【HMVインタビュー】 ILL-BOSSTINO

2011年2月10日 (木)

interview

07年アルバム『LIFE STORY』リリースより駆け抜けた濃密な3年半。THA BLUE HERB活動第3段階目 PHASE3がいよいよ幕を閉じようとしている。その活動最後のリリース、DVD『PHASE 3.9』を控えたILL-BOSSTINO氏にインタビューを敢行!

--- 今回2/16にリリースされる『PHASE 3.9』というDVDですが、LIVEに焦点を当てたものですよね?前回のDVDに見られた仕掛け的なものや、プライベートを映し出す要素はなく。

そうっすね。前回の作品はコンセプトとして、1ヶ月間のツアーの中での起承転結があったんで。あと、前回の監督はスケーターの森田貴宏君で、彼のスタイル的に、ああいった作品になった。今回は、僕らの3年半の活動の中の最後の15回のライブそのものを観せたかったんで。あんまり仕掛け的な事よりも1曲1曲フラットに演奏自体を残しておきたかったという感じですね。

--- 監督は川口潤さんですよね?今回、川口さんにお願いした経緯を教えていただけますか?

潤君はね、初めて会ったのがいつだったかもわからないくらい昔から僕らの事を撮ってくれてて。撮った映像を森田貴宏との作品にも提供したりだとか。そういった感じで、ずっと付き合いがありますね。

--- そうだったんですね。長い付き合いとの事ですが、BOSSさんから見て川口さんはどのような方なのでしょうか?

音楽を映像で表現するって事をずっとしている人なんで。音楽という本来“音”でしかないものをどう視覚的に観せるかっていう事に関して、僕らの世代で且つ僕らと同じような価値観の中では潤君より上はきっといないんじゃないかな。「この夜だけは」のPVを撮ったのも潤君なんだけど、やっぱり監督自身のヴィジョンを表現するだけではなく、アーティストの意向っていうのをすごい大事にしてくれる人ですね。

--- 実際完成した作品を見てどのように感じられましたか?

ホントに僕の思いもかなり聞き入れてもらって。無理なく時間が過ぎ去るんだよね。1曲1曲のクオリティーをそのまま入れてくれているというか。フラットな感じだね。過激ではないけれど、何も起こらないわけではないっていう。演奏が第一にあって、それを観せるって事に徹してくれた。

--- 僕が観ていて思ったのは、映像がアーティストに対して近いというか。普通よりかなり近距離で撮影しているのかなと思ったのですが。

かもしれないね。特にライブ映像は相当近いね。カメラワークは潤君以外にも色んな全国各地の人が担当してくれた。

--- この作品から溢れるリアリティーは、そのカメラの近さによるところも大きいのではと思います。

まさにそうだね。


※クリックで画像が拡大します。

去年の10月、ツアーのセットを作っている段階で、「本当にもうこれ以上はない」って思った。

--- ちょっと確認をしておきたいのですが、PHASEという区切りに関して。PHASE3っていうのは07年5月『LIFE STORY』発売から、映像に収められているツアーの最終までっていう事ですよね。

そうです。

--- 活動をPHASEで区切るというのは、活動初期からあった考え方なのでしょうか?

僕らはライブをしながらアルバムを創るタイプではないので。ライブをやってる間は、そのライブをどうレヴェルアップしていくかという事だけに全てを注ぐ。自分の持ち曲の中で表現をし尽くしたって言う事になったらライブを止めて、今度は新しい曲を創る事だけに自分らの重きを置く。そういう感じでずっとやってきたんで。
そうなるとアルバムとアルバムの間には必ずライブ休止期間というのがあって。その休止期間の中で、自分自身も色んなインプットをして、そこで得た新たな考え方っていうのを音楽として提示するのに凄い時間をかけてる。全く新しくなってゼロからまたスタートする感じでやってきてる。だから割と自然な流れですね、僕達的には。最初から決めてる訳ではなくて、気付けばこういうタームになったというか。

--- なるほど。という事は、予めPHASEの活動期間は決まっているわけではないんですね?

全く違う。やっぱり自分達の持ち曲って言うのは、段階段階では限られてるわけですよね。新しい曲を創らないわけだから。その中で一番良い組み合わせ、順番、且ついいアレンジであったり、バックトラックを変えたりだとか、そこに入るMCを変えたり。ものすごい細かい事を創ったり壊したりを繰返していく。
Autumn Brightness Tourの段階で僕らは一つの頂点だと思って、自分達が今持っているセットの中では頂点だと思ってやっていたんだけれど、それからまたしばらく練習したりしていくうちに、まだ直せる部分が出てきて。そういう事をずっと繰返して、「これ以上はないな」っていう部分がだんだん見え始める。それを完全に演奏できるまで、さらに練習で努力を重ねて、そこで全て終わりっていうか。それを今回は映像として残した感じだね。

--- Autumn Brightness Tourの段階で頂点だと感じられたという事ですが、そこでPHASE3を終わらせなかったのは何故ですか?

