2011年3月25日 (金)
「Wax Poetics Japan」が昨年のCTIに続いて送り出すコンピレーションは、今年創立80周年を迎える和ジャズの宝庫にして超老舗レーベル、キングレコードとがっぷり四つに組んだ ”JP JAZZ” スペシャル。国産ジャズのカタログを数多有するキングの重要音源を、クラブ・ミュージックとしてのジャズという切り口であらためて紹介。1960年代を中心としたハードバップやモード、70年代前半から中盤にかけて鬼火のように燃え盛ったジャズ・ロックやジャズ・ファンク、70年代後半から80年代前半、音楽業界の”デジタル革命”に呼応しながら自由な時代の音を形成したフュージョンやクロスオーヴァー、という3つのセレクション。
その発売を記念してお送りする小川充さん、大塚広子さんによるご対談。[後編]は、大塚さん熱愛中のトリオレコード音源のお話や、さらには「乞CD化作品」、「入門向け作品」などお二方のセレクションを交え、さらに濃厚にお届けします。
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小川充(以下、小川):大塚さんがトリオレコードの音源をミックスCDにしようと思った理由って何だったんですか?
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大塚広子(以下、大塚):元々トリオの作品に興味があったというのはもちろんなんですが、ここ何年かの間に、例えば福居良さんの『シーナリィー』、『メロウ・ドリーム』、あとはディー・ディー・ブリッジウォーターの『アフロ・ブルー』なんかが再発されたりして、少しずつ盛り上がってきていることを感じたんですね。とは言え、まだ知る人ぞ知るっていう感じもありましたけど。
そこで、コンピレーションというよりは、もう少し気軽に今っぽい感じで聴けるものを作りたいなと思って。それこそ今回の「JP JAZZ」シリーズをもっと気軽に出してみました、という感じなんですよね(笑)。 -
小川:音源って全部レコード?
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大塚:そうなんですよ。アート・ユニオンさんが所有していたレコードをすべて聴かせてもらいまして。その中からコレだって思ったものをお借りしてミックスしたんですよ。そういう部分で、普通のコンピレーションとは少し違いが出るよう聴かせ方に工夫を凝らしたかったんですよね。
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小川:ミックスしている最中にも色々と新しい発見があったり。
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大塚:割と以前から、「ブレイク」だったり、「スピリチュアル」だったりする部分は、所謂レアグルーヴ系のジャズを聴いている人たちに語られ尽くされている感はあったので、むしろそこは度外視していこうって(笑)。もちろんそういったラインで収録曲を揃えることもできたんですが、既知であることをやってもあまり意味がないですよね。だから、選曲は臨場感があるように、流れを意識しました。色々と聴かせてもらったトリオ音源の中で特に圧倒的な存在感があったのが、フリー・ジャズ。すごくそれが気になったんですよ。
去年、アート・ユニオンさんは『Inspiration & Power 14 Free Jazz Festival 1』をリマスタリングして、本当に原盤に忠実な紙ジャケットでCD化しているんですよ。その流れで、DOMMUNEで大友良英さんと副島輝人さんが、このアルバムやその当時のフリー・ジャズのお話などをされていて、かなり話題になっていたみたいですけどね。私にとってもすごく魅力的でした。そもそもフリー・ジャズってとっつきにくいというか・・・ -
小川:一般的には多少難解なイメージがありますよね。
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大塚:そうなんですよ。構えないと聴けないんじゃないかな、っていうイメージがあったんですが、実際はまったくそんなことはなく、凄くエネルギッシュでかっこいい音楽なんですよね。さらにその当時のムーヴメントだったりプレイヤーの相関図だったりを文献なんかで追っていくと、ますます気になってきて(笑)。だから今回のミックスCDには、できればフリー・ジャズへの“とっかかり”になるような曲も入れたかったので、要所で挟み込んでいるんですよ。ライヴ音源が多いというのもあって、色々な空気感が一緒くたになっている感じもおもしろいんじゃないかなって。
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小川:トリオレコードの設立って、たしか1969年ぐらいでしたっけ? 前身の会社がオーディオ・メーカーだから、音がすごくいいんですよね。
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大塚:元々は「トリオ」という名前のオーディオ会社だったんですが、「ケンウッド」という海外向けの製品を発売したら爆発的に売れてしまって、そのまま会社名を「ケンウッド」にしたらしいんですよね。
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小川:昔はオーディオ・チェック用のサンプル・レコードがよくプレスされていたけど、トリオからもけっこう出ていましたよね? そういう中にもジャズの “おいしい” レコードがあったりするんですよ(笑)。トリオではないけれど、ゼロ戦の『サンライズ』なんかは、その手のレコードの代表的な1枚。
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大塚:今日持ってきたレコードの中にもそういうものがあって・・・打楽器だけでまとめた『ザ・ベスト・セレクションズ・オブ・パーカッション』というレコード。埼玉会館で録音されたもので、多分レコーディングで使用された録音機材をプロモーションするために制作された企画盤なんだと思います。でも、これがすごくかっこいいんですよ。クレジットをよく見ると森山威男さんが参加していたり。
(註)ゼロ戦『サンライズ』・・・編曲家いしだかつのりを中心に、村上秀一、山木秀男、岡沢章、芳野藤丸、益田幹夫、ラリー寿永、ジェイク.H.コンセプション、森野多恵子という豪華メンバーが揃い踏んだプロジェクト、ゼロ戦。2ndアルバム『サンライズ』は、元々はオーディオ・コンポのチェック用のレコードとして1977年にリリースされたものだったが、至極のジャズ・ロック・サウンドが90年代の英国ダンス・ジャズ・シーンなどで話題を呼び、中古市場でも軒並み高値を付けるレア盤として崇め奉られるようになった。こちらのCDは、1stアルバム『アスファルト』といしだのソロ・アルバムを追加したアンソロジー盤。 -
小川:DJでもよくかけたりするの?
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大塚:いえ、DJ的にはまったく使えないんですけど(笑)、変なシンセサイザーや実験的な効果音がとにかく満載なんですよ。
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小川:村上ポンタ秀一さんの『驚異のパーカッション・サウンド!!』みたいな感じ?
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大塚:近いですね。でも、あのアルバムよりもう少し“くだけてる”感じかな?(笑)
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小川:実は、僕も今日はトリオのレコードを何枚か持ってきていて。日本人モノではないんですが・・・ダラー・ブランド、ドン・チェリー、カルロス・ワードの『第三世界=アンダーグラウンド』というLP。
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大塚:あ! 私も同じレコードを持ってきています(笑)。
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小川:このレコードは未CD化なんですよね。内容の素晴らしさはもちろん、ダラー・ブランドは日本でも人気があるピアニストなので、そろそろCD化されてもいいんじゃないかなって。海外のコレクターには探している人が多い1枚。 「ナジャ」は当時のトリオレコードのサブ・レーベルで、ジョー・リー・ウィルソンの『Livin' High Off Nickels And Dimes』だとか、バダル・ロイの『Ashirbad』だとか、海外アーティストのおもしろい作品もたくさん出しているんですよね。
バダル・ロイの『Ashirbad』は、デイヴ・リーブマンとリッチー・バイラークのルックアウト・ファームで来日した際の録音。2年ぐらい前にAbsord Music Japanさんから再CD化されているんですが、純粋なジャズというよりは、最近の「辺境音楽」的な耳で聴くとハマるんですよ。 -
大塚:「ナジャ」は、こういった民族系のジャズ作品のリリースもけっこう多かったんですか?
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小川:福居良さんの『シーナリィー』のようなストレートなジャズ作品もあり、バダル・ロイのようなエスニックなワールド・ミュージック寄りの作品や、あるいはフリー・ジャズなんかもあったりと、かなり幅広いんですよ。当時の「ナジャ」は、「ベイステイト」や「WHYNOT」なんかと並ぶ名レーベルだったんですよね。
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大塚:トリオレコードでは、近々ロレツ・アレキサンドリアの『From Broadway To Hollywood』がCD、LP両方で再発されるんですよ。かなりいい流れになってきているなって(笑)。
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小川:トリオのレコードって、「レーベル買い」みたいな感じで昔からよく買っていたの?
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大塚:私、地方の中古レコード屋を回るのが昔から好きなんですね。そういうところにふらっと入ったときによくトリオのレコードをかなり安い値段で見付けては買っていたんですよ。例えば、リッチー・バイラークのレコードや、ディー・ディー・ブリッジウォーターの『アフロ・ブルー』が千円で落ちていたりとか、探せばありそうな雰囲気があるんですよね。そういった“庶民的”な感じも親近感があっていいなって(笑)。
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小川:やっぱり、ディー・ディー・ブリッジウォーターの『アフロ・ブルー』っていうアルバムが、トリオレコードの入り口になるっていうところはありますよね。日本人アーティストではないんですが、日本制作のジャズ作品ということで、れっきとした「和ジャズの一部」と言えますから。そこからトリオ盤を色々と探し出すっていう人は多いでしょうね。
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小川:キングレコードの話に戻りますが、CD化されてほしい作品ということでは、池田芳夫さんの『スケッチ・オブ・マイ・ライフ』と『風媒花』、個人的にはこの2枚ですね。『風媒花』には、伊藤君子さんが参加されていて、「ウィスパリング・ウィーズ」の橋本一子さん同様に素晴らしいスキャットを聴かせてくれるんですよ。伊藤さんはまだリーダー・アルバムを吹き込む前なので、さほど有名にはなっていない時期ですね。
「セブン・シーズ」の作品には未CD化のものが多いんですよね。今回の「JP JAZZ」シリーズで選曲している、大友義雄さんの『アズ・ア・チャイルド』、村岡建さんの『ソフト・ランディング』あたりも是非CD化されてほしいですね。例えば、『Deux Step』に収録した白木秀雄さんや宮沢昭さん、所謂60年代のモダン・ジャズ作品というのは、近年かなり再発化が進んでいるんですが、逆に70年代後半から80年代初頭にかけてのフュージョン期の作品は、CD化もされずけっこう見過ごされがちですから。
あとは、中村誠一さんの『ファースト・コンタクト 〜 中村誠一 クインテット・ライブ・アット・ザ・ロブロイ』。90年代に一度CD化されているんですが、もう20年近くも経ってしまって現在廃盤ですから、再度CD化されるとうれしいですね。「ベルウッド」から出ているジョージ大塚さんの『ラヴィン・ユー』なんかもそうですね。
(註) 文中に登場する未CD化/廃盤の作品
池田芳夫
『スケッチ・オブ・マイ・ライフ』(未CD化)池田芳夫
『風媒花』
(未CD化)大友義雄
『アズ・ア・チャイルド』
(未CD化)村岡建
『ソフト・ランディング』
(未CD化)中村誠一
『ファースト・コンタクト』
(廃盤)ジョージ大塚
『ラヴィン・ユー』
(廃盤) -
大塚:アナログでも是非再発してほしいですよね。
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小川:イギリスのJAZZ MANをはじめ、海外のレーベルはけっこう頻繁にアナログで再発してくれるんだけど、日本は割とそういうところには消極的なんじゃないかな・・・プレス費用の違いなんかもあるんでしょうし。Think! さん、P-Vineさんがたまにやるぐらい。大手のレコード会社主導でやるのはなかなか難しいんでしょうね。でも逆に、海外のKINDRED SPIRITSのようなレーベルが、それこそ『第三世界=アンダーグラウンド』を再発してくれるのもアリなんじゃないかなって。
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大塚:そうですよね。実は、私もミックスCDにこのレコードの曲を入れたくて最後まで練っていました。
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小川:でも、ダラー・ブランドは昨年も来日公演をしたけど、直接コンタクトとって再発できるか訊いてみることもできそうだよね。
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大塚:トリオのレコードで、他にもCD化できるなら・・・このマイケル・パウロ 『レインボー・アイランド』。聴いたことありますか?
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小川:たまに見かけるけど、聴いたことはないなぁ。
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大塚:特にレア盤だったりするわけでもないんですが・・・むしろすごい安い値段で見つかると思います(笑)。トリオの作品って入手しやすい値段でよく落ちているので、安いだけの理由で試しに買って聴いてみたら、すごいかっこよくて。ブギーな感じで、クラブのDJプレイでもかなり使えるんですよ。それこそハービー・ハンコックが参加していたり、帯には「謎の日系サックス・プレイヤー」「キミも仕掛け人にならないか!」と書かれていたり、一目見ただけでもかなり気になる要素が満載(笑)。
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小川:ちょっと敬遠しがちな感じのジャケではあるんだけれど・・・今度探してみます(笑)。
(註)マイケル・パウロ 『レインボー・アイランド』 LP・・・カラパナのメンバーとしてライト・メロウ〜スムース・ジャズの数々の名演を生み出してきた、ハワイ生まれの日系サックス奏者マイケル ”タツオ” パウロ。1979年にトリオレコードからリリースされたリーダー・アルバム。バックには、ハービー・ハンコックとそのファミリーが参加し、マイルドなディスコ・フュージョン・サウンドを支えている。エリック・ベネイの2007年ブルーノート東京公演、神崎ひさあきとの共演作品など、昨今も第二の故郷・日本に根付いた活動を続けている。 -
大塚:ちなみにキングレコード音源以外でCD化を望まれている作品というのは? かなりあるかと思いますが・・・
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小川:今回のコンピレーションに収録されているアーティストで、他のレーベルからリリースされている作品の中からCD化されていないものをいくつかピックアップしてきたんですよ。
村岡実さんの実況録音盤『尺八リサイタル 恐山』。石川晶さんや伊集加代子さんが参加しています。当時は大映レコードからリリースされていたんですが、今現在はどこが権利を持っているのかがはっきり判らなくて・・・もしかしたらコロムビアさんなのかな? 僕は元々セカンド・プレス盤を持っていたんですが、オリジナル盤の方が1曲多いので買い直しました。
横田年昭さんの『高翔(Elevation)』もまだCD化されていないですね。東芝EMI傘下のエクスプレスというレーベルからリリースされていた作品。横田さんはフルート奏者なんですが、かなりアーシーで、村岡さんの尺八に匹敵するような妖しいムードの音を出すんですよ。 -
大塚:バックの顔ぶれがこれまたすごいですよね。猪俣猛さん、佐藤允彦さん、市川秀男さん・・・
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小川:横田さんは、『Soul Bamboo』にも収録した「太陽はまだ熱く燃えていた」が入っている『フルート・アドヴェンチャー』がすごく有名でCD化もされているんですが、オリジナルLPはレア中のレア。専門店でもまず見かけない。オークションでも十何万もの値が付くシロモノなんですよね。ジャズ・リスナーだけでなく、サイケデリック〜アート・ロック系の人たちからの評価も高いだけにかなりの高値が付いてしまうんですよ。『原始共同体』というアルバムにしてもそうですね。ちなみに、横田さんは今ジャズではなくニューエイジ系の音楽をやっているそうなんですよ。エクスプレスは、ロックやポップスのレーベルというイメージが強いんですが、こういったジャズ作品もリリースしているんですよね。
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大塚:エクスプレスと言えば、藤舎推峯さんの『幽玄の世界』も個人的には是非CD化してほしい1枚ですね。
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小川:そして、ビクターから1973年にリリースされた大野俊三さんの初めてのリーダー・アルバム『フォルター・アウト』。大野さんは今もアメリカで活動されているんですが、これは当時渡米する直前に日本でレコーディングしたアルバムですね。今回 『Mixed Roots』に収録した「ロウ・イースト・サイド」は、『アンターレス』という1980年に録音されたアルバムからの楽曲で、ディスコっぽいフュージョンなんですが、この『フォルター・アウト』は、所謂ウェイン・ショーターなどがいた頃のマイルス・クインテット的なモード・ジャズっぽい音の作りになっているんですよ。
ビクターのジャズ音源にはCD化されていないものがかなりあって、峰厚介さんの『ダグリ』だったり、素晴らしい内容の作品がまだ眠ったままなんですね。
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大塚:小川さんの元ショップ・バイヤーとしてのご立場で、お店にいらっしゃった海外のコレクターやDJの方から「日本のジャズを探しているんだけど、何かいいのない?」と訊かれることも多かったのですか?
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小川:村岡実さんの『バンブー』を探している人は比較的多かったかもしれませんね。DJだと、その人のプレイスタイルで探している年代の作品は異なるかと思いますが、例えばニコラ・コンテなんかは、白木秀雄さんだったり、60年代のモダン・ジャズ作品を好んでよく買っているようです。マンハッタン・フォーカスの「ミックスド・ルーツ」や本多俊之さんの「ラメント」なんかは、割と昔からロンドンなどで人気があった曲なんですよね。
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大塚:80年代後半に、アシッド・ジャズ、レアグルーヴ・ムーヴメントの中で「JAP JAZZ」と呼ばれていたものですよね。
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小川:そうですね。この2曲は、クラブ・ジャズ初期の頃からよく知られている曲なんですよ。
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大塚:逆に海外のコレクターやDJの方のほうが、日本のジャズに詳しいと言える部分も?
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小川:そう言える場合もありますよね。向こうのレコード・ディーラーが「日本のジャズでこういうのを探しているんだけど、手に入るか?」って訊かれて初めてその作品の存在を知ることも多いですし。で、探して実際聴いてみたら内容もすごく良かった、とか。
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大塚:ジャズに限らず、日本盤のレコードそのものが海外のDJやディーラーの方々から注目を集めていますよね。
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小川:日本の60年代、70年代のサイケ・ロックのレコードを熱心に集めている海外のコレクターも多いですからね。やっぱり “帯付き”のレコードというものに対する需要の高さですよね。
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小川:キングに関して言えば、当時LP化もされていない完全な未発表音源、つまり秘蔵音源というのは、どうやら現存しないみたいなんですが、トリオにはどうですか?
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大塚:今はトリオにも完全な未発表音源というのはないみたいなんですよね。あとは、他のレーベルに権利を売却してそこからリリースされているものも多いみたいなんですよ。 『Inspiration & Power 14 Free Jazz Festival 1』のライヴとか、関連する映像が少し前まであったとか・・・。
あとは、サブ・レーベルのショーボート音源におもしろいものがまだ残っているんじゃないかなって。私のミックスCDにも稲村一志(と第一巻第百章)さんの「恋をするなら」を入れていて、ちょっとシティ・ポップ寄りなんですが、今後はこのあたりの音源に注目したいですね。 -
小川:ライヴ音源のLPの中には、曲が長すぎて途中でフェイドアウトしてしまうものが多いと思うんですね。例えば板橋文夫さんのコジマ録音のライヴ盤『ライズ・アンド・シャイン』。この中の「ライズ・アンド・シャイン」が13分21秒でファイドアウトしてしまうんですが、5年ぐらい前にウルトラ・ヴァイヴさんからCD化されたときに、「完全版」として登場しているんですよね。それはすごく意義のある再発だなと。ライヴ音源にはそういうものがたくさんあるので、もしCD化するのであればフル・ヴァージョンで入れてもらえるとうれしいですよね。もしくは、同じ日の演奏でカットされている曲なんかもあると思うので、もしそういった音源が残っているのであれば、是非追加で収録してほしいですよね。
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大塚:デラックス・ヴァージョンやコンプリート・ヴァージョンにスタジオ音源のテイク違いが入る場合はあっても、ライヴ音源の完全版が入るということはなかなか稀ですからね。
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小川:渡辺貞夫さんの1975年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルの実況録音『スイス・エア』も、オリジナルLPにしても後にCD化されたものにしても、いずれも途中でエディットされているんですよ。だから、どうせCD化するなら、っていう感じはあります。
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大塚:ちなみに、小川さんが日本のジャズで初めてハマった作品というのは何だったのですか?
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小川:実際僕もロンドンのアシッド・ジャズ・ムーヴメントの流れの中で日本のジャズ作品が取り上げられるようになったことが、聴き始めるきっかけになったんですよね。最初に聴いたのは、たしか日野皓正さんの『シティ・コネクション』だったかな? 「ロンドンでよくかかっている日本人ジャズのレコード」という情報だけを頼りにして手に入れたんだと思います。大塚さんは?
