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【特集】 はじめてのCTI レコーズ

2010年10月20日 (水)


はじめてのCTI



 ん? 設立40周年? おかしいぞ、敏腕プロデューサー、クリード・テイラーがA&Mレコード内にCTIを設立したのは、たしか1967年だったはず・・・そうか! 完全にA&M傘下から独立したのが1970年、つまり「Creed Taylor Issue」から「Creed Taylor Incorporated」に正式名称が変わってから、今年でちょうど40周年ということなんですね!

 そんなメモリアル・イヤーに相応しく、今年はCTI関連盤が続々。2007年の”ガチ”設立40周年時をはるかに超える盛り上がりを見せております。ブラック・ミュージック・ファンの現代聖書「Wax Poetics」誌の日本支部「Wax Poetics Japan」編集部がテーマ毎にCTI音源をコンパイルした日本独自企画盤『Wax Poetics Japan Compiled Series』においては、「Dance Classics」「Soulful Vocals」「Sample & Breaks」の3タイトル同時リリースという熱の入りよう。また、1971年のカリフォルニア・コンサート以来実に38年ぶりの再集結となったCTIオールスターズが、昨年モントルー・ジャズ・フェスティヴァルで行なったライヴ音源(CD、DVD、Blu-ray各種リリース)、そして、その71年カリフォルニア・コンサートの2枚組豪華盤(輸入盤のみ)も登場ということで、今秋から師走にかけてのジャズ〜ブラック・ミュージック・シーンは、「CTI祭り」の様相を呈しそうな気配がぷんぷん。






Compiled Series of CTI Records


 
Wax Poetics Japan Compiled Series 「Dance Classics」

 
 Wax Poetics Japan Compiled Series 「Dance Classics」
 キングレコード KICJ601 2010年11月3日発売

【収録曲】
1. Star Borne / ジョニー・ハモンド 2. Super Strut / デオダート 3. Boy, I Really Tied One On / エスター・フィリップス 4. Baretta's Theme / ロン・カーター 5. You Keep Me Hanging On / デヴィッド・マシューズ 6. Sugar Free / スタンリー・タレンタイン 7. Turn This Mutha Out / アイドリス・ムハマド 8. Stanley's Tune / アイアート・モレイラ 9. Macumba / ラロ・シフリン 10. Corazon / ハンク・クロフォード 11. Hard to Face The Music / アイドリス・ムハマド 12. Nights in White Satin / デオダート




 
Wax Poetics Japan Compiled Series 「Soulful Vocals」

 
 Wax Poetics Japan Compiled Series 「Soulful Vocals」
 キングレコード KICJ602 2010年11月3日発売

【収録曲】
1. Say you Love Me / パティ・オースティン 2. Home Is Where The Harted Is / エスター・フィリップス 3. Rich Girl / ニーナ・シモン 4. You Got Style / フィル・アップチャーチ 5. More Today Than Yesterday / パティ・オースティン 6. California Dreaming / デヴィッド・マシューズ 7. I Hear A Symphony / ハンク・クロフォード 8. Baltimore / ニーナ・シモン 9. Little Baby / ニーナ・シモン 10. Shoogie Wanna Boogie My Girl / デヴィッド・マシューズ 11. House Of The Rising Sun / アイドリス・ムハマド 12. Unfogettable / エスター・フィリップス




 
Wax Poetics Japan Compiled Series 「Sample & Breaks」

 
 Wax Poetics Japan Compiled Series 「Sample & Breaks」
 キングレコード KICJ603 2010年11月3日発売

【収録曲】
1. Canned Funk / ジョー・ファレル 2. September13 / デオダート 3. Power of Soul / アイドリス・ムハマド 4. I Had a Dream / ヒューバート・ロウズ 5. Rhapsody in Blue / デオダート 6. Sister Sanctified / スタンリー・タレンタイン 7. Ziggidy Zag / ガボール・ザボ 8. People Make The World Go Round / フレディ・ハバード 9. Olinga / ミルト・ジャクソン 10. That's All Right With Me / エスター・フィリップス 11. Rock Steady / CTI オールスターズ 12. Wildflower / ミルト・ジャクソン









2009年モントルー・ジャズ祭に、CTIオールスターズが登場


CTI オールスターズ@2009 モントルー・ジャズ・フェスティヴァル
 独立40周年。ここぞとばかりにリリースされるCTI ジャズ・オールスター・バンドによる2009年再ツアー(前年にこの世を去った「フレディ・ハバードに捧げる追悼ツアー」と位置付けられていた)のライヴ音源。CDDVDBlu-rayの三角絞めで往年のCTI好きは失神必至。モントルー・ジャズ・フェスティヴァル開催5日目、7月7日という「再会」にはこれ以上なくどんぴしゃの日を選んだクリード・テイラー。

