HMVインタビュー: ヒロシ・ワタナベ

2011年4月15日 (金)

interview

Hiroshi Watanabe

いつも希望に溢れた輝きを放つサウンドとビジュアルをつくり出すアーティスト、ヒロシ・ワタナベが本人名義にて待望の2ndアルバムをリリース!
その美しい作品たちには一体どのような思いが込められ、かたちとなってゆくのか。彼の人柄と共にその深層を垣間見ることのできるインタビューとなりました。

POSITIVEというヴァイブへと自分自身がシンクロナイズしていく事こそが正に必要な事なのだろうと感じ、 言葉がSYNCと変わったんですね。THINKではなく、SYNCだと。


--- 今回の作品はhiroshi watanabe 名義の2ndアルバムという事もあり、ご自身の心の赴くままに取り組まれたそうですが KAITO、Quadra、Tread という他の名義とのお気持ちの違いなどを教えてください。

Hiroshi Watanabe: はい、単純に言いますと前回のGENESISの時もそうでしたし、その他のレーベルとでも基本的に本名でやる時はかなり自分の発想を自由に開放している 感じなんです。なので余り深くプロジェクト名で分けた時の様な境界線や条件を自分自身に付けないで行える素のプロジェクトとも言えますよね。
名義を分けてそれぞれのプロジェクトを作り上げて行くという楽しさや面白さも勿論ありますし、ただ、この双方があるととても自分の中でも常にフレッシュに いられるという事も言えます。まぁ、それであってもアルバムという単位で作品を作り上げるという事で言えば苦しさの方が振り返ると心に残ってたりしますけどね。

--- 制作にはどのくらいの時間が掛かったのでしょうか? また、その時期はいつ頃の事だったのでしょうか?

Hiroshi Watanabe: KLIK RECORDSからはもうずっと前から2作目やろうって言って貰っていたのですが僕の中で気持ちの準備がなかなか出来なかった事もあり気が付くともう前作から あっという間に4年以上が経ってしまってまして、、、驚きました。今作品の10曲中、2曲は以前に出来上がっていた曲です。そして残り8曲は全曲実は今年に入ってからの作業 なんです。なんでもギリギリになって自分にハッパ掛けないとある意味エンジン全開にならないタイプなんです。やり出したら止まらないですけどね。
なので1月中に約7曲を作り上げてその後一度フィニッシュする前に2週間ギリシャへDJのツアーへ行ったんですね、で、ツアー中にKLIK RECORDSのジョージというレーベルマネージャー と出来上がった作品のディスカッションをずっとしながら現地で更に1曲作り出し、そのデータを持ち帰って2月の最後の日がもうマスタリング日と決まっていた事もあり スタジオにこもりっきりになり燃え尽きました。(笑)

--- その制作期間中のお気持ちというのは、どのようなものでしたか?
その間、本アルバム制作以外のアーティスト活動や、プライベートでの出来事からの影響などもあれば教えてください。

Hiroshi Watanabe: 嬉しさと焦りと、不安の3つが入り乱れてました。(笑)いつもの事なんですけどね。真剣に向き合えば向き合う程やはり人間は自分の行為に確固たる意味も求めて行くものですよね。
なので僕も、今作品が自分にとっても、そして最終的に聴いて頂ける誰かにも何か存在する必然性を強く切望してる事は確かなんです。なのでいつもの通り制作中は頭の中がグルグルです。
あとは自分が今年で40歳になる年であるという事は正直に言いますと大いにこの制作には影響がありました。そういう意味で自分自身への40アニバーサリーな感じがあるんです。
なのでとっても色々な気持ちが勝手にこもっている事は事実です。