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大塚:私はレアグルーヴという切り口から日本のジャズに入っていった世代なので、中村照夫さんの『ユニコーン』だったような気がします。たまたま安く手に入れたら、すごく “それっぽかった” というか(笑)、レアグルーヴ的な解釈からも申し分なかったんですよね。2枚目を入手して村岡実さんの『バンブー』とトレードしました(笑)。
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小川:そう言えば、『ユニコーン』の再発ってUKのSOUL BROTHERからでしたよね。同じ頃、川崎燎さんの『ミラー・オブ・マイ・マインド』の再発LPも大阪のEM Recordsから出ていましたよね。この2枚は昔からロンドン・ジャズ・クラシックとして知られているアルバムなので、僕もわりと早い段階で入手して聴いていましたね。
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大塚:小川さんが入手された当時はどちらのオリジナル盤もそれほど高くはなかったんですか?
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小川:海外のディーラーにはそれなりの値段を付けている人もいましたけど、日本で探せば、もちろん簡単に見つかるようなものではなかったんですが、そこそこ安くは買えたと思います。今みたいにオークション・サイトのようなネット情報が溢れていたわけではないので、それこそ街にある中古レコード屋がその需要の高さを知らなければ、安い値段で見つけることはできたんですよね。
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大塚:では、この流れで「入門向け」の作品をいくつかご紹介いただけますか?
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小川:まずは、宮沢昭さんの『山女魚』と白木秀雄さんの『プレイズ・ボッサ・ノバ』ですね。どちらもCD化されています。
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大塚:白木さんの作品ってどれも聴き易いというか、すごく判り易いですよね。
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小川:特にこの『プレイズ・ボッサ・ノバ』は、ボサノヴァやラテン・ジャズをやっているので、今のクラブ・ジャズをよく聴いているような人にはかなり入り易いんじゃないでしょうか。方や、宮沢さんの『山女魚』は、所謂モード・ジャズを取り入れた時期の作品で、クラブ・ジャズを普段よく聴いている人が60年代のモダン・ジャズの入り口として聴くのに最適な1枚だと思います。日本のモダン・ジャズ作品の中においてもとても評価の高いレコードですね。
次は、マンハッタン・フォーカスの『マンハッタン・フォーカス』と本多俊之さんの『オパ! コン・デウス』。どちらもキングのフュージョン系サブ・レーベル、エレクトリック・バードからのリリースで、1990年前後のクラブ・ジャズ草創期からロンドンなどでも人気があった作品。『オパ! コン・デウス』は、ブラジリアンをテーマにした作品で、バックにオスカー・カストロ・ネヴェスといったセルジオ・メンデス&ブラジル ’88のメンバーが参加しているんですよ。『マンハッタン・フォーカス』は日米の混成バンドで、日本からは、増尾好秋さん、鈴木良雄さん、菅野邦彦さん、アメリカからは、アル・フォスター、ボブ・バーグ、トム・ハーレルといった錚々たるメンバーが集まっていて、日本製のフュージョン作品ではあるんですが、かなりインターナショナルな雰囲気が色濃く漂っている1枚ですね。
(註) 文中に登場する「入門向け」 「ジャケ嗜好」 作品+@
そして、もう1枚宮沢昭さんで、ビクター録音の『いわな』。こちらも素晴らしい作品ですね。Think! さんからCD化されています。この後に『木曽』というアルバムを発表していて個人的にはすごく好きなんですが、かなりフリー・ジャズの要素が強いんですよね。そういう意味で、この『いわな』は、モードからフリーに移行する直前の録音なので、そのバランス加減がおもしろくて、なおかつ聴き易いんじゃないかなと思います。
猪俣猛さんとサウンド・オブ・リミテッドの『サウンド・オブ・サウンド・リミテッド』は、和製ジャズ・ロックの決定版。オリジナルはコロムビアさんですが、Pヴァインさんから「DEEP JAZZ REALITY」シリーズの一連としてCD化されています。ジャケットも最高ですよね。 -
大塚:このジャケット、本当かっこいいいですよねぇ。小川さんとは以前、waxpoetics JAPAN 別冊 『COVER STORY』でもご一緒させていただきましたが、あらためてジャケットのアートワークでお好きな作品というのは?
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小川:池田芳夫さんの『スケッチ・オブ・マイ・ライフ』も好きですね。あとは、ベーシストの中村新太郎さんの初リーダー・アルバム『エヴォリューション』。これは日本制作のレコードなんですが、まったく日本っぽくないのが逆におもしろいなと。アメリカ録音ということもあって、ちょっとブラック・ミュージック的な匂いのするジャケットになっているんですよね。大野俊三さんも参加されていて、音の方もブラック・ジャズ路線のディープな仕上がりです。
『COVER STORY』に掲載したグァナバラの『ブラジリアン・ビート』もすごく好きなジャケット。ナナ・ヴァスコンセロスがゲスト参加していたりするブラジリアン・ジャズなので純粋な日本人モノではないんですが、リリースはベイステイト。さらに、ここにも大野俊三さんと、それから日野皓正さんが参加されているんですよね。内容もいいんですよ。フュージョン的なタッチなんですが、音自体はけっこう硬派。
(註)グァナバラ『ブラジリアン・ビート』・・・アルト・サックス奏者スティーヴ・サックスを中心としたグループの1982年ベイステイト制作(79〜80年録音)によるアルバム。クラブ・ジャズ界隈で需要高のブラジリアン・ジャズ・ダンサー「Constelacao」を収録していることでも有名。パーカッション奏者ナナ・ヴァスコンセロスに加え、日本からは大野俊三(tp)、日野皓正(cor,flh)がゲスト参加している。 -
大塚:私の「入門向け」オススメは、とにかくこの『Inspiration & Power 14 Free Jazz Festival 1』ですね。ほかにも、ミックスCDにも入れたんですが、豊住芳三郎さんがシカゴのAACMでの活動や、アート・アンサンブル・オブ・シカゴとの共演を経た帰国後に録音した『サブ=メッセージ・トゥ・シカゴ』だったり、加古隆さんの『マイクロ・ワールド』、沖至さんの『しらさぎ』だったり・・・ほとんどフリー系(笑)。「もうひとつの、日本のジャズ史」というか、そういうシーンが実際にあったんだっていうところに私自身も注目していますし、音自体もまったく抵抗なく聴けるんじゃないかなって。
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小川:新しい視点ですよね。例えば若い女性向けのジャズ入門にフリー・ジャズを提案するのって。
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大塚:スッて入って来れる人もけっこういるんじゃないかなって。私も当初は「難解な音楽なのかな?」って変に距離を置いていたんですけど、まったくそんなことはなくて。聴く側もすごく自由な感覚でいられるんですよね。
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小川:コジマ録音やアケタズ・ディスクにも聴き易いフリー系の作品っていっぱいありますもんね。
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大塚:だから、あえて入門で、ということなんですよね。そこがすごく自由な発想でいいんじゃないかなって。あとは、フリーではないんですが、宮間利之さんとニューハードの『モンタレーのニューハード』っていうライヴ盤のLP。ビッグバンドでジャズ・ファンクをやっていて、かなりオススメですね。「ナジャ」からリリースされているんですよ。「河童」っていう曲のこのライブ・ヴァージョンがとにかくかっこよくて。CD化はされていたんですが、今はもう廃盤になっていると思います。
それから、去年CD化された植松孝夫さんの『ストレイト・アヘッド』ですね。植松さんとは、私がレギュラーDJをやらせていただいている六本木alfieのイベントでご一緒させていただいたんですが、ライヴではクオシモードの平戸(祐介)さんのトリオと共演されていて、すごかったです。「日本のファラオ・サンダース」と呼ばれているのにも納得みたいな(笑)。植松さんの作品は、初リーダー・アルバムの『デビュー』も素晴らしいですし、杉本喜代志さんの『バビロニア・ウィンド』だったり参加作品も多数あるので、関連作品を追っていくとかなりおもしろいんじゃないかなって思います。 -
小川:植松さんにしても鈴木勲さんにしても、新しい感覚のジャズや、またそういった世代のミュージシャンと積極的に交流しているんですよね。今回特典12インチのリミックスをしていただいたKuniyukiさんの『Walking In The Naked City』にも板橋文夫さんがゲストで参加されていたりとか。
ただ鈴木勲さんとお会いした際におっしゃっていたのは、やはり「自分たちがやっている音楽とは違うもの」ということ。そういった意識は当然ながらあるにせよ、「異なったものが合わさって化学反応を起こしてこそ、おもしろいものが生まれるんじゃないかな」ということもおっしゃっていましたね。
(註) 文中に登場する「入門向け」 作品
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大塚:今後例えば、『JP JAZZ 80's - 90's』のような続編の制作も考えていたりするのですか?
