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ロン・カーター 初の自己ビッグバンド

2011年2月22日 (火)


Ron Carter



 
Ron Carter Greatest Hits Band
 
 Ron Carter / Ron Carter Greatest Hits Band
 EMI ミュージック ジャパン  TOCJ68092 2011年2月23日発売
 
 『It's The Time』、『Jazz & Bossa』、さらにはデビュー50周年を飾る『The World of Ron Carter』と、近年の充実した活動ぶりを示す意欲的なアルバム・リリースが続くジャズ・ベースの神様、ロン・カーター。50年以上の音楽生活で初の自己名義のビッグ・バンド・アルバムが完成。自身の代表曲のほか、ウェイン・ショーター「フットプリンツ」、ディジー・ガレスピー「コン・アルマ」、ジョン・ルイス「ザ・ゴールデン・ストライカー」、デューク・エリントン「キャラヴァン」、ジェリー・マリガン「ライン・フォー・ライオンズ」など、偉大なるジャズ・ジャイアンツの名曲がいっぱい。      (HMV レビュー)


「Ron Carter Greatest Hits Band」
収 録 曲 と ロ ン ・ カ ー タ ー に よ る コ メ ン ト


01. Footprints フットプリンツ (ウェイン・ショーター) 

 いろんな形で演奏されているのを聴いたが、私はビッグ・バンドのものは聴いていない。私にとってマイルス・デイヴィス・クインテット時代の思い出深いこの曲をビッグ・バンドでやれてうれしい。

02. Con Alma コン・アルマ (ディジー・ガレスピー)

 作者のディジー・ガレスピーとは演奏する機会がなかなかなかったが、ニューポート・ジャズ・フェスティバルで共演するチャンスがあった。その時に演奏した曲。フリー・レッスンになったよ。

03. St. Louis Blues セント・ルイス・ブルース (W.C.ハンディ)

 大好きなサド〜メル・オーケストラをイメージしながら演奏した。まさにビッグ・バンドのサウンド!

04. The Golden Striker ザ・ゴールデン・ストライカー (ジョン・ルイス)

 私のトリオで演奏している曲。“ゴールデン・ストライカー・トリオ”と呼ばれている。そのトリオの演奏もボブがアレンジした。フィーリングはトリオだが、サウンドはビッグ・バンド。私が今回このアルバムでやりたかったことが表現できていると思う。

05. Caravan キャラヴァン (デューク・エリントン他)

 誰もがよく知るエリントン・ナンバー。ビッグ・バンド・アルバムにはこういう盛り上がる曲が欠かせない。

06. The Eternal Triangle ジ・エターナル・トライアングル (ソニー・スティット)

 私がシティ・カレッジで教えていた時、学生のスモール・コンボで演奏する曲のひとつ。ホーンが映える曲だね。

07. Line For Lynos ライン・フォー・ライオンズ (ジェリー・マリガン)

 ジェリー・マリガンとチェット・ベイカーのスモール・コンボの曲。彼らのグループで演奏したこともある。二人が亡くなった後、この曲も忘れられがちなので取りあげた。

08. Sweet Emma スイート・エマ (ナット・アダレイ)

 これもトリビュート的な気持をこめた。1961年にキャノンボールとナットのアダレイ兄弟のクインテットのヨーロッパ・ツアーに参加したことがある。ナイトクラブで演奏すれば盛り上がるタイプの曲だ。

09. Pork Chop ポーク・チョップ (ボブ・フリードマン)

 このアルバムの音楽監督兼編曲者、ボブ・フリードマンの作曲。聴く人はビッグ・バンドにこういう曲をやってほしいと思っているのではないかな。ビレッジ・バンガードへ行くと、こういう曲を1曲はやる。ビッグ・バンドのレンジの広さを聴いてほしい。

10. Opus One Point Five (Theme For C.B.) オパス・ワン・ポイント・ファイヴ (ロン・カーター)

 ジョー・ヘンダーソンのアルバム『パワー・トゥ・ザ・ピープル』(1969年)の時に私が書いた曲。ジョーは録音の時いつも曲が少ない。私に書いてくれといわれて、すぐに作った。  今回この曲に「Theme for C.B.」というサブタイトルを入れたい。C.B.(Carole Byard)は、私の亡くなった妻のために買った絵画の作者なんだ。10年ほど作者をさがしていたけど、最近その人の甥から連絡があった。いまは養護施設に入っていて様態がよくないみたいだ。その絵画のために書いた曲ではないけれど、何らかの気持を示したい。

