【インタビュー】小西康陽

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2011年5月20日 (金)

interview

“渋谷系”の中心的グループであり、2001年に惜しまれつつも解散したバンド・PIZZICATO FIVE。そのバンドリーダー、そして現在は音楽プロデューサー/リミキサー/DJとしても活動する小西康陽の、ピチカート解散後10年目にしてキャリア初のリリースとなるソロアルバム『11のとても悲しい歌』。 “PIZZICATO ONE”名義として、超豪華ゲストヴォーカリストを迎え全編英語曲のカヴァーで構成されたこのアルバムが、どのようにして制作されたのか、小西さんにメールインタビューさせていただきました。



-- まず『11のとても悲しい歌』というアルバムタイトルが気になるところですが、どういった意味が込められているのでしょうか。

小西康陽(以下 小西)  大きな意味はありません。何となく最初に浮かんで、そのまま使ってしまった題名です。
あえて答えるなら、悲しい歌、とは、マイナー・キー(短調)の曲のことであったり、アンハッピーな内容の歌詞を持つ曲であったり、気持ちが晴れないときに思い出してしまう曲であったり、聴いていて自然と涙が出てきたり、心が空っぽになったりする曲のことを、いつものようにざっくりと表現した言葉です。
癒し、という言葉は好きではありませんが、それに近い気分。疲れたときに甘いものを求める、とか、泣きたいときに泣く、とか、そういう欲求に応える音楽、というニュアンスです。

-- 初のソロアルバムということですが、これまでバンドとして制作されたアルバムなどと比較して、制作に向かう上での心情的変化はありましたか?

小西  こんな作品をいったい誰が聴くのだろうか、と自問することが多かった、というのが、他の作品とのいちばんの違いです。

-- レコーディング作業は具体的にどのような工程で進行されましたか? また、その中で苦心された点はどのようなことでしょうか?

小西  選曲に多くの時間を割きました。
アレンジに入ってからの作業は(いつもと同じく)とても早かったです。
海外のヴォーカリストとの交渉。これについてはいちばん時間が掛かるだろうと覚悟していたので焦りはありませんでしたが、昔なら待ちきれずに別なアイデアに進んでいたかもしれません。

-- 何故オリジナル楽曲ではなく「カヴァーアルバムを作ろう」と着想されたのでしょうか。 そのきっかけとなった1曲、または核となる曲はありましたでしょうか。

小西  すべては「IMAGINE」という曲のことを思い出したからです。
当時、「READYMADE V.I.C」というレーベルを設けていたビクターエンタテインメントからソロ・アルバムを、というオファーを受けて、あれこれとアイデアを考えていたときにとつぜん思い出したのが、この「IMAGINE」という曲をカヴァーするアイデアでした。
それは9.11の直後に浮かんだアイデアだったかもしれませんし、もっと前のピチカート・ファイヴの終わり頃に考えたものだったかもしれません。とにかく、ずっと以前に、「自分ならこんなアレンジでカヴァーするのに。でも、いったいどこで発表するんだ」、そう考えて、やがて忘れていたアイデアでした。
それを何故かとつぜん思い出して、ああ、この方向で一枚アルバムを作ればよいのだ、と考えました。
自分は3年前から「前園直樹グループ」というバンドに参加していて、そこでは日本語の曲のカヴァーをしているのですが、そのバンドで試みている音楽的アイデアを英語の作品でも応用してみよう、と思ったのです。

-- 膨大なコレクションの中からカヴァー楽曲を選ぶ時点で、そうとうな時間が費やされそうだと想像したのですが、実際選曲はスムーズに行われましたか? また、今回収録されなかったカヴァー曲候補がありましたらお教えください。

小西  選曲は6割がた決まった時点で悩みました。
たとえ好きな曲でも歌詞を吟味してみると、これは自分の作品として消化するのは難しい、と気付く。そんなことがよくありました。
フランク・シナトラの「I'm a fool to want you」、という曲は、カヴァーしたい、という未練を残した歌です。

-- 「日本の過去の名曲を新たに編曲して、演奏する」前園直樹グループとしての活動ともリンクするものだと感じました。本作は対になるような作品として捉えてもよいのでしょうか。

小西  対になる、かどうかは分かりませんが、機会がありましたら、ぜひ一度聴いてみてほしいです。
そして、『遠くへ。前園直樹グループ第二集。』は、『11のとても悲しい歌』と較べるなら、ずっとスウィートで聴き易いアルバムです。

-- ロジャー・ニコルズが今回のアルバムのために再結成されるなど、ゲスト・ヴォーカルの方々が非常に豪華ですが、どのような基準で選ばれましたか? また、そのオファーされたゲストの方々の反応はどのようなものでしたか?

小西  すべては楽曲と、そのアレンジありき、で人選しました。
ゲストの皆さんとは、せいぜいメールを介した淡々とした遣り取りしかありませんでしたが、たいていのアーティストがピチカート・ファイヴを知っていたことは、すこし嬉しく思いました。

-- ピチカート・ファイヴの解散から10年という月日が経ちました。 ソロアルバムの完成を迎えた今、改めて振り返ると、ピチカート・ファイヴとはどのようなバンドだったのでしょうか。

小西  それは自分ではまだ上手く答えることは出来ませんが、好きな曲の多いバンドだった、ということだけは言えますね。

-- この10年間で、最も刺激を受けたモノ・出来事は何でしょうか?

小西  やはり大病したことがいちばん大きな出来事でした。
刺激、どころか、別段大きな生活の変化など感じなかったのですが、いつの間にか、音楽に対する考え方、そして生活に対する考え方に大きく変えていました。

-- オフィシャルサイトでも、このピチカート・ワンという名義について言及されていらっしゃいますが、今後もこの名義での活動となるのでしょうか? また、少し気の早い話かもしれませんが、次回作の構想などありましたらお教えください。

小西  名義のことも、次回作のことも、まだ深く考えてはいません。
いずれ、配信という形でしか創作物を発表できなくなってしまうとして、あと何枚、CD, あるいはレコード、というメディアで作品を残すことが出来るのか。そればかりを考えています。
作品を作って遺すチャンスがあるなら、名義も、誰の作品であるかも、どんな音楽であろうとも構わずに引き受けるだろうと思います。

-- 最後に、このアルバムをお聴きになるリスナーの皆さんにメッセージをお願いします。

小西  もしよかったら、どうかお独りで聴いてみてください。
わたくしのソロ・アルバム、というより、あなたがソロでお聴きになるアルバムだと思いますので。
どうぞ、よろしく。



新譜 PIZZICATO ONE 『11のとても悲しい歌』
“渋谷系”の中心的グループであり、2001年に惜しまれつつも解散したバンド・PIZZICATO FIVE。そのバンドリーダー、そして現在は音楽プロデューサー/リミキサー/DJとしても活動する小西康陽が、ピチカート解散後10年目にしてキャリア初となるソロアルバムをリリース! 過去Remixワーク集などのリリースはありましたが、以外にも今回が初となる小西康陽ソロアルバム。 “PIZZICATO ONE”という名義でのリリースについては、「今回参加してくださったヴォーカリストや所属レーベルの方々、あるいは海外のリスナーの方々に、自分の名前を伝えてみたところで通じないだろう、と考えて」(オフィシャルHPより)とのことで、紛れもなく小西康陽のソロアルバムであることを宣言しています。
本作は全編英語曲のカヴァー集。 このために再集結したロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズをはじめ、ブラジルのマルコス・ヴァーリ、大御所ジャズ・ヴォーカリストのマリーナ・ショウなどのベテラン勢から、ウーター・ヘメルやマイア・ヒラサワといった気鋭の面々まで、各曲ごとに個性豊な超豪華ゲストヴォーカリストが参加。 そして小西康陽の編曲により、名曲が新たな装いで生まれ変わります。

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      PIZZICATO ONE
    『11のとても悲しい歌』