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小川:う〜ん・・・キングのジャズ音源に絞っての編纂となるとまた色々とリサーチをしていかなければいけないんですが、実際80年代以降というのは、シティ・ポップ、AOR、それこそパンクやニューウェイヴといった音楽の新しい潮流がどんどん生まれ始めていた時期でもあるので、ジャズに固執したコンパイルとなるとなかなか難しいかなという気もします。特に80年代半ば以降、どちらかというとジャズはソフィスティケイトされすぎてしまって、クラブ・ミュージック的な荒々しさやエネルギッシュな部分にいまいち欠けているものが多いような気がしてしまうんですよね、個人的には。もちろん、中には素晴らしい作品もあったりするので、そういうものをまた掘り出してみたいなという気持ちはあります。
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大塚:しかもこの時代、メディアがLPからCDに移り変わるちょうど過渡期でもありますよね。
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小川:別の見方をすれば、音楽や音楽を聴く環境が多様化していく中でのジャズの在り様というものを捉え直すことができるんでしょうね。ただ一応、この「JP JAZZ」シリーズは今後も続く予定です。今考えているのは、今回特典にした12インチのようなリミックス集。現在のクリエイターの方々に素材をお渡しして色々と料理してもらおうかなと。
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大塚:「re:jazz」のJP版のような感じで。
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小川:そうですね。まだ計画段階ではありますけど。
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大塚:私もちょうど80年代以降の、フリーも含めたジャズ音源に興味があって、その辺りを追っていきたいなって思っているんですよ。年末にかけて、主に80年代中心の日本のジャズ・レーベルに注目したミックスやコンピレーションCDのリリースを考えています。あとは、先ほどお話したフリー・ジャズにしてもそうですが、もっともっと判りやすく提示していけたらなと思っています。
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小川:見せ方や聴かせ方ひとつで、受け手の印象って随分と変わりますからね。今回の「JP JAZZ」コンピレーションにしてもまさにそうで。すでにこういった日本のジャズ作品を聴いている人がたのしめるということはもちろんなんですが、これまで日本のジャズをほとんど聴いたことがなかった人、あるいは普段ヒップホップやブレイクビーツなんかを聴いている人にとってもたのしめるような幅広い選曲にしてあるんですよ。
例えばディスコが好きな人は『Mixed Roots』から、ブイレクが好きな人は『Soul Bamboo』から、というように入り口をいくつか用意したつもりではあるので、本当に色々な人に聴いてもらえればうれしいですよね。
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- Wax Poetics Japan Compiled Series Deux Step King Of JP Jazz 60's - 70's
- King Records × Wax Poetics Japanコラボ企画による「JP Jazz」コンピ第1弾。1960年代の日本のジャズ発展期を中心に、ハード・バップ〜モード・スタイルのモダン・ジャズの名曲をセレクト。白木秀雄、宮沢昭、秋吉敏子、松本英彦、八木正生ら日本のジャズ界を牽引したトップ・スターたちの貴重な作品を15曲収録。ワールドワイドに見ても優れたジャズ・ナンバーであると同時に、日本人ならではのオリジナリティを感じさせる意欲的なこれら作品は、日本のジャズ史の中でも高い評価を得てきた。それに加えて、今回はクラブ・ジャズ・シーンでも脚光を浴びたダンサブルなナンバーを中心とするセレクトにより、「JP Jazz」の新たな魅力を提案。ジャケット写真はエリック・コールマンによるもの。
- Wax Poetics Japan Compiled Series Soul Bamboo King Of JP Jazz 70's
- King Records×Wax Poetics Japanコラボ企画による「JP Jazz」コンピ第2弾。1970年代前半から中盤、ジャズがロックやファンクと融合した熱い時代から作品をセレクト。これらジャズに実験性とラジカルな精神を持ち込んだ作品は、レア・グルーヴ、スピリチュアル・ジャズ、ブラック・ジャズ的な視点でも注目される。世界中のDJやクリエイターが驚嘆した村岡実の尺八ブレイクビーツ、横田年昭のサイケ&トライバル・グルーヴ、猪俣猛と写真家加納典明の異種格闘コラボ、ジョージ大塚のミニー・リパートン・カヴァー、スキャットの女王伊集加代子が参加したシンガーズ・スリー、初CD化となるリチャード・パインの貴重音源など全11曲収録。ジャケット写真はB+によるもの。
- Wax Poetics Japan Compiled Series Mixed Roots King Of JP Jazz 70's - 80's
- King Records × Wax Poetics Japanコラボ企画による「JP Jazz」コンピ第3弾。1970年代後半から1980年代前半のフュージョン/クロスオーヴァー時代を中心にセレクト。日米混合プロジェクトマンハッタン・フォーカスほか、大野俊三などによる海外ミュージシャンとの共演作、本田俊之、鈴木勲+山本剛によるメロウなブラジリアン・ジャズ、益田幹夫、村岡建、八木正生がディスコ/ブギーに挑戦したナンバー、池田芳夫によるディープ&スピリチュアルな意欲作、今田勝+弘勢憲二、大友義雄による躍動的なジャズ・サンバ、クラブ・ジャズ・シーンでも人気の板橋文夫の叙情的美曲など全12曲収録。初CD化の貴重音源も多数。ジャケット写真はB+によるもの。
- The Piece Of TRIO RECORDS
mixed by hiroko otsuka - 国内外・有名無名を問わず、多くの才能豊かなミュージシャンの作品を発表する、まさに和ジャズ音源の最重要宝庫 TRIO RECORDSのオフィシャル・ミックスCD。DJは、現在THE ROOMで行なわれている「CHAMP」を中心に、2010年はFUJI ROCK FESTIVALへの参加も果たしている女性ジャズDJ、大塚広子。2004年以降、都内でのDJ活動と自身のミックスCDの展開から全国的な現場での支持を得て、ワン&オンリーな「黒いJAZZのグルーヴ」を起こすDJとして、その存在を不動のものとしている。そんな彼女によるスピリチュアル・ジャズ〜フリー・ジャズ〜エクスペリメンタル〜和ジャズ/和モノにまで及ぶ、深い漆黒ワールド。大塚広子の現代的解釈で蘇る TRIO RECORDS音源、改めてその奥深さを再認識させられる至極のミックス。
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- JAZZ NEXT STANDARD
小川充 - 2004年発刊
- JAZZ NEXT STANDARD
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小川充
(おがわ みつる)
音楽評論家・ライターとして雑誌のコラムやCDのライナーノートなどを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』 、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』の他、『クラブ・ミュージック名盤400』がある。また、『DOUBLE STANDARD』『FUSIONISM』『音楽をよむ』『JAZZ SUPREME』『ブリザ・ブラジレイラ』『ブリザ・ブラジレイラ・プリモ』『LATIN DANCE MANIA』『超ハウス・ディスク・ガイド』 『ブルーノート決定盤100』『モンド・ミュージック2001』などにも寄稿。DJ・選曲家としても活動中で、ブルーノートの『ESSENTIAL BLUE - Modern Luxury』、Tru Thoughtsの『Shapes Japan : Sun』などのコンピの監修・選曲も手掛ける他、ユニバーサルミュージックと『Jazz Next Standard』の連動企画でCDリイシュー・シリーズの監修を手掛ける。
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大塚広子
(おおつか ひろこ)
2004年以降、都内でのDJ活動と自身のミックスCDの展開から、全国的な現場での支持を得て、ワン&オンリーな「黒いJAZZのグルーヴ」を起こすDJとして、その存在を不動のものとする。 現在、渋谷 The Roomにて第四金曜日不動の人気イベント「CHAMP」のDJを務め、日本中の様々なパーティーからのゲストオファーが絶えない。 Jazzを切り口としながらもジャンルや年代を超えたBLACKNESS、徹底した掘り、またオリジナルな音源追求が呼び起こす繊細かつ大胆なプレイで、多くの音楽好きを唸らせそして踊らせる。 音楽雑誌「GROOVE」「remix」「ジャズ批評」、FREE MAGAZINE「DESTINATION MAGAZINE」、「waxpoetics japan」 オフィシャルBLOGをはじめ、海外サブカルチャー雑誌でも、レコード紹介や執筆活動を行う。 2010年にはスペインでのDJ招聘、そしてFUJI ROCK FESTIVALの出場経て、益々今後の動向が注目されている。
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本文中に登場する日本のジャズ・ジャイアンツ* [前編] インデックスからの続きとなります |
福居良 (ふくい りょう) 1948年、北海道生まれ。18歳でアコーディオン、22歳でジャズピアノを始める。76年にファースト・アルバム『シーナリィー』を発表。82年に上京し、自己のトリオで活動した後、パリ、ニューヨークなどでライヴを行うなど幅広く活躍。札幌市のライブハウス「Slow boat」のオーナーを務めながら現在に至る。父は津軽三味線奏者、福居天童。 |
森山威男 (もりやま たけお) 1945年 山梨生まれ。東京芸大打楽器科卒業後、67年に山下洋輔トリオに参加。同トリオはフリー・ジャズのシーンで世界的な名声を博した。76年に山下洋輔トリオを脱退後、翌77年に自己のカルテットを結成し、高橋知己、井上淑彦、林栄一などサックスの名手たちが参加。80年代末から数年間、音楽界から離れたが見事にカムバック。代表作は『デュアル』、『虹の彼方に』、『森山組 信正見参』など。 |
伊藤君子 (いとう きみこ) 1946年、香川生まれ。4歳の時、ラジオから流れる美空ひばりの歌声に魅せられ歌手を目指すようになったという。82年にデビュー・アルバム『バードランド』をリリースした後、ニューヨークのジャズクラブへの出演、日野皓正らのツアーに同行しながら実力を磨き、国内外でその歌唱力は高く評価されていった。86年『ア・タッチ・オブ・ラヴ』、87年『フォー・ラヴァーズ・オンリー』と立て続けにヒットを放ち全米デビューを果たす。 |
石川晶 (いしかわ あきら) 1934年、神奈川生まれ。50年代初頭から、松本伸とニュー・パシフィックにドラムで加わり、宮沢昭モダン・オールスターズ、保坂俊雄とエマニアーズとバンドを亘り歩く。後に宮間利之とニューハードにも在籍。アフリカン・リズムに着目しながら、ゲンチャーズ、カウント・バッファローズといった自己グループの作品においてそうしたリズムをジャズ・ロック・サウンドの中で昇華。『ゲット・アップ!』、『エレクトラム』、『バック・トゥー・リズム」、『バキシンバ』、『ウガンダ / アフリカンロックの夜明け』といった昨今「和製レアグルーヴ」として評価の高い作品を多数発表した。晩年は「ピガピガ」というアフリカ音楽の店を経営しつつ、ケニアに移住。アフリカで飢餓に苦しんでいる子供たちを救う「フューチャーキッズ・プロジェクト」を発足させて活動していた。 |
伊集加代子 (いしゅう かよこ) 1937年、東京生まれ。東邦音楽短期大学声楽科でクラシックを学び、卒業後にジャズ・シンガーの水島早苗に師事。フォー・シンガーズ、シンガーズ・スリーなどのグループ・コーラスでの活動と並行して、数千作品にも亘るスタジオ・コーラス、CMソングなどに参加。「スキャットの女王」と呼び親しまれ、60年代後半から70年代にかけて活躍した代表的な女声スタジオ・コーラス・シンガーのひとり。現在は「伊集加代」という芸名で活動している。 |