--- ご本人名義の2ndアルバム「sync positive」の制作過程において、 1stアルバム「genesis」と異なる点を教えてください。

Hiroshi Watanabe: 制作という観点からだと、恐らくは楽曲の構成の仕方に微妙ではあるんですが自分の中で大きく意識している事が多々あります。自分の求めるスタイルはそのままであるのですが、 今までよりも更にビートの部分を意識していたり、今までよりもよりダンサブルな構成にしていたりと。微妙なんですが確実に意識はしていました。あとはやはり機材の違いもありますしね。
「GENESIS」 の時はまだ全てをコンピュータ上では処理してないのでハードウェアも使用してましたし。あとはそうですね、何故か楽曲それぞれのタイトルには時間が掛かりました。
いつもそうなんですけど僕のタイトルの付け方は曲が出来上がった後でしか決めれないので今回もアルバムの楽曲が全て出揃った時点で聴き込んで行く内に考えるんですけど、それが なかなか決まらなかったんです。ヒヤヒヤする程に決まらなかったです。多分なんですけど、もしかすると今回の作品は自分で意図していない部分で意図されたものが多く有り、 そのせいで自分でどんなタイトルが良いかという事が上手く見出せなかった様な気がしています。不思議な感覚なんですけど今はそういう風に振り返ってみてます。

--- ワタナベさんは、DJとしても海外で幅広くご活躍されていますが、 ご自身の曲をプレイする時の気持ちを教えてください。特に、本アルバムの曲はどのようにプレイしたいですか?

Hiroshi Watanabe: 自分の曲をかけれる時は、そうですね、やっぱり気持ちが更に入りますよ。このアルバムの楽曲も勿論ツアー中にも行く場所ごとにプレイして来ましたし。反応をみて確認をしたいのも ありますしね。今回のツアーはそういう意味でとっても制作の間で良いブレイクになってまして日本へ戻る間冷静に色々な事を考えてアイディアを蓄えて戻れました。

--- 逆に、曲を作っている時にクラブやDJプレイの事をイメージされますか? その場合、どのような点が曲に反映されるのでしょうか?

Hiroshi Watanabe: ダンスミュージックを制作している以上、勿論それは常に意識はしている訳ですが、それはある意味でマストな部分なだけで僕のトラックの大半はある意味では所謂完全DJユースな ものでも無いと思いますのであくまでも自分の場合はクラブでの音像、+リスニングとしての発想もかなり含まれています。どちらでも対応出来る作品でありたいと思っています。
制作は突き詰めれば正直終わりが無いとも言えてしまうので、必ずその都度何処かで区切りを付ける訳ですよね。自分自身の音に辿り着くにはとっても地道な時間と労力が掛かるのは 仕方が無いと思いますし、何年やってても、ああ、次はこうしてみたい!って思えるかどうかが大事なんでしょうかね。結局はどれだけ好きなんですか?って事なんでしょうね。(笑)

--- 本作にはシンガーMINGUSSの日本語詞をフィーチャーしたトラック「Scent Of Tommorrow」が収録されています。
これまで多数の日本人アーティスト作品のリミックスや、コラボレーションもされてきたワタナベさんですが 日本語詞やボーカル曲に関しては、どのようにお考えですか?

Hiroshi Watanabe: 以前に曽我部恵一くんと共に制作をした「Life, Love」を例外にして僕は自分自身のアルバムでは今までずっとインストルメンタルという事に拘ってやって来ています。ただ、今作品には 以前からKLIK RECORDSが歌のある楽曲が聴いてみたい!って熱望されていたのもあり、ずっと温めていたアイディアでもあったんですね。そういう中で昨年に実はMINGUSSからの 直接の依頼を受けまして彼女のオリジナルアルバムのプロデュースという作業をさせて貰っていたんですね。そういう経緯がある中で彼女の持っている歌の存在感やエネルギーという ものをとても強く感じていまして、彼女のアルバムを作りながら自分のアルバムで歌ってもらうとしたらMINGUSSしか今回は居ない!!!って思っていたんです。しかも歌ってもらうのは
英語というよりは日本語でというのは僕は強く希望していました。言葉を飛び越えて歌声に力があればリスナーには何かが通じて貰えると思っていました。そして、今回彼女に歌って 貰った曲の原型は昨年のKAITOツアーをヨーロッパへしに行った時にモスクワに数日滞在していたのですが、大雪でホテルにこもっていましてその時に作ったものなんです。KAITOツアー 中ではありましたが勿論この原型の曲がKAITO作品のつもりで作った訳では無いです。そういう意味でとっても思い入れのある曲でした。歌を入れてその後に更に多くのマテリアルを 加えて最終的にああいった形に出来上がったんです。日本人が歌う、日本語の歌詞というのは僕らは当たり前なんですが海外の人からすればとても特別な事ですよね。そういう意味で、 海外でそのまま日本語というのは初めから考えていましたよ。

