2010年、なぜフィリー・ソウルなのか?

2010年4月1日 (木)

PIR LOGO

2010年、なぜフィリー・ソウルなのか!?

日本においてフィラデルフィア・ソウルというとスリー・ディグリーズあたりが引き合い に出され、ポップスとクロスオーヴァーしたヤワなソウルとか、現在では古い世代が聴く洋楽の懐メロという見方をされることが多々ある。また、フィリー・ソウルというと決 まってハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツの「If You Don't Know Me By Now (二人の絆)」やビリー・ポールの「Me And Mrs. Jones」といった70年代 前半の一部のヒット曲ばかりが挙げられ、「流麗なストリングスが響き渡る上品で 洗練された音楽」という紋切り型の紹介をされるだけで、 そうしたイメージから脱却できていないような印象も受ける。


ギャンブル&ハフが設立したフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(PIR)は、決してそれだけのレーベルではなかった。黄金期とされる70年代前半だけでなく、70年代後半から80年代初頭にも名曲はあって、フィリー・ソウルのディスコ化に「待った」をかけたギャンブル&ハフの以降から、70年代後半以降のPIR(後期PIRとしよう)ではメロウな質感と濃厚なブラックネスを有した楽曲が数多く誕生していたのだ。実はこの20年近く、レア・グルーヴ的な文脈で人気を集めたり、サンプリング・ソースとして好まれてきたのは圧倒的に後期PIR の楽曲の方だった。例えばジェイ・ZからJ.ホリデイまでがネタ使いし、多くのカヴァーが存在するスタイリスティックス の「Hurry Up This Way Again」(1980)や、フェイス・エヴァンスらがネタ使いし、インコグニートがカヴァーしているジョーンズ・ ガールズの「Nights Over Egypt」(1981)といった曲はメロウ・グルーヴ・クラシックとして定番化している。 ちょうどロイ・エアー ズが再評価されたのと似たような感覚で。より親しみやすいところでは、ネリーfeat.ケリー・ローランド「Dilemma」のほかアウトキャストにも引用されたパティ・ラベルの「Love Need And Want You」(1983)も後期PIRの名曲である。だが、これらをフィリー・ソウルの名曲として評価しようとする動きは、ここ日本ではあまりなかった。しばらくの間、日 本に1976年以降のPIR音源の発売権がなかったという事情を差し引いても、これは残念としか言いようがない。


一方、一時的ではあったが後期PIRの発売権があったUKでは、アルバムの再発のほか、DJのノーマン・ジェイらがレア・グルーヴ感覚のコン ピレーションを出すなどしてPIRの楽曲がいかにヒップなものであるかを早くから伝えてきた。だが、ソニー・ミュージックにPIRの全カタログの 発売権が戻ってきた今なら、日本でもPIRというレーベルの魅力をトータルで伝える ことができる。ならば、これまで親しまれてきた名曲は名曲として評価しつつ、現代に フィットする曲にもスポットを当てて【新しいスタンダード】を提示しようではないか、と。 その手始めとして、今回は「Groovy」「Mellow」という分かりやすいキーワードを使 った2種類のコンピレーションが用意される予定。不謹慎かもしれないが、ちょうど PIRのスターとして活躍したテディ・ペンダーグラスの逝去も重なり、注目が集まってい る。フィリー・ソウルが本格的に評価される時がようやくやってきたのだ。