    2011年05月25日発売

    [収録曲]
    01. ひとりで眠ることを学ぶ。
    02. ワン feat. ロージー
    03. イマジン feat. マリーナ・ショウ
    04. ア・リトル・ビット・オブ・ソープ feat. ニコル・ウィリス
    05. アイ・ワナ・ビー・ラヴド・バイ・ユー feat. ウーター・ヘメル
    06. バンバン feat. マイア・ヒラサワ
    07. ア・デイ・イン・ザ・ライフ・オブ・ア・フール
       feat. グウィネス・ハーバート
    08. イフ・ユー・ウェント・アウェイ feat. マルコス・ヴァーリ
    09. メイビー・トゥモロウ feat. クリストファー・スミス
    10. もしもあの世に行けたら feat. ロジャー・ニコルズ
       &ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ
    11. イフ・ウィ・リヴド・オン・ザ・トップ・オブ・ア・マウンテン
       feat. エリック・マシューズ
    12. 長くつらい登り道 feat. ロイ・フィリップス


profile



小西 康陽 [KONISHI YASUHARU]

1959年、札幌生まれ。
1985年、ピチカート・ファイヴのリーダーとしてデビュー。
90年代の音楽ムーヴメント「渋谷系」のグループのひとつとして認知される。
1995年の米国デビュー以来、海外でも多くのファンを持ち、多くの楽曲が映画・ファッションショーなどで使用された。
2001年3月31日のピチカート・ファイヴ解散後は、作詞/作曲/編曲/DJ/リミキサーとして活動。
2009年、NYオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル「TALK LIKE SINGING」(三谷幸喜 演出・脚本 / 香取慎吾主演)の作曲・音楽監督を務めた。
現在、NHK-FMにてラジオ番組「小西康陽 これからの人生。」(毎月最終水曜日午後11:00〜深夜0:00)を担当している。





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    フレンチ愛を込めたサンプリング・ジャズ作、三浦 信『je suis snob』リリース。三浦さんと親交の深い小西康陽さんとの対談が実現しました!
    (2010年11月掲載)




関連作品


 

商品ページへ 商品ページへ 02. ワン feat. ロージー
ONE (HARRY NILSSON) feat. ROSEY

 

商品ページへ 商品ページへ 03. イマジン feat. マリーナ・ショウ
IMAGINE (JOHN LENNON) feat. MARLENA SHAW

 

商品ページへ 商品ページへ 04. ア・リトル・ビット・オブ・ソープ feat. ニコル・ウィリス
A LITTLE BIT OF SOAP (BERT RUSSELL) feat. NICOLE WILLIS

 

商品ページへ 商品ページへ 05. アイ・ワナ・ビー・ラヴド・バイ・ユー feat. ウーター・ヘメル
I WANNA BE LOVED BY YOU (BART KALMAR - HERBERT SHOTHART - HARRY RUBY) feat. WOUTER HAMEL

 

商品ページへ 商品ページへ 06. バンバン feat. マイア・ヒラサワ
BANG BANG (SONNY BONO) feat. MAIA HIRASAWA

 

商品ページへ 商品ページへ 07. ア・デイ・イン・ザ・ライフ・オブ・ア・フール feat. グウィネス・ハーバート
A DAY IN THE LIFE OF A FOOL (CARL SIGMAN - ANTONIO MARIA - LUIZ BONFA) feat. GWYNETH HERBERT

 

商品ページへ 商品ページへ 08. イフ・ユー・ウェント・アウェイ feat. マルコス・ヴァーリ
IF YOU WENT AWAY (RAY GILBERT - PAULO SERGIO VALLE - MARCOS VALLE) feat. MARCOS VALLE

 

商品ページへ 商品ページへ 09. メイビー・トゥモロウ feat. クリストファー・スミス
MAYBE TOMORROW (ALAN & MARILYN BERGMAN - JERRY GOLDSMITH - QUINCY JONES) feat. CHRISTOPHER SMITH

 

取り扱いなし 商品ページへ 10. もしもあの世に行けたら feat. ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ
SUICIDE IS PAINLESS (MIKE ALTMAN - JOHNNY MANDEL) feat. ROGER NICHOLS & THE SMALL CIRCLE OF FRIENDS

 

商品ページへ 商品ページへ 11. イフ・ウィ・リヴド・オン・ザ・トップ・オブ・ア・マウンテン feat. エリック・マシューズ
IF WE LIVED THE TOP OF A MOUNTAIN (LES REED - BARRY MASON) feat. ERIC MATTHEWS

 

商品ページへ 商品ページへ 12. 長くつらい登り道 feat. ロイ・フィリップス
A LONG HARD CLIMB (RON DAVIES) feat. ROY PHILLIPS









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