Sveriges Radio TV.

　以上、CD3枚とDVD1枚からなるコンテンツ。その収録曲の詳細な録音データが明らかになっていない段階においても、冒頭で膝を叩いたコアな帝王ファンには凡そ察しが付いていたことだろう。「11月4日のベルリン公演に、11月6日のパリ公演はマスト。待てよ、11月1日のヘルシンキ公演もたしかサウンドボード音源で流出してたぞ・・・。ストックホルムとかカールスルーエのDVDはハーフ・オフィシャルみたいなもんだから、この機会にあらためてってところだろうな・・・」と独りでブツクサ言っている姿は想像に容易い。むしろこのあたりの音源を公式銀盤化せずに何をするのか、というぐらいに蔵出しのお膳立ては（地下市場によって）十分すぎるほどできているというわけだ。

　さて、いざフタを開けてみれば・・・実際の各ディスク及び各曲のデータは上記トラックリストにあるとおりとなった。DVDは大方の予想どおり（？）『The Complete Columbia Album Collection』にも付属されていた10月31日ストックホルム、11月7日カールスルーエ公演からの映像。残念ながら11月4日のベルリン・フィルハーモニー・ホール公演は未収録となったが、11月2日コペンハーゲン公演や、11月6日パリ公演のフルセット（おそらくこれまで地下盤でも確認することのできなかった「Agitation」、「Footprints」の2曲をプラス!）がお目見えするということでポイントはかなり高い。またライナーノーツはアシュリー・カーンが担当しているということ。

　ちなみに、『Best of Bootleg: Miles Davis Quintet Live In Europe 1967』という1枚モノのCDもリリースとなり、こちらは同ボックスセットから厳選した音源を収録したハイライト盤となる。ジャケットに微妙な違いがあり、タイトル・フォントがボックスセットは「黒字」、ベスト盤は「赤字」で印刷されているので曖昧さ回避の目印にしていただきたい。