『HORO2010』 小坂忠 インタビュー

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2010年3月12日 (金)

interview
小坂忠 インタビュー


 今からちょうど35年前に発表された小坂忠さんの『ほうろう』。「70年代日本のロック名盤撰」といった趣旨の特集などでは必ずと言っていいほど取り上げられる、この時代の日本の音楽シーンを代表するアルバム。そんな『ほうろう』の16chマルチトラックのマスターテープが、昨年、レコード会社の保管倉庫奥から見つかったということで、誰よりも驚きと興奮を隠せなかったのが、小坂さんご自身。ティン・パン・アレイによる饒舌なバックの演奏を聴き返し、ポンと膝を打つ。そのクオリティの高さにあらためて感服し、新たにヴォーカルだけを録り直そうと決意。その決意は、35年前の”忘れ物”を取りに帰ることでもあり、この先の途に光をあてることでもある、と語る小坂さん。 万感の想いを込めて完成させた、名付けて『HORO2010』。そのリリースを目前に控えた小坂忠さんをHMV本社にお招きしてのインタビュー。ゴスペル・シンガーとして、牧師として、(元)狭山の住人として・・・色々な表情を覗かせながら、たっぷりとお話しいただきました。


インタビュー/構成: 小浜文晶  



--- 本日はよろしくお願い致します。

 よろしくお願いします。

--- 3/24に、ニュー・アルバム『HORO2010』(Blu-spec CD)、そしてそのアナログ盤LP、さらには、ゴスペル・ベスト・アルバム『Chu’s Gospel』、ライヴDVD+CD『Soul Party 2009』という4作品を同時リリースされます。 まずは、『HORO2010』についてお伺いしたいと思います。

 1975年にリリースされた『ほうろう』の16chマルチ・トラックが発見され、そこに新たにヴォーカルのみを録音した作品となるわけなのですが、録り終えられての率直なご感想というのはいかがでしょうか?

 ほっとしたんですよね(笑)。

--- (笑)ほっとされたんですね。やはり、多少プレッシャーのようなものもあったのでしょうか?

 いや、そうでもなくて。これは、前々からやりたかったことではあったんだよね。

--- 『ほうろう』のヴォーカルだけを録り直すという試みを?

 そう。というのは、当時の歌の出来に満足できてなかったからね。機会があったらやりたいと思っていたけど・・・こんな機会があるなんて思わなかったんですよね。でも、色んな状況が重なってね、実現できたんですよ。

--- 今回の様に、偶然、16chマルチのマスターが見つからなかったとしても、いつかは録り直そうと?

 まぁでも、こういうのは気持ちだけがあってもねぇ・・・

--- きっかけみたいなものがないとなかなか・・・

 だから、その16chのマスターが発見されたっていうのが、やっぱり全てのはじまりなんですよ。去年出した『Chu’s Garden』というボックスのリマスタリングをしている時に、そのマスターがあるって言うのを聞いたんですけどね。もしできれば、歌い直したいなって、その時にすでに話していたから。でも、それには色んなハードルを乗り越えて行かなくちゃならなかったから、実現できるかどうかっていうのは、その時には全然見えなかったんですよね。

--- 『People』や『Connected』のレコーディングの時とはまた違う緊張感みたいなものもあったのではないでしょうか?

 そうですね。曲自体は35年前の曲だからね。でも、そういう意味では「慣れた」というような感じを持たないように、新鮮な感じで歌おうとはしましたけどね。だから、どう表現していいか判らないけど、他のレコーディングとはちょっと違う感じだったんですよ。

--- もちろん、どの曲も大切にされていると思いますが、その中でも「機関車」は、気合の入り方も特別だったのでは、と勝手に想像してしまうのですが。

 いや、実際そうなんですよ。そのマルチを初めてソニーのスタジオで聴いたときに、「機関車」にはキーの問題があって。キーが一番高いのが「機関車」なの。今、ライヴなんかでは「C」で歌っているんだけど、35年前の『ほうろう』のレコードでは「E」。だいぶ高いから、それがまず歌えるかどうかっていうね。それをクリアしないと進まないんで、聴いてるときに、スタジオの外に出てひとりでちょっと歌ってみたんですよ(笑)。 そうしたら、結構出るもんでさ。 「あ、これだったら大丈夫だな」って思って、僕の中では「GO!」ってなったのね。だから、実際のレコーディングで先ず最初に録ったのが「機関車」。これが一番高いハードルだったから、これを乗り越えれば、それより高いハードルはないなと思って。