11. I Sail Away セイル・アウェイ (トム・ハレル)

 これはボブの選曲。トム・ハレルの曲だ。オーケストラルなアレンジが合っているね。

12. Opus Number One オパス・ナンバー・ワン (サイ・オリヴァー)

 私の父親が好きだった曲。子供の頃、ミルス・ブラザーズの歌でよく聴いた(「Opus One」という曲名でも知られる)。1930〜40年代のビッグ・バンドのふんいきがよく出ている曲だ。それを2010年風にアレンジしてみた。

13. Loose Change ルーズ・チェンジ (ロン・カーター)

 私の曲で、カルテットで演奏している。歌詞が付いて、「The Beggar's Opera」という曲名でグラディ・テイトが歌った録音もある。

* ( )内はコンポーザー



ロン・カーター


■ 参加メンバー
トニー・カデレックlead-tp
グレッグ・ギズバード、ジョン・オーウェンズ、アレックス・ノリスtp
ジェイソン・ジャクソンlead-tb
スティーヴ・デイヴィス、ジェームス・バートン3世、ダグ・パーヴィアンスtb
ジェリー・ドジオンlead-as,ss
スティーヴ・ウィルソンas
ウェイン・エスコフェリーts
スコット・ロビンソン ts
ジェイ・ブランフォードbs
チャールズ・ピローenglish-horn
マルグリュー・ミラーp
ロン・カーターb
ルイス・ナッシュds
ボブ・フリードマンarr

2010年 NY録音



『Ron Carter Greatest Hits Band』について
ロン・カーターとの一問一答


-- ビッグ・バンド・アルバムを録音したいきさつ

 自分がリーダーのビッグ・バンド・アルバムは長年の夢だった。かなり前から機会があれば録音したいと思っていた。でも、デュオやトリオと違って、ビッグ・バンド・アルバムの録音は容易ではない。制作に多くの人々がかかわる。みんなのスケジュールを調整するのがむずかしく、リハーサルするのも大変。私自身もいろんな仕事をストップさせなければいけない。今回ようやく着手できる機会を得た。

-- ビッグ・バンドの録音はいつ以来?

 私はビッグ・バンドの録音をほとんどやっていない。本格的なものとなると、ギル・エヴァンスの『アウト・オブ・ザ・クール』(1960年)以来になるのかな。その後はアレサ・フランクリンの『レディ・ソウル』やフリードリヒ・グルダのアルバムがあるくらいだ。ライブでは1970年代の後半だったと思うが、サド・ジョーンズ〜メル・ルイス・オーケストラで演奏した。リチャード・デイヴィスが出られなくなって、その代役だった。サド〜メル・オーケストラは大好きなビッグ・バンドだ。今回のビッグ・バンド・アルバムも触発されたところがある。

-- 音楽監督兼編曲者、ボブ・フリードマンについて

 この新作を録音することになって、真っ先に頭に浮かんだのがボブ・フリードマンだった。彼とは長い付き合いだ。1970年代からかな。優秀なアレンジャー、音楽ディレクターだ。ボブは私のことをよく知っている。レコーディングのやり方もね。ボブに頼めば、ビッグ・バンドでもスモール・グループのような感覚で心地よく演奏できると思った。それがこのアルバムの大きなポイントだ。私が求めたのは、ベースが聴こえて、ピアノ・トリオが聴こえて、それでいてオーケストラ・サウンドでもある、そういうテクスチャーなんだ。われわれがピアノ・トリオのような感覚で演奏できるビッグ・バンド・ジャズだ。

-- 選曲とアレンジについて

 選曲とアレンジはボブとeメールでやりとりしながら進めた。私はニューヨークだけど、ボブはアリゾナに住んでいるからね。選曲のポイントは、ビッグ・バンドのサウンドが聴こえるメロディー。言い換えれば、それがイメージできる曲。私のオリジナル曲も入っているが、ボブがそうすべきだと勧めてくれた。私のイメージやアイデアをボブに伝えて、彼がアレンジしたものを音楽ファイルにしてメールで送ってくれる。何か変更点や要望があれば伝える。ボブは私の好みをよく知っているから、大変な作業ではなかったよ。