--- ワタナベさんの作品は、サウンド、ビジュアル共にいつも希望に溢れた輝きを放っていますが 本作のタイトル「sync positive」に込められた思いをお聞かせください。

Hiroshi Watanabe: ええ、本当に色々な事柄がまさにシンクロしているんですね。なので一つの事柄では言い切れないのですが自分の人生に於いての節目もそうですし、子供達の成長もそうですし、 この震災が起きる前に近年ずっとあった経済状況の不安定だったり、、、このタイトルに関わって来る事はホントに色々なんです。ただ、そういう中でプラス指向という言葉、 POSITIVE THINKINGというのは少しストレート過ぎて全ての意味には当てはまらないと思っていたんです。THINK POSITIVEというのをポイントとしてジッとこの言葉を見つめながら フッと思えたのがプラス思考という意味ではなく、プラス、即ちPOSITIVEというヴァイブへと自分自身がシンクロナイズしていく事こそが正に必要な事なのだろうと感じ、 言葉がSYNCと変わったんですね。THINKではなく、SYNCだと。POSITIVEという方向は自分自身が同調して行くものなのだ!という自分自身への思いでもあります。

--- 最後に、今回のリリースは偶然にも日本における厳しい情勢と重なる時期となりましたが ワタナベさんのお考えになる「音楽の力」について、お聞かせください。

Hiroshi Watanabe: 発売を前にして色々と準備をしている最中のこの震災でしたからね、、、正直とてもこの付けてしまったタイトルに困惑しました。でもと同時に素直な気持ちとして全ての事柄は 流れの中にあり、起きている全ての事とシンクロしているのだと強く思えましたので発売出来る日をずっと待っておりました。音楽の力というよりは、それは絵であれ、写真であれ、 どんな表現であれ、それらの神髄は結果としてその人の持つエネルギーが形になっただけの事でもありますので、、もしもその何かが誰かの心の支えとなり、 その心にエネルギーを注ぐ事が出来るものであるのならば、そんな素敵な事はないと思っています。今は本当にまだ震災の真っ直中ですし、 音楽にどれだけの力がそういう意味で威力を発揮出来るのかどうか丸で分かりません。

それは本当に被災した当事者とならなければ分かり得ない事ですから、、、でもそれでも常に各地方でこの状況と戦っている人の気持ちを心に焼き付け自分も出来るだけ 同じ日本人として同調し、各自が持つ力を集めこの困難を乗り越えたいと強く思っています。原発の問題はまるで別の領域の事であり、何とも言葉が無いです。
ただ、それでも、どんな状況の中でも人の心に今生きているという実感だったり証だったりを思う人生の節々で、音楽というものが寄り添っていて貰えたらどんなに素敵な事だろうと 心から思っております。

新譜Sync Positive / Hiroshi Watanabe
様々な名義で世界的に活躍するHiroshi Watanabeの本人名義では約4年ぶりとなる待望の2ndアルバム!初の試みとして、日本人女性アーティスト MINGUSS(ミンガス)をヴォーカリストに起用し日本語詞をフューチャーした幻想的なトラック「Scent Of Tommorrow」他、聴くもの全てを夢の世界へと誘う極上トラック全10曲を収録。



profile

Hiroshi Watanabe (ヒロシ・ワタナベ)

