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Ripple of Music 〜藤本一馬さんを迎えて〜

2011年6月14日 (火)

interview
Ripple of Music 〜藤本一馬さんを迎えて〜


orange pekoeのギタリスト/コンポーザーとしても活躍する、藤本一馬さんのソロ・アルバムが登場です。前述ユニットの活動でも、その類まれな演奏で多くのリスナーから絶大な支持をされていますが、今回のソロ・アルバムは自身の音楽ルーツを探りながらも、さらなる進化と革新も感じさせる。その様はまるで藤本一馬の広がる音楽世界、つまり藤本一馬の無限の宇宙を体感させてくれるような壮大な作品です。
彼も敬愛してやまない、エグベルト・ジスモンチ、トニーニョ・オルタ、ラルフ・タウナーといった偉大なギタリストのスピリッツも受けつつも、決まった場所に収まるのではなく、ジャズ、ブラジル、ラテン、フォーク、ブルース、ソウルなど幅広い背景を持ちながら、確固たるオリジリナリティーの上で自由に縦横無尽に音を奏でます。 ギターとベースとパーカッションが三位一体となり、時にスピリチュアルに、時にメロウに、静寂と情熱を往来しながら昇華していくサウンド。これはまさに全ての音楽ファンに聴いてほしい作品です。 今回、藤本一馬さんのソロ・アルバム『Sun Dance』の発売を記念して、藤本さんのさらに深い音楽性を探り、藤本一馬から広がる音楽の波紋をみつけます。“めかくし〜”ならぬ“Ripple of Music”と題して、藤本さんには事前に内容をお知らせしていない5枚の作品を順番に聴いて頂き、それぞれの感想を率直に語って頂きました。その中から藤本さんの音楽への考え方や、アーティストへの想いなど、興味深いお話を聴くことが出来ました。ぜひお楽しみ下さい。

(HMV商品本部ジャズ/ワールド担当バイヤー 山本勇樹)




--- 本日はよろしくお願いします! 5枚のCDを順番に流していきますので、聴いて頂いた率直な感想などをお聞かせください。それでは1枚目からスタートします。
  Ryan Francesconi 「Huseni Oyun Havasi / Kurdi 7 and 9」 
(from 『Songs From Cedar House』)

Ryan Francesconi / Songs From Cedar House
ジョアンナ・ニューサムとも共演し、ブルガリアン・フォーク・ミュージックを追及する音楽家が、ブルガリアン・タンブーラを手にし、ウード奏者との二重奏に挑戦。インストだがうたごころあふれる演奏はエキゾなテイストも相まって、聴き手を深い内省へと誘う。弦楽器の音色の美しさも特筆もの。

 ウードが聞こえるなぁ。中近東とか北アフリカの方のサウンドですかね。個人的にはこの音色は好きですね、興味深い。この弦の音色はマンドリンかなぁ。

--- これはライアン・フランチェスコーニという弦楽器奏者で、ブルガリアン・タンブーラという楽器を弾いています。ジョアンナ・ニューサムのバックバンド・メンバーでも知られている人ですね。

 ライアン・フランチェスコーニ!そういえば最近よく聞く名前ですね。僕もここ数年、こういった東欧とか中東の民族的な響きがすごい好きで、実は次回作に向けて自分が思考しているサウンドの一部にもなりそうな、最近ライヴでもこういった演奏をしていたので、このサウンドは何か通じる部分がありますね。ライアン・フランチェスコーニ・・・かなり興味深いなぁ。実は知人からYouTubeの映像も教えてもらって観たんですが、かなり気になってました。

--- 私たち音楽好きの間でも、藤本さんとライアンのクロスオーヴァーな感覚は共通するかも、と話題にしていましたよ。

 そうですか、でもこのサウンドはとても共感を覚えますね。聴いていて普通に好きですよ。西洋と中東のなんとも言えない混ざり具合というか。なんだか、このアーティストは急に気になる存在になりましたね(笑)。CD買おうかな。ブルガリアン・タンブーラも気になるし。

--- それでは2枚目の作品にいきます。
  Quique Sinesi 「Otro dia」
(from 『Danza Sin Fin』)

Quique Sinesi / Danza Sin Fin
アルゼンチンのギタリスト、キケ・シネシ。14歳でプロとしての活動を開始して以来、タンゴ、ジャズ、クラッシックなど様々なジャンル、国を飛び越えて活躍。過去には、80年代のピアソラ五重奏を支えたパブロ・シーグレルやカルロス・アギーレとも深く共演を重ねていたキケ・シネシが、1998年にリリースしたセカンド・アルバム。ソフトなタッチで静かに紡がれるキケ・シネシのギター(7弦ギター、チャランゴ、ピッコロ・ギターなども使用)。2曲目では、ゲスト参加のカルロス・アギーレのピアノと寄り添うように美しい旋律をなぞる。また4曲目では、リリアナ・エレーロのギタリストとしても知られるアルゼンチンの名ギタリスト、フアン・ファルーとの共演。7曲目は、ミロンガとカンドンベをベースに、バンドネオン奏者グスタボ・パグリアとの共演となっている。