 結果的に、思い出深い曲が多くなった。もちろん、ビッグ・バンドのサウンドにもフィットする曲ばかりだ。近年のジャズの楽曲はビッグ・バンドのアレンジに耐えうるものが少ないことに気づいた。いいわるいという意味ではなく、そういうことに対する潜在意識があまりないのだろう。

-- レコーディングについて

 三日間かけて録音した。とても順調だった。オーケストラのメンバーが円を書くような形で座って、ボブが真ん中で指揮を振る。並びはサックス、トランペット、トロンボーン、ピアノ、ベース、ドラムだったかな。

-- クラシックの素養

 私は学生時代に10年ぐらいクラシックを学んだし、クラシックのアルバムもつくった。そのことと今回のジャズ・オーケストラ作品はまったく無関係ではないかもしれない。しかし、簡単に結びつけて理解してほしくない。音楽を聴いた時に「好きかどうか」、何よりもそのことを大切にしたいから。


(取材・まとめ:高井信成)

> SoundTown Jazz ロン・カーター 特設サイト


ロン・カーター プロフィール


 1937年5月4日生まれ。現代ジャズ界最高峰のアーティストにして、ジャズ・ベースの神様。10歳の頃よりチェロのレッスンを受け始め、ハイスクール時代よりベースを弾くようになる。1963年にマイルス・デイヴィスのクインテットに参加。ハービー・ハンコック、トニー・ウィリアムスと不動のリズム・セクションを形成したこの「黄金のクインテット」は、60年代アコースティック・ジャズの頂点を極めた。

 68年、マイルス・デイヴィス・クインテットを脱退。フリー・ランサーとなり、さまざまなミュージシャンと共演する。77年、マイルス・デイヴィス・クインテットの再編を企画したニューポート・ジャズ・スェスティヴァルのプログラム「VSOP」に出演。たった1回のイベントのつもりが大反響を巻き起こし、世界ツアーを行なう。 86年、日本で「サントリー・ホワイト」のTVコマーシャルに出演し、話題を集める。同コマーシャルの使用曲を含むアルバムは大ヒットを記録した。

Ron Carter


 92年、東芝EMI移籍。バッハを取り上げた移籍第1弾アルバム『G線上のアリア』は大ヒット。その後もクラシックをテーマにした『フレンズ』、『ブランデンブルグ協奏曲』を発表。ジャズ作品では『ジャズ・マイ・ロマンス』、『ベース・アンド・アイ』、『ソー・ホワット』などの作品を意欲的に発表し続けている。

 99年6月には、ボサノヴァ作品『オルフェ』発表し、ベストセラーを記録。翌年続編とも言うべき『ホエン・スカイズ・アー・グレイ』を発表。 2001年10月、巨匠ベーシスト、オスカー・ペティフォードに捧げた『スターダスト』を発表。 2006年07月には、亡き帝王マイルス・デイヴィスに捧げた『ディア・マイルス』を発表。2007年には伊藤園/TULLY'Sより発売されるチルドカップコーヒー「BARISTA'S SPECIAL」TV-CMキャラクターとしてお茶の間に登場。CMソング「イッツ・ザ・タイム」を書き下ろした。

ロン・カーターの主なサイドメン参加作品


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Miles Davis
『Seven Steps To Heaven』

Miles Davis
『In Europe』

Miles Davis
『My Funny Valentine』

Miles Davis
『Four & More』

Miles Davis
『E.S.P.』

Miles Davis
『Miles Smiles』

Miles Davis
『Sorcerer』

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Miles Davis
『Nefertiti』

Gil Evans
『Out Of The Cool』

Eric Dolphy
『Out There』

Eric Dolphy
『FarCry』

Yusef Lateef
『Three Faces Of』

Bobby Timmons
『In Person』

Mal Waldron
『Quest』

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Bill Evans
『Loose Blues』

Johnny Griffin
『Kelly Dancers』

Horace Silver
『Song For My Father』

Herbie Hancock
『Maiden Voyage』

Herbie Hancock
『Speak Like A Child』

Wayne Shorter
『Speak No Evil』

Sam Rivers
『Fuchsia Swing Song』

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Duke Pearson
『Sweet Honey Bee』