 ヒューバート・ロウズアイアート・モレイラフローラ・プリムランディ・ブレッカービル・エヴァンスマーク・イーガンといったおなじみのCTI サウンドの立役者に加え、スペシャル・ゲストに、1980年のフューズ・ワン・セッションの興奮も甦るジョン・マクラフリン、そしてジョージ・デューク、さらに新世代組からはニルス・ラン・ドーキーラッセル・マロ−ン、そしてジェイミー・カラムビル・ウィザーズ「Use Me」カヴァーでヴォーカルを!)といったニュー・タレントらが駆けつけ、この歴史的なオールスター・セッションに花を添えています。

 フレディ・ハバードの名演「Mr. Clean」(『Straight Life』収録)を皮切りに、スタンリー・タレンタイン「Sugar」、アイアート夫人のフローラ・プリムが歌う「Misturada」、ヒューバート・ロウズの「Bimbe Blue」、アイアートのオリジナル「Afrika e Brasil」、ジェイミー・カラムをフィーチャーした「Use Me」、ジャズ・メッセンジャーズで有名なベニー・ゴルソンの「ブルース・マーチ」など。その後レギュラー・オールスターズ御一行は、8月のオランダ・ロッテルダムで行なわれた「ノース・シー・ジャズ・フェスティヴァル」にも出演した。 ジェイミー・カラムの起用など、その ”嗅覚” にまったく衰えを知らない策士クリード・テイラーの次なる一手は、はたして?


 
Montreux Jazz festival 2009
 
CTI Jazz All-Star Band
 Montreux Jazz festival 2009
 キングレコード KICJ593 2010年11月3日発売

【収録曲】
1. ミスター・クリーン 2. シュガー 3. ミストゥラーダ 4. アメイジング・グレイス 5. ビンベ・ブルー 6. アフリカとブラジル 7. ユーズ・ミー 8. ブルース・マーチ

1971年のカリフォルニア・コンサートから約40年を経て、CTIオールスターズが復活した2009年スイス・モントリーのライヴ。新しい才能に目のないクリード・テイラーがプロデュースを担当し、CTIの歴史を彩った名曲の数々を中心にしながらも、新世代シンガー、ジェイミー・カラムを起用。そしてミキシング、マスタリングはルディ・ヴァン・ゲルダー。




 
Montreux Jazz festival 2009
 
CTI Jazz All-Star Band
 Montreux Jazz festival 2009
 キングレコード KIBM253 2010年11月3日発売

【収録曲】
1. ミスター・クリーン 2. シュガー 3. ミストゥラーダ 4. アメイジング・グレイス 5. ビンベ・ブルー 6. アフリカとブラジル 7. ユーズ・ミー 8. ブルース・マーチ 9. ロード・ソング(特典映像)

* 特典映像として、13分に渡るウェス・モンゴメリーの「ロード・ソング」(スペイン、サン・ハビエルでのライヴ)を収録。




 
Montreux Jazz festival 2009
 
CTI Jazz All-Star Band
 Montreux Jazz festival 2009
 キングレコード KIXM49 2010年11月3日発売

【収録曲】
1. ミスター・クリーン 2. シュガー 3. ミストゥラーダ 4. アメイジング・グレイス 5. ビンベ・ブルー 6. アフリカとブラジル 7. ユーズ・ミー 8. ブルース・マーチ 9. ロード・ソング(特典映像)

* 特典映像として13分に渡るウェス・モンゴメリーの「ロード・ソング」(スペイン、サン・ハビエルでのライヴ)を収録。









 
70年代ジャズ界最大の「テコ入れ」?
ジャズを「素材」と見なしたクリード・テイラーの決断


 音楽プロデューサー、クリード・テイラー。元々、「ABCパラマウント」レコードのプロデューサーであったテイラーは、1960年に同社内にジャズ専門レーベル「Impulse!」レコードを発足。J.J.ジョンソン&カイ・ウェディング『The Great Kai and J.J.』、ギル・エヴァンス『Out Of The Cool』オリヴァー・ネルソン『Blues And The Abstract Truth』ジョン・コルトレーン『Africa / Brass』など計6枚の所謂「名盤」と称される作品をプロデュースした後、翌61年には 「Verve」レコードに移籍。ここではスタン・ゲッツ『Getz / Gilberto』ビル・エヴァンス『Conversations With Myself』ウェス・モンゴメリー『Going Out of My Head』といったグラミー賞受賞作を手掛けたことでも知られています。

 1967年、A&Mレコード内に「CTI(Creed Taylor Issue)」を発足。ウェス・モンゴメリー『A Day In The Life』クインシー・ジョーンズ『Walking In Space』といったレーベル最初期の作品には、これまでのジャズにはなかった新しい要素が敷き詰められており、CTIレーベルは新進気鋭のジャズ・レーベルとして最高の船出を飾ることに成功。その後1970年に独立し、正式名称を「Creed Taylor Incorporated」に変更。1972年、ゴスペル作品を中心とした傍系レーベル「Salvation」を立ち上げ、また1974年には、ソウル・ジャズを中心とした「KUDU(クドゥ)」をスタートさせました。

 と、まずはクリード・テイラーという人物の簡単なご説明を。 そして、「ジャズにとっての70年代」というのは、いったいどういうものだったのか? ということに続けざま着目。マイルス・デイヴィス『On the Corner』などに顕著なぐちょぐちょとしたエレクトリック・ファンク路線にシフトし、その枝葉から派生した、ウェザー・リポートハービー・ハンコックのヘッドハンターズリターン・トゥ・フォーエヴァーといったチルドレンが、さらに電化を強め、つまりは「クロスオーバー」、または後の「フュージョン」の雛形がそこかしこで形成されたシーズンだったということは、大方の意見の一致を見るところでしょう。

クリード・テイラー
 名門Blue Noteですら、所謂「LA時代」と呼ばれるユナイテッド・アーティスツ傘下におけるシーズンには、担当プロデューサーのジョージ・バトラーの改革腕の下、マイゼル・ブラザーズのスカイハイ・プロダクションなどをブレインに擁しながら、悉くソウル、ポップス要素の強い作風を標榜し、新時代に取り残されないよう苦心。同じく老舗レーベルのPrestige、Atlantic、Fantasyなどにしても、この70年代には(試行錯誤ありながらも)すでにバピッシュな4ビート・ジャズに代表される伝統的な概念からは乖離したサウンド・コンセプトを標榜し顕在化させていました。またドイツでは、マンフレート・アイヒャーが独自の審美学を軸にECMレーベルを設立。「The Most Beautiful Sound Next To Silence (沈黙の次に美しい音)」というコンセプトを掲げながら、より「アンビエント」、「フリー・ミュージック」(フリー・ジャズではありません)色の強い空間芸術の創出に従事し、当時における新しいジャズのイメージを植え付け、定着させていきました。

 「ジャズにとっての70年代」というのは、「受難」の時代であったからこそ、既存のジャズ概念からどれだけ逸脱できるか、はたまたどれだけ「大衆化」させることができるかを求められた時代と言い換えることができるかもしれません。

 「大衆化」という点では、それこそクリード・テイラーがボサノヴァ、ひいてはブラジル音楽全般をアメリカで流行・定着させた、という功績にもひとつの主眼は置かれることでしょう。もちろんそれ以前からも、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルト 『Getz / Gilberto』ポール・デスモンド 『Bossa Antiqua』、日本では渡辺貞夫の 『イパネマの娘』、『Bossa Nova '67』『Jazz & Bossa』など、”ジャズ meets ボサノヴァ”の名品は数多く存在していましたが、「現代ジャズ」の主流がさらに進化を必要とした70年代に、「ジャズの枠組からの逸脱を試みるジャズ・レーベル」の判りやすい見本として、アントニオ・カルロス・ジョビンタンバ 4(クアトロ)ミルトン・ナシメントアイアート・モレイラワルター・ワンダレイらのリーダー作品を積極的に本国アメリカで発表していった姿勢というのは、前述のモダン・ジャズがボサノヴァを取り入れた姿勢とはまた異なるベクトル事象として捉える方がはるかに自然かもしれません。特にアイアートのリーダー作やエルメート・パスコアルが参加した作品(ジョビン『Tide』など)においてそれは顕著と言えそうです。ボサノヴァだけでなくブラジル・ポピュラー音楽全体の潮流に目配せしながらも、いかに「気持ちいい音楽」 「誰もが聴きやすい音楽」として、それを「ジャズ臭のしないジャズ」の中で紹介できるか。時にその「無臭」さは、硬派なジャズ・ファンから「コマーシャリズムなイージー・リスニング」と批判されることもありましたが、現に70年代にロック、ポップス、ソウル・ミュージックに、ポピュラリティにおいても商業面においても唯一対抗できるジャズ・レーベルとして一時代を築いたことは紛れもない事実でした。