きっとね、まだいけると思ってたんだ。まだあがっていく余地はきっとあると思ってたんだと思う。それが、去年の10月、ツアーのセットを作っている段階で、「本当にもうこれ以上はない」って思った。その心境は全然違うよね、やっぱり。

--- ではPHASE3で出来る事をやり終えて、今を向かえていると思うんですけど、今現在はもうPHASE4に入っているのでしょうか?

いや。僕はまだPHASE3.9999...ぐらいにいるね。今は『PHASE3.9』っていうこの作品をお客にどう届けるかっていう段階で、そのために今ここに座ってインタビューを受けてるんで。それが終わって発売日が過ぎて、そこからだろうね。まだ、とても次の事を考えてはいないからね、僕は。

--- では、新しいPHASEに入る前には何かしら目標、ヴィジョンは立てるのでしょうか?

全くない。1MCでサイドキックなしで平均1時間半のLIVEを179回やってきたからね。アウトプットしてきた言葉の量ってのは天文学的な量だったわけで、それを全て出し終わってすぐ次の新しいアルバム作るっていうのはやっぱり無理だね。このDVDの発売が終わってから、まずは自分の中にインプットしていかなくてはならないものが絶対あるっていうか。知識であったり、インスピレーションをこれからまた取り入れて。自分の中のキャパを考え、意識の中に知識として取り入れて、そっからまた新しい言葉を少しずつ出していく。それからO.N.O.との音との作業っていう風になるから。だからまだ何も始まっていないですね。

--- なるほど。今仰った通り、3年半で179回のLIVE。このPHASE3という期間は本当にLIVEに尽きる期間だったと思うのですが、BOSSさんが、このPHASE3の活動の中で得た、一番大きなものはなんですか?

やっぱり179回、創っては壊しをずっと繰り返してきて、残ったものはやっぱりこの『PHASE3.9』っていう作品だね。コレこそが僕が得たものっていう感じかもしれない。凄い大きなステージだとか、凄い重要なステージ、その緊張感の中、結果を出してきた自信も少なからず自分の中にはあるけれど、それは目に写らないものであって、形として残っている僕の得たものは、今回のDVDの中の映像だと思う。

--- その映像を観させて頂いて、またLIVEも実際に行かせて頂いて、僕が感じているのは、THA BLUE HERBとオーディエンスの距離感なんですよ。以前は近寄り難い程ピリピリした何かがあったと思うんですけど、今はその緊張感を残した上で、オーディエンスとの距離が縮まっているというか。

そう思うね。最初の頃は、僕らの音楽を聴きに来てくれるオーディエンスっていう存在に気付くまでに時間がかかったというか。それよりも僕らのHIP HOPがどれくらい強いものなのかっていうのを、オーディエンスよりも同業者だったりメディアの人間に対してブチかましてやるくらいの感覚でLIVEやってたんで。はっきり言って、やってる自分らさえ良ければそれでいいと思ってやってたから。でも、やっぱり時間が経って、みんなそれぞれハードな生活をしてる中で、3500円とかっていうチケット代を払って、且つ遅い時間まで俺らの事を待ってくれていたりだとか。他にも良いMCやミュージシャンもいる中で、僕らの事をチョイスしてくれている人たちっていう存在に気付いてね。やっぱり変わっていったね。彼らに対して失礼な真似は出来ないし、彼らの期待に答えるのがプロだっていう意識になって、その為に出来ることをやろうという感覚になっていったね。だからといって全然媚びるつもりはねーんだけど。そこのバランスが好きな人が残ってくれているっていう感じかもしれない。
アルバムってものをリリースして、派手な宣伝の中で色んな人が僕らの存在を知ってくれて、LIVEに来てくれるんだけれど、やっぱり僕らのLIVEには僕らのスタイルってものがあって。上から言い続けるわけでもなく、かといってお客に媚びまくるわけでもない。その僕らのスタイルっていうものが、お客さんにとって丁度良いと思える人が残ったって感じだね。去っていった人もたくさんいるし。でもあれだけの数の人が残ってくれたって言うのは僕にとって有難いと思ってるよ。