--- プレス・リリースに小坂さんのコメントで「60代には、60代の意地があるってもんだ!」というのがありましたが、まさにそこに「60代の意地」があったわけですね(笑)。

 ってもんでしょう(笑)。


小坂忠


--- これはごく個人的な思い出話にもなってしまうのですが、オリジナルの『ほうろう』に関して言いますと、僕は15年ぐらい前に大学生で、その当時付き合っていた彼女に『ほうろう』のLPを初めて聴かせてもらい、小坂さんの歌声が大好きになったんですよ。

 それは、いい彼女だねぇ(笑)。

--- (笑)しかもその当時は、「流星都市」ばかりを繰り返し聴いて多幸感いっぱいになっていたのですが、今回の『HORO2010』ヴァージョンの「流星都市」を聴いた時も、その当時と同じような多幸感に包まれたことが、大袈裟ではなく自分の中ではうれしくて・・・

 その時の彼女はどうしたの?(笑)

--- 結局は・・・別れてしまいましたけど(笑)。

 別れちゃったんだ。もったいなかったなぁ(笑)。

--- でしたかぁ(笑)。ただ、こうした変わらない良さというのもありつつ、逆に、小坂さんご自身が今回歌を吹き込んでいる中で、新しい発見のようなものというのはありましたか?

 う〜ん、新しい発見という感じではないと思うんだけど、その「流星都市」とか、その次の「つるべ糸」とかはね、多分この当時のライヴで歌って以来ほとんど歌ってなかったはずだから、丸30年は歌ってなかったんですよ。だから、それはすごい新鮮だった。

--- そうだったんですね。でも、「流星都市」はこれからのライヴで頻繁に聴くことができたらうれしいですね。 ちなみに、今回録り終えた曲というのは、(註) 当時のレコーディング・メンバーだった方々にお聴かせされたのですか?

 一応みんなに送って、聴いてもらってます。

  (註)当時のレコーディング・メンバー・・・細野晴臣(b)、林立夫(ds)、鈴木茂(g)、松任谷正隆(key)のティン・パン・アレイを中心に、鈴木晶子(矢野顕子)、吉田美奈子、山下達郎、大貫妙子、矢野誠、松本隆(作詞のみ)らが参加している。

--- みなさん、どういった反応をされていました?

 「ずるい」と(笑)。

--- (笑)。

 「できるんだったら、オレたちもやり直したかった」とか言うんですけども(笑)、そんなことみんなにやってもらってたら、大変な作業になっちゃうでしょ? しかも、全然新しいものになっちゃうわけだからね。

--- 先ほど「当時の歌の出来に満足できてなかった」とおっしゃっていましたが、そのやり残した部分というのは、今回のレコーディングできちんと “決着”をつけることができましたか?

 僕はソロ・アーティストとして、『ありがとう』というアルバムからスタートしているんですけれども、その『ありがとう』から『ほうろう』までの間っていうのは、ずっと自分のヴォーカル・スタイルを模索しながらやっていた感じなんですよ。それで、ようやくこの『ほうろう』で自分のスタイルが決まって、ここから出発するぞっていう。そういう意味では、この『ほうろう』っていうアルバムは、節目となる大事な作品。だから、そこから始まって、35年ぶりにそこにまた帰ってきた。そんな感じなんですよね。

 ただ、35年前の『ほうろう』を単純にリメイクしたっていうようなイメージで捉えてほしくはないんですよね。むしろ、新しいものを作ろうっていうぐらいの気持ちで取り組んだんで、新鮮な気持ちで聴いてもらえるとすごくうれしい。

--- 昨年、『Connected』をリリースされた時には、「同世代の人たちに元気を与えられる音楽でありたい」とおっしゃっていたのですが、まさに今回の『HORO2010』も、リアルタイムで『ほうろう』を聴いてきた同世代の人たちに元気を与えるものになりそうですよね。

 そうなってほしいなぁとは思いますけどね。ただやっぱり、当時の『ほうろう』を知らない人たちにも聴いてほしいですよね。

 昔の『ほうろう』の赤いジャケットあるじゃない? あれから“旅”が始まったんですよね。そこから35年が経って、同じシチュエーションのところに帰って来るわけなんだけど。 ジャケット・アートワークの設定としては、同じシチュエーションだけど、僕は35歳年をとっている。でも、その35年前の音楽、つまり過去に縛られているんじゃなくて、そこからさらに先に向かって表現できるっていう。そんなところに、ちょっとした光があるかなって気がするし。「終わっちゃいないよ」っていうね(笑)。