  • Wave

    Antonio Carlos Jobim
    『Wave』
    (1967)

    クラウス・オガ−マン編曲、ヴァン・ゲルダー・スタジオ録音によるアントニオ・カルロス・ジョビンの67年録音作品。表題曲は誰もが一度は耳にした事のある名曲。誰が呼んだか”究極のイージー・リスニング”アルバム。体中に流れるような快感が走るストリングスは至福のひとときを与えてくれる...

 
  • Tide

    Antonio Carlos Jobim
    『Tide』
    (1970)

    ストリングス、フルート(エルメート・パスコアル!)、木管を生かしたアレンジに乗り、ジョビンのピアノ、ギターが心地よく泳ぎ回る70年録音作品。デオダードの壮大なアレンジにより生まれ変わった「イパネマの娘」はあまりにも美しい。LP未収録の別テイク4曲を追加してのリイシュー盤...

 
  • 「We And The Sea」は現在廃盤となります。

    Tamba 4
    『We And The Sea』 (1967)

    ボサノヴァ最高のコンボと評されるタンバ 4(クアトロ)のアメリカ・デビュー・アルバム。名匠クリード・テイラーのプロデュースにより、壮大で奥深い世界を表現したまさに「ボサノヴァの美学の精髄」というべき不朽の名盤。当時ジャズ・ファンの間で最も話題となった「オサーニャの歌」を収録している...

  • Courage

    Milton Nascimento
    『Courage』
    (1968)

    ”ブラジルの声”ことミルトン・ナシメントのアメリカ進出作品。ミナスの美声をクリード・テイラーに推薦した友人のデオダードがプロデュースを手掛け、ハービー・ハンコック、ヒューバート・ロウズらがバックに参加。全曲ナシメントのオリジナルで、「Bridges」、「Vera Cruz」を収録...

 
  • Fingers

    Airto Moreira
    『Fingers』
    (1973)

    現在も現役バリバリのブラジリアン・パーカッショニスト、アイアート・モレイラの73年録音のCTI盤。クラブ・サイドからの熱いラヴ・コールが絶えない「Tombo in 7/4」を収録。方や、王道ジャズ〜フュージョン・シーンで、”もう一つのリターン・トゥ・フォーエバー”として未来永劫語り継がれる前作『Free』もオススメ...

 
  • Gilberto With Turrentine

    Astrud Gilberto
    『Gilberto With Turrentine』
    (1971)

    70年代の“ボサ・ノヴァの女王” アストラッド・ジルベルトの魅力が満載されたアルバム。ナイーヴで繊細、そのくせリズミカルな歌声は耳を引きつけて離さない。タレンタインの爽やかなテナー・サックス、デオダートのエレピ、編曲も女王のアンニュイな歌唱を見事に引き立てている...



 ブラジル音楽だけでなく、現在で言う「ダンス・クラシックス」のようなソウル・ミュージックを発表してきたこともCTIレーベルの大きな特徴と言えるでしょう。その代表的な作品でもあるパティ・オースティン『End Of A Rainbow』。爽やかな歌唱で歌われるラヴ・バラード 「Say You Love Me」を筆頭に、そこに60年代前半まで当たり前のものとして、半ば押し付けがましく鎮座していた「ジャズ、その本分とは?」といったようなヤクザなクリシェや、むき出しのエゴなどはもはや微塵も存在していません。それもそのはず。これは、れっきとしたソウル・ミュージックのアルバムなのですから。しかし矛盾するかのように、そこには、クリード・テイラーが当時思い描いていた「ジャズ側の意識改革」という信念のようなものもしっかり反映されていることに気が付かされます。アレンジャーに登用されたデヴィッド・マシューズをはじめ、スタッフブレッカー・ブラザーズの面々といったジャズ(あるいはフュージョン)側のミュージシャンたちが、己の出自でもあるジャズを「手段」として活用しながら、「聴きやすく、気持ちのいい音楽」を創出し、見事に転回していく様。これを悪い意味で捉えてしまったヒトは、この時代の本当のジャズ・シーンの旨味を完全に味わい損なってしまったのではないでしょうか?


  • End Of A Rainbow

    Patti Austin
    『End Of A Rainbow』
    (1976)

    後の1981年、クインシー・ジョーンズ「愛のコリーダ」の歌唱で一躍有名となったパティ・オースティンだが、遡ること5年、このソロ・デビュー作においてすでに抜群の歌唱力と表現力、さらには殆どが自作曲であるという類稀なる才能を光り輝かせていた。バックには、リチャード・ティー、エリック・ゲイル、ウィル・リー、スティーヴ・ガッドらが名を連ねる...

 
  • Alone Again Naturally

    Esther Phillips
    『Alone Again, Naturally』
    (1972)

    ビル・ウィザーズ「Use Me」やギルバート・オサリバンのカヴァー曲で人気のKUDUレーベルからの2作目。ジョージ・ベンソン、メイシオ・パーカー、バーナード・パーディーら豪華演奏陣による柔らかなグルーヴも心地よい...

 
  • Baltimore

    Nina Simone
    『Baltimore』
    (1978)

    ランディ・ニューマンの表題曲やダリル・ホールの「Rich Girl」など、常にその時代のポップスを自分のものにして歌う姿勢をつらぬくニーナ・シモンの傑作。淡々とした中にも深い人生経験が感じられる歌は、慰めに満ちていて、本作はとりわけ格調が高い...



 CTI諸作品のこうした一介の「気持ちよさ」が、突然変異的に「アブない」と様変わりしたのが、90年代。ブラック・ミュージックの体系論において、まさしくヒップホップ・カルチャーの中にジャズが飲み込まれんとした時代。「サンプリング・ソース」という新たな価値観。Blue Note、Prestige、Verveといった超老舗音源からのエキス抽出にとどまらず、70年代ジャズ転換期の最旗手でもあったCTIにも、”解体業者”の手は及ぶことになります。とある有名トラックメイカーは、CTI楽曲からワン・ループを抜く際に、こう口にしたそうです。 「CTIの楽曲はどれも、まるで後世にサンプリング使用されることを知っているかのような作りになっている気がする。シンプルだけどメロディアス。なによりビートが立っている」。サンプリング世代ド真ん中の彼にとって、これはもはやジャズやブラック・ミュージックがどうこうという話でないのはもちろんのこと、むしろ「気持ちいい」ワン・ループを作るための「いち素材」として見た場合のCTI論になり、それこそがクリード・テイラーのレーベル理念に最も肉薄したところに位置するコメントのようにも感じられます。

 1967年、記念すべきレーベル第1作目となったウェス・モンゴメリー『A Day In The Life』では、ビートルズをはじめロック、ポップス、ソウルの名曲をドン・セベスキー編曲の下に最も「とっつきやすい」カタチのジャズとしてコンバートし、それまでのジャズのイメージにまとわり付いていた高尚さ、難解さを徹底的に排除することに努め、そこに主役ミュージシャン共々新たなジャズの活路を見出すことに成功しています。

クリード・テイラー(左)とアントニオ・カルロス・ジョビン(右)
 「大衆化」の中で模索される新しいジャズの概念、あるいは模索を経たことで結果的に行き着いた「大衆化」。質とビジネスの相互関係を鑑みると、どちらに明確な「勝ち組」の途があるとは断言できませんが、どちらにせよクリード・テイラーは、誰よりも早くジャズを、気持ちよくなるための「素材」として見なすことができたのではないでしょうか。しかしそれは決して、ジャズ固有の肉体性や精神性を「切り捨てた」ということではなく、あくまでジャズも「気持ちのいい」音楽のひとつにすぎない、という相対性にある種固執した結果。フレディ・ハバード『Red Clay』などを聴けば、全体的にクールな表層をキープしながらも、ハバード、あるいはハービー・ハンコックが奏でるひとつひとつの音の中に、しっかりとジャズが持つ「ぬくもり」のようなものを感じ取ることができるはずです。なにより、選曲、ジャケット・デザイン、録音すべてにおいて細かな気配りがされているという点に関しては、かなりジャズの伝統に忠実、あるいはジャズ・ファンの悦ぶツボを心得ているような気がしてなりません。ちなみに、初期CTI作品の録音は、そのほとんどがルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオで行なわれ、高級ステレオ・サウンドにおいて特によく聴こえるようにレコーディングされていたそうです。

ピート・ターナー
 最後に、CTI作品のジャケット・デザインについて。ジャケット写真撮影に、カメラマンのピート・ターナー(Pete Turner)を起用し、アート・ディレクターのボブ・チアーノ、クリード・テイラー、三者の綿密なアイデアのすり合わせにより、CTIはサウンドとビジュアル面のトータル・プロデュースを図っていたことはとても有名です。ピート・ターナーは、60年代にはImpulse、Verve作品のジャケット・アート写真を数多く手掛け、「色彩の魔術師」とも呼ばれたニューヨークはオールバニー出身の写真家。被写体に何かしらの規則性を持たせたり、ふとした日常動作の一瞬をヴィヴィッドに切り取るターナーの手法。有機的とも幾何学的とも解釈できる何とも不思議なイメージを抱かせる、そのシュール且つエキゾチックなジャケットに惹かれたジャズ・ファンも少なくなかったはず。そもそもが、「リスナーたちが思わず手にとってしまうジャケットを作る」というコンセプトの元に作られていたわけですから、見るものの五感をこれでもかとくすぐるピート・ターナーのフォトイズムに、ポートレイトとはまた違った趣の「音とアートのシナジー」を感じ取ることができるのではないでしょうか。



  • A Day In The Life

    Wes Montgomery
    『A Day In The Life』
    (1967)

    1967年6月に録音された後期ウェス・モンゴメリーのヒット・アルバム。ビートルズの表題曲をはじめとするロック、ポップスのカヴァー曲をドン・セベスキーの巧みな編曲術によって蘇らせ、フュージョンともイージー・リスニングともつかないまったく新しい世界を創造した。それにより、当時ある意味でのクリシェに陥っていたウェスが救われた...

 
  • Other Side Of Abbey Road

    George Benson
    『Other Side Of Abbey Road』
    (1969)

    本家のオリジナル作品発売の翌月に録音されたという、ジョージ・ベンソンによるビートルズ『Abbey Road』のカヴァー集。「ポスト・ウェス」として同じくビートルズ絡みで売り出そうとしていたクリード・テイラーの逞しき商魂にも脱帽だが、原曲のポピュラリティに臆することなく、歌にギターに伸び伸びと自己表現するベンソンにも恐れ入る...

 
  • Time & Love

    Jackie & Roy
    『Time & Love』
    (1972)

    おしどり夫婦デュオ、ジャッキー&ロイのCTI初録音作品。かつてFreeTEMPO、半沢武志氏が編纂を手掛けたCTIコンピの表題にもなったタイトル曲は、ストリング・アレンジも素晴らしいドリーミーな秀逸曲。ポール・デスモンド、ロン・カーター、アイアート、ビリー・コブハムらがバックを務めている...

  • Concierto: アランフェス協奏曲

    Jim Hall
    『Concierto』
    (1975)

    ジャズ・アルバム史上屈指のベスト・セラーを記録した人気作にして、CTIジャズのエッセンスが凝縮された1枚。マイルス・デイヴィスが『Sketches Of Spain』で取り上げたことで有名となったホアキン・ロドリーゴのギター協奏曲「アランフェス協奏曲」を、ドン・セベスキーがより親しみやすくシンプルな解釈で編曲している。チェット・ベイカー、ポール・デスモンドの2管が加わる「You'd Be So Nice to Come Home To」もクール...

 
  • Red Clay

    Freddie Hubbard
    『Red Clay』
    (1970)

    70年代、8ビートに乗りマルチ・バルブで縦横無尽に吹きまくるハバード。本作では、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、レニー・ホワイトという非の打ち所のないリズム・セクションに、Blue Note時代の同級生ジョー・ヘンダーソンを加えた強力な布陣でドライブのかかったソロを繰り返す。特に表題曲においては、ジャズが新時代に突入しようとしていることを強く感じさせる...

 
  • Sunflower

    Milt Jackson
    『Sunflower』
    (1972)

    ピート・ターナーによるジャケットも目を引く、ヴァイブ奏者ミルト・ジャクソンがCTIで新境地を切り拓いた人気作。「ファットでドープな表題曲は、究極のダウン・テンポ・ジャズ」とは沖野修也氏。「Sunflower」もビューティフル且つアブストラクト...








『CTI California Concert 1971』 2枚組豪華盤


CTI オールスターズ (写真は1972年時のものです)
 LP時代には、2枚組全6曲というカタチでリリースされていた、1971年7月18日 L.A.はハリウッド・パラディアムにおけるCTIオールスターズによるコンサート盤『CTI California Concert』。約40年の時を経て、米Masterworks Jazz 社よりいよいよ完全盤が登場します。こうなると、現在廃盤となっている翌72年7月30日にハリウッド・ボウルで行なわれた同オールスターズによる『CTI Summer Jazz At The Hollywood Bowl Vol.1〜3』も再リイシューしていただきたいところです!