 タップして弾いている感じとか低音とかブラジルの香りがするのはジスモンチぽいし、パット・メセニーも感じさせますね。でも本質的なサウンド感は全然違う。多弦ギターじゃなくてオープン・チューニング?限りなく南米音楽の影響を受けているけど、南米の人ではなく聴こえるような。ロックぽいバック・グラウンドも感じられるなぁ。そういう意味では息づかいのある生々しい演奏ですね。プライヴェート録音かライヴ録音のような・・・、瑞々しいストレートな魅力っていうのかな、メロディーもいいし掴みがあるサウンド。これも個人的には好きですね。

--- こちらはアルゼンチンのキケ・シネシというギタリストです。まさにジスモンチやメセニーの影響を受けているであろうアーティストですね。フォルクローレというよりはもっと多文化的なクロスオーヴァーな感覚ですね。

 あー、キケ・シネシ! この人も最近よく聞く名前だ(笑)。こういう人なんだぁ。先日、僕のライヴに来てくれたアルゼンチンのシンガー・ソングライターのフローレンシア・ルイスが僕の演奏を観て「キケ・シネシと共通するものがある」と言ったんですよ。ただ僕もキケ・シネシは聴いたことがなくて、すごい気になっていました。むしろ聴かない方がいいんじゃないっていうぐらい(笑)。

--- このアルバムにはピアノでカルロス・アギーレも参加していますし、カルロス・アギーレの作品にもキケ・シネシは参加しています。アギーレもメセニーやジスモンチは偉大な音楽家だと語っていましたよ。

 やっぱり、あの二人は偉大ですよ。いや〜、でもこのキケ・シネシは素晴らしいなぁ。今聴いて、フローレンシアに言われた意味が分かった気がします、なんか光栄な気持ちになりました。こういった素晴らしいアーティストと同じように語ってもらえることは本当に嬉しい気持ちになりますね。

--- 藤本さんの音楽を聴いていると、自分の中で音楽地図が広がって。ひとつのジャンルや国に限定されない、自由な想像ができます。とても懐が深くて魅力的だと思います。

 ありがとうございます。僕もこういったアーティストの音楽を聴くと刺激になりますね。

--- では、次の作品です。
  Ralph Towner 「Oceanus」
(from 『Solstice』)

Ralph Towner / Solstice
パット・メセニーやエグベルト・ジスモンチと並ぶ、ECMレーベルを代表するギタリストによる1974年作。オレゴンのメンバーとしての活躍も有名だが、このソロ名義作ではヤン・ガルバレク、エバーハルト・ウェーヴァー、ヨン・クリステンセンというまさに当時のECM最強メンバーを従えている。クラシカルでありながら民族的で土着的なリズム、即興と計算された構成は流石としかいいようがない。現在もなお、影響を与え続けているジャズを超えたジャズ・アルバム。

 これはすぐ分かります、ラルフ・タウナー。ヤン・ガルバレクとエバーハルト・ウェーバーと一緒に演ってるアルバム・・・『Solstice』だ。

--- オレゴン時代、70年代中期からの彼らの作品は本当に神懸りですよね。

 これは強力ですね〜。ラルフ・タウナーは僕の中ではジスモンチやメセニーやトニーニョと並んで別格の存在なんです。彼の演奏作品はオレゴンからソロまでもれなく持っていますね。

--- 藤本さんにとってラルフ・タウナーの魅力は何でしょうか?

 ジスモンチと同じで、しっかりしたクラシックの素養を持ちながら、自由に音楽を構築するところ。書く曲もメロディアスでありながら、フリー・ジャズも民族音楽もワールド・ワイドに演奏してしまう音楽性の太さというか、その場で起こる即興的なことをやっていながらクラシカルに奏でる。後にも先にもこんな人はいないと思うくらい凄い。あと何気にメロディー・メーカーでもあるんですよね。

--- ソロ作品を聴くと、その魅力がよく分かりますよね。

 そうですね、ただし音楽性の太さがあるから、どんなメロディックな曲でも、一聴してイージーには絶対に聴こえないです。むしろ深いサウンドに聴こえる。圧倒的にスリリングで緊張感に溢れていますね。そういった意味でも、彼の演奏は音楽の美味しいところをギュッと凝縮しているように思います。

--- あとはコドナ関連とか、ECMのエスニック・サイドともいわれる作品は藤本さんの音楽にも影響を与えていますか?

