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橋本徹の『音楽のある風景〜アルゼンチン』対談 Page.6

2010年4月30日 (金)

interview

橋本徹の『音楽のある風景〜アルゼンチン』対談

河野:アルゼンチンのミュージシャンたちは、「自分たちの音楽はタンゴだけじゃないんだ」ということをしきりに言っていたんですけど、タンゴにある切なさというか移民としての郷愁というものが、形を変えて彼らの音楽に現れているように思うんです。

稲葉:アルゼンチンは建国200年でまだほんとうに若く独特な国ですよね。いままだ自分たちのルーツというか、インディオの歴史など、足元を見つめなおして発見している段階なんですよね。モダンでありながらルーツに対しても意識的であるというのは若い国ならではなんだと思いますね。

吉本:カルロス・アギーレをはじめとして、アルゼンチンのアーティストはみな伝統的な音楽を大切にしながら、そこに影響を受けたクラシックやジャズやブラジル音楽などのエッセンスを取り入れて、自分たちの新しい音楽を創りあげているね。

橋本:輪廻転生というか悠久とか夢幻という感じがあるじゃない、現実と夢の境目がないというかさ。

稲葉:ほんとうに音の桃源郷という言葉が浮かびますね。

山本:まさに桃源郷ですよ。

吉本:このコンピは、試聴機に入れて曲単位でさわりだけ聴かせる音楽ではなくて、ほんとうに全体の流れを聴いて欲しいね。売る側から見ていかがですか。

河野:時代の空気はいまはこれを求めていると思いますよ。こういう音楽って探しているけれどめぐり合っていないっていう人が結構多いと思うんですよ。僕自身が『Luz De Agua』のアルバムに出会ったときのように、こんな音楽があったんだということを、一人でも多くのお客様に感じていただけたらうれしいですね。

橋本:世の中がこういう心を落ち着かせてくれるコンピを必要としていない状況だったらそれにこしたことはないんだけど、残念ながら自分の気持ちも含めて現実はそうではないんだよね。とにかく、時間がとれるときにじっくりゆっくり聴いてみてもらえたらと思うよ。

吉本:そうだね。ムビラやシタールなどの民族楽器の響きは、遠い昔から人々の心に共鳴して魂を鎮めてきた絶対的なセラピー効果があると思うし、まさにいま、音の響きや反復を身体が自然に求めているという感じがあるな。

稲葉:きっと日本人は音楽と生活が乖離しすぎたんですよ。

橋本:TV番組を観るように音楽に接してしまっているようなところがあって、それが書き割りのような世界で。しかも音楽を情報のように体験してしまっているうえに、音楽ではなく歌詞の意味で共感を得るようになってしまっているからね。

山本:サバービアが好きなリスナーなら、例えばニック・ドレイクやユセフ・ラティーフを聴いて、カエターノ・ヴェローゾを聴いていって、その先にたどり着けないところに今回の音楽のような世界があったという物語があれば、冒頭の8曲の流れなんかは特に、とても自然に惹かれると思うんですよ。

吉本:自分が選曲するときにも思うんだけど、自分がほんとうにいいと思った流れや世界観を妥協なく明確にすることはとても大切だね。

河野:橋本さんが今回のコンピレイションCDでアルゼンチン音楽をこういう流れで提示したからこそ、よい意味でのわかりやすい形ができて、私たち売る側からしてもお客様におすすめしやすいですし、ここからまた興味をもっていただいた音楽を聴いて好奇心を広げてもらうきっかけになればいいと思うんです。

橋本:いまの時代は、自分が感じていることをできるだけストレートに伝えることがとても大事だと思うんだよね。カルロス・アギーレの手づくりのCDジャケットなんかもそうだけど、パッケージとして残しておく価値があるものという意識があれば、音楽は永く聴かれる可能性があるということで、それがこれからのコンピレイションCDの存在価値にもなってくると思うんだ。

稲葉:さらに今後はアプレミディ・レコーズで、カルロス・アギーレの意志を反映させたオリジナル・アルバムの日本盤もリリースしていく予定です。

河野:今後のリリースも楽しみですね。今回のコンピはそれこそ2、3ヶ月で売るものじゃなくて、ほんとうに長く売っていきたい作品なんですよ。定番として、はやりすたりとは関係なく、ほんとうに心に染みるCDとして、じっくりと長く売っていきたいと思っています。

橋本:心強いですね。ありがとうございます。でもほんとうに、このCDは一生の宝物になるんじゃないかと思います。

稲葉:それは、このジャケットの写真のパタゴニアの木が、ずっと強い風に吹かれ続けて何年もかかってこの形になったということとまったく同じですよね。

一同:まさに、そのとおりですね。

美しき音楽のある風景
〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜
橋本徹(サバービア)監修レーベル「アプレミディ・レコーズ」が提案する ライフスタイリングCDの決定版にしてヒットシリーズ『音楽のある風景』の 特別編となる、アルゼンチンの素晴らしくもメランコリックな音源を収録した 美しい1枚!
profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz