HMVインタビュー:ルーペ・フィアスコ

2011年3月23日 (水)

interview

Lupe Fiasco

4度の来日経験を誇る日本でも人気の高いラッパー、ルーペ・フィアスコ。 本国でもグラミー賞にノミネートされるほど高い評価を得ながらも、 レーベルとのクリエイティヴィティの相違により、3rdアルバムは延期が続いていた。しかし、ファンによる署名活動や抗議集会なども紆余曲折を経て遂に リリースが実現。 根強い支持を集めるヒップホップ界の最重要アーティスト、ルーペにインタビュー。革新の3rdアルバムについて語っていただいた。
インタビュー・文:二木崇(D-ST.ENT) 通訳:鈴木美穂

--- 自身のラスト・アルバムと前置きした『lupE.N.D』の制作が発表され、それが『Lasers』に変わり、今度はリリースが延期〜お蔵入りの可能性が あると報じられ、リリースを嘆願する署名活動も起こりましたが、その発売までの一連の流れを教えていただけますか?

レーベルと俺との間でクリエイティヴ面で揉めたんだ。実際は、『The Cool』のすぐ後に新作の制作にとりかかった時点では、『lupE.N.D(エル・ユー・ピー・エンド)』で、3枚のアルバムになるはずだった。1枚目を終わらせつつ、次のアルバムの制作に取りかかって、1枚完成する毎にリリースしていこうと思ってたんだ。できれば1年から1年半に1枚のペースでね。それで3枚のアルバムになるんだけど、どれも完全に違うサウンドにするつもりでね。でもそれがレーベルとの色々なドラマで延期されてしまったから、1枚のアルバムに集中しようって思った。『Lasers』にフォーカスしよう!これこそが俺のやりたいアルバムだって。『Lasers』は、マニフェスト(明示)っていうアイディアがインスピレーション源だったんだ。だけど、『Lasers』を作ろうとしたら、レーベルとのドラマがさらに増えたんだ。この曲やって欲しい、これもやって欲しい、って言われて俺はこれはやりたくない、ってその繰り返しだったんだ。そういうビジネスのことで俺は疲れきって、もうアルバムを出そうが出すまいが構わないって思うところまでいってたんだよ。そうしたらファンが署名運動をしてくれて、レーベルに送ってプロテストする!って告げて、それでリリース日が出たんだ。でもその後もプロテストは続いて、さらに大きくなった。だから、このプロジェクトを通して、相当気が滅入ることもあったけど、謙虚な気持ちになる鼓舞される出来事だったんだ。実際このアルバムにかけたエネルギーは相当なものだったけど、こういうファンがいることが分かって嬉しいんだ。それにナンセンスなドラマはあったけど、最終的には最高の音楽が作れたからね。だから俺にとっては得ることばかりだった。少し失わなきゃならなかったとしてもね

--- 実際の制作期間はどのくらいだったのですか?

全部で?どうだろうなあ、3年(笑)? 本当に長い時間かかったんだよ。『Lasers』のタイトルは、4年か5年前に思いついてたからね。だから、その時から、3月の発売日まで、それだけ長くかかったんだ。

--- また「Fiasco Friday」の集会で感じたことは?

最高だと思ったよ!「Fiasco Friday」って名前にはなってるけど、ファンからスポットをとりたくなかったし、俺が彼らにやらせているように受け取られたくなかったから、俺はあま り出ないようにしたんだ。ファン主体の、グラスルーツなもののままにしておきたかったんだ。彼らは4時間ぐらいプロテストしてたんだけど、俺は15分ぐらい顔を出して、感謝してるってことを見せたんだ。プロテストの間中、彼らは歌を歌ったり、レーベルの社長に抗議したりしてくれて、俺が人生で目にした中で最高の出来事だったよ

--- 改めて前2作を振り返って、今の自分にとってどんな意味を持つ作品であるかコメントして下さい。

前2作はコンスタントに聴き返すようにしているんだ。自分がどこから来たのかを忘れて、道を見失ってしまうからさ。だから、3、4ヶ月ぐらいおきにかな、アルバムを聴 き返すんだ。俺は、なぜここに辿り着いたのかを忘れてしまうんだよ。あの当時作っていた音楽が、今日の俺をサポートしているファンを与えてくれたんだし、 ファンが俺をサポートするようになった理由なんだ。道を見失いがちだから、『Food & Liquer』を聴き返すんだ。そして、ああ、思い出した、って思う。まあリリックを覚え直すために聴き返すこともあるよ、忘れちゃうからね(笑)。『The Cool』も同じことだよ。『Food & Liquer』ほどは聴いていないと思うけど、聴き返してる。曲のメッセージを思い出すだけじゃなくて、俺が今でも同じ道を歩んでるって思い出させてくれる。今作ってる『Lasers』と比べて、作品全部を眺めると、メッセージの中に一貫性が見て取れるんだ。それで、自分は同じ道にいるってことが分かるんだよ。

--- 今作は貴方にとって 以前コメントしていたように「ファンのためのアルバムで、クラブ・ヒットを意識した曲もある」というものなのでしょうか?

