『Kind of Blue』レゲエ解釈盤CD化

2011年7月6日 (水)

『Kind of Blue』の丸ごとレゲエ・カヴァー・プロジェクトが世界初CD化！

　2009年にブルーのカラー・ヴァイナルにてひっそりと世に出回った『Reggae Interpretation of Kind Of Blue』。ジャズに多少なりとも親しんでいる方がそのジャケットを一見すれば、マイルス・デイヴィスの名盤『Kind Of Blue』のカヴァー、あるいはそこに何かしらのオマージュを捧げたアルバムであろうことは概ね予想が付いたはず。ただしタイトルに目を遣るとそこには「Reggae Interpretation of ～」というやり過ごすことのできない麗句が・・・「レゲエ解釈のカインド・オブ・ブルー」だったのだ。しかも1981年頃の録音だとレーベルHPに掲載されているものだから、「これはめったに世に出るようなブツじゃあないな」と即座にピンと来てしまった方はかなり多かったのではないだろうか。レコード番長・須永辰緒氏もかくゆうそのひとりであったに違いない。

　アナログ・リリースから2年。おそらく誰もがCD化を切望してやまなかったであろう『Reggae Interpretation of Kind Of Blue』。遂にその念願が叶う。この銀盤化に尽力したのはもちろん須永辰緒氏。正確な参加メンバー、録音時期・場所はおろかクレジットが何ひとつ記載されていない（詳細な資料が残っていない）、あまりにも謎が多く、ややもすると”マユツバ”ものとも捉えられかねない状況にも関わらず、この神秘的な音源を執念とも言える2年越しのレーベル交渉によって見事 ”攻落” した須永氏。「2009年にひっそりとリリースされた謎のアナログ。アナログのみのリリースという形態は自分としては非常に興味深く、嬉しかったものです。しかし、それ以上にもっと多くの音楽愛好家にも聴いて欲しいと思い、そこから2年間交渉を続けついに世界初CD化に漕ぎ着けました。確証はありませんが、この時期（81年当時)のNYのレゲエシーンを検証すると、ローランド・アルフォンゾやロイド・ブルワッキー・バーンズなどの影も見え隠れします。というのもクレジットが一切残っていないのです！近年稀に見る神秘深く凄い作品の予感がします」という氏ご本人のレビューからは、本作から受けた衝撃の大きさや、CD化へのまむしぶりが生々しく伝わってくる。

　「1981年の春、ジャマイカのスタジオ・ミュージシャンのグループがニューヨーク州立大学の音楽教授ジェレミー・テイラーの監督の元、ニューヨークに招集された」。信憑性のある情報といえばこのぐらいだろう。繰り返すが、参加メンバーの具体的な名前などはどこにも見当たらない。にも関わらずこの『Reggae Interpretation of Kind Of Blue』は、多くの音楽ファンにCD化を乞われ、そのうちのひとりでもあったレコード番長の指揮の元それが実現。掛け値なしの求心力がある作品ということだ。本篇5曲に、のちにレーベル・プロデューサーによってダブワイズされた5曲が加わった全10曲。内容の素晴らしさはもとより、聴けば聴くほどに想像力をかき立てられるおもしろさも。「このラッパはジョニー ”ディジー” ムーアか？」「ベースはリロイ・シブルス？」「この時期ニューヨークで復帰を目前としていたマイルスがスタジオにぶらりと遊びにきた可能性だって・・・」と良い意味で収拾が付かないほどだ。

　謎は謎のままでいい場合がある。それが解き明かされたところでこの『Reggae Interpretation of Kind Of Blue』の評価がひっくり返るわけでもないのだから、とにかくこのたびのCD化を祝しながら、様々なイマジネーションを巡らせて、何度も何度もガツンとした衝撃を得たいと思う。

監修を務めた須永辰緒氏からオリジナル・レビューが到着！

　この作品はモンスターです。

　僕がアナログ至上主義でなければ、CDを使って音楽番組などを担当していなければ、この世界初CD化は実現しなかったと思います。ジェレミー・テイラーというNY州立大学の音楽教授が組織したジャマイカのミュージシャンによる「レゲエの解釈」の出自も謎ならばそもそもジェレミーはトラックダウンを終えることなく鬼籍に入ってしまわれたエピソードからこのCDの壮大な謎が始まっている。クレジットが一切ないのだ。クレジットがないー？ジャズ愛好家の方ならその重大な欠陥の意味が分かると思う。常にブラインドを要求されるのだ。そして聞き手の度量をも試されるという前提でこの作品に触れて欲しい。2年前に奇跡のアナログ化された時にはこのHMVのサイトでも年間ベストに挙げさせてもらったくらいレコメンドしていたくらい。「誰もが驚愕したマイルスの名盤。丸ごとレゲエカヴァープロジェクトがこの日本で世界初のCD化」の帯コピーが伊達ではないことが分かる筈だ。

　録音は81年。81年にしてこのモダンさ。マイルスの十八番の「モード」とは意味の違うモダンな響きはリズム設定をレゲエに求めたことにある。現在のダンスミュージックに並列させてもちっとも遜色がないのだ。特にDUB。年代からしてロイド”ブルワッキー”バーンズあたりも関わっているかと推測されるが1曲目の不動の金看板「So What」のDUB解釈（Song.6）はギミックは極力控え、ベースの音が凶悪になっているのが分かるでしょうか。レゲエの「ぶんぶん」というイメージそのままで、音数を控え、空間定位を極端に拡げた印象のエフェクトはデトロイト（テクノ）すら彷彿させる。2曲目のブルースナンバー「Freddie Freeloader」のギターのカッティングも素晴らしい。ジャズ－レゲエの蜜月はこのギターが雄弁に物語ってくれている。3曲目の「Blue in Green」も同様。音を左右に振ることを”パン”と言いますが、そういったステレオアクションの楽しさもこの作品は教えてくれる。ちなみにアナログではその愉楽を感じなかったのでCD化のさいにマスタリングですっきりと音を持ち上げた成果だと思う。夕焼け系の甘酸っぱいトランペットのメロディが刺さります。そして「All Blues」。ジャズマンにこの上なく愛された不動のナンバーはここでも輝きを放っている。アルトサックスによる”過ぎない”インタープレイも美しい。本家ではビル・エバンスのアイディアによってアレンジされていた「Flamenco Sketches」の美しさ。本家で言うならコルトレーンの演奏になるテナーですが、ここでもテナー奏者をフューチャーしつつミニマルミュージックの元祖とも言われたそのアルバムのイメージそのままに綺麗にまとめている印象。続くDUB絵巻も楽しんで下さい。

須永辰緒（sunaga t experience）

須永辰緒（sunaga t experience）
Sunaga t experience ＝須永辰緒による音楽制作ユニット含むDJ/プロデューサー。コンピレーションの監修やプロデュース・ワークス、海外リミックス作品は延べ200作を超えた。海外からの招聘も行い欧州のDJ／ミュージシャンとの交流も厚い。