白木秀雄 (しらき ひでお) 1933年、東京・神田生まれ。東京芸術大学音楽学部打楽器科在学中よりブルー・コーツに参加。その後、白木秀雄クインテットや白木秀雄カルテットを結成。65年のベルリン・ジャズ・フェスティバルに日本人で初めて招聘されるなど華々しい活躍で、「日本を代表するジャズ・ドラマー」の名を欲しいままにした。石原裕次郎主演の日活映画『嵐を呼ぶ男』でのドラム演奏の吹き替えを白木が行なったことは有名。72年39歳で夭逝。 |
宮沢昭 (みやざわ あきら) 1927年、長野生まれ。戦後米軍クラブ等での活動を経て、守安祥太郎、秋吉敏子らと共演し、日本ジャズの黎明期を担った最重要テナー・サックス奏者。54年、横浜・伊勢佐木町にあるジャズ・クラブで行なわれた日本ジャズ史に残るジャム・セッション「モカンボ・ジャム・セッション」(深夜から翌日正午まで繰り広げられた!)で守安、秋吉らと演奏。62年、日本ジャズ史上に燦然と輝く名作と言われる初リーダー・アルバム『山女魚』を発表。その後も、当時慶応大学の学生だった佐藤允彦をスカウトし、レコーディングに参加させた69年の『いわな』、和ジャズ・スピリチュアルの最高峰として現在人気の高い、70年録音の『木曽』といった重要作を続けざまに発表している。アルバム・タイトルから察しがつく通りかなりの釣り名人だったという。 |
佐藤允彦 (さとう まさひこ) 1941年、東京生まれ。バークリー音楽院(現バークリー音楽大学)への留学を経て、69年の帰国後に発表したリーダー作『パラジウム』で知られる日本が生んだ天才ピアニスト。モダン・ジャズのみならず、ジャズ・ロック、フリー的性格の強い楽曲までを多彩に弾きこなす。昨今も、日本武道館に1000人の僧侶を集めて開催した声明コンサート(93年)など、作・編曲に加えて音楽監督も担当するなど多方面で活躍している。 |
市川秀男 (いちかわ ひでお) 1945年、静岡生まれ。66年にジョージ大塚トリオに参加。メロディアスなピアノ・プレイで人気を博した。『インヴィテーション』や松本浩との『メガロポリス』などの傑作リーダー・アルバムを残しながら、サイドマンとしても日野皓正やジョージ川口のグループに参加し、先鋭的なサウンドの屋台骨を支えた。90年代以降も音楽配信のための新作づくりなど、常に新しい分野への挑戦を続けている。 |
中村誠一 (なかむら せいいち) 1947年、東京生まれ。クラリネットを大橋幸夫氏に師事。国立音大卒業後、69年に山下洋輔グループで活動を開始し、72年まで在籍。退団後、山本剛(p)、福村博(tb)、小原哲治郎(ds)らと“ゲス・マイ・ファインズ”を結成。73年初リーダー作『ファースト・コンタクト』をリリース。その後渡米し、ジョージ・コールマンに師事。中村照夫(b)とライジングサンに参加。帰国後は自己のグループを中心に、ジョージ川口(ds)のビッグ・フォーなどに参加した。 |
峰厚介 (みね こうすけ) 1944年、東京生まれ。63年ごろから活動開始。69年菊池雅章(p)グループに参加し、73年解散まで在籍。70年に初リーダー作『MINE』をリリース。71年よりアルトからテナー・サックスに転向。78年には本田竹曠(p)らと“ネイティブ・サン”を結成。海外公演も行なうなど人気を博す。その後、自己のグループを中心に演秦活動を行なう一方、本田竹曠 EASE、渋谷毅オーケストラ、富樫雅彦&JJスピリッツなどにも参加している。 |
宮間利之 (みやま としゆき) 1921年、千葉生まれ。39年に海軍軍楽隊に入団。戦後すぐジャズ界に入り、アルト・サックス奏者として実力を発揮。50年にはジャイブエーセスを結成し米軍クラブなどに出演。同バンドは、58年に「小羊の群」を意味する「ニューハード」と改称し、コンサート活動、ラジオ、テレビ及びレコード界へと幅広く活躍しトップ・ビッグバンドの地位を固めた。ニューハードは日本のビッグバンドの中で最も歴史が長く、74年にはモンタレー・ジャズ・フェスティヴァルに日本から初出演し最高栄誉賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を得ている。 |
渡辺貞夫 (わたなべ さだお) 1933年、栃木生まれ。上京後、秋吉敏子に見出され彼女のコージー・カルテットに参加。カルテット解散後の58年にはジョージ川口ビッグ4に加入。61年の初リーダー・アルバム『渡辺貞夫』を発表後、バークリー音楽院(現バークリー音楽大学)に留学。68年にはニューポート・ジャズ祭に出演。帰国後は多くの国内外ミュージシャンと共演し、日本ジャズ界のリーダーとしてめざましい活躍を見せている。78年、折からのフュージョン・ブームにも乗って、『カリフォルニア・シャワー』はジャズ界では空前の大ヒットを記録。フュージョン・サウンドをポピュラー音楽として広く知らしめることになる。現在もボサノヴァ、アフリカ音楽等ワールド・ミュージックのエッセンスを取り入れながらグローバルな活動を行なっている。愛称”ナベサダ”。 |
日野皓正 (ひの てるまさ) 1942年、東京生まれ。64年に白木秀雄クインテットに入団。67年には、初リーダー・アルバム『アローン・アローン・アンド・アローン』を発表。69年、”ジャズ・ロック”を標榜した日本ジャズ史上に残る傑作『ハイ・ノロジー』で、日本を代表するトランペッターの地位を確固たるものにする。また、ピアニストの菊地雅章と共に日野=菊地クインテットとしても活動。75年からは活動の拠点をアメリカに移し、ポップな作風のフュージョン・サウンドにも挑戦。89年には、日本人ミュージシャンとしては初めてブルーノート・レコードと専属契約している。 |
中村新太郎 (なかむら しんたろう) 1956年、兵庫生まれ。19歳の時にピアノからベースに転向。21歳でプロ入りし、藤井貞泰トリオ、中山正治カルテットに参加後、82年に渡米。ニューヨークでの数々のセッションのほか、ウディ・ショー、ジュニアー・クック、ケニー・ギャレットら一流プレイヤーとも共演。84年に帰国後、藤井、中山両氏のグループに再参加しながら自己グループの活動も開始。85年に初リーダー・アルバム『エヴォリューション』ストリートノイズレーベルよりリリース。その後も関西の各グループのレコーディングを中心に幅広い活動を行なっている。 |
