【連載】NONA REEVES(第4回) NONA REEVES『Choice by NONA REEVESの世界』へ戻る

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Billboard Live

2011年6月28日 (火)



 



 ノーナ・リーヴスのギタリスト奥田健介です。ボーカルの西寺郷太と交互に、僕らにとってはじめてのカバー・アルバムである《“Choice“by NONA REEVES》を紹介していくというこのコーナー。最終回である今回は、アルバムの8曲目、トッド・ラングレンの〈WAILING WALL/ウェイリング・ウォール〉と、9曲目、ビーチ・ボーイズの〈KOKOMO/ココモ〉についてお話したいと思います。


 まず〈WAILING WALL/ウェイリング・ウォール〉から。この曲の作者、トッド・ラングレンは実に摩訶不思議な変人であります。若くしてバンド「NAZZ」の一員としてデビューして以来、その作風はめまぐるしく変化していきました。キャッチーな3分間ポップから、とろけるような甘いバラード、プログレッシブなジャズロックまで、振り幅の広さという点では、これまた奇人・才人であるフランク・ザッパや細野晴臣なんかと共通する部分があると思います(顔の長細さではトッドが抜きん出ています)。
 ただ、勝手なイメージですが、ザッパや細野さんがあくまで「感覚」に導かれるまま、結果論として多様な音楽性にアーティスティックに踏み込んで行ったのに対し、エンジニアやプロデューサーという「職人」の要素も強いトッドは、常に音楽仕事人としての無骨なまでの「信念」のもと、自己変革を成しつづけたような印象があります。とにかくどの作品を聴いても、それぞれの色は違えど、作り手であるトッドの「思い」の強固さは生半可なものじゃありません。

 今回ノーナがカバーした〈WAILING WALL〉も、まさに彼の情念の権化のような、荘厳なまでに美しいバラード。セカンド・アルバム《ラント バラッド・オブ・トッド・ラングレン》に収録されている、ピアノ弾き語り曲です。
 トッド以降のシンガーソングライターの定番とも言える、メジャーセブンス、マイナーセブンス、分数コードの独特の順列。そこに乗る、甘美なメロディーと重厚なコーラス。彼のエッセンスがむき出しになっているようなこの歌を、ノーナは生ピアノ+エレキギターという最小限の編成でカバーしました。プロデューサー冨田さんは僕ら以上に、トッドに対する思い入れが強いので、録音は不思議な緊張と陶酔に包まれる中、空気を切り裂くような一発録りスタイルで行われました。OKテイクが出たあと、ソファーにヘナヘナと座り込んでしまったのを覚えています。

 結果として、このカバーには特別なものが宿っている気がします。音階や歌詞だけでない「何か」までカバーしてしまったとしか思えません。






 さて、《“Choice“by NONA REEVES》のラストを飾るのは、ビーチ・ボーイズの88年のヒット作〈KOKOMO〉です。映画「カクテル」の主題歌として有名ですね。
 音楽ファンにとって、ビーチ・ボーイズのイメージって、簡単に言うと二つあると思われます。つまり初期の〈サーフィンUSA〉等に代表される、「海・サーフィン・車・恋」みたいな、明るくダンサブルな「陽」のパブリック・イメージと、アルバム《ペット・サウンド》以降の、ブライアン・ウィルソンの不安定な内的世界を五線紙に書きつけたような作品群の「陰」な音像。両者とも、基本的にはソングライターであるブライアンが産み出したものですが、この〈KOKOMO〉は、そのどちらにも属しません。なぜなら、この曲にはブライアンが参加して(できて)いないからです。
 言うなれば〈KOKOMO〉は、ややもするとビーチ・ボーイズ・ファンに軽視されがちなフロントマンであるマイク・ラヴが「不必要にフィーチャーされてる」曲なんですね。良い曲なんだけど、ちょっとしたワケアリというか。確かに、彼らの初期ヒット曲に匂いたつ「ある種の幻想だけど、筋の通った健全なライフ・スタイル」とも似て非なる、きな臭い「チャラさ」みたいなものが、この曲にうっすらにじみ出ていることは、残念ながら否定できません(笑)。