 そうですね、ドン・チェリーもナナ・ヴァスコンセロスもコリン・ウォルコットもみんなもれなく最高ですね(笑)。やっぱり民族音楽をストレートにやるよりも、彼らのクロスオーヴァーな感覚がたまらなく好きなんですよね。

--- では次の4枚目は7曲目からいきます。
  Bruce Cockburn 「Seeds on the Wind」
(from 『Salt, Sun And Time』)

Bruce Cockburn / Salt, Sun And Time
バンド編成でリリースした前作『Night Vision』がセールス的に好評だったにもかかわらず、再び初期のアコースティック路線に戻りレコーディングされた5枚目のアルバム(74年リリース)。ヒューマニティな詩世界を美しいメロディに乗せて歌い上げた、聴く者の心を優しくしてくれる傑作。

 すこし70年代のオレゴンの即興演奏やラルフ・タウナーのソロも匂わせつつ、後ろで鳴っているドローンの音色も印象的ですね・・・何の楽器だろう。ギターは二本かな、録音は古い感じですね。ロックのルーツもあるような、今まで聴いた中ではそれほど即興音楽のディープさは感じさせない演奏ですね。

--- これはカナダのシンガー・ソングライターのブルース・コバーンです。

 ああ、ブルース・コバーンかぁ。僕が使っているラリビーというギターは確かこの人が有名にしたんですよ。へぇ〜、面白いなぁ、リンクしますね(笑)。

--- そうなんですね! そのエピソードは私も知りませんでした。藤本さんのギターの音を聴いた時に、このブルース・コバーンのギターがつながって聴こえたんですよ。

 だからちょっとロックなテイストも感じられたのかな。僕も元々はビートルズとか好きで、父親がブルースをやっていて、叔父がジャズ好きで、その流れからブラジル音楽やワールド・ミュージックに興味を持つようになったから、もしかしてある意味ブルース・コバーンのような音楽家とも共通点があるかもしれませんね。

--- ブルース・コバーンも初期はフォークやブルースで、70年代中期から宗教観や社会的な影響を受けながら徐々に音楽スタイルを変えながらジャズ化していきますよね。ECMからの発売の話もあったほどですし、たぶんコバーンもラルフ・タウナーとかオレゴンを聴いていたと思うんですよ。

 そうですね。特にこの曲を聴くとそう感じますね。だからそこまで即興演奏のディープな感じはしないけど、どこかルーツを感じたのかもしれませんね。僕もミュージシャンとしては雑草だから、ジスモンチやラルフ・タウナーのように幼少の頃からアカデミックな音楽教育を受けているわけではないので、独学で自分なりの演奏をみつけましたし、彼等のような才人の影響も受けた背景があるので、ある意味、大先輩のブルース・コバーンが登ってきた音楽の階段には興味が沸きますね。彼も影響を受けているミシシッピ・ジョン・ハートは僕も大好きですよ。

--- 決まった場所に収まらない、感じたものを自由に表現する姿勢は藤本さんにも共通しますね。コバーンもレゲエやカリプソを取り入れた曲もあったりしますし。

 いやぁ。それにしてもブルース・コバーンなんていい所持って来ますね(笑)。

--- 恐縮です(笑)。それでは最後の5枚目をいきます。
  Hamilton De Holanda / Andre Mehmari 「A Fala da Paixao」
(from 『Gismonti Pascoal』)

Hamilton De Holanda, Andre Mehmari / Gismonti Pascoal -A Musica De Egberto E Hermeto
アンドレ・メーマリ & アミルトン・ヂ・オランダ、ブラジル・サウンドを支える実力派ミュージシャン・デュオが魅せる、エグベルト・ジスモンチ & エルメート・パスコアルへのオマージュ・アルバム。ジスモンチ本人、さらにエルメート本人がそれぞれ一曲ずつゲスト参加するというトピック。 尊重しあうメーマリとアミルトン、そしてブラジルが生んだインストゥルメンタル・カルチャーの伝道師たるミュージシャン・スピリッツが生んだ、10年に一度輩出されるクラスのブラジル・インスト大名盤。

 これはジスモンチの曲ですよね。アルバムは・・・『Infancia』に入っていますね。カヴァーかな・・・ピアノとバンドリンで。でもこう聴くとジスモンチは強烈にいい曲書くなぁと感じますね。

--- ジスモンチもまたピアノ・アルバムとか聴くと、その曲の良さが更に際立ちますよね。

 そう! ジスモンチはピアノがまた最高なんですよ。彼はギターを弾くとプリミティヴなんですけど、ピアノを弾くとクラシカルで、そのコントラストが魅力ですね。ん・・・この曲、ジスモンチがギターを弾いてますよね。