--- また新しく増えている人も多いですよね。

そう思うね。やっぱり本当にどんどん変わっていくね。入れ替わっていくっていうか。昔から支持してくれる人も有難いし、昔支持してくれて今は去っていってしまった人に対しても有難いと思ってる。今また新しく入ってくれている人たち、僕らの昔の事を知らずに純粋に今の僕らの音楽が好きで来てくれている人たちに対しても、もちろん僕は凄く大切だと思ってる。だからそれは僕のコントロール出来る範疇を超えてるね。

--- DVDの中でBOSSさんが言っているメッセージで「自分で見極めろ、THA BLUE HERBは何者なのか」というのがありますが、残っているオーディエンスはまさにそれに気付けているというか。

そうだと思うね。僕も全部さらけ出してきているしね。何より目の前に生身の自分がいるわけだからね。だからそこで判断して、且つさっき言ったように、それが自分とフィットする人たちって言うのが残ってくれているんだろうね。

--- その「作られた判断基準ではなく、自分の判断基準を持つ」っていうのは凄く大事な事だと感じるんですけど、先日BOSSさんが対談をしたモブノリオさんの『介護入門』にも正に同じメッセージがあるように思います。その対談は、実際どのようなものだったのでしょう?

あいつは本当に昔からの友達だからね。だからリラックスした感じで話せたというか。

--- 話も色んな方向に?

そうだね。かなり色々な事について話すことが出来たね。

--- DVDの初回特典で、この時の模様を収めたDVDが付くんですよね。

3時間のうちの1時間しかないんだけどね。

--- 1時間“しか”というより“も”だと思いますけど・・・

まぁね。


※クリックで画像が拡大します。

「“勝ち負け”というか“強い弱い”ではないな」っていうところに段々気付いていった。

--- ちょっと本編の方に話を戻しましょう。DVDに収められたLIVEの中で、札幌のミュージックシーンについて語っている部分があるじゃないですか?B.I.G. JOE / SLANG のKO / kuniyuki takahashi..らに対するRESPECTを。これまで、そういう事を発する事は、なかったですよね?

そうかもしれないですね。札幌に限らず、東京にも名古屋にも大阪にも福岡にも、各街各街にミュージシャンもMCもDJもいるし、色々な人たちと知り合っていくうちにね。昔は「札幌は最強だぜ」なんて思ってたけど、僕もだんだん視野が広くなって、「“勝ち負け”というか“強い弱い”ではないな」っていうところに段々気付いていった。
札幌に関しては、地元だから愛があることはあるんだけれど、同時に凄く厳しく見てしまうというか。それでも素晴らしいって思える人がちゃんといる。だから僕がLIVEで発する事で、その人たちを紹介したいっていうよりも、リプレゼントなんだよ。札幌のLIVEのあの日は、前の方にいてくれる人たちは僕を音楽として評価してくれている人たちが多いんだけれど、後ろには地元の顔役たちが来てるわけだから。奴等をリプレゼントするっていうのはHIP HOPのMCにとって重要なトピックだね。そこで地元の奴等に地元に対する誇りを持ってもらうっていうのは自分の伝えたいことのひとつでもある。

--- 『時代は変わる』のリリックで「追う者は追われる者に勝る」ってあるじゃないですか?僕はそのフレーズを聴いた時に、「ブルーハーブはいったい誰を追っているんだろう?」って思った事があるんですよ。だって、ブルーハーブは何かを模倣するわけではない、オリジナルな存在だと思うので、「追うもの」を想像出来なかったというか。でも、そのシーンを見て、合点がいったというか。ブルーハーブが追っている者って言うのはRESPECT出来る先輩のアティチュードなんじゃないかなと思ったんです。

かもしれない。地元の先輩達が俺に教えてくれる輝ける過去の音楽なのかもしれないし。それと同時に、札幌のLIVEハウスから一歩外に出た時、ライジングサンなどで出会うBRAHMANだったりEGO-WRAPPIN’だったりっていう人たち。大きい規模で且つ自分達のスタッフで全てを運営して、その上でCDも創ってLIVEも色んなことを試してやっている人たちっていう存在も「追うもの」ではあると思うね。

--- そうですよね。そういう事を感じさせたあのシーンはDVDのというよりもPHASE3を象徴する出来事なのではないかと思います。

札幌のシーンっていうのを、他の地域から見ると凄く距離があるんだけど、その札幌っていう土地が産んだアーティストってのはたくさんいる。札幌から東京に出てきてやってる人たちもいるけど、札幌にずっと居続けて深めている人たちもたくさんいるからね。特にこの3年半は、そういう人たちの音楽がかなり色んな街に浸透する期間でもあった。PHASE1の段階であの名前を言っても、多分知られているのはSLANGのKOさんだけだったと思うんだよね。でもこの3年半の中ではそれ以外にあげた名前も知っている人が多くなったっていうのは一つの変化かもしれないね。