 ではなんでノーナはわざわざこれを「CHOICE」したのか。それは単純に、音楽的に優れていると感じたからに他ありません。まあ、その方が面白いから、というのもありますが…。あと、「カクテル」直撃世代としてのオトシマエ、という部分もあったりなかったり。
 そんな「全然隠れてない、隠れた名曲」をノーナ&冨田さんはどう料理したかというと、ひたすら(完全にポジティブな意味で)趣味の良い、いわゆるフィル・スペクター・サウンドに仕立て直し、ビーチ・ボーイズ・ファンであろうが誰であろうが、リスナーから有無を言わせぬ「いいね!」を誘発し得る、確信犯的なアレンジを選んだわけです。とにかくこの曲における、冨田さんのプログラミングの、端正かつドリーミングな伝統美は感動的です。アコギもコーラスもたくさん重ねました。


 完成してみればやはり、「この曲が《CHOICE》の中で一番好き!」という人、けっこう多いです。個人的にも、こんな「単なる超良い曲」で締めくくるカバー・アルバムってなかなか素敵じゃないか、と思ってます。


NONA REEVES 奥田健介






NONA REEVES プロフィール

NONA REEVES

1995年5月、西寺郷太が「ノーナ・リーヴス」と名づけ音楽活動を開始。その後すぐにドラマー小松シゲル、ギタリスト奥田健介らが合流しバンド編成へ。 ちなみにノーナ・リーヴスとは西寺が、マー ヴィン・ゲイの娘ノーナの名と、ザ・ヴァンデラスのリード・シンガー、マーサ・リーヴスの姓を組み合わせて作った「架空の女性シンガー」の名である。1996年、インディ・レーベルよりはじめてのアルバム「サイドカー」を発表。97年、ワーナー・ミュージック・ジャパンよりメジャー・デビュー。その後、コロムビア、徳間ジャパンと移籍を重ねつつ、現在までにオリジナル・アルバム11枚を発表。作品は世界各地でリリースされている。近年、西寺郷太はその驚異的な80年代ポップ・マニアぶりを生かし、ラジオのレギュラーなどで高い支持を得る。特にマイケル・ジャクソンについての2作の著書は記録的なベストセラーとなった。メンバーそれぞれの活動も活発となり、SMAP、HALCALI、DEPAPEPE、土岐麻子、坂本真綾、大澤誉志幸、佐野元春、堂島孝平、YO-KING、YUKIなど多くのアーティストへ楽曲提供、プロデューサー、セッション・ミュージシャンなど様々な形で関わっている。

  オフィシャルHP
  西寺郷太Twitter
  奥田健介Twitter

Live情報

『MAD NONA 4 デビュー15周年記念 NONA3X15(ノーナ最高!)プロジェクトその1
"Choice" and "Warner Music Years 97-01" Release Party 2011』

[2011年7月16日(土)]
【会場】恵比寿 LIQUIDROOM
【開場/開演】17:30 / 18:30
【チケット料金】
■前売り 立ち見 ¥4500(税込み)※ドリンク代¥500別
■当日券 立ち見 ¥5000(税込み)※ドリンク代¥500別
【お問い合わせ】HOT STUFF PROMOTION
03-5720-9999(平日15:00〜18:00)



関連リンク

TBSラジオ『小島慶子 キラ☆キラ』の3時台コラム「コラ☆コラ」のコーナーに西寺郷太さんレギュラー出演中(毎週水曜日)!
  『小島慶子 キラ☆キラ』HP

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商品ページへ   NONA REEVES  『Choice by NONA REEVES』
    [ 2011年06月08日 発売 / 通常価格 ¥1,980(tax in) ]     