1971年東京、作曲家の父、ジャズピアニストの母の間に生まれる。 幼い頃より父親の使用するシンセサイザーへと自然に興味を持ち、それが現在の活動に繋がる原点、Hiroshi Wtahnabeの独特な音世界を創作するスタート地点となるのである。東京音楽大学付属高校コントラバス科を卒業後直ちに渡米し、ボストンのバークリー音楽学院にてMUSIC SYNTHESIS(シンセサイザー)を専攻。卒業までの刺激的な留学生活の中でテクノ、ハウス・ミュージックと出会いニューヨーク行きを決意する。その後は様々なニューヨークのダンスミュージックレーベルより作品を多数リリースし、 99年6月から本格的に日本に拠点を戻して以降は GACKT、松田聖子、パフィー、篠原ともえ、浜崎あゆみ、Sing Like Talking、星野晃代、CANON、PENICILLIN、工藤静香、小松未歩、meg、曽我部恵一、JAFROSAX、等々数々の日本人アーティストのリミックスを手掛け、KONAMIアーケードゲームBeatmaniaシリーズへの数多くの楽曲提供、資生堂、メナード、日新フーズ、テキーラクエルボなどのCM音楽、TVドラマ、映画、ファッションショー、そして舞台音楽家としての活動も勢力的に行い、2002年夏には現在日本を代表する舞踏家”HIRO TATEGATA”とのコラボレーション『TRYOUT汚れなき痴人』『タランチュラ』では様々な音楽手法を取り入れたサウンドトラックを制作手掛けるなど多方面で活動し、舞台音楽家として活動をしている中では岸谷五朗氏プロデュース作品を初めとし、第三舞台を立ち上げた鴻上尚史氏のThird Stageプロデュースによる舞台を1994年以降から現在に至るまで手掛けている。99年帰国後からは本格的に写真家としても活動を始めており、東京を初めギリシャ、モスクワにて個展を開き 『TINY BALANCE』と題したテーマを打ち出し作品作りに励んでいる。

2000年にはN.Y時代より深い親交のあったグラフィックデザイナーの北原剛彦氏とプロダクション「norm」を立ち上げ、2人のコラボレーションによる名義“TREAD”をスタート。2001年の夏より現在に至るまでに5枚のアルバムをリリース。同2001年の夏からはドイツ、ケルンにあるレーベル”KOMPAKT”よりHiroshi Watanabeサウンドの集大成とも言えるメインプロジェクトとなるKAITO名義にて 『BEAUTIFUL DAY』 『EVERLASTING』 『AWAKENING』 を立続けに発表し、2002年秋にはアルバム 『SPECIAL LIFE』をリリース。現在に至るまでにKAITO名義ではトータル3枚のアルバムと6枚のシングルそしてKAITO名義でのDJ MIX CDをリリースしヨーロッパへと活動の場を本格的に広げ、バルセロナ”SONAR Music Fesfival” ドイツのケルン”POPKOM”、ベルリン、スイス”VISION FESTIVAL”、アムステルダムで行われた5 Days Off Festival、ベルリンのKompakt Night、そしてバルセロナのMonegrosDesert Fes等のビックイベントに出演しLIVE演奏を披露。世界屈指のパーティーアニマル達を熱狂の渦に巻き込んだ 。2004年以降はギリシャKLIK RECORDSからは本名名義で活動をスタートしアルバム『GENESIS』を2005年に発表以後、ギリシャツアーを毎年を行い現地ギリシャは元より日本国内においても大反響を得る。その他も大ヒットアニメ『交響詩篇エウレカセブン』へは挿入曲として『Get it by your hand』を提供。そして2008年には曽我部恵一氏をヴォーカリストに向えた意欲作『LIFE,LOVE』をリリースする。そしてKaitoプロジェクトは更なる進化を遂げ、2009年秋に3rdAlbumとなる『TRUST』をKOMPAKTよりリリース。

(オフシャルサイトより)

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