 
CTI: The California Concert
 
 CTI: The California Concert
 Masterworks Jazz 776405 2010年10月26日発売 2枚組

【収録曲】
[ディスク 1] 1. Impressions 2. Fire And Rain 3. Red Clay 4. Blues West 5. So What
[ディスク 2] 1. Here's That Rainy Day 2. It's Too Late 3. Sugar 4. Leaving West
5. Straight Life

【パーソネル】
ジョニー・ハモンド・スミス (org), ハンク・クロフォード (as), ロン・カーター (b) , ビリー・コブハム (ds) , ジョージ・ベンソン (g) , スタンリー・タレンタイン (ts) , フレディ・ハバード (tp) , ヒューバート・ロウズ (fl) , アイアート (per)








CTIの名演・名唱39曲を4枚組ボックスにて


 オリジナルの2トラック・アナログ・マスターを初めて使用したリマスタリング。CTIの膨大な音源を「Straight-up Jazz」、「Big Hits」、「The Brazilian Influence and Cool」、「Classic Sounds」の4つのテーマに振り分け、コンパイルした4枚組ベスト。


 
CTI Records:The Cool Revolution
 
 CTI Records:The Cool Revolution
 Masterworks Jazz 88697768212 2010年10月4日発売 4枚組

【収録曲】
[ディスク 1] 1. Sugar 2. Moment's Notice 3. So What 4. Autumn Leaves 5. Speed Ball 6. The Intrepid Fox 7. Ifrane 8. Free As A Bird 9. So What?
[ディスク 2] 1. Red Clay 2. It's Too Late 3. Home Is Where The Hatred Is 4. We've Got A Good Thing Going 5. White Rabbit 6. Fire And Rain 7. What A Difference A Day Makes 8. Follow Your Heart 9. Also Sprach Zarathustra 10. Mister Magic
[ディスク 3] 1. Stone Flower 2. Ponteio 3. First Light 4. Salt Song 5. Pensativa 6. Tombo in 7/4  7. Sunflower 8. Return To Forever 9. Wave 10. Carly & Carole 11. Brazil (Alternate Take)
[ディスク 4] 1. My Funny Valentine (Live) 2. All Blues 3. Song To A Seagull 4. Pavane 5. What'll I Do 6. Westchester Lady 7. A Child Is Born 8. Take Five 9. Concierto De Aranjuez







【おさらい】 CTIは、サンプリング・ソースの宝庫です。


P.U.T.S. レーベル
P.U.T.S.レーベルによる ”Nuff Respect” 究極形。
 「この期に及んで」感満載の表題ではありますが、何しろ”U-25”を中心としたヒップホップ・リスナー層が、ランDMC、ブギ・ダウン、ジュース・クルーはおろか、ネイティヴ・タン、ハイエロ、D.I.T.C さえも「名前だけなら・・・」とヌカすこのご時勢。音楽の趨勢が「一周回って何とやら」となることを願いつつ、このたびリリースされるWax Poetics Japan 監修・編集のCTI音源コンパイル・シリーズ 3タイトル、今日、その中で最も注目したいタイトルが「Sample & Breaks」、というお話。

 こと日本において、現在30代半ばから40代前半のブラック・ミュージック・リスナー、とくに80年代後半から90年代全般のヒップホップを 「サンプリング・ネタ」というフィルターを通しながら追っかけてきた人たちにとって「ジャズ」という音楽、あるいは言葉そのものは、ファンキー族/ジャズ・コン・ブーム/ジャズ喫茶を原体験とされた方々に負けず劣らずの思い入れがあるのではないでしょうか? ダンス・ジャズ、レアグルーヴ、フリーソウルといった多様な価値観により自然発生的に生まれたネクスト・スタンダード・ムーヴメントとの相乗効果もあって、サンプリング世代に芽生えた、「ジャズ」に高尚な通過儀礼を要しないと判断したフランクな付き合い。それは、ヒップホップ・ギアに身を包んだ若いコがおもむろにジャズのレコードを漁るという現象を凡その最大公約数にして、それまで歴史主義に翻弄されがちにあった「ジャズ」そのものの評価が一旦白紙に戻されたことを意味しているのかもしれません。