Stan Getz
『Sweet Rain』

Astrud Gilberto
『Beach Samba』

Antonio Carlos Jobim
『Wave』

Joe Henderson
『Mode For Joe』

Andrew Hill
『Passing Ships』

Aretha Franklin
『Soul '69』

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Freddie Hubbard
『Red Clay』
Deodato
『Prelude』
Grover Washington Jr.
『Inner City Blues』
Stanley Turrentine
『Cherry』
George Benson
『White Rabbit』
Alice Coltrane
『Ptah The El Daoud』
Roberta Flack
『First Take』
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Flora Purim
『500 Miles High』
渡辺貞夫
『I'm Old Fashioned』
Great Jazz Trio
『At The Village Vanguard』
Jim Hall / Ron Carter
『Alone Together』
VSOP Quintet
『Live Under The Sky』
Wynton Marsalis
『Wynton Marsalis』
Michel Legrand
『After The Rain』
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Randy Brecker
『In The Idiom』
Frank Morgan
『Yardbird Suite』
McCoy Tyner
『New York Reunion』
Harold Mabern
『Leading Man』
Richard Galliano / Ron Carter
『Panamahattan』
Shirley Horn
『I Remember Miles』
Rosa Passos / Ron Carter
『Entre Amigos』
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Eric Alexander
『Nightlife In Tokyo』
Jane Monheit
『Never Never Land』
Roland Hanna
『夢のあとで』
Art Of Three
『Live In Japan 2003』
Bill Frisell Trio
『Bill Frisell / Ron Carter / Paul Motian』
Super Premium Band
『朝日のようにさわやかに』
Eli Degibri
『Israel Song』




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 ロン・カーターのプロ・デビュー50周年記念となる2009年作品。スティーヴィン・スコット、マイク・ラドーン(p)、ペイトン・クロスリー(ds)、ローランド・モラレス=マトス(vibe&per)らと共にニューヨークで録音。「Loose Change」、「Desert Lament」といったオリジナル作品に加え、「Gleensleeves」などの民謡も収録したアルバムからは、クラシックの室内楽のようにエレガントな雰囲気が漂う。ジャズとクラシックのジャンルの壁を超えて活躍してきたロン・カーターの、まさにキャリアの節目を記念するに相応しい内容となっている。






 2008年「ボサ・ノヴァ誕生50周年」を記念して制作されたアルバムで、文字通りテーマは「ボサ・ノヴァとジャズ」。何度もブラジル公演を成功させているロンの録音には、ボサ・ノヴァの名曲が多く、今回も5曲のボサ・ノヴァのオリジナルが収録されている。今回収録となったジョビンの名曲「Wave」は、かつてジョビン自身のオリジナル『Wave』にロンが参加していることでもつとに有名だ。オープニングの「Salt Song」は、CTIレーベルで盟友であったスタンリー・タレンタインのアルバムに収録されていた、ミルトン・ナシメントの隠れた名曲。「Whisper Not」は、ロンのアルバム『Stardust』にも参加していたベニー・ゴルソンのジャズ・スタンダード。アルバムは、セクステット・コンボから、だんだんとその編成を小さくさせ、最後はギタリストとのデュオ編成になるという構成となっている。  






 伊藤園「Tully's Barista's」TVCFに出演し、巨匠自らの軽快なカウントで幕を開けるラテン・フレイヴァ漂う軽快な表題曲を含む2007年作。1998年のアルバム『So What』収録の「Eddie's Theme」、81年初録の「Super Strings」、77年にピッコロ・ベースで吹き込んだ「Laverne Walk」や「Mack the Knife」の再演など全10曲。ボーナス・トラックとなる表題曲のTVCMヴァージョンには、岸ミツアキ(p)、力武誠(ds)、浜口茂外也(per)が演奏に加わっている。






 60年代マイルス・デイヴィス黄金のクインテット期を支え、当時の来日公演でも縦横無尽のバッキングを披露したロン・カーターの御大に捧ぐアルバム。スティーブン・スコット(p)、ペイトン・クロッスリー(ds)、ロジャー・スキテロ(per)を従えたピアノトリオ(+@)・フォーマットによる演奏だけにマイルスのオリジナルとは雰囲気もアプローチも違うが、安定感溢れたプレイはそれだけで文句なしの出来映え。






