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橋本徹の『音楽のある風景〜アルゼンチン』対談 Page.4

2010年4月30日 (金)

interview

橋本徹の『音楽のある風景〜アルゼンチン』対談

■ アカ・セカ・トリオ

稲葉:今回はコンピの後半になってアカ・セカ・トリオのメイン・ヴォーカルのフアン・キンテーロの魅力があぶり出されてくる感じですね。

橋本:ウーゴ・ファットルーソ作の「Monte Mais」はある意味でアルゼンチンとウルグアイを結ぶ象徴として選んだんだけど、彼らのサウンドはサバービア〜アプレミディのリスナーに親和性が高いと思うんだよね。

吉本:ネオ・アコースティックにも通じる瑞々しい情感に惹かれるね。

山本:プエンテ・セレステのエドガルド・カルドーゾとの「La Luminosa」を聴いても、ほんとうにフアン・キンテーロの歌声はいいですよね。70年代の音楽にもさりげない感じのものは多いんですけど、さりげなさを今に継承する彼らはアルゼンチン新世代ならではのアーティストですね。

河野:フアン・キンテーロとエドガルド・カルドーゾのデュオの歌のさりげなさは、ほんとうにいいんですよね。切なさの中に希望を見出す感じがあるんですよ。

吉本:この2人は声質やギターの音のテイストまで含めて、出会うべくして出会ったという感じでとても自然で好感が持てるね。

橋本:他の名義と同じレパートリーを演奏しても、この2人がアコースティックでやるとすごくヒューマンで素朴な温かさが滲むんだよね。

吉本:フアン・キンテーロはアカ・セカ・トリオの「Maricón」に代表される転がるようなメロディーも特徴的だね。友人のカフェでもかけているとすごく問い合わせがある曲らしいんだけど、アンドレス・ベエウサエルトのピアノも彼の人なつっこいメロディーに合わせて気持ちよく弾んでいる。


■ プエンテ・セレステ

橋本:アントニオ・カルロス・ジョビンの70年代とか、日本では見過ごされがちなボサノヴァ以降のジョビンの音楽のよさみたいなものが、今回はアルゼンチンの音楽を通じて伝えられたらなというのもあって、プエンテ・セレステの「Gincana」はそういう想いも込めたりしているんだ。

山本:確かに続いている部分はありますよね、環境音楽というか、自然やエコロジカルな感じというか。

橋本:“風と水と光”というのは、まさに言いえて妙で、その自然の胎動というか律動というか、揺れる感じなんだ。

吉本:彼らの演奏する姿を観ると、音楽も含めてほんとうに粋でモダンだよね。

山本:ええ、ブラジル音楽にもないヨーロッパ的な要素をすごく感じますよね。

橋本:このコンピの中では、プエンテ・セレステが音響派的なポスト・プロダクションに凝った感じがいちばんあるよね。

吉本:確かに音の鳴り方や響き方が独特で気持ちいいよね。サンチァゴ・ヴァスケスのムビラやパーカッションの鳴り、エドガルド・カルドーゾのコーラス・ワークやマルセロ・モギレフスキーのリコーダーなどの個性が見事に融合して、空間に奥行きがある音の美しい広がりを感じる。

山本:彼らはECMのアーティストをリスペクトしていて、そういうところからも影響を受けているんでしょうね。サンチァゴ・ヴァスケスの力は大きいですよ。

河野:それと、少し毒があるところもね、きれいなだけで終わらないという。

橋本:彼らは空間や録音に対する意識がすごく高いんだろうね。「Otra Vez El Mar」の後半の口笛もたまらない。

吉本:アルゼンチンのアーティストは、倍音の響きにすごく敏感というか、エコーとか空間に対する意識が開かれているという感じがあるよね。セバスチャン・マッチたちの音の創り方にもそれを感じるけど。


■ サンチァゴ・ヴァスケス

河野:サンチァゴ・ヴァスケスもキー・パーソンだと思うんですよ。レンジの広さというか、ラ・ボンバ・デル・ティエンポ(総勢20名を越す様々なメンバーからなるパーカッション集団で、そのライヴにはウーゴ・ファットルーソやカルロス・アギーレをはじめ、毎回多彩なゲストが参加している)を主宰しながらも、クルブ・デル・ディスコというすごく良心的なインターネット・レコード・ショップを運営していて。その店のスタッフも自分たちがアルゼンチン音楽シーンの最良の部分を紹介していると自負していて、おもしろいと思うものはそれこそディスコでもなんでも紹介したいと言っていました。

橋本:サンチァゴ・ヴァスケスの作品には知性と肉体性のスケール感を感じるよね。

山本:ムビラのアルバムもあれば、プエンテ・セレステのようなグループもありますし。

河野:“野蛮と洗練”という言葉がぴったりくるんですよ。

稲葉:ほんとうに知性派だと思います。インタヴューを読むと、この人は才気がほとばしっているなと思って、ほんとうに感動します。

吉本:「Caraguata」のムビラの反復はずっと聴いていたいという気持ちにさせられるよ。白昼夢というか夢の中で鳴っている感じにすごく癒される。ムビラやシタールのような楽器の音は倍音を含んでいてほんとうに心を共振させるね。

稲葉:実は自然界の音はたくさんの倍音を含んでいるんですよ。だから心が安らぐのかもしれませんね。

山本:彼のムビラの音色やリチャード・クランデルのムビラもそうなんですけど、アフリカのエスニックなムビラのCDの音とはまた違うんですよ。

橋本:確かにそうだね。哀しくないのに涙が落ちるという感じがあるんだよね。この曲はワルツでメランコリックで、天気雨みたいなものも感じるな。

美しき音楽のある風景
〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜
橋本徹(サバービア)監修レーベル「アプレミディ・レコーズ」が提案する ライフスタイリングCDの決定版にしてヒットシリーズ『音楽のある風景』の 特別編となる、アルゼンチンの素晴らしくもメランコリックな音源を収録した 美しい1枚!
profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz