菊地凛子が殺し屋に『ナイト・トーキョー・デイ』

2011年6月20日 (月)

菊地凛子『バベル』『ノルウェイの森』×イザベル・コイシェ監督『死ぬまでにしたい10のこと』『エレジー』

2009年カンヌ国際映画祭コンペディション部門出品／フランス映画高等技術委員会賞受賞　2010年ゴヤ賞最優秀音響賞ノミネート

　
ひとりぼっちの殺し屋と、愛をなくした異邦人。ふたりの距離が限りなくゼロになったとき、灰色の都市は、誰も知らない街へと変わる。

イザベル・コイシェが監督と脚本を務め、東京を舞台に孤独な人間たちの魂のドラマを描く。

『死ぬまでにしたい10のこと』、『エレジー』など、人間の深層を繊細に綴ってきたスペインの女流監督、イザベル・コイシェ。彼女が新作の舞台に選んだのは東京。新宿の雑踏、妖しい光を放つラブホテル、活気溢れるラーメン屋･･･。日本人にとって馴染み深いはずなのに、まるで迷宮に迷い込んだかのような異世界の中で、孤独を抱えて生きる者たちの彷徨が優しく、官能的に描かれる。心を固く閉ざし、沈黙を愛し、存在自体を消すかのごとく生きてきたリュウ。しかし、異邦人であるダビと出逢い、今まで抱いたことのなかった感情が芽生え始める。殺し屋であることとひとりの”女”であることの狭間で揺れる彼女がある決断を下すまでをカメラは丹念に見つめ、切なくも激しい愛の軌跡を奏でていく。

菊地凛子をはじめ、日欧のキャストが結集！国際色豊かな愛の物語。

主演のリュウに『バベル』でアカデミー賞助演女優賞候補となって以降、次々と話題作に出演、『ノルウェイの森』にも出演した菊地凛子。プロフェッショナルな手つきで黙々と殺しの準備をするクールで美しい殺し屋が一転、恋を知ることで次第に上気してくる表情の変化も体現、存在感を見せる。彼女との禁断の恋愛に溺れるワイン商、ダビに『パンズ・ラビリンス』のセルジ・ロペス。また、唯一リュウが打ち解ける老録音技師に『たそがれ清兵衛』、『隠し剣鬼の爪』、『八日目の蝉』の田中泯。他にもテレビドラマ「白い巨塔」の中原丈雄、『誘拐ラプソディー』など近年は監督としても活躍する榊英雄といった演技派が加わり、このファンタジックなラブ・ストーリーを盛り上げる。

音の溢れる街で繰り広げられる、孤独な大人のラブ・ストーリー

『ナイト･トーキョー･デイ』

【特典映像】　劇場予告編／メイキング／菊地凛子インタビュー

※内容はすべて予定です。商品仕様・特典等は変更になる場合がありますので予めご了承下さい。

STORY

築地の市場で働く孤独な女―リュウ（菊地凛子）。身寄りのない彼女は、夜になると冷酷な殺し屋として闇の仕事を請け負う。そんな彼女が出会ったのは、愛する妻を自殺によって失ったばかりのスペイン人、ダビ（セルジ・ロペス）。彼が営むワイン店で視線が触れ合った瞬間、必然のように恋に落ちるふたり。しかし、それは許されない関係だった。何故ならばリュウにとって、ダビは抹殺すべき標的（ターゲット）だったから･･･。

STAFF＆CAST

監督・脚本:イザベル・コイシェ
撮影:ジャン＝クロード・ラリュー

出演：菊地凛子、セルジ・ロペス、田中泯、中原丈雄、榊英雄

© 2009 MEDIAPRODUCTION, S.L. /VERSATIL CINEMA,S.L.

『ナイト・トーキョー・デイ』鑑賞後･･･

スペイン出身のイザベル・コイシェ監督の最新作『ナイト･トーキョー･デイ』がいよいよ、6.24にリリースされる。初めは『Map of the Sounds of Tokyo』というタイトルだったこともあって、全編に渡り、東京の様々な「音風景」がデザインされている本作。キャラクターの設定においても、田中泯さん（わたしは泯さんが出て来るだけでもうダメなのです、あの視線を独占する佇まいとぼそぼと話す低い声･･･ダンディズムに痺れてしまって。『八日目の蝉』の泯さんも素晴らしかったなあ。）演じる老録音技師がいつものように街の音を録音していたところ、菊地凛子ちゃん演じるリュウの「ラーメンをすする音が自分の母親と似ていた」ということから、リュウと知り合うことになる。「ラーメンをすする音が自分の母親に似ている」なんて、なんて！フェティッシュなのかと思う。例えばそれは･･･「わたしの愛したあの男がビールを飲み干す時に立てる喉の音に似ている」とか、そういうことなわけで。この出逢いから2人は多くを会話するというわけでもなく、たまに食事を共にし、たまにその録音した音を泯さんが一人、ヘッドフォンで聴く。その様はこっそりと行っている「儀式」を垣間見てしまったような感覚に陥りセクシャル。

中盤からはだんだんと、リュウの「別の顔」が現れてくる。セルジ・ロペス演じるダビと「ある理由」で接近していった後はもう、流れに身を委ねて頂きたいが、彼らがあの電車の車両に似せた秘密のラブホテルで愛し合う時に繰り返し流れるのは、エディット・ピアフの代表作「薔薇色の人生」＝「ラ・ヴィ・アン・ローズ」＝「La Vie en rose」（美空ひばりVer.）。焦らし、貪り合いながら行為に耽るあの光景にはうっとりを通り越して夢を見そうだった。

凛子ちゃんはスタイリストの北村道子さんに百合子から凛子に改名され、みなさん周知の通り、『バベル』で世界へ。その後も『ノルウェイの森』など、自ら演じたい役を「獲りにいく」姿勢でチャレンジを続けていますが、本作は凛子ちゃん史上、最も美しくセクシーなのでは？と。もう！圧倒的にかわい過ぎる！（好物だという「いちごもち」を頬張る姿なんて！）。それから、絶対的に男性的なイメージの強い魚市場でかわいい女の子が働いているというギャップ（いいと思いません？）に加え、これはコイシェ監督のアイデア？就労後、ロッカールームのシャワーで身体に付いた魚の生臭い匂いをレモンで擦りながら洗うという演出もいい。そして、細部にまで拘ってセレクトされた印象の決して派手ではないけれど、しっかりかわいい衣装（○○を入れていたあの紫色のポーチやつま先が2つに割れたデザインの革靴など！）も、全面的に彼女を魅力的に引き立てる要素に溢れている。

海外の監督が「日本」を撮ると、普段当たり前のように目にしているはずの見慣れた風景･･･本作であるならば、横浜ラーメン博物館や日曜の墓地、築地、浅草花やしき、新宿、下北沢、ラブホテル、ベイエリア･･･らが明らかに妖艶に映り込んでいる。映画公開時、「ストーリーが見え過ぎているし、エンディングがベタ過ぎる。映画としてどうなの？」という声が多数あったことも知っているけれど、先が読めてしまったり、意味がないとダメなのだろうか？東京という街で（主に夜）、男と女がただ向かい合って、時には隣り合って食事をする。そして、そこに発生する様々な「音」は官能的であるという提示。さらにそこに出てくる女の子がかわいいというだけでも十分に成立してしまうのではないかと、本作に限ってはそう断言してしまう。

最後に･･･コイシェ監督ならではのパンクスピリッツ？女体盛りシーン（外から見た偏った日本文化！）で始まる冒頭や南青山にある「ジャルダン・デ・フルール」というオートクチュールの花屋を経営するフラワーアーティストの東信（あずままこと）氏とのコラボレーションで生まれた謎の生物？の唐突の登場！にも注目して頂きたい。

TEXT:長澤玲美