HMVインタビュー:藤原ヒロシ

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2010年6月4日 (金)

interview

HIROSHI FUJIWARA

HIROSHI FUJIWARA インタビュー
質問・文  二木崇(D-ST.ENT)

僕の方からリクエストしたんですよ。「Ben」のリミックスで、原曲の音素材を活かしつつ新しいものに出来たので満足度は高くて、その手法を使ってトータルでまとめてみたかったんですよね。

--- そもそもこのプロジェクトが始まったのは、いつの時点なのでしょう?

キッカケとしては、やはり 「Ben」のリミックスでしたね(『Soul Source JACKSON5 REMIXES 2』('01)収録のHF&K.U.D.Oによる「Ben(HF Remix)」のこと)。マルチのセッションデータに手を付けていいと聞いて、これは面白いな、と思ったんですよね。

--- そこで「Ben」をセレクトした、というのもある意味ヒロシさん“らしい”ですよね?見事なアンビエント・ダブに昇華していたことからも、その“リミックスする”必然性は感じました。

そうですか(笑)。そう言ってもらえるとありがたいんだけど、他のリミキサーは誰も選ばなかったみたいなのでラッキーだったのかも。僕は最初から「Ben」狙いでしたけど。実際、ああいった方向性のアプローチは他に誰もやってなかったし、それを7インチで出せたのも良かったですね。海外の友人からの評判もやたら高かったんですよ。

--- 思い入れが強い曲だったのですね?

子供の頃に映画『ベン』を観ていたこともあって、個人的にシンガー=マイケルの存在を知るキッカケにもなった曲なんです。だから映画が先、ってことかな?

--- そのクラシックと化したリミックスから9年の時を経てのリミックス・アルバム、ということになりますが・・・。

その「Ben」のリミックスを、昨年彼が亡くなった後にベスト・アルバムのような形で出すことになった際に使用許諾を求められて、それはいいですけど、リミックス・アルバムも作ってみたいです、と僕の方からリクエストしたんですよ。「Ben」のリミックスで、原曲の音素材を活かしつつ新しいものに出来たので満足度は高くて、その手法を使ってトータルでまとめてみたかったんですよね。

--- リアルタイムのマイケル体験と言いますと・・・。

ジャクソン5、というかジャクソンズも勿論知ってはいたけど、リアルタイムでレコード買って、となると『Off The Wall』ですね。個人的な興味のピークは、そこから『Thriller』まで、ですね。で、追体験として聴き直して“いい!”と思ったのは、モータウン時代ってことになります。バンバータとかグランドマスター・フラッシュらがブレイクビーツとして使ったことも大きかったですね。

--- そのモータウン時代のマイケルの魅力について語っていただけますか?

まず、メロディーが素晴らしいし、レコーディングのクオリティーも凄いですね。40年くらい前なのに。アレンジも鉄壁で・・・でも、何よりマイケルの歌がいいです。エピック時代は、歌い方をガラっと変えたじゃないですか?もっとダンスを意識したリズミカルなものになって・・・それはそれでいいと思うし、実際に時代を変えたわけだけど、モータウン時代はもっと演歌的というか・・・ちゃんと歌ってるので、後期のMJしか知らない人が聴いたら驚くんじゃないですか?あと、シンガーとしてこの当時からここまで完成されていた、ということが解ると思うので。

--- デルフォニックスとかスウィート・ソウルのカヴァーも得意でしたもんね。あと、スモーキー・ロビンソンがアイドルの一人だった、というのも判ります。

そうですよね。スモーキー・ロビンソンは、僕もかなり好きなんですよ・・・。そう、デルフォニックスのカヴァーは何曲かやってるんだけど、今回のリミックスでは「ララは愛の言葉」を取り上げてみました。この曲では彼のキーより下を歌わされていて、アレ?と思う部分もあるんですけど、トータルとして良い出来だし、ラヴァーズ・ロックにも繋がる要素でもあると思うので。

--- ラヴァーズと言えば、1曲目に持ってこられたシュガー・マイノットでもお馴染みの「We've Got A Good Thing Going」なんて、ミュージカル・ ユースがやってるみたいに聴こえましたし、スウィート・ソウルっぽさが増している「All I Do Is Think Of You」などにはアリワにも通じる魅力を感じたのですが。