--- そうです、この作品はジスモンチも参加した、ブラジルのピアニスト、アンドレ・メーマリと、バンドリン奏者のアミルトン・ヂ・オランダのジスモンチとエルメートのトリビュート作です。

 アンドレ・メーマリかぁ、そういえば最近教えてもらったアーティストだった。それにしてもこの二人の曲に挑むとは勇気があるなぁ(笑)。エルメート・パスコアルも、この前来日した時にも観に行ったんですが、パスコアルにしてもジスモンチにしても、土着的で混沌した部分とクラシカルでコーダルな美しさが、どちらかに片寄るわけでもなく激しくぶつかっているんですよね。それがたまらなく好きなんですよね。元々、ブラジル音楽にはまったのもそこなんですよね。特にミクスチャーが進んでいった時代のブラジル作品とかですね。

--- ミナス音楽とかまさにそうですよね。

 トニーニョ・オルタ、ミルトン・ナシメント、ロー・ボルジス、ベト・ゲヂスとか大好きですね。共通してみんなメロディーが琴線に触れるじゃないですか。胸が締め付けられるような(笑)。あとは繰り返しになりますが、やはりそれでいてリズムが土着的ですよね。このCDも旋律はクラシカルで、ピアノとバンドリンだけなのにとてもリズムを感じますよね。僕は今まではブラジルやキューバの音楽はよく聴いていたのですが、アルゼンチンとかはまだあまり聴いていなくて、今日はキケ・シネシも良かったし、やはり南米、おそるべしという感じですね(笑)。しかし自分は日本人でありながら、海外の音楽の影響を受けて、自分のルーツは一体何なのかと考えることもあります。でも南米の音楽でも色々と聴き続けていると、特にミナスとかに、なぜか和というか日本的感性と通じるものを感じるときがありますね。逆にスティーヴ・ティベッツなんかはアメリカ人でありながら、東洋的な物に影響を受けつつ、でもコード感や浮遊感なんかはミナス音楽にも少し通じるし、そういう意味ではルーツ音楽も今の音楽も一周していろいろと繋がっているのかなと思うこともあります。

--- 藤本さんの音楽は日本人的感性によって作られた、誰にも真似できない完全なるオリジナルだと思いますよ。色々な音楽を吸収しながらも、しっかり藤本さんのフィルターを通して伝わってきます。今回のソロ・アルバム『Sun Dance』をきっかけに音楽の深い森に入ってしまうリスナーも多いのではないでしょうか。

 ありがとうございます。今日は色々と興味深いアーティストを聴けて良かったです。家に帰ってギターをいじりたくなりました(笑)。

--- こちらこそ、今日はありがとうございました!

藤本一馬 / Sun Dance
自然からインスパイアされた、独創的なオリジナル曲。静寂から歓喜へ、躍動するピュアネス。orange pekoeのギタリスト/作曲家、藤本一馬の初ソロ作品。ネイティブアメリカンの儀式にインスパイアされた自然賛歌であり、25分超に渡って猛々しいまでの躍動感を表現するM-7「SUN DANCE」。一方、M-2「空のように」をはじめ、叙情的でメロウな感覚も同居するなど、様々な楽曲を収録した作品。ROVOをはじめ様々なバンドで活躍する岡部洋一(perc)、ジャズシーン屈指の若手プレイヤー工藤精(bass)を迎えてのトリオサウンドも強力。orange pekoeとならぶパーマネントな活動としてのソロワーク、そのスタートを切る決定的作品。




藤本一馬『Sun Dance』 動画






profile

藤本一馬 (ふじもと かずま)

ギタリスト、作曲家、サウンドクリエイター。
1979年生まれ。兵庫県出身。フォーク、ブルースギタリスト&シンガーソングライターの父親の影響でギターを弾き始める。その後ジャズピアニストであった叔父の影響でジャズに傾倒する。1998年ヴォーカルのナガシマトモコとorange pekoeを結成。ジャズ、ラテン、ブラジル、ソウルなど、様々な音楽を独自に昇華した自作自演のスタイルで、現在までに6枚のオリジナルアルバムを発表。韓国やニューヨークでのライブなど海外にも活動の幅を広げ、日本のオーガニックミュージックシーンを常にリードする存在として注目を集めている。
2010年より並行して、ギタリストとしてのソロ活動を開始。日々の生活や自然からのインスピレーションをもとにした独創的なオリジナル曲と、ジャズ、ワールドミュージックのエッセンスを滲ませつつ、オープンチューニングなども使用した型破りな演奏で話題に。