[収録曲]
01. JIVE TALKIN' (BEE GEES)
02. I WANNA BE YOUR LOVER (PRINCE)
03. DON'T TALK ABOUT IT (CULTURE CLUB)
04. JUST THE WAY YOU ARE (BILLY JOEL)
05. I CAN'T TELL YOU WHY (EAGLES)
06. SMOOTH CRIMINAL (MICHAEL JACKSON)
07. LOVE T.K.O. (TEDDY PENDERGRASS)
08. WAILING WALL (TODD RUNDGREN)
09. KOKOMO (THE BEACH BOYS)
東京・大阪でライブレストラン、「Billboard Live」を運営し、海外からスティーリー・ダンやジョージ・クリントン、セルジオ・メンデスなど世界基準のトップアーティストを始め、細野晴臣やキリンジら良質な国内アーティストもブッキングしてきたBillboard Japanが、「Billboard Records」を立ち上げた。その最初のリリースとなるのは、カヴァー・シリーズ『Choice』第1弾。そして、そこで先陣を切るにふさわしい見事なセンスを披露しているのはNONA REEVESだ。「マイケル・ジャクソンの伝道師」としてテレビ、ラジオ、執筆と大活躍、楽曲提供やプロデュースでも様々なアーティストとコラボレーションを続けるヴォーカル西寺郷太(彼はこの『Choice』シリーズの命名者でもある)をはじめ、ギター奥田健介、ドラム小松シゲルのふたりもプロデューサー、アレンジャー、セッション・ミュージシャンとして八面六臂の活躍。日本の音楽シーンになくてはならない存在となっているNONA REEVES。そんな彼らが本当に純粋な音楽への熱意と愛だけをこめたのがこの作品だ。西寺郷太は本作に「自分たちが信じてきた音楽の魔法を詰め込みました」と語り、こう続ける。「我々の骨となり、血となってきたここに選んだ70年代から80年代後半までの名曲達を歌い奏でることは、『自分とは何か?』と問いかけるノスタルジックな作業となりました。しかしそれ以上に、冷徹に2011年の『今』、守り、伝え続けたいものを浮かび上がらせることにもなったんです。メンバー一同レコーディングしながら、何度も何度も幸せな瞬間を味わいました。スタート・ボタンを押したその時から、そのことを全身で感じていただけると思います。」プリンス、マイケル・ジャクソン、ビーチ・ボーイズ、ビリー・ジョエル、カルチャー・クラブ、トッド・ラングレン…。そして、その永遠に色あせることのない珠玉のヒット曲。本作はそんな名曲たちと日本のポップ・ミュージックの良心とが邂逅した大傑作カヴァー・アルバムとなっている。




商品ページへ   NONA REEVES  『WARNER MUSIC YEARS / THE BEST OF NONA REEVES 1997-2001』
    [ 2011年06月08日 発売 / 通常価格 ¥2,500(tax in) ]     

[収録曲]
01. LOVE TOGETHER
02. DJ!DJ!(What Have I Done To Deserve This?)
03. WHERE IS THE PARTY?
04. AUGUST
05. FRIDAY NIGHT(SOUL ON)
06. Bad Girl
07. STOP ME
08. THE GIRLSICK
09. FORTY PIES
10. HiPPY CHRiSTMAS
11. WARNER MUSIC
12. CESSNA
13. I HEARD THE SOUND(Parts 1&2)
14. (HAPPINESS IS ON THE)TURNTABLES ONLY [Honmoku '77 Mix]
15. I LOVE YOUR SOUL

高度な音楽性と絶妙の同時代性を持ちながら、独自の地位を確立したノーナ・リーヴスのデビュー15周年スペシャル・プロジェクト!『アニメーション』『フライデー・ナイト』『ディスティニー』の3枚のアルバムほか、現在入手困難となったワーナー期('97-'01)音源から厳選されたベスト・アルバム発売! 筒美京平をプロデューサーに迎えた「LOVE TOGETHER」、YOU THE ROCKをフィーチャリングした「DJ!DJ! 〜とどかぬ想い〜」、「WHERE IS THE PARTY?」、CKB・横山剣を迎えた「ターンテーブルズ・オンリー feat. 横山剣」、「I LOVE YOUR SOUL」、アルバム未収録の「ヒッピー・クリスマス」など、ワーナー在籍時のノーナの代表曲を集めた待望の1枚がリリースとなります。



関連作品

 2009年03月04日 発売
 2007年02月14日 発売
 2006年02月22日 発売
 2006年05月24日 発売
 2010年06月08日 発売
※西寺郷太 全面監修




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