(笑) そうですね。例えば、シュガー・マイノットのレゲエ・カヴァーの方が有名な「Good Thing Going」はミュージカル・ユースをスライ&ロビーが手がけたみたいに・・・とか、実際に音を組み上げてくれた工藤くん(K.U.D.O)に具体的なアイデアを伝えました。彼とはニューウェイヴとかレアグルーヴとかラヴァーズ、ダブとか、通ってきたところが殆ど同じでなので。そこは、ライナーノーツにも書いてくれたように、まさに阿吽の呼吸でした。役割分担としては、選曲と各曲のリミックスのアイデアまでを僕が決めて、工藤君が9割近くまで音を仕上げてきて、最後は一緒にスタジオに入って、細かいエディットなどをやって・・・という感じです。

---ヒロシさんと言えば、80年代から既にリミキサーという肩書きを持っていたわけですが、本作のリミックス・ワークは「別ジャンルのサウンドに替える」という意味でも現時点でその頂点にあるものと思われます。

そうあって欲しいですね。リミックスという言葉が独り歩きするようになった頃は、いかに崩して違うものにするか、ということを重視していました。でも、ダンス・ミュージックならではのリ・エディットが出始めてからはそういう面白さに目覚めて・・・・サルソウルのリ・エディットとか、ちょっとした部分でDJユースになって、オリジナルよりもカッコよかったりするじゃないですか?で、曲を作るようになってからはアレンジというものをより意識するようになったんです。

--- ある意味、ゼロから作り上げるよりも難しいことですよね?

本当にそうなんです。マイケル、モータウンの歴史的な音源で元から完璧な仕上がり、ですからね(笑)。こだわったのは、それが最初からレゲエ・ヴァージョンだったような自然さ。音源を全部聴き直して、レゲエにアレンジできるもの前提で僕の方で選曲したんです。「I Want You Back」は別でしたが(笑)。あと、ブレイクビーツとしても有名な「It's Great To Be Here」はちょっとヒップホップの要素も入れたり・・・基本、その曲によってリミックスのアイデアも違ってくるので。

--- ダブ・アルバムの方も、しっかり別作品として楽しめました。

ダブ・アルバムは初回限定盤なんですけど、これも凄く気に入ってるので限定なのはもったいないな〜と思ってたりするんですよね、実は(笑)。元のヴォーカルもかなり残してダブワイズしているので、インストではないですしね。とにかくマイケルのヴォーカルやコーラス、ストリングスやギターのアレンジもいちいち絶妙で。構成含めオリジナルが完璧なだけに、 それを抜き差ししたダブとして成立させたくて。あと、アカペラにして聴くと、コーラスの誰かがずっと咳してたり・・・盤だけじゃ絶対に解らない細かな部分にも気付いて面白かったです。

---あと、 紙ジャケ(のみ)のアートワークもヒロシさんが手がけられたんですね?

アートワークは、僕の好きなクラシックのジャケ(グラモフォンなど)のデザインをベースに、レゲエというかトロージャンっぽいタイポグラフィーと、あとこのレアな写真、ですね。ジャッキー・ミットゥーに見えなくもない、という(笑)。奇を衒 わなくてもクラシックなレゲエ・アルバムっぽいヴィジュアルが出来るんだな、と自分でも感じましたね。あとダブの方は、昔、UK盤とかでよくあったボーナスの12インチのスリーブみたいな、シンプルな感じにしました。

--- 最後にリスナーにメッセージを。

実際、ラップトップ1台で作ったわけですが、アナログ時代の温もりを感じる、という感想もあって、そこは素直に嬉しいです。僕らにとってもこの時代の魔法のような音源に改めて向き合うことは有意義で、それ以上に新鮮でした。だから、これを聴いてくれる人たちにも、この時代のマイケルの魅力を再確認、再発見して欲しいですね。

新譜HIROSHI FUJIWARA & K.U.D.O.PRESENTS MICHAEL JACKSON / JACKSON5 REMIXES
ストリート・カルチャーのパイオニアとして世界のアート/ファッション/音楽シーンをリードする藤原ヒロシが手がける、2010年に鳴らされるべきMJの最新リミックス・アルバム!もっともピュアだった頃のマイケルが残した至高の名曲から厳選してリミックス。またボーナストラックとして、2001年に発表されたリミックス・ヴァージョン「Ben (HF Remix #3)」を収録。当時『Jackson 5 Remixes』のアナログ盤のみで発表された貴重なテイクです。 2枚組限定盤には、通常盤収録トラックのDub Versionを収録!