中村照夫 (なかむら てるお) 1942年、東京生まれ。ニューヨーク在住35年にして同ジャズ界屈指の名ベーシスト。64年単身ニューヨークへ渡る。スティーヴ・グロスマンほか当時の優れた若手ミュージシャンとの交流を経て、ロイ・ヘインズのバンドで本格的にプロ・デビュー。その後もスタンレー・タレンタインのレギュラーなどを務める。73年に初リーダー作『ユニコーン』をリリース。また自らのバンド「ライジング・サン」を結成し、76年に『ライジング・サン』、77年に『マンハッタン・スペシャル』の2枚のアルバムをリリース。ビルボード誌をはじめとする全米チャートでトップ10入りを果たした。カーネギーホールに出演した際の音源は、90年に『中村照夫ライジング・サン・バンド・アット・カーネギー・ホール』としてCD化された。現在もジャズのみならずR&Bやヒップホップといったスタイルも導入し、クラブ・シーンをも睨んだクロス・オーヴァー的作品を生み出し続け、プロデューサー、写真家としても活動している。 |
川崎燎 (かわさき りょう) 1947年、東京生まれ。70年に初リーダー・アルバム『恋はフェニックス/イージー・リスニング・ジャズ・ギター』を発表。73年ニューヨークに移住し、ギル・エヴァンス、テッド・カーソン、エルヴィン・ジョーンズなどのグループで活動。76年に日本人として初めて米RCAと契約し『ジュース』を、そして79年には日本クロスオーヴァー・ジャズの金字塔『ミラー・オブ・マイ・マインド』をリリース。80年代前半は自己のグループ「ゴールデン・ドラゴン」を中心に活動。80年代後半にはダンス・ミュージックのサテライト・レーベルを設立。90年代にはソロ・ギターのアルバムを発表するなどその活動は多岐に亘る。ジャズ・ギタリスト、プロデューサーだけでなく、電子エンジニア、アマチュア天文学者、音楽ソフトウェアの作者/プログラマーなど多方面でその才能を発揮している。 |
増尾好秋 (ますお よしあき) 1946年、東京生まれ。早大モダンジャズ研究会在籍中に渡辺貞夫グループに正式に迎えられてプロ入りし、一躍スター的人気を博す。71年ニューヨークへ渡り、ソニー・ロリンズのバンドに通算6年間在籍するほか、リー・コニッツ、チック・コリア、エルビン・ジョーンズ、ラリー・ヤングなど数々のビッグ・アーティストと共演するなど「世界のマスオ」として活躍。78年、エレクトリック・バードの第1弾となるリーダー・アルバム『セイリング・ワンダー』をリリースし大ヒットを記録。以後、数年間にわたり『サンシャイン・アベニュー』、『グッド・モーニング』など、優れたフュージョン・アルバムを次々に発表した。また、2008年には自身10年ぶりのリーダー作『ライフ・イズ・グッド』を発表し健在ぶりを見せ付けている。 |
菅野邦彦 (すがの くにひこ) 1936年、東京生まれ。東京都出身。学習院在学中よりジャズに興味を持ち、吉屋潤とクール・キャッツに参加。いくつかのグループを経て、鈴木勲、ジョージ大塚とトリオを結成。当時来日していたトニー・スコットにその才能を認められメンバーとなる。その後、松本英彦カルテットに入団。解散後の68年に初リーダー作『フィンガー・ポッピング』リリース。72年にブラジルへ渡り、その後ニューヨーク、ヨーロッパで活動。80年帰国後は自己のトリオを中心に活動。「天才クニ」と呼ばれる繊細なピアノのタッチで、ジャンルに捉われることのない独自の世界を創出。現在に至るまで東京を中心に積極的にライブ活動を展開している。 |
植松孝夫 (うえまつ たかお) 1947年、東京生まれ。66年19歳でプロ入り。石川晶とカウント・バッファローズ、杉本喜代志カルテットを経て、69年にジョージ大塚カルテットに参加し脚光を浴びる。同年、スリー・ブラインド・マウスから初リーダー作『デビュー』を発表。日野皓正クインテットに参加後の73年自己のグループを結成。数年のブランクを経た77年には傑作『ストレイト・アヘッド』を発表。その後は自己のグループをはじめ、浅川マキ、日野元彦、本田竹廣、辛島文雄、峰厚介との2テナーなどで活動。その黒いテナー・サックスは、和ジャズ・ファン〜レアグルーヴ世代からも圧倒的な支持を受けている。 |
豊住芳三郎 (とよずみ よしさぶろう) 1943年、神奈川生まれ。富樫雅彦の”ボーヤ”をしながら高柳昌行の第一期ニュー・ディレクションに参加。60年代末日本のフリー・ジャズ誕生とその高揚期に立ち会い、以後国内外での豊富な演奏経験を積む。71年、シカゴのAACMを訪ねて渡米。帰国後に実況録音アルバム『サブ=メッセージ・トゥ・シカゴ』を発表した。その後、75年に高木元輝と、77年に阿部薫と、82年に高橋悠治とデュオ活動を展開。ほか、小杉武久、大野一雄、宇梶昌二など伝説的な共演を多数残す。デレク・ベイリー、レオ・スミス、ポール・ラザフォードをはじめ海外の即興演奏家を日本に紹介する活動を続けており、97年にはミシャ・メンゲルベルク、98年にはハン・ベニンクを招聘している。 |
加古隆 (かこ たかし) 1947年、大阪生まれ。東京芸術大学大学院終了後、71年にフランス政府給費留学生として渡仏。パリ国立音楽院にてオリヴィエ・メシアンに師事。在学中の73年にパリで即興ピアニストとしてデビュー。スティーヴ・レイシーらとも共演。翌74年からは、アメリカからパリへ移ってきたアルト奏者ノア・ハワードのカルテットに参加。同年10月には、沖至、高木元輝、堀本ユキ、佐藤允彦ら日本のフリー・ジャズ・ミュージシャンと共にラジオ用コンサート「メッセージ・フロム・ジャパン」を開催した。76年、一時帰国し、豊住芳三郎との共演アルバム『パッサージュ』をリリース。自作品によるコンサートは、現在までに26カ国200都市に及ぶ。帰国後は映画、舞台、オーケストラなどの委嘱作を含め、作曲及び演奏に、クラシック、現代音楽、ジャズの要素を包含した独自の音楽スタイルを確立した。 |
沖至 (おき いたる) 1941年、兵庫生まれ。高校時代にブラス・バンドでトランペットを吹きはじめ、その頃南里文雄から直々に手ほどきを受ける。60年代後半よりフリー・ジャズに傾倒。65年関西から東京へ活動の拠点を移し、69年には富樫雅彦、佐藤允彦らの実験グループ「ESSG」に参加し、ヨーロッパ演奏ツアーに同行。帰国後に自己のグループを率いて活動する。74年にはパリに移り住み、種々のバンド活動やセッションなどを積極的に行ない、75年に傑作『幻想ノート』を生んだ。近年のリーダー作には、『じゃんけんぽん』、田村夏樹、藤井郷子らとの新宿ピットイン実況録音盤『ライブ/沖至ユニット』がある。 |