 ジャズのレコードの山々から、Blue NoteのL.A.シーズンの作品がヒップホップのサンプリング・サイエンスにより再評価を得たのと同じく、CTIのLPに関してもそのカタログは、ビートメイキングにおける抜群の「材料」たる勲章を手にしました。ランDMCが「Peter Piper」の中で鳴らした「Take Me to the Mardi Gras」や、ヒップホップ・ビーツの骨格のみでなく、のちにハウス界のマイスター・プロジェクト=マスターズ・アット・ワーク(MAW)によってもカヴァーされた「Nautilus」など、ボブ・ジェイムスの両楽曲がこの時代にこうしたカタチで効力を発揮し、はてはサンプリング・ミュージック時代の礎を築くなどとは当の本人ですら想像だにできなかったことでしょう(そして、露骨な弾き直しを含む楽曲の無断サンプリング使用のあまりの多さに、自身の著作権を有した各楽曲にはバカ高いサンプリング使用料を課したことは有名)。80年代半ば、日本でいうところの「ミドル・スクール」期、ボブ・ジェイムスのこの2曲によりヒップホップとCTIの蜜月がはじまったと言っても過言ではなく、と同時に、それまでJBズクール&ザ・ギャングで足踏みをしていた日本のBボーイ連がこぞって中古レコード屋のジャズ/フュージョン・コーナー(特にエサ箱と呼ばれる100円コーナー)めがけて突進したという現象も各地で頻繁に見られるようになりました。

 90年代に入り、ヒップホップはさらにジャズとの連帯性を強めようとします。つまり、よりジャズらしい素材を用いることに「ドープ」と命名する作業が(シーンの中で)常套化されていきました。そこに「アフロ・アメリカンの伝統としての云々」といった後付けの薀蓄を垂れ流す輩も存在したとは思いますが、なにより結果事象としてのそのワン・ループにより、ヒップホップ・トラックがより深みや奥行きのある空間芸術となり得たことに大きな意味があったのではないでしょうか。 トライブ・コールド・クエストは、傑作と名高い3rdアルバム『Midnight Marauders』(1993年)の重要曲で、次々とCTI音源の旨味ダシを抽出したトラックを披露。特に「Sucka Nigga」におけるフレディ・ハバード「Red Clay」使いには、元曲の評価以上にその審美眼にどれだけ多くの拍手が送られたことでしょうか。ヒップホップ・サイドからの「CTIはボブ・ジェイムスだけじゃねえ!」という声を数多聴く、そんな事態を招いた瞬間でもありました。

 また、クラブ・ジャズ方面では、アイアート「Tombo In 7/4」を筆頭とした所謂「ブラジリアン・ジャズ・ダンサーズ」楽曲がカヴァー、リミックス、DJプレイなどで取り上げられる機会が同時多発的に発生。こうした一連のクラブ・サイドからの熱いラブコールの流れを受け、90年代後半〜2000年代前半にかけては、音楽業界全体に「CTI 再評価」の波が一気に押し寄せ、角松敏生青木智仁といったフュージョン・シーンに所縁のある邦人プレイヤーによるCTI音源のプライベート・セレクション・コンピも多数リリースされました。

 とはいっても、これはあくまでも「ヒップホップという肉体」にヴァージョン・アップされるがための「ジャズというイチ栄養素」としての評価であり、該当ループ箇所のみに針を落とした場合はやはり、真っ当な、または積極的なCTIの再評価と呼べるものではないはずです。大切なのは、これを入り口にして、次は”森”を見てみることなのかと・・・。そうした意味でも、逆算的に聴く面白さを多分に含む「Sample & Breaks」編に要注目なのであります。おせっかいついでの「CTI 大厳選サンプリング・リスト」を、最後にどうぞ。




    太字「 」内が双方の曲名となります。
「Olinga」
「Award Tour」
 
 
 
「Red Clay」
「Sucka Nigga」
 
 
 
「Face It Boy,
It's Over」
「Love Comes and Goes」
 
 
「Gibraltar」
「Jorge of the
Projects」
 
 
 
「Nautilus」
「Daytona 500」
 
 
 
「Take Me to the
Mardi Gras」
「Peter Piper」
 
 
「September 13」
「Park Joint」
 
 
 
「First Light」
「Never No More」
 
 
 
「That's All Right
With Me」
「Give Up The Goods」
 
 
「Havana Candy」
「Candi Bar」
 
 
 
「Loran's Dance」
「Shadow's Legitimate Mix」
 
 
 
「Rhapsody In Blue」
「Gimme The Finga」
 
 





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