 僕自身、実際にターゲットみたいのものを、ある一定の世代に絞ってしまうってことを考えてないから・・・今って結構、“横割り”の社会じゃないですか。同じ世代には同じ価値観があって、その世代を超えてしまったら、きっと自分たちの価値観を共有できないんじゃないかって、みんなそう考えてしまいがちな気がするんですよ。だけども、世代を超えて共有できる価値観だってあるんだよっていうのを、メッセージみたいなものとして投げかけていきたいとは思うんですけどね。

 僕なんかは所謂“団塊の世代”なんだけれど、この世代って、そういう橋渡しができる可能性があると思ってて、世代が担っている役割だと僕はずっと考えているわけ。団塊の世代ってね、僕らより前の世代の人たちとは文化も価値観もかなり違っていたんだよね。それで、僕らの後に、また新しい価値観が生まれてきた。だから、団塊の世代って、ちょうどその(新旧の文化・価値観の)狭間にいた。上の世代に対しての攻撃なんかもあったけど、どちらの価値観も共有できる可能性があると思うんだよね。



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     HORO2010 (500枚限定LP)

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    ※特典対象購入期間:2009年4月11日(日)まで
    ※当選者の発表は、発送をもって代えさせて頂きます。
    ※ポスターのサイズはB3(縦:515mm×横:364mm)となります。

profile

小坂忠 (こさか ちゅう)

 1948年東京生まれ。本名・小坂正行。68年、モンキーズ・ファン・クラブの公募オーディションから生まれたGSグループ、ザ・フローラルの一員として日本コロムビアよりデビュー。その後、細野晴臣、松本隆らとエイプリルフールを結成。日本のロック黎明期において例を見ない本格的なサイケデリック・ロック・サウンドで注目を集めるが、アルバム1枚(『エイプリル・フール』)を発表したと同時に解散。その後は、ロック・ミュージカル「HAIR」に出演。71年には、川添象郎、村井邦彦、ミッキー・カーチス、内田裕也が設立した日本最初のロック・レーベル「マッシュルーム」の立ち上げに参加し、同年、初のソロ・アルバム『ありがとう』を発表。72年には、フォー・ジョー・ハーフ(林立夫、松任谷正隆、後藤次利、駒沢裕城)とのライヴ録音盤『もっともっと』、73年に『はずかしそうに』をリリース。75年、細野晴臣を軸とするティン・パン・アレイ・ファミリーの全面的なサポートを得て完成させたアルバム『HORO』は、それまでのカントリー〜S.S.W. フレイヴァ溢れる作風から一転、本格的なソウル・ミュージックのエッセンスを取り込み、小坂忠の現在までのヴォーカル・スタイルを確立した点においてもターニングポイントとなる1枚になった。和製R&B、ソウルのバイブル的名盤として、今なお多くのミュージシャンに影響を与え続けている。 76年、クリスチャンとなり、78年、日本初のゴスペル・レーベル「ミクタムレコード」を設立し、キリスト教音楽に新風を吹き込む。91年に牧師就任。「Singer&Pastor」として世界を舞台に精力的にゴスペルを歌い、語り続けている。2000年よりティンパンとの活動を再開。2001年には25年ぶりのポピュラー・アルバムとなる『People』を細野晴臣のプロデュースで制作。その音楽性と歌の力に多方面からの注目を集めた。2004年にデビュー35年を記念したアルバム『き・み・は・す・ば・ら・し・い』をリリース。デビュー40周年を迎えた2009年には、佐橋佳幸をプロデューサーに招聘したアルバム『Connected』、さらに、ソロ・キャリアを集大成したボックス・セット『Chu's Garden』(8CD+2DVD)をリリース。2010年3月、35年前の『ほうろう』の16chマルチトラックのマスターテープが発見されたことを機に、新たにヴォーカルのみを録り直した『HORO2010』(アナログ盤LPも同時発売)、2009年春のビルボード東京公演を収録したDVD+CD『Soul Party 2009』、クリスチャンの洗礼を受けた76年以降のゴスペル・シーンでの活動を纏めた2枚組ベスト『Chu's Gospel』を同時リリースする。