 ウォーキングでクラシックな雰囲気もリードし、重鎮としての風格と本領をたっぷりと披露した本作でロン・カーターは、1994年のケニー・バロン(p)とハーブ・エリス(g)を起用した『Jazz, My Romance』録音以来8年ぶりとなる「ドラムレス・トリオ」に臨んだ。・・・というよりも愉しんだという方が相応しいか。マルグリュー・ミラー(p)とラッセル・マローン(g)、人呼んで”ザ・ゴールデン・ストライカー・トリオ”による2002年録音。






 ベニー・ゴルソン(ts)、ジョー・ロック(vib)、ローランド・ハナ(p)、レニー・ホワイト(ds)らが参加した2001年作。収録曲の半分は、モダン・ベースの父、オスカー・ペティフォードに捧げられ、「Bohemia After Dark」、「Blues in the Closet」などが演奏されている。




  • Where?

    『Where?』 (1961)

    ロン・カーターの1961年録音初リーダー作。エリック・ドルフィー、マル・ウォルドロンらも参加し、60年代「NEW JAZZ」らしい妖気漂う室内楽サウンドが展開されている・・・

    • Uptown Conversation

      『Uptown Conversation』 (1969)

      マイルス・グループ脱退後初のリーダー作は、ハービー・マン主宰のEmbryoレーベルからリリースされた。ハンコックをフィーチャーしたトリオ編成の3曲にはビリー・コブハムも参加し、スーパーなトリオを形成している・・・

    • All Blues

      『All Blues』 (1973)

      ロン・カーターにとって初のCTIリーダー録音作となったアルバム。ヴァン・ゲルダー・スタジオ録音。こちらは、オリジナル2トラック・アナログ・テープよりリマスターされたCTIレーベル40周年アニヴァーサリー・エディション・・・

    • Spanish Blue

      『Spanish Blue』 (1974)

      スパニッシュ・ムード溢れるエキゾチックな作品。「So What」のアレンジも斬新・・・

    • Anything Goes

      『Anything Goes』 (1975)

      ファンキーな16ビートにのって縦横無尽に駆け巡るウッド・ベース・・・

    • Pastels

      『Pastels』 (1976)

      ハーヴィー・メイソン(ds)、ケニー・バロン(p)、ヒュー・マクラクリン(p)、ドン・セベスキー(cond)らが参加した準フュージョン・アルバム・・・

    • Piccolo

      『Piccolo』 (1977)

      文字通りピッコロ・ベースによる演奏を全面に出したライヴ盤。グループとしてのまとまりの中、カーターのワザが冴えわたる傑作。バスター・ウィリアムスとのベース二本立て・・・

    • Third Plane

      Ron Carter / Herbie Hancock / Tony Williams
      『Third Plane』
      (1977)

      60年代マイルス・バンドの黄金のリズム・セクション=ロン・カーター、ハービー・ハンコック、トニー・ウィリアムスが一堂に介し、スリリングな演奏を聴かせている・・・

    • Parade

      『Parade』 (1979)

      盟友トニー・ウィリアムス(ds)に、チック・コリア(p)、ジョー・ヘンダーソン(ts)が顔を揃えた稀少面子による録音。ビッグバンド風のホーン・アレンジの中ヘンダーソンの快演が光る・・・


    • New York Slick

      『New York Slick』 (1980)

      アート・ファーマー(flh)、J.J.ジョンソン(tb)、ヒューバート・ロウズ(fl)ら豪華なフロント・ラインを配したセクステット(+@)録音。NYならではの雑多ながらハイソな空気感を見事に捉えた名演集・・・


    • Carnaval

      Ron Carter / Hank Jones / Tony Williams / 渡辺貞夫
      『Carnaval』
      (1983)

      ハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスのグレート・ジャズ・トリオに渡辺貞夫が加わったカルテットが、1978年東京・田園コロシアムで行なったライヴ音源・・・



ロン・カーター 覚書


 派手なフレーズや人間離れしたテクを駆使しているわけではないのに、なぜかとても気になる、とても深く脳裏に刻まれるロン・カーターのベース、その音。60年代初頭に初めてのリーダー・アルバムを残してから2011年現在に至るまでの半世紀、時代とともに大小さまざまな変化を遂げながらも、一貫してそれと判る音を弾き続けてきた、アコースティック・ジャズ・ベースの現存するオリジネイターだ。そして、オリジネイターであるからこその賛否を最前線で浴びてきた、ある種の千両役者。手持ちのLP、CDを聴き返しながら、ロン・カーターについての覚書を少々。