コンセプトはずばりマニフェストだったんだ。音楽を作る前に、『Lasors』マニフェストを書きとめた。全ての人々が賛同できる目標や理想や現実を守ることについてなんだ。誰もがよりいい環境、安全な環境を望んでいるし、ユニバーサルに誰もが共感できることがある。それがこのアルバムなんだ。だから俺はマニフェストをこのアルバムの全編に注ぎ込んだんだ。そしてこうした理想とか目標に忠実で居続けた。それがアルバムのコンセプトだったんだ。奴隷制についての曲もあるし、「Words I Never Said」とか沢山のトピックに触れている曲もある。でも「Till I Get There」は俺が名声を手にすることについてだし、色々と違っているんだけど、アルバム全体のコンセプトは、ポジティヴィティなんだ。俺達はこんなに共通点があるのに、人々は離れてしまっているんだよ。

--- Loserの“o”を“a”に代えたアルバム・タイトル・ロゴや、アートワークについて詳しく教えてください。

Lasers はLove always shine, everytime remember to smile(愛はいつも輝く、笑顔を忘れるな)という意味なんだ。アートワークは、LASERSのAをアナーキーのA(Aを丸で囲んだもの)にして記そうとして、LOSERS(敗者)っていう字で始めたんだ。そのOにAを重ねることでLASERSになって、ネガティヴな意味の言葉が、全く新しい、独自の意味を持った言葉に変わるんだ。一文字変えただけで、完全に、LOSERSに反する意味になる。これは世界を変えたいって思う時も、ちょっと変えるだけでいいってことを伝えていると思うんだ。全てを一度に変えようとしないで、ちょっと変えてみたらいい。全てを変えても、ほんの少しの部分が変わっただけになることもあるし、ほんの少し変えただけで、全てが変わることもあるんだ。

--- 「I'm Beamin」(注:既発曲であり、日本盤のボーナス・トラック)などネプチューンズが制作した曲もありましたが、今作に参加したサウンド・プロデューサーについて教えてください。

一番沢山の曲をプロデュースしてくれたのがキング・デイヴィッド。新進プロデューサーで、すごく才能があって、最高なんだ。今作ではMDMAに名前を変えたプー・べアーの紹介で会ったんだけど、そこから一曲作って、また一曲作って、って進めていく間に、気づいたら何曲もの最高の曲が出来てた。UK出身のすごく才能があるアレックス・ダ・キッドともやった。それからフージーズの数々のヒットを手がけたOGプロデューサー、ジェリー・ワンダー。すごくいい人だよ。仲間のニードルズともやったな。彼とは本当に長年一緒に曲を作ってきたね。あとはNYで一緒に仕事をしているプロデューサー・チームのブキャナンズ。俺のキャリアの初期からずっと一緒にやってて、アトランティックにいた時も一緒に曲を作ったんだけど、今まで発表したものがなかったんだ。それとこれも長年の仲間サウンドトラックとも一緒にやったし、ネプチューンズともやった。説明は必要ないね、彼らはベストだよ。あとスウェーデン出身のイシが「Break The Chain」って曲をプロデュースしてくれて、彼もすごくクールだよ・・・。

--- 前作では「サンプリングを極力使わない」方法論で聴かせてくれましたが、今回もその延長線上にありますか?

ああ。サンプリングは金がかかるんだ(笑)。著作権の問題でね。1曲に7つの栄誉があったら、7等分しなきゃならない。だったら2つの方がいい。それに俺は個人的に、人の曲を取るのが好きじゃないんだ。それよりも、俺自身の音を作りたい。誰かの曲をリメイクし続けるんじゃなくて、新しい音楽を作りたいんだ。そして、俺達の曲を他の人達にリメイクしてもらいたい。サンプルされる曲は、もともとは新曲だったんだからさ。だから俺も同じことをやりたいんだ

--- サウンド面で特に意識したこととは?

新しい、「今」のアルバムにしたかった。「今」のサウンドの曲を作りたかったし、同時にビッグなフックとビッグなビート、全てがビッグな曲を作りたかった。それに加えて、ライヴでやるのにもいい曲にしたかった。エネルギッシュな、俺のステージでのパフォーマンスに合うものにしたかった。だから様々なアイディアが入っているんだ。皆をダンスさせるクラブ・レコードも作りたかったし、皆を考えさせたり、泣かせたりするレコードも作りたかった。だから音楽的に本当に様々なものをカバーしてるよ。

--- 「The Show Goes On」でのモデスト・マウス「Float On」の引用も貴方のアイデアなのですね?

いや、レコード会社のアイディアだよ。この曲は彼らに提案された曲の一つなんだ。でも全員がうん、やろうって気になって、シングルにしようって意見が一致したんだ。他の曲はい や、分からない、とかノーって返事してたんだけど、「Show Goes On」は即イエス、やろうって感じだったんだよ。