    商品ページへ

     THA BLUE HERB
    『PHASE 3.9』

    2011年02月16日発売

    07年『LIFE STORY』以降、約3年半。THA BLUE HERB活動第3段階目 a.k.a. PHASE 3(2007年〜2010年)の最高到達点がここに!前作DVD『Straight Days / Autumn Brightness Tour'08』とは打って変わって仕掛けやプライベートはなく、まさにLIVEに焦点を当てた作品。3年半179回に及ぶLIVEを行ってきたTHA BLUE HERB。その活動最後の15回のLIVEがストレートに映し出された映像は、まさに圧巻!常にLIVEに対し尋常ではないまでの集中力と情熱を注いだTHA BLUE HERBの現段階での頂点。THA BLUE HERBがオーディエンスとともに生んだ奇跡!監督はTHA BLUE HERB「この夜だけは」のPVをはじめ「77BOADRUM」(ボアダムス)など現在の日本の音楽シーンの中で確固たる仕事を残してきた映像作家であり、THA BLUE HERB、PHASE 3.9終焉の地、北海道北見まで共に足を運び、その最後までを見届けた男、川口潤。
    【先着特典】 DVD(プレス盤)
    2011年1月10日に大阪で行われた、芥川賞作家モブ・ノリオ氏をインタビュアーに迎えて行われたILL-BOSSTINOのトークショーの模様を収めたDVD!


    商品ページへ

     『Inspirations Compiled by ILL-BOSSTINO from THA BLUE HERB』
    2011年03月02日発売

    こちらはDVD『PHASE 3.9』リリースから半月後、3/2にリリースされるILL-BOSSTINO選曲のCD。BOSS氏が札幌のダンスフロアーで聴いてきた曲や、DJをやる時にかけている曲、中学校の時からずっと好きで聴いてきているアーティストの曲や、本当に僕自身のハートの深いところで大切にしてきた曲たちをコンパイル。THA BLUE HERBのLIVEや音源に散りばめられた多様な音楽的要素。その裏側の世界を垣間見れる必聴盤!ILL-BOSSTINOによる全曲への思い入れを綴った解説ブックレット付き。マスタリングは同郷の雄、KUNIYUKI TAKAHASHI氏!
    【先着特典】 ILL-BOSSTINO によるMIX CD
HMV インタビュー ILL-BOSTINO THA BLUE HERB STRAIGHT DAYS/AUTUMN BRIGHTNESS TOUR '08
タイミング
担当者今月のドススメ! THA BLUE HERB
    • LIFE STORY
    • 長い沈黙を破りPHASE3の本格的な幕開けを告げた3rdアルバム。
    • SELL OUR SOUL
    • 前作から4年ぶり、2ndアルバム。その進化の凄まじさ!また研ぎ澄まされる。
    • STRAIGHT YEARS
    • 「AUTUMN BRIGHTNESS TOUR '08」を経て、その過程の中でリリースされた楽曲!
    • PHASE 3
    • 長い間沈黙を続けていたTHA BLUE HERBの再始動の狼煙。
    • Way Hope Goes
    • 「驚きのライムに 金を機材に変えて うぬぼれは置き去りに」
    • 未来は俺らの手の中 ※廃盤
    • 「終わらないものはないが、変わらないものは果してあるのか」
    • FRONT ACT CD
    • 盲目的な聴き方を一切止めて聴くべき音楽
    • Something We Realized※廃盤
      HERBEST MOON
    • ILL-BOSSTINOの別ユニット
    • Dubthing We Realized※廃盤
      HERBEST MOON
    • 『Something We Realized』のDUB盤
    • コンクリートリバー※廃盤
      HERBEST MOON & Sapporo '99
    • BOSS THE MCとWachallらによる札幌クルーによる名作!
    • My Worlds Laugh Behind The Mask※廃盤
      Shuren The Fire
    • Tha Blue Herbに見出された男。
    • Bird Of 12 Gauge※廃盤
      Shuren The Fire
    • Shuren The Fireを世に知らしめた一枚。
    • Directions※廃盤
      NAOHITO UCHIYAMA
    • TBHRよりデビュー。アンビエント・エレクトロニカ作品。
    • JAPADAPTA
      DJ DYE
    • 国産ダンスミュージックの名曲達をDJ DYEがエクスクルーシブ・ミックス。