 さて、ここへ来てますます活動が盛んになってきた ”ミスター・ベース”、ロン・カーター。近年におけるリーダー・アルバムは掛け値なしに高い評価を得ているという点からも、その充実ぶりは明らかかもしれない。「近年のリーダー・アルバム」というのは、2000年代以降、ようするにここ10年における作品ということに限定させてもらうが、とにかくどのアルバムのベースの音も太く安定している。そう、かつて訝しがられたピッチ(音程)の悪さにしても修正が効いて、程よく引き締まっているのである。

 そもそも「ピッチの悪さ」だなんて、「ジャズ・ベース界の巨人」を目の前にして失礼千万な話ではないかと感じる方もおられるであるだろうが、ロン・カーターのその独特な・・・と言うか、腹八分目の水風船のようにブヨブヨとしたベースの音というのは、昔から多くのジャズ・ファンをして「リーダー録音ならまだしも、サイドメンとしてはどうなのか?」という疑念を常に抱かせていた。その上、アタッチメントで生音をエレクトリックに増幅させ、半ばワガモノ顔の、アンサンブルなどお構いなしかの如く巨大な音量を弾き出すときもあり、こと Milestone、CTI/A&M時代のリーダー作あるいはサイド参加作品の一部にそうした部分で不満を募らせるジャズ・ファンも少なくなかったようだ。

 一方で、意図的にピッチを落としたと仮定する「ブゥーン」とよく伸びる重低音に魅せられているジャズ・ファンだってもちろんいる。なにより、オスカー・ペティフォード、スコット・ラファロといった、それ以前の伝統的なジャズ・ベーシスト・オーソリティらの(流れを汲みながらも)誰にも似ることのない革命的なベース・サウンドを編み出したのだから、辛口の好事家たちによる重箱の隅を突くような評論にはほとほと嫌気が差している、というのが多くの”擁護”派の意見だ。と同時に「単純にチューニングが甘いようなヤツにマイルスが目をつけるわけがないだろ」と声を大にしてつっ込む者も多数。それもそうだ。

 ご存知のとおり、マイルス・デイヴィス・グループに1963年から7年に及ぶ長期間在籍したベーシストであり、そのことがロン・カーターの名をさらに神格化させているのかもしれないということは強く否定はできないが、現にキャリアが大きく花開いていく時期というのが、まさにマイルス・グループ入団直後からなのだから、そこでの覚醒や薫陶享受が一応のターニング・ポイントになっていることは概ねたしかだろう。

Ron Carter


 ベース、とりわけアコースティック・ベース奏者のリーダー作品に対する評価の難しさというのは、今昔付いてまわっている気がする。むしろ全体のグルーヴを司る”黒子”に徹しているようなプレイヤーの演奏には、よほどのジャズ通が「職人芸」と謳わないかぎり、そのほとんどが黙殺され続けているのではないだろうか、という懸念さえ憶えてしまう。判る人にしか判らない事象こそが「侘び寂び」の真髄とも言うように。


 そうなると、”ピッチ問題”然り、良くも悪くもジャズ・ベース議論の中央に長きに亘り陣取っているロン・カーターは、やはり特異な存在のプレイヤー、特異な音を操るアーティストなのだな、とあらためて。70年代以降のフュージョン全盛期には、グループ・アンサンブルがより硬質で屈強な重低音サウンドを求めていた時代に呼応するかのように、ロン・カーターも自身のアコースティック・ベースに電気的な音質加工を仕掛ける。CTI時代には、エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーとの二人三脚で数多くの奇矯なベース・サウンドを生み出したわけだが、そもそもCTIというレーベル自体が当時煩方には敬遠されていたがために、正当な評価を得るためにはそれ相応の時間を要した。

 特有のヌメり気を感じさせる、と言えるのか・・・何にせよ専売特許であるそのベース音。マチズモでもあり、フェミニンでもあり。堅実なれど、そうでもないような・・・。 やはりその道で「偉大」と呼ばれる人というのは、捉えやすいようで捉えにくい。「凄い!」と「何だこりゃ!?」の連続なのである。ロン・カーター、比類